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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2705話 合同演習編 ――重特機――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目。その日はカイトは朝から冒険部の統率を瞬に任せると、自身はギルド同盟を離れてティナと合流。重特機の最終確認を聞いていた。


「さて……では、カイト。まず聞いておくが、覚悟は良いな? わかっておると思うが、今回の重特機……特殊作戦機体は本来は宇宙空間での戦闘を主眼として開発しておるものじゃ。故に本来の戦闘力は発揮出来ん」

「そもそも想定している戦闘力自体、まだ出せるもんじゃないんだろ?」

「そうじゃな。そこは技術的な実験機であるがゆえに許せ」


 カイトの確認に対して、ティナははっきりと頷いた。そうして、そんな彼女は改めて重特機のスペックシートを提示する。


「これが重特機の試作機のスペックじゃ」

「相変わらず思うが、並の弩級戦艦のスペックを余裕で上回ってるな」

「そりゃ、想定が宇宙を生息地とする魔物との戦闘じゃからのう……まぁ、それ故に要求されるパイロットのスペックもバカ高い。現状で動かせるのはお主の様なランクS級冒険者の中でも更に上の上澄みぐらいじゃろうて」


 何度も言われているが、現状では重特機は完成していない。完全に技術的な実験機だ。故に量産体制も整っていなければ、技術的な粗さは各所に見て取れた。

 それでもある程度の形になっているのはひとえにどこかの異文明の遺産と魔導機の技術蓄積。さらには地球での科学的な情報という三つがあればこそだった。これもまた、ティナでなければ開発出来なかったと言って過言ではなかった。


「オレはランクEXだがねぇ……とはいえ、このバカでかい出力を使えば<<氷結結界>>は十分に突破可能……だろう?」

「間違いなくのう。理論上、重特機の一発はランクS冒険者のそれに匹敵する……使えるのがランクS以上という時点で当然なんじゃが」


 それを言ってしまえば元も子もない。そんな発言をしたティナ自身が少しだけ苦笑気味に笑う。これに、カイトは楽しげに笑った。


「ま、そうだわな……とはいえ、更に魔導書の増幅器として使用すれば威力は更にドンッ」

「『神の書』級の魔導書持っててしかも使えて体術まで可能な戦士なんてマスター以外居ないと思うんですけどねー」

「余も、体術メインではないからのう……いや、それはどうでも良い。兎にも角にも、後はお主が一発ぶち抜いて来い」


 アイギスの言葉に同意したティナが首を振って、後はもう実際に戦うしかない事を明言する。これにカイトも応じた。


「あいよ……にしても、アイギスにホタル両方駆り出すとか」

「半ば偽装もある。お主の専用機も偽装の一環として中央に接続しておるしのう」

「とりあえず、オレはテスト時と同じく魔導機を扱う感覚で戦えば良いだけだな?」

「それで良い。アイギスの役目はいつも通りお主のサポート。ホタルの役目は魔導機を介して送られる信号の変換と逆に送り返される信号のお主へのフィードバック。どちらも戦闘は出来ん」

「りょーかい」


 この重特機は本来はカイトとアイギスだけでの運用――最終的にはパイロット単独での運用――を目指しているが、如何せん実験機だ。有り合わせを利用している所は多い。

 故にホタルまで駆り出さねば満足に使えないのであった。とはいえ、逆に言えばそれだけあれば使えるという事でもある。というわけでカイトはアイギスと共にマクダウェル家の旗艦を降りて、重特機が封印されているクリスタルの前に移動する。


「ホタル……調子はどうだ?」

『問題ありません。何時でも行けます』

「オーライ……じゃあ、やりますか。アイギス、良いな?」

「イエス」

「オーライ……じゃあ、やるか」


 アイギスの返答を受けて、カイトも自らに言い聞かせる様にして意思を固める。そうして、二人はクリスタルの一部を開封して封印の内側に入った。


「……やっぱデカいなー……」

「イエス。通常の魔導機の約七倍ですから」

「あー……確か魔導機が30メートル前後だっけ」

「イエス。その約五倍なのでおよそ200メートルですね」

「ガチで戦艦級のデカさだな……」


 それを個人で動かそうというのだから、パイロットに掛かる負担はとんでもない事になるだろう。謂わば戦艦を一人で動かすような物なのだ。当然である。カイトは改めて重特機を見ながら、そう思う。


「まぁ良い。とりあえず……コクピットどこだ?」

「コクピットはマスター専用の魔導機と共有していますので、魔導機を探すのが早いかと」

「それも一苦労だな……」


 当然だが魔導機が中に格納されているのであれば、そこを狙えば良いというのは割りと察しやすい。なので魔導機はそれとわからない様にきちんと覆われていて、慣れない現状ではカイトも頑張って探すしかなかった。が、そもそもそれはテストぐらいしか関わっていない彼だからで、常に関わっていたホタルはわかっていた。


