第2706話 合同演習編 ――二つの巨人――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目。演習開始前から謎の超巨大クリスタルの出現により観覧の各国大使の度肝を抜いた攻略側陣営。そんな中でカイトはその超巨大クリスタルの中に封じられた重特機のコクピットで開始を待っていた。そして、暫く。皇帝レオンハルトの合図により演習が開始される。
「マスター。合図が」
「わかっている……まだだ」
流石に重特機単騎で動いた所で迎撃されるだけなのが目に見えている。動くならバーンタインと同時にしなければならなかった。そして幸いな事に、防衛側は攻略側の陣形中央に鎮座する超巨大クリスタルを警戒して動くに動けない。時間は確保出来ていた。
「ふぅ……ティナ。外の状況を教えてくれ」
『うむ。これからという所じゃ。お主も見ておくか?』
「そうしてくれ。なるべく負担は減らしてやらんと、バーンタインがキツい」
ティナの問いかけにカイトは実際に自身で状況を見ておく事を告げる。そうして、彼の前に旗艦が観測している映像が送られてきた。
「ふぅ……」
カイトが遠目に見守っている事なぞ露知らず。瞬は冒険部が構築した魔法陣の中央で呼吸を整えていた。そんな彼に、一番中心に近い位置に立つ一人である綾崎が問いかける。
『瞬。問題は無いか?』
「ああ……体力・気力共に十分だ」
くるくるくる。瞬は<<赤影の槍>>を振り回して地面に突き立てる。そうして、彼は自らに活を入れた。ここからは彼がしくじれば全部が御破算だ。失敗するわけにはいかなかった。
「ふっ……よしっ。大丈夫だ。いつでも行ける」
『よし! じゃあ、やるぞ! 一条に力を集めろ!』
『『『おう!』』』
藤堂の号令に合わせて、魔法陣の各所に移動していた冒険部の面々が鬨の声を上げる。そうして、魔法陣の各所から地面を伝って魔力と気の両方が瞬を中心とした四方へと移動。部長連の四人がそこに立っていた。
『『『っ』』』
「皆、大丈夫か?」
『少し……キツいですね』
『ああ……あまり練習していなかったからな』
瞬の問いかけに藤堂と綾崎の二人が僅かに苦悶の色の乗った声で答える。冒険部の全員分の力を部長連の四人が一旦収束。それを瞬に受け渡し、それをバーンタインへと受け渡す。
それがこの魔方陣の力――本来は中央の一人に力を集めるためだが、今回はそれを更に応用した――だった。というわけで、瞬へと四方に束ねられた力が収束する。
「ぐっ……!」
部長連という冒険部でもエース級が苦しむほどの力が、瞬に収束するのだ。鬼族の耐久力があればこそなんとか堪えられていた。そしてそれを利用して、瞬は<<炎武>>を起動させる。
「っ……やはり慣れんかっ……」
<<炎武>>はそもそもバランタインの血脈が体質的なもので使える特殊技能で、本来は瞬が使えないものだ。それを亜種である<<雷炎武>>を何千と繰り返した結果、後天的に使える様になっていたので使っているだけである。
が、本質的には使えない事に変わりないので、かなりロスが生じてしまっている様子だった。故に彼は暴れ狂う力に飲み込まれない様にしながら、バーンタインに声を掛ける。
「ぐっ……バーンタインさん!」
『おう! こっちは何時でも大丈夫だ! 思う存分、やってくれ!』
というか、俺もヤバいんだがな。瞬の言葉に対して、全身全霊を込めた力を解き放ったバーンタインが苦しそうに答える。彼はすでに赤黒い炎を纏っており、後僅かで<<黒焔武>>と化す様に思われた。が、それは即ち彼自身にも余裕が無い事を示していた。まぁ、余裕をなくさねば意味がないのだ。仕方がなかった。
「おぉおおおおお!」
