第2708話 合同演習編 ――乱戦――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目。それは最初からカイトが重特機『B・B』とバーンタインが<<炎武>>の最終形にして禁忌と言われる<<黒焔武>>の派生である<<終末の炎巨人>>を展開して敵陣へ一気に攻め上るという展開を見せていた。
そんな中、カイトは途中から飛翔機を使って『B・B』による飛空艇への攻撃行動を開始。あまりに巨大な魔導機に対応が出来ず防衛側飛空艇艦隊は多大な損害を被る事になっていた。
「「「……」」」
空中で繰り広げられる超巨大魔導機と飛空艇艦隊の砲撃戦に、ソラ達は言葉を失っていた。当たり前だろう。誰が何をどう考えればこんな光景を想像出来たのか。
「……なぁ、アル。あれ、マジで?」
「だってマクダウェル家だし……」
「いや、それにしたっておかしいだろ。なんだよ、あれ……飛空艇がおもちゃみたいに握りつぶされたぞ」
「だってマクダウェル家だし……」
「便利すぎんだろ、マクダウェル家!」
アルの返答にソラは声を荒げる。とはいえ、マクダウェル家だからと言われれば納得も出来る所もあった。
「だってマクダウェル家だし……」
「もうわかった……お前も知らなかったという所か」
「流石に僕軍属でも上層部じゃないし。秘密裏に開発されていたのは知らないよ」
おおよそ知らないと考えられる自身の言葉に呆れたルーファウスに対して、アルは尤もな事を口にする。そもそも彼の官位は少尉。若くしてこの地位にあるだけでも凄いのだ。これ以上を望むべくもなかった。というわけで、ソラは重特機を上に見ながら問いかける。
「まぁ、良いや……とりあえずどうする? 遊撃も何もとりあえず進軍するか?」
「それは君次第という所だけど……」
「そか……えっと、トリン」
『何?』
「そっち大丈夫か?」
『最後方だからね』
こういう時こそ知恵袋に頼むのみ。そう考えたソラの問いかけに、最後方に引っ込んでいたトリンが笑う。まぁ、そのおかげと重特機の活躍でほぼほぼ砲撃が飛んでこず、結果として安全の確保は出来ている様子だった。
「そっちから俺らの様子は」
『見えているよ……今はまだ待ちで良いよ。君の出番はもっと後だから』
「後?」
『うん……バーンタインさんが結界に取り付いた後。確定で<<太陽レンズ>>が照射されるから、それを防ぐのが君の役目』
「あのデカいのは?」
『艦隊戦で手一杯になるだろうからね。流石にそれ以上は望むべくもないと思うよ』
「なるほど……」
確かに言われてみれば現状でさえ重特機は艦隊戦で手一杯で、バーンタインの直接的な援護には<<暁>>のバーンシュタット家筋以外や傘下のギルドが動いている。今はまだそれだけで十分な様子だが、これから更に近付けばより反撃は強くなるだろう。
それを考えれば必然として<<太陽レンズ>>の対抗策を一枚ぐらいは温存しておきたい所だというのも納得出来た。
「ってことは俺がやるべきなのは、<<太陽レンズ>>が充填されて速攻でバーンタインさんの支援に入れる様に、って所か」
『正解。それまで君はなるべく目立たず、戦場に潜むこと。カイトさんが君に別働隊を命じたのも、冒険部に混じってしまうと見付けられてしまうからだね』
「だな……そういえばサンバスさんとかは?」
『そっちはもし出てきてもシャルロットさんが片付けるから問題無いよ。出てくるかも微妙だけど、出てきても遊ぶ程度。手札は殆ど切らないかな。それ以外にも細々としたのは来るだろうけど……』
「そのための二枚看板、か」
『そういうことだね』
アルとルーファウスという皇国と教国が鳴り物入りで喧伝する二人を自分の護衛として配置している理由を理解しろ。カイトからそう言われているようにソラには感じられた。
「なーんか目立ちそうな役回りだな」
『目立つだろうね……それが、君たちに求められる役割だ』
「そか」
あんまり目立ちたくはないが、同時に目立たねばならないのだろうともソラは理解する。今回の合同軍事演習は各国に皇国の層の厚さを示すためのものだ。
そこで神剣を持つソラの存在。アルとルーファウスという二つのヴァイスリッター家の麒麟児達を一挙に宣伝出来るという状況をカイトが見過ごすはずがなかった。というわけで、カイトの意図を理解したソラが号令を下す。
「よし……じゃあ、少し隠れてひっそり前に出るか」
「なんか騎士っぽくないけど……」
「仕方がないだろう。それが役目なのだとするのなら」
アルの言葉にルーファウスが苦言を呈する。まぁ、そういう彼自身もまた少し思っていたらしい。少しだけ不満げだった。というわけで、アルはそんな二人と共に戦場をなるべく交戦しない様に最前線まで進むのだった。
さてソラ達が重特機の影に隠れて戦場を前に進んでいた一方。カイトはというと重特機を駆って飛空艇艦隊との戦闘を続行。まぁ、結論から言ってしまえばこれはほぼほぼ一方的だった。
「第3大型魔導鎧大隊壊滅! 蹴りで一発です!」
「第5、第12艦隊被害多数! 殴り飛ばされました!」
「何なんだ、これは!」
おおよそ艦隊戦をしているとは思えない報告の数々に、艦隊の司令官達が声を荒げる。
「なぜ飛空艇が殴り飛ばされる! 冗談もほどほどにしろ! とりあえず撃って撃って撃ちまくれ!」