「イエス……ですがぶっちゃけちゃえば胴体にあるのでそこで、という感じですね」

「あ、そうか……じゃ、行くか」

「イエス」


 カイトと共に、アイギスが飛空術を展開。二人はおよそ50メートル近く飛翔して、魔導機に繋がるハッチから中に入って更に魔導機のコクピットへと移動する。

 そうして出迎えたのは、言うまでもなくホタルである。彼女は魔導機のコクピットに臨時で設けられたメンテナンスカプセルに似たベッド型の装置に横たわり、調整に全性能を傾けられる様に待機していた。


「マスター。アイギスも」

「ふぅ……おう。待たせたな」

「いえ……寝ていただけですので」

「そうか……調子は? 重特機じゃなく、お前のな」

「問題ありません」


 カイトの問いかけにホタルははっきりと頷いた。そんな彼女が横たわるベッドの横を通り、カイトはいつもの様に自分が立つべき場所に立つ。そしてそれと同時にアイギスもまた何時もの自分のコパイロット用の座席に腰掛ける。


「コントロールシステムリンク開始。マスター」

「あいよ」


 ぶぅん、という音と共に周囲に映像が浮かび上がる。と言ってもクリスタルに覆われた状態なので、薄暗い光景が浮かんでいるだけだ。と言っても、これで完了というわけではない。今回は重特機。通常の魔導機ではないのだ。故にアイギスが即座に起動の準備に取り掛かる。


「……一番から五番魔導炉の出力安定。マスター。右腕から順番に連動の確認をお願いします」

「了解……」


 ぐっぐっ。カイトはアイギスの指示に従って、右腕。左腕。右足。左足の順番で動作のテストを行う。と言っても封印の中。動いたのは僅かで、連動していると確認するためだけだ。


「各部連動問題無し……ホタル。そちらは?」

「問題ありません。全システム正常に動作中。エラー無し。変換のラグ、許容範囲内」

「マスター、最終チェック完了。誤差許容範囲内。後はこちらで全て調整します」

「頼む……よし。魔導書セット」


 カイトは今回の重特機との接続に合わせて臨時で設けられた左右の台座に、二つの魔導書を設置する。


「魔導書セット確認……リンク」

『リンクよし……こんなもの、私達が神を呼べば終わる話だと思うんだがな』

『でも楽』

『それは認める……が、面倒には変わりない』


 アル・アジフとナコトの二人がカイトにサポートする様に重特機のサポートが出来る様にシステムをリンクさせる。そんな二人に、カイトが告げる。


「そう言うな……こいつが本格的に生産出来る様になれば、最終的には楽になる」

『何十年後の話だ』

「百年単位とかそれ以上でないだけマシと思ってくれ」


 アル・アジフの言葉にカイトが笑った。そうして二人が問題無い事を確認。カイトはホタルへと視線を向けた。


「ホタル……二人の問題も無い。ティナに繋いでくれ」

「了解」


 これで全ての支度が整った。カイトは調整の完了を受けてティナへと連絡を取って、後は開幕の合図を待つだけとなるのだった。




 カイト達が重特機の最終チェックを行っていた頃。二日目の劣勢から如何にして攻略側が盛り返すのか、と各国の大使や高位高官達の注目の的となっていたのであるがそんな彼らが目の当たりにしたのはソラ達と同じく超巨大なクリスタルだ。


「な……なんだ、あれは」

「陛下……何かご存知ですか?」

「さてな」


 とある国の大使に問われて、皇帝レオンハルトは楽しげに笑う。今回、基本的には彼にはどういう秘策を用いて良いかというお伺いを立てている。なので彼は重特機を聞いていた。

 が、同時に実際に目の当たりにした驚きが無いわけでもなかった。そして同じ様に話は聞いていた軍の大将の一人が、彼へとどこか興味深い様子で問いかける。


「陛下……実際に陛下は動くと思いますか?」

「ふむ……動いてくれねば困るな。皇国でも空の果てで起きていた戦いは観測されていた。あれと戦うとなると、絶対に必須だ」

「問題は如何にパイロットを養成するかですが……」


 当たり前だが重特機は超巨大な軍事兵器だ。なので皇国上層部にはきちんと話を通していた。無論、向こうもまさか本気でやるとは思っていなかった所は多く、疑いの目は多かった。そして皇帝レオンハルト自身も半信半疑だった。


「では、お手並拝見と行くか」


 時計を見て時間である事を理解して、皇帝レオンハルトは口を開く。そうして、合同軍事演習三日目がスタートする事になるのだった。

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