第2714話 合同演習編 ――孤軍奮闘――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同演習三日目。そこでカイトとバーンタインの奮戦により、<<氷結結界>>の破壊に成功する。が、攻略側はバーンタインが当人の実力不足により<<黒焔武>>は解除。カイトは流石にこれ以上の重特機の使用はパイロットの力量に違和感を覚えられかねないとパージする事となる。
他方防衛側もバーンタインにより<<氷結結界>>は基盤から破壊されて再展開は不可能。<<太陽レンズ>>はシャムロックが神使を率いて前線に出てしまったため――<<太陽レンズ>>主軸の防衛作戦になっても困る事も大きかった――に使用不可とどちらも切り札を完全に消耗し、総力戦にもつれ込んでいた。
そんな中でカイトは重特機をパージし、コア部に格納されていた魔導機を駆って防衛側の防衛線の一角に切り込み、防衛側大型魔導鎧の戦団と交戦。数機を撃破するも完全包囲の状況を厭って、空中へと舞い上がっていた。
「マスター。背後から魔導鎧の戦団が追撃してきます。また、魔弾が」
「対処の必要は?」
「ノー。こちらで全て対処します」
「了解」
ならば単なる報告として処理するだけだ。アイギスの報告に対して、カイトはそう判断する。が、そんな彼にアイギスは更に続けて報告する。
「続けて報告。10時の方向から大型魔導鎧の集団の接近を検知……紋章照合。アストレア家とハイゼンベルグ家の主力部隊です。完全にマスターを潰しに掛かってますねー」
「マジかよ。最高だな」
どうやらこの魔導機がカイトの物である事を理解して、レヴィとハイゼンベルグ公ジェイクは主力を差し向ける事にしたようだ。まぁ、確かに魔導機の性能は大型魔導鎧の数段上を行く。
数で攻め切らねば如何ともし難い。乗っているのがエースである事も鑑みれば、カイトの正体を知らない普通の司令官でもそうしただろう。
「アイギス。ライフルを。二門とも頼む」
「イエス。どうぞ」
「良し……常に敵の行動は報告してくれ。流石にヤバそうだ」
いくら魔導機の性能が高いとはいえ、それでもカイト本来の性能には遠く及ばない。何十もの大型魔導鎧と正面切って戦えるわけがない。それがハイゼンベルグ家やアストレア家の新型であれば尚更だ。上手く立ち回り、勝機を掴むしかなかった。
「さぁて……」
にたり。カイトの顔にいやらしい笑みが浮かぶのを、アイギスとホタルは見る。そうして、カイトが指示を飛ばした。
「アル・アジフ、ナコト……クトゥグアとイタクァをアップロード。アイギス、魔銃に魔術装填」
『了解だ、父よ』
『転送開始』
「イエス」
今回、魔導機と重特機を接続するにあたって魔導機にはカイトの魔導書から送られる魔術を魔導機にインストール。攻撃として使用出来る様にされていた。それは魔導機側に設けられた機能で、重特機をパージしてもそのまま使えたのだ。
「装填完了……マスター」
「あいよ……追い掛けるなら女の尻にしとくべきだったな!」
『『『!?』』』
天を仰ぐような姿勢で上空へ飛び上がっていたカイトが唐突に自分達の方を向いたのを見て、追撃の大型魔導鎧の戦団が目を見開く。そこに、カイトは容赦なく引き金を引いて灼熱と業風を纏う魔弾を放った。
『ぐぁ!』
『っ、凄い風が!』
『ぎっ、耐熱障壁展開! 熱波でやられるなよ!』
業風で煽られその場に縫い留められた直後に襲いかかった灼熱の業火に、大型魔導鎧のパイロット達は盛大に顔を顰めて身を固める。そこを見逃すほど、カイトは甘くなかった。
『ぎゃあ!』
『ぐぁ!』
