第2711話 合同演習編 ――破壊――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目。それは開始早々にカイトの駆る重特機とバーンタインによる<<黒焔武>>の一つ<<終末の炎巨人>>が攻め上るという展開になっていた。
というわけで、カイトが上空で<<天駆ける大鳳>>の艦隊を抑える傍ら対応出来る手札のなさと費用対効果の悪さからレヴィとハイゼンベルグ公ジェイクはバーンタインへの対応を諦め、彼が<<氷結結界>>に取り付く事になっていた。
「報告! <<氷結結界>>消滅!」
「良し……後は、結界の基盤の消滅まで保てばか」
ティナは地面に手を突き立てて黒い炎を立ち昇らせるバーンタインの姿を見ながら、後少しで切り込めると判断する。伊達にバランタインが切り札にして禁じ手として封じた力ではない。基盤そのものを吸収する事は不可能ではなかった。
「っ、観測艦より報告! 結界の兆候消えました! 再展開、諦めた模様!」
「っ、ならば来るぞ! 各員に通達! 砲撃が再開する! 気をつけよ! また合わせてバーンタイン・バーンシュタットの支援部隊に連絡! 照射が始まる!」
「「「了解!」」」
ティナの指示にオペレーター達が一斉に各所への伝達に走る。そしてそれと同時だ。<<太陽レンズ>>を載せた飛空艇に光が宿る。それを見て、今まで潜んでいたソラが一気に駆け出した。
「っ、ソラ!」
「任せる!」
「りょーかい! 皆、ソラの支援を!」
「「「おう!」」」
一目散にバーンタインの下へと走り出すソラに合わせて、周囲の彼の護衛に当てられた者たちが一斉に動き出す。そうして動き出した彼らを尻目に、ソラは口決を唱えた。
「太陽よ太陽よ太陽よ!」
太陽の輝きを宿しながら、ソラは強く足に力を込める。そうして地面を強く踏みしめた彼が、弾かれる様に飛び出した。
「おぉおおお!」
『っ、ソラの小僧か!』
「うっす!」
輝きを宿したソラが、<<太陽レンズ>>による照射直前に自分の身体を軌道上に滑り込ませる。そして直後だ。<<太陽レンズ>>から収束した太陽光が解き放たれる。
「っ、あれ?」
『っ! そうくるか! 小僧! 構えろ!』
「え?」
光が解き放たれたかに思われたその瞬間。照射された光はまるで太陽が昇る様に上空へと放たれて、そこで巨大な太陽を作り出す。そうして生み出された太陽が周囲を照らし出す中、太陽が言葉を放つ。
『おいおい……言ってくれるなよ。びっくりがなくなってしまうではないか』
『も、申し訳ありません』
「シャ、シャムロックさん……だよな?」
なんて言っているかわからない。ソラは神の言語によるシャムロックの言葉が理解出来ず、ただ声で彼だと思うだけだ。そうして、シャムロックが彼の神使と共に舞い降りる。
『久しい……というわけではないが。頑張っているな、ソラくん』
「え? あ、えっと……」
「シャムロック様。言語中枢をそのままにしてしまっています」
「おっと……ソラくん。頑張っているな」
アスラエルの言葉で自らがそのまま神の言語を使っていた事に気付いたシャムロックが楽しげにソラへと声を掛ける。それにソラは恥ずかしげだった。
「あ、いえ……あれ?」
「どうしたね?」
「……」
これもしかしなくても絶体絶命なのか? ソラは自分ひとりに対してシャムロックと神使達という状況に気付いて、顔を真っ青に染める。
アル達は自分が駆け抜けたために追撃してくる防衛側の地上部隊を食い止めてくれているし、その上再開した砲撃を防いでもくれている。
バーンタインは言わずもがな地面に手を着いて<<氷結結界>>の再展開を阻止するべく基盤を破壊している――再展開の兆候がなくてもそのままにすると二日目の二の舞いになる可能性は残ったまま――真っ最中。これを邪魔されるわけにはいかないのである以上、ソラが一人で頑張るしかなかった。
「な、なぁ……<<偉大なる太陽>>」
『やるだけやれ……といつもなら言いたいが。流石に貴様では陛下のお相手には不釣り合いも良い所だ』
「じゃ、じゃあ……」
『お兄様……太陽をバックに登場だなんて、少し派手ではないかしら』
周囲を照らし出す太陽をかき消す様に闇が垂れ込めて、周囲を暗闇に包み込む。