雄叫びを上げて、瞬は全部の力を炎へと変換。全てを槍の様に束ねて、バーンタインへと投げ放つ。そして直後には同じ様に本家バーンシュタット家の兵士達による力。更には<<暁>>の幹部達による力が同時に殺到。当人の力も合わせて、四つの力がバーンタイン一人に収束する。
『ガァ!』
本家本元たるバランタインと同じく本家本元であるカイトのみしか使えなかった力だ。その起動で必要となる生命力もまた膨大なものだ。
故にそれを体内に取り込むだけでも、バーンタインは身体がまるで弾け飛ぶような苦痛を感じる事になる。それを、彼は取り込まず逆に自らが保有する全てをも引っ張り出す呼び水として使用。自らの生命力全てを使い、<<炎武>>の最終段階を起動した。
『グッ!』
一瞬、意識が飛んだ。バーンタインは自らの中に残る生命力がすっからかんになったのを理解する。そして、直後だ。失った生命力を求め、外側で展開する<<炎武>>の生命力を自らが吸収しようとする力を利用し、それを取り込むまいと強引に拮抗させる。
「ぐっ……」
「親父……さっさとやっちまってくれ! こっちもかなり辛い!」
内側から段々と漆黒に染まっていく炎を見ながら、ピュリが声を荒げる。今のバーンタインではこの<<黒焔武>>の維持は不可能だ。故に外側から数百人規模の冒険者や兵士で支えていたのだ。そうして、バーンタインが吼えた。
『オォォオおおお!』
どんっ、と爆音が上がり、バーンタインの周辺にあった漆黒の炎が一気に増大。超巨大な漆黒の巨人へと変貌する。
『バランタイン様が作られた<<炎武>>……その最終奥義! <<終末の炎巨人>>!』
超巨大な漆黒の巨人となり、バーンタインは口決まで使って自らが何かを定義する。ここまでやらなければ、彼は<<黒焔武>>を使う事が出来なかった。事実、この巨大サイズになってしまったのは彼が安定させられなかった事も大きかった。
『……』
「何だ……足元が……」
「砂漠になった……?」
ぼしゅっと何かが蒸発するような音と共に地面に着地したバーンタインの周辺に起きた事態を見て、両軍の戦士達が困惑の声を露わにする。バーンタインやリィル達さえ<<黒焔武>>を知らなかったのだ。これが何かわからなくとも、仕方がなかった。
が、古い戦士達はこれが何かを知っている。その弱点もまた。故に、バルフレアは少しの称賛と共にまるで焦る事もなくレヴィへと問いかける。
「へー……やるじゃん。おい、ウィザー……どうする?」
『対抗策は決まっている……<<太陽レンズ>>照射準備。ストックを複数チャージで照射。三発分もぶつけてやれば十分だろう』
「だな」
太陽光は生命力とも言い換えられた。そして<<黒焔武>>とは生命力の枯渇により起きる吸収作用を利用して展開する大技だ。ならば<<太陽レンズ>>は最大の対抗策であると同時に、万が一のセーフティになり得たのである。そして同時にそれ故にこそ、カイトの本命たるクリスタルの中身から注意を逸してはならないと二人は判断していた。
「てめぇら! バランタインの切り札を使われたからって狼狽えるな! あれなら俺達が知ってる! ウィザーもな! 使える可能性はすでに考慮済みだ!」
「「「っ」」」
バルフレアの叱咤に、周囲の若い冒険者達は彼の近辺。かつて三百年前の戦いを経験した者たちが特段焦っていない事を理解した。そして注目を集めた後、彼は更に続ける。
「攻略側の本当の秘策はあのクリスタルだ! それから目を離すなよ!」
「「「おう!」」」
確かにあまりに圧倒的かつ禍々しい威容に飲まれてしまったが、まだ更にその後ろにはクリスタルが鎮座していたのだ。注意する必要があった。そうして、数秒後。ストックされた太陽光を用いて、<<太陽レンズ>>に光が収束する。
「マスター」
「おう……<<ニトクリスの鏡>>展開準備」
『術式アップロード』
「アップロード確認……右腕に装填完了」