『っ! 足を止めるな! 止めれば狙い撃ちにされるだけだ!』
どこまで腕利きなんだ。指揮官は自分狙いで放たれた魔弾を両手剣で切り裂いて、地面に叩きつけられた二機を尻目にカイトを睨み付ける。そうして今度は複雑な挙動を取りながら、再度カイト目掛けて追撃を仕掛けていく。これにカイトは再度反転。上を向いて、しかし一転笑うしかなかった。
「良し……いや、全然良しじゃねぇな」
「イエス……歓迎会は盛大になりそうですね」
「派手なパーティは嫌いじゃないが。流石にこれは嫌になるな」
見えたのはこちらに向けて銃口を向ける何十機もの大型魔導鎧の戦団だ。本当に容赦は無い様子だった。これに、カイトは覚悟を決める。
「アイギス。外装の防御力で突破は?」
「……蓄積されているデータから算出した概算ですが、最高速度で突破すれば突破は可能かと。より安全に突破したいのであれば、更に別の手も提案致しますが」
「上出来だ。提示してくれ」
「イエス」
カイトの指示を受けて、アイギスが安全に突破する手とやらを提示する。
「なるほど。三角錐の様に障壁を展開して、強引に敵陣をぶち破るのか……だが、この障壁展開用ってのは? こいつに設けられた新兵器か?」
「イエス。開発計画の中でこの使用方法は考案。実現に向けて本機は改良が施されています……マスター好みかと」
「まさに、その通り」
にたっと笑うアイギスに、カイトは獰猛に牙を剥く。好みの手かと言われれば、正直彼の好みに合致した戦いだった。
「アイギス。行き掛けの駄賃だ。一機持っていく……バンカーを展開」
「イエス。右腕バンカー動作良し。ついでに左腕に障壁展開の術式も組み込んでおきます」
「上出来! じゃあ、やるか!」
カイトは再度気合を入れて、飛翔機を最大まで展開。左手を前にして、更に加速して上昇する。これに、ハイゼンベルグ家とアストレア家の連合もまた行動に入る。
『っ! 速度を上げた!?』
『照準が!』
『とりあえず撃て! 弾幕を張って近寄らせるな!』
『可能なら奴にデカいのをお見舞いして地面に叩き落としてやれ!』
無数の砲撃が開始され、一団の中でも特に重装備の大型魔導鎧がカイトの進路上に何機も立ちふさがる。しかしこれにカイトは怯まない。
『駄目です! 敵機、障壁によって魔弾を全て無効化!』
『ちぃ! 三角錐に展開して魔弾を逸しているのか! 正面は!?』
『そちらも駄目です! 左腕から展開される第二障壁が砕いている模様!』
『ちっ! 流石はマクダウェル家のエース!』
伊達に技術力であれば最高と言われるマクダウェル家の中でも最新鋭の機体を与えられるだけはあるか。大型魔導鎧の連合軍の指揮官はカイトに対して掛け値なしの称賛を口にする。そうして、数秒。カイトの前面に立ち塞がっていた重装甲の大型魔導鎧の一機と、魔導機が激突した。
『ぐぅ! おぉおおおお!』
「っ」
『怯んだ! 今だ! 総攻撃を仕掛けろ!』
「これで終わりってなわけがねぇだろう!」
『『『!?』』』
渾身の力で膠着状態に持ち込まれたカイトであったが、しかしその次の瞬間には機体各所が緋色に輝く。そして膠着状態が即座に破られて、魔導機を縫い止めた大型魔導鎧ごと再度急上昇する。
『何ぃ!?』
「掴んだ! こいつは駄賃だ! 持っていけ!」
『ぐふぅ!』
魔導機の左手が大型魔導鎧の胴体を掴んだその瞬間。カイトはしっかりと相手を固定すると、引いていた右腕のパイルバンカーを思いっきり突き出した。そうして轟音が響いて、破片が飛び散って大型魔導鎧がパイロットごと消滅する。
「アイギス! 架橋してたライフルを!」
「イエス! 肩部魔導砲のコントロールはこちらで!?」