『こういう場だ。派手に登場した方が良い……お前もそうしているだろう』
『眩しいのは嫌いなだけよ』
「シャルロットさん……」
太陽を背に舞い降りたシャムロックに対して、シャルロットは闇の中から現れる。そうして現れた彼女であるが、その両手にはカイトから返却された大鎌が二振りとも存在していた。そんな彼女がソラに対して告げた。
「ソラ。引きなさ……じゃないわね。先に進みなさい。やんちゃなお兄様とその付き人達の相手は私が」
「あ、はい……え、でも大丈夫なんすか?」
「問題ないわ……今まで口喧嘩以外ならお兄様に一度も負けた事がないもの」
「シャル……流石に兄の沽券に関わるからそういう事は言わないでくれないかな?」
どうやら事実は事実らしい。シャムロックは少しだけ恥ずかしげだった。これに、シャルロットは問いかける。
「事実でしょう?」
「そうだがね……なら、人数差は卑怯と言ってくれるなよ」
「無論よ……」
『夜闇は舞い降り、闇の帳が旅人を包み込む。然るに旅人は眠りに落ちる』
かぁん。シャルロットが虚空に大鎌の柄を突き立てて音を鳴らす。そしてそこを基点とする様にして更に闇が周囲を包み込んでいく。そうして包み込まれた戦士達が揃って船を漕ぎ、倒れ伏していく。
「む……」
そういうことか。シャルロットの意図をシャムロックは理解する。故に彼は更にその先を理解しながらも、致し方がなしと<<命の輝き>>を掲げた。
『太陽は登り、人々は動き出す……お前に合わせてみたが、どうだ?』
「この後もわかっているのに、随分な余裕ね」
流石に一手先んじられている状態ではシャムロックもこうするしかなかった。故に<<命の輝き>>を掲げて眠りに落ちた戦士達を再度賦活させた彼に対して、すでにシャルロットは肉迫していた。そうして大鎌が振りかぶられる寸前。アスラエルが割り込んだ。
「失礼致します! ぬぅ!」
「わかっているからやったんだが!」
「そんな甘さが通用するほど、甘い女ではなくてよ」
掲げていた<<命の輝き>>を引っ込めて大慌てでその場を離れた兄に対して、シャルロットは周囲の闇を操って刃を編んで追撃する。それに今度はサンバスが割り込んで切り裂いて、と神々の戦いが開始される。そんな戦いに唖然としていたソラであったが、彼へと声が掛けられる。
『おい、ソラの小僧! そこで呆けてないで手を貸せ!』
「っ、バーンタインさん!」
『ああ! 基盤を破壊してぇんだが、あと一歩足りねぇ! 力貸せや!』
「了解っす!」
<<氷結結界>>が展開されて困るのはその内側に囚われたソラ自身がよく理解出来ていた。なのでバーンタインの下へと大慌てで駆け寄った彼へと、地面に腕を突き刺したままのバーンタインが現状を教えてくれた。
『おう……今なんとか結界の根っこの所までは手を伸ばせた。伸ばせたんだが、あと一歩足りやがらねぇ。悔しいが、今の俺じゃここが限界だ』
「はぁ……それで、俺は何を?」
『お前さん、確かそいつは太陽神様の神剣って話だな? そいつは神器の第一解放状態と見た。どうだ?』
「間違いないっす」
バーンタインの確認に対して、ソラは即座に応ずる。これにバーンタインも一つ頷いた。
『おし……なら、手は一つだ。俺を思いっきりそいつで突き刺せ』
「はぁ!? え、いや……なんか変な事言いませんでした……?」
『あーもう! だから俺を突き刺せって言ったんだよ!』
流石に聞き間違いだよな。そう思ったソラであるが、そんな彼にバーンタインは苛立たしげに告げる。彼も伸ばせる限界まで<<黒焔武>>を伸ばしていたので色々とかなり限界だったようだ。
『良いからやれ! お前に有無はねぇよ!』
「いやいや、なんでっすか!?」
『良いからやれ!』
「えぇ!?」
なぜそんな事に。ソラはそもそも<<黒焔武>>の原理もその力の本質がどういった物かも知らないため、バーンタインの自殺行為としか思えない言葉に困惑しかない。が、そこにカイトから念話が飛んだ。
『……バーンタイン、やれるんだな?』
『うっす……やってみせやす。絶対に』
『良し……なら、ソラ。やれ』
どうやらカイトにはバーンタインがやろうとしている事が理解できたらしい。バーンタインの作戦に許可を下す。
「はぁ!? 正気かよ!?」