さぁ、来るぞ。カイトは自らに気合を入れながら、バーンタインに向けられる攻撃を防ぐべく準備に取り掛かる。そうして右腕に術式が装填されたのを受けて、カイトが声を上げる。
「ティナ!」
『うむ! 特殊作戦機体起動許可! 以後、封印の解除を含めた全システムはパイロットに一任する!』
「おう! 特殊作戦機体……重特機実験機『B・B』起動!」
「ブルーローズ・ザ・ビギニング、起動! ホタルは魔導炉の安定を優先! 封印の解除までカウント」
「封印はぶち抜く! 派手に行くぞ! ホタル、付いてこいよ!」
「イエス!」
「了解」
直後。演習場の全域の戦士達、観覧の各国高位高官の者たちが見たのは、ガラスの砕け散るような大音と共に現れた超巨大な腕だ。それが漆黒の巨人と化したバーンタインの前まで伸びると、手のひらを太陽光の前に置いた。そして、直後だ。手のひらが鏡面と化して<<太陽レンズ>>の太陽光を乱反射させ、周囲を極光で包み込む。
「何だ!?」
「何が起きた!? あの腕みたいなのは何だったんだ!?」
「なんにも見えない!」
全てを覆い尽くす極光の中、戦士達の困惑の声だけが響き渡る。そうして、数秒に渡る太陽光の照射が終わりを告げた。
「……なんだ、ありゃぁ……」
「すっげぇ! なんだありゃ!」
『なぁっ……』
閃光が晴れた先。ようやく見えてきた重特機の威容を見て、多くの者は呆然となり一部の者――具体的にはバルフレア――は興奮を隠せず、最後方に控えていた知恵者達――レヴィやハイゼンベルグ公ジェイク――はあまりに馬鹿げた発想に言葉を失う。
「超巨大な……なんだ!?」
「大型!? いや、あんな規格の大型なんて無いぞ!?」
ずしんずしん、と音を立てて立ち上がる重特機に、攻略側防衛側観覧の者たち関係なく困惑の声を上げる。そうして、そんな彼らが見守る前で重特機が立ち上がった。そんな重特機の中で、アイギスが告げた。
「『B・B』……全システムオールグリーン。ホタル、魔導炉は?」
「全て問題無し。安定しています。自壊する事は無いかと」
「よし……マスター」
「おう……おー、すっげ。飛空艇がまるでおもちゃ」
なにせ200メートル級の超大型魔導機だ。飛空艇も大半は100メートルを下回る以上、本当におもちゃの様にしか見えなかった。と、そんな自分よりも何回りも大きな重特機の姿を後ろに見て、バーンタインが驚いた様に念話を飛ばす。
『え……いや、あの……叔父貴? な、なんですか、それ……』
「重特機……もしくは魔導機の特殊作戦専用機」
『そ、それも魔導機なんですかい!?』
バーンタインとて魔導機の事は聞いていたが、まさかこんなものを開発しているとは思ってもいなかったようだ。それはそうだろう。実際この超大型魔導機が何かわからず、防衛側のみならず攻略側の末端の戦士達は完全に右往左往の状態だ。が、それ故にこそ攻め時は今だった。
「ま、そりゃ良い……とりあえず度肝を抜けただろ? じゃあ、やろうぜ。護衛は任せろ。お前は結界の相殺にのみ全力を尽くせ」
『おう!』
また珍妙な物に乗ってはいるものの、あの叔父貴が護衛に就いてくださる。その意味をバーンタインは理解していればこそ、カイトの返答に気合を漲らせる。そうして先に出たのは当然、カイトだった。
「な、なんだ!?」
「あれも大型か!?」
「とりあえず撃て! あれも魔導鎧の一旦なら、稼働時間は殆ど無いはずだ! 速攻戦だ!」
「<<氷結結界>>を出るぞ! 流石に近寄られてはどうにもならん!」
近寄られた瞬間にバーンタインか重特機の攻撃に晒されて結界なぞ跡形もないだろう。そう防衛側の上層部は判断したようだ。そうして、二つの巨人の出現により合同軍事演習三日目は本格的にスタートする事になるのだった。
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