「任せる! ホタル! 手が空いていれば迎撃用のフレアを操って消耗を最小限に留めてくれると助かる!」
「了解」
とりあえず戦団が立て直す前に、なるべく数を減らさないと。カイトとアイギスは総計四門の魔導砲で一機に四機の大型魔導鎧を撃破。更に続けて四発発射して四機撃破。そこで流石に戦団も立て直したし、カイト達を追撃してきた大型魔導鎧の戦団も合流。結果的にはほぼほぼ大差無い状況と相成っていた。
「やれやれ……流石にキツくなってきそうだな」
「どうされますか?」
「近距離戦はまぁ、キツいだろうが。そうなると遠距離戦しかないが……」
「間違いなくそっちの方がキツいですね」
「だわな。ほら来た」
言うが早いか始まった砲撃の雨に、カイトは飛翔機を吹かして高速で移動する。
「さて、どうするか……」
流石にこの砲撃の雨あられの中を突破するのはキツいな。カイトは魔導機の性能や敵陣営の大型魔導鎧の性能等から、現状では勝機は薄いと判断していた。
いや、そもそも数十機もの大型魔導鎧相手に一機で立ち回ろうとしている時点でおかしいと言えばおかしいだろう。絶対的な性能差とパイロットの差があっても、いくらなんでも限度があった。
というわけでカイトも諦め敵を食い止めるに徹する事にしようとして、その直後だ。大型魔導鎧の戦団の真横から真一文字に閃光が迸った。
「あれは……まさか」
「イエス……見覚えがあります。かつて合同演習で戦った獣人機……それもブランシェット准将の専用機です」
「准将自ら御出座し、ってわけか」
雷を纏い現れたのは、かつてアベルが駆ったライガーに似た可変式の獣人機だ。それが大型魔導鎧の戦団がカイトに注目して脇腹を見せた所に襲いかかり、左右に据え付けられた魔刃で大型魔導鎧の戦団を切り裂いていったのである。
『あまり無茶はするなよ、マクダウェル公』
「そちらこそ、前に出てくるべきとは思わんのだがな」
『貴殿にだけは言われたくはないな』
カイトの返答にアベルが笑う。そうして、彼が吼えた。
『おぉおおおおお!』
獅子の王が吼える様に、ライガーを模した獣人機が吼える。するとその身に宿っていた雷が更に強くなり、周囲へと降り注ぐ。そしてそれを合図として、ブランシェット家の獣人機達が一斉に攻めかかった。
「勝負あり……か?」
「ノー……判断は控えるべきかと。獣人機は最新鋭の機体ですが、数が少ない。対してハイゼンベルグ家やアストレア家の大型魔導鎧は最新鋭こそ数は少ないですが現行機の改修型も多く、性能は決して次世代機に劣っているものではありません」
「戦力的には互角、と」
「ノー。その上で防衛側には再稼働を果たした都市部の魔導砲もあります。総合的には不利かと……但し、この子と私達を含めねば、ですが」
「なるほど」
つまりはこのまま引き続きやるしかない、と。カイトはアイギスの言葉の意味を理解して、僅かに笑う。連戦はキツいしここからを考えれば多少体力と魔力を回復しながら戦うというスゴ技を披露せねばならないが、やるしかないのだから覚悟を決めるしかなかった。
「アイギス。飛翔機の出力は絞っておいてくれ。消耗を避けつつ、敵数を減らしていく。幸い性能差はある。出来る限りでやる」
「イエス。それが良いかと」
カイトの提案にアイギスが同意する。というわけで、カイト達は前線に出てきたブランシェット家の獣人機の戦団と共に、ハイゼンベルグ家とアストレア家の大型魔導鎧の主力部隊との交戦を続ける事になるのだった。
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