「駄目です! 障壁に阻まれ通用していません!」
「ちぃ!」
堅牢な防御に戦艦級並の重量。そこから繰り出される質量はそれだけで十分兵器になり得るし、魔力をまとえばパンチ一発が十分に飛空艇を破壊可能な武器と化す。
その上で各種の内蔵された兵器まであるのだ。正しく歩く武器庫や要塞と言っても過言ではなかった。と、重特機の対応に苦慮する防衛側であるが、当然敵は重特機だけではなかった。
「っ! 次はなんだ!?」
「攻略側艦隊が攻めてきました! 総攻撃です!」
「っ! 遂に来たか!」
流石にこの状況を見過ごすほど攻略側が甘いとは誰も思えなかった。というわけで、重特機が防衛側飛空艇艦隊の隊列をかき乱した所に、攻略側飛空艇艦隊が攻め込んで更に隊列をかき乱す。が、更にそこに今度は<<氷結結界>>を通り抜けて<<天駆ける大鳳>>の艦隊が出陣する。
「マスター。<<天駆ける大鳳>>の艦隊が出てきました」
「あいよ。流石にウチの艦隊じゃないと対応出来んが」
「『B・B』なら問題無いですね」
「おう……フィンガー・ランチャー。モード・チェンジ」
「イエス……モード・チェンジ完了。初日の意趣返し、しちゃいましょう!」
<<天駆ける大鳳>>の艦隊が浮かんできたのを受けて、カイトは十の指先をそちらに向ける。そして、次の瞬間。<<天駆ける大鳳>>の艦隊から放たれるレーザと重特機から放たれるレーザが干渉して、明後日の方向へと飛んでいった。
「っ」
「考えている事は同じでしたね」
「みたいだな……が」
「イエス」
飛空艇が魔導砲しか使えないのに対して、重特機はあくまでも魔導機だ。故に次の一撃を充填している間に、重特機は肉迫して飛空艇を殴り飛ばせた。
「おぉおおお!」
楽しげに笑いながら雄叫びを上げて、カイトは<<天駆ける大鳳>>の旗艦目掛けて飛翔機を吹かせる。そうして重特機の拳が<<天駆ける大鳳>>の旗艦を捉えようとした瞬間。甲板の先端に大男が立ちふさがる。
「ぬぉおおおおおお!」
「っ」
大音声と共に展開された強固な障壁に阻まれ、重特機の巨大な拳が食い止められる。そうして停止した重特機へと、甲板の上に待機していた魔術師が杖を向ける。
「っ、<<ニトクリスの鏡>>!」
『了解……アップロード』
「アップロード確認! 術式装填!」
「合わせて背後へ飛翔!」
魔術師による砲撃が放たれる直前。カイトは重特機の拳を引いて一気に後ろへと飛翔する。そうして彼が後ろへと飛んだ直後。魔術師による砲撃が重特機を捉えた。が、この程度で何とかなる相手ではない。故にアウィスは苦い顔で笑う。
「っ! 流石に駄目か! っ! 障壁を今の内に貼り直せ! 次が来る!」
「「「了解!」」」
アウィスの号令を受けて、障壁の再展開を開始する。が、そこにカイトは再度十の指の先端を向けていた。
「<<深淵に巣食う蜘蛛>>!」
「!?」
重特機の指先から放たれる純白の糸に、アウィスは自分の失策を理解する。が、彼とて八大の長だ。リカバリは即座にしてみせた。
「出力最大! 引っ張られるぞ!」
「っ! 総員、耐ショック用意!」
「親父!」
『おう! わーってる!』
アウィスの要請を聞いて、甲板で戦闘部隊の統率を取っていたアムティスが即座に細剣を取り出す。
『はぁ!』
「っ、ちっ」
流石にそうは問屋が卸さないか。カイトは切り裂かれた蜘蛛の糸を消して、即座に姿勢を整える。が、その僅かな隙きを見逃すほど、八大ギルドの相手は楽ではなかった。
「マスター! 敵弾来ます!」
「ちっ! 障壁を」
『にぃー! そっち流星群行くから避けてねー!』
障壁を展開して防げ。そう言おうとした次の瞬間に響いたソレイユからの念話に、カイトは即座に手を切り替える。
「っ、障壁はキャンセル! 一気に高度を上げる! <<羽のある死神>>を」
『もうアップロード済み』
「上出来! アイギス!」
「イエス!」
自身の先を読んでいたナコトの返答を受けて、カイトは虚空を強く蹴って更に飛翔の力を増幅。急加速して一気に天高く舞い上がる。
そしてそれと入れ替わる様にソレイユと彼女が率いる弓兵達の放った無数の矢と、<<天駆ける大鳳>>の弓兵達による矢の雨が激突して無数の閃光を上げて対消滅を起こしていく。
「ふぅ……アイギス」
「イエス! アップロード確認!」
カイトの言葉を受けてアイギスは魔導書達からアップロードされた術式を指先の魔導砲に装填。次の瞬間、虹色の魔力の光条が迸って上から<<天駆ける大鳳>>の艦隊を狙う。
「っ! 上から来るぞ! 注意しろ!」
「了解! 上の障壁の出力最大!」
「む」
展開された障壁により自身の攻撃が防がれたのを見て、カイトは僅かに冷静な様子を見せる。
「強度は相当か。流石に<<天駆ける大鳳>>の艦隊の防御を破るならもっと魔力を充填しておく必要があるかな……」
「もしくは、障壁の内側に入り込んで物理的に破壊か、ですね。ではどうしますか、マスター」
「決まってる……殴り込むぞ!」
楽しげなアイギスの問いかけに、カイトは総身に力を込めて<<天駆ける大鳳>>の艦隊へと襲いかかる。そうして、上空の戦いは混迷を極めていく事になるのだった。
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