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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2709話 合同演習編 ――対八大――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習の三日目。それは攻略側陣営が初手で切り札を切るという展開を見せていた。

 というわけで、カイトは攻略側の切り札の一枚である重特機『B・B』を駆って同じく攻略側陣営の切り札と化したバーンタインに先駆け防衛側陣営の<<氷結結界>>を強襲。迎撃に出てきた防衛側飛空艇艦隊や大型魔導鎧の戦団との間で戦闘を繰り広げる。

 が、流石にカイト――に加えてアイギス達――とマクダウェル家肝入で開発された重特機の性能は凄まじく、一方的な戦闘を繰り広げる事になっていた。

 というわけで、その苦境を受けて不利を承知で迎撃に出た<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊と交戦を開始。ソレイユ達の援護を受けて一度上空へ舞い上がった彼はそのまま落下の勢いも加えて再度<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊へと襲いかかる。


「おぉおおおお!」

『っ! 団長! 再び巨大大型魔導鎧が接近してきます!』

『見りゃわかる! 各艦艇は機関最大! どいつが狙われても良い様に舵から手を離すなよ!』


 雄叫びを上げて急降下してくる重特機から視線を外す事なく、アウィス当人もまた旗艦の舵を強く握りしめる。そうして、数秒。カイトが飛び膝蹴りの要領で旗艦の真横に居た一隻へと襲いかかる。


『っ! 二番艦!』

『あいよ! 面舵一杯! 側面の飛翔機を最大まで吹かせ! うぉおおおお!?』


 重特機ほどの質量が魔力を纏ったまま真横を超速で通り過ぎたのだ。生み出される風と魔力の渦は並の竜巻を凌駕しており、特に横を抜けられる形となった一隻――アウィスの言葉によれば二番艦――の船体が大きく揺れる。

 そうして周囲に地響きを巻き起こし地面に着地した重特機であるが、そこへ<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊が砲撃を敢行する。


『一気に撃ち込め! 後先は考える必要は無い!』

『撃って撃って撃ちまくれ! 外す心配は無い!』

『全砲門開け! 団長の許可が出たぞ! 派手にかませ!』


 <<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の各艦艇の艦長達が声を荒らげて飛空艇の各所へ総攻撃を命ずる。そんな動きを見て、アイギスが報告した。


「マスター。総攻撃が来る様子です」

「みたいだな……が」

「イエス。ホタル」

「了解」


 カイトの言葉の先を読んで、アイギスとホタルが重特機の動きを最適化させる。そうして急速に自身の動きを完全にトレース出来る様に改修された重特機が、まるで跳ね上がるような形でアッパーを放った。


『『『!?』』』


 あまりに速い。巨体にも関わらずこちらが砲撃を開始するより前に動きを見せた重特機に<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の面々が驚愕を露わにする。

 そしてこの状況だ。カイトも狙いこそ付けられなかったものの、<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊も避ける事は出来なかった。


「おらよ!」

『っ……あぁ、五番艦が!』

『嘘だろ、おい!? ウチの艦艇が落とされるのかよ!?』


 どうやらアウィスは自分達の艦隊に絶対の自信を持っていたらしい。同じく八大ギルドならまだしも、と多大な驚きを滲ませていた。が、同時に楽しげでもあった。


『これが、マクダウェル家! 生ける伝説か!』


 それでこそ、俺達が憧れた伝説の勇者を受け継ぐ者たち。アウィスは自らの艦隊の一隻を落とされた事に怒りではなく称賛と敬意を表する。そしてならばこそ、と彼もまたこれを単なる演習ではなく本気で臨まねばならない戦いと認識する。


『全員、気合を入れ直せ! 俺も入れ直す! 相手は俺達が憧れた伝説だ! 貴族と思うなよ!』

『『『おぉおおおおお!』』』


 アウィスの激励により、仲間の飛空艇が落とされ混乱していた<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>のギルドメンバー達が奮起する。これに、カイトが僅かに苦笑した。


「ちょっと選択を間違えたかな?」

「ノー。いくら気合を入れようと一隻落ちたのは事実です。絶対的な戦力の低下は免れません」

「ストイックというか冷酷というか、だな」


 アイギスの返答にカイトは苦笑の色を更に強くする。とはいえ、気合を入れられて一気に攻勢に出られても困る。相手は最も新参とはいえ八大ギルドなのだ。迂闊な事を出来る相手でもなかった。故に彼は飛び上がると同時に、背面に向けて飛翔する。これにアウィスが声を大にした。


『砲撃用意! 全艦、撃てなかった五番艦の分まで撃ちまくれ!』

「ちっ」


 どうやら奮起した事により、本気で動く事にしたらしい。今までとは段違いの出力で攻撃を開始した<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊に、カイトは舌打ち一つで感情を切り替える。


「マスター。回避行動は」

「駄目だ。背後に艦隊……しかもウチのだ」

「……イエス。防御に出力を回します」


 カイトの返答にアイギスは背後の艦隊を理解。この場を退けば背後のマクダウェル家の艦隊が被害を負うと理解して防御へ魔力を回す。そうして展開された巨大な障壁に向け、無数の魔弾と光条が殺到する。


「<<バルザイの偃月刀>>を」

『アップロード完了』

「装填……マスター。いけます」

「あいよ……アイギス。一旦障壁のコントロールは全て任せる」

「イエス。魔術展開のトリガーはマスターに移譲しました」

「了解」


 魔導書達から転送された魔術の発動のタイミングを移譲されたカイトはアイギスに障壁の維持を任せると、その間に彼は手を前に伸ばして<<バルザイの偃月刀>>――但し重特機のサイズ――を顕現させる。