『<<黒焔武>>は生命力を吸収する力だが、その原点は生命力の放出だ。故に元々の生命力が莫大になればなるほど、<<黒焔武>>の効果は高まる……その大本の生命力を一時的にデカくして力をデカくしようって腹だ。失敗すればバーンタインがアウトになるだけだが……成功すれば<<氷結結界>>の基盤を完全に破壊出来る』
「マジか……良いんっすね?」
『ああ……叔父貴にも見栄を張っちまった。やってくれや』
カイトの言葉の真偽等を僅かに考え込んだソラの最終確認に対して、バーンタインは先程とは違ってにかっと笑う。これにソラも覚悟を決めた。
「……<<偉大なる太陽>>。確かお前を使えば生命力の譲渡って出来たんだよな?」
『出来るが……ぶっつけ本番だぞ?』
「やるしかないんだったら、俺もやるしかないだろ」
『そうか……ならば自らが太陽になるイメージで、力を放て』
「無茶苦茶言うなぁ……」
『やると言ったのはお前だぞ』
「わかってる」
自分の軽口に対して笑う<<偉大なる太陽>>に、ソラもまた僅かに肩の力を抜く。肩の力を入れては駄目な気がしたのだ。そんな彼は帯びていた<<偉大なる太陽>>の鞘へと<<偉大なる太陽>>を納刀する。
『ん?』
「いや……回復させるなら刃を向けるのはおかしいだろ」
『それは正解だが……それならば鞘に納めたまま切っ先を向けろ。今の小僧では指向性がなければ思うほどの効力は上げられんだろう』
「わかった」
ソラは<<偉大なる太陽>>の助言を受け入れて、剣帯から<<偉大なる太陽>>を外して鞘ごとバーンタインへと向ける。そうして、彼はしっかりと地面を踏みしめる。
「ふぅ……はぁあああ!」
気合を入れて、ソラが<<偉大なる太陽>>に力を込める。そうして鞘の先端から解き放たれた太陽光が、バーンタインを貫いた。
「ぐっ! ォウオオオオオ!」
「親父!?」
「何やってんだ!?」
膨大な生命力を吸収して、急速にバーンタインの姿が元に戻っていく。これにバーンタインは死力を尽くして、僅かに残る<<黒焔武>>の残滓を伸ばしていく。そうして、彼から真っ黒な炎が掻き消える寸前。<<黒焔武>>の炎が<<氷結結界>>の基盤へと届いた。
「「「!?」」」
何かが砕け散る轟音と共に、地面が大きく揺れる。<<氷結結界>>の基盤が砕け散ったのだ。
「がぁ! はぁ! はぁ……あー……二度とやりたくねぇ……」
「バーンタインさん!」
「おう。悪いな、ソラの小僧……流石に疲れちまったわ」
ばたん、と倒れ伏して大の字になるバーンタインをソラが大慌てで抱き起こす。流石に<<黒焔武>>の反動でバーンタインには余裕が残っていなかったようだ。段々とその姿が薄れゆく。これに、ソラが大慌てで先程の事を思い出す。
「えっと……こう、だ!」
「あ?」
ソラがやったのは、<<偉大なる太陽>>をバーンタインの身体の上に置いて更にその上に自分の手を置くという摩訶不思議な行動だ。これにバーンタインが困惑の声を上げるが、その次の瞬間。消えかかっていた彼の身体が唐突に実体を取り戻す。
「な、なんとかなったぁ……」
「い、今のは……」
「あはは……なんとか生命力の譲渡をやってみたんっす。とりあえずそんだけあればバーンタインさんなら後は大丈夫かなって……」
「くっ……」
元々の作戦ならここでお役御免だったんだがな。バーンタインはそう思いながら、幸運にも拾った命を確かめる。
「おし……おう。問題ねぇ。すまねぇな、何から何まで」
「あはは……」
流石にバーンタインを復活させつつ先程の一幕もあったのだ。今度はソラの方に余裕がかなりなくなってしまっていたらしい。今度は彼が尻餅をつく。そんな彼を、バーンタインがその大きな手で引っ掴んだ。
「おぅらぁあああああ!」
「うぇえええええ!?」
「後は、俺に任せろや! 流石にここまでされてちょっとは格好良い所みせねぇと、俺の名が廃っちまうからな。なぁ?」
「「「っ」」」
ソラを思いっきり後ろへと投げ飛ばしたバーンタインは、特殊な呼吸法で生命力を急速に回復させながらもいつの間にか自分を取り囲んでいた防衛側の戦士達へと牙を剥く。そうして、ソラを最後方へと退避させたバーンタインは今度は自らの力だけで前へと進んでいくのだった。
お読み頂きありがとうございました。