『っ! デカい剣! 来るぞ!』


 剣を持ってきた以上は接近してくるつもりかもしれない。アウィスはそんな警戒を口にする。が、これにカイトはぐっと<<バルザイの偃月刀>>の柄を握りしめると、そのまま投げつける。


「おぉおおおお!」


 野球ボールを投げる様に、カイトは旗艦に向けて<<バルザイの偃月刀>>の投げる。これに対して、アウィスの行動は早かった。


『主砲! てぇ!』

「っ、迎撃されたか」


 良い腕だ。カイトは自身の攻撃に即座に応じられたアウィスに対して内心で称賛を口にする。が、今回の<<バルザイの偃月刀>>は一味違っていた。


『!?』


 主砲の一撃で砕いた。閃光を放ち砕けた<<バルザイの偃月刀>>を見て一安心という所だったアウィスであるが、次の瞬間に欠片が小さな<<バルザイの偃月刀>>と化すのを目の当たりにする。が、彼とて八大の長。即座に思考回路を無数に分裂させ、次の一手を導き出す。


『小型の魔物迎撃用の速射砲、撃て! 合わせて主砲チャージ!』

「甘い……<<キシュの印>>」


 ぐっと右の拳を引いたカイトは残る左手で特殊な印を結ぶ。そうして彼は次元の裂け目を生み出して、旗艦の真後ろに展開していた一隻を殴り飛ばす。が、完全に轟沈とはならなかったらしい。轟音を上げてかなり動いたが、空中で急制動。前に居た旗艦に衝突する前に停止する。


『何だ!?』

『報告! 七番艦、中破! 三番と六番飛翔機が全損! 他背面の飛翔機の被害甚大! 機動力を大きく削がれたとの報告です!』

『何!? どうやった!?』


 さっきの大音はそれか。アウィスはカイトとの交戦に集中しながらも、必死で攻略方法を考える。そんな彼に、オペレーターが報告を続けた。


『わかりません! 唐突に背後から拳が殴りかかってきたと!』

『っ……攻撃は!? 続行可能か! 無理なら下がる様に告げろ!』

『……可能とのこと! ただ万が一の場合に備え人員を降下させるとのこと!』

『それで良い!』


 自分達の背後を守る飛空艇の損害に対して、アウィスはまだまだ自分の見通しが甘いと自省する。こんな展開は一切読めていなかったようだ。が、一方のカイトも若干の見通しが甘かったようだ。


「む……叩き潰してやるつもりだったんだが」

「駄目でしたねー。ドンピシャかと思ったのですが」

「どうやら飛翔機の配置がマクダウェル製の物ではなかった様子です。マザーが展開するドローンよりデータが」

「ちっ……やはり他国の飛空艇はいまいち勝手がわからんか」


 今更であるが、飛空艇の開発はマクダウェル家が第一人者というだけでエネフィア全土で行われている。なので一見すると似た形であっても全く違う構造が採用されていたりという事は往々にしてあるらしく、今回狙った飛空艇も正面しか見えていなかった事があり狙った効果は得られなかったようだ。というわけで、そんな彼は無い事はわかっているものの念のためと確認する。


「アイギス……魔銃やらの外付けの兵装は一切無いんだったな?」

「イエス。そこまで開発の手は回っていませんでした……そのかわりの魔導書との連携機能ではありましたので」

「そうか……魔銃が使えりゃ楽だったんだがな」


 流石に無い物ねだりか。カイトは内蔵兵器も指先や各所の防衛用の魔導砲以外目立った物が無い事に僅かに苦笑する。無論、そのためにティナはアル・アジフとナコトの魔術をそのまま流用できる機構を設けていた。そんな彼にアイギスが一応の牽制を行っておく。


「一応言いますが、マスター。マスターお得意の魔力で武器を編む事は控えてくださいね」

「わかってる……オレぐらいしか使えないからな」


 もし使えばオレがオレ(勇者)である事が露呈しかねないからな。カイトはアイギスの苦言に同意する。


「しゃーね……<<深淵に巣食う蜘蛛(アトラック・ナチャ)>>にクトゥグアをセット」

『<<深淵に巣食う蜘蛛(アトラック・ナチャ)>>……アップロード』

『クトゥグア……アップロード』

「擬似的な炎の鞭だ……どうやって防ぐ?」


 カイトは楽しげに笑いながら、<<深淵に巣食う蜘蛛(アトラック・ナチャ)>>に炎を付与して炎の鞭とする。そうして彼が振り回そうとした瞬間。炎の鞭が一瞬で切り飛ばされる。


「む」

「マスター。旗艦甲板を……データベース照合。先代の<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>ギルドマスターのアムティスです」


 攻撃前に破壊された炎の鞭に目を丸くするカイトに、ホタルがドローンからの映像を中継する。そこではアムティスが細剣を振るって炎の鞭を切り裂いた様子が映し出されていた。どうやら彼も息子の奮起に応じて本気でやってきたようだ。


「なるほど……ま、流石に八大は楽にはやらせてくれない、か」

「イエス……マスター。ここからは?」

「……もう少しやるしかないな。どこもかしこもバチバチにやりあってる。ここで<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>を野放しにしちまうと、こっちが総崩れになりかねん」


 アイギスからの問いかけにカイトはもう暫くの<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>との交戦を決め、指先を<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊に向ける。

 カイトとしても相手が八大という事があり下手に攻め込めないと考えていたようだ。更には重特機という実験機を操っている今、過信は禁物と判断したらしい。そうして、彼は再度<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>との交戦に戻るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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