第2703話 合同演習編 ――三日目・開始前――
皇帝レオンハルト主導で各国の大使達を招いて行われていた三日間に渡る合同演習二日目。そこで攻略側は当初押した展開を演じていたものの、防衛側の秘策となる<<太陽レンズ>>と<<氷結結界>>の二つの展開により手酷い被害を負う事になる。
そんな二日目の結果としてはおおよそ攻略側陣営の惜敗。ないしは<<氷結結界>>展開に手間取った事によって負った被害等を鑑みて、やや攻略側劣勢の痛み分けで完結する。
というわけで、二日目を終えて夜会に参加していたカイトは夜会の終了後。シャーナを飛空艇にまで護衛すると共に自身は外に出てソラ達との間で連絡を取っていた。
『てな具合かなぁ……割と向こうがこっちの事情を知ってるのが驚いた』
「それはおそらくライサさんが流してたんだろうさ。存外、コネクションってのは重要だ。無論、そこからどれが有益かを見抜く目も必要だけどな」
『そりゃ、わかってるけどさ……それにしたって知られすぎかな、って思う次第よ』
カイトの指摘に対して、ソラは少しだけ辟易とした様子を見せる。そんな彼であるが、疲れているからか逆に思考は冴え渡っていたらしい。
『てか、多分俺に接触してるのの何割かはお前目当てだろ』
「それは否定はせんよ。最初から言ってもいたろ?」
『まぁ、そうだけどさ』
やはりソラはサブマスターである以上、その上にはギルドマスターがいる。そしてそのギルドマスターは芸術関連に明るいというのだ。縁を求めてソラから突き崩そう、と思っている者はやはり少なくなかったようだ。
「あはは……でもおかげで気は楽は楽だろう? 自分目当てじゃない、ってわかりゃ対応もそれ相応で良い」
『出来ねぇよ』
「変な所で真面目だなぁ……」
『お前は変な所で不真面目なんだよ……』
「どっちかってと慣れだ慣れ。真面目にやってたら精神が保たんぞ」
『かなぁ……』
カイトに言われて、ソラも自分が真面目に対応し過ぎているのかもしれないと思ったらしい。少しだけため息を吐いていた。
「ま、そこらは追々慣れていけ。ギルドを運営してるなら、どうしてもこういうパーティには参加しないといけないからな」
『はぁ……今更だけど、なんでこーなってんだろ。パーティとか嫌だったんだけどなぁ……』
「さぁな」
今更ながら自分が指導者的立場に立っている事に疑問を抱くソラに、カイトは笑う。とはいえ、そんな話はどうでも良いし、何よりそこまで無駄話をしていて良いわけでもない。
「まぁ、それは良いだろう。とりあえず明日の話だ」
『おう……とりあえず明日は<<暁>>に協力すれば良いんだな?』
「まぁ、お前というか先輩だけどな。お前には<<太陽レンズ>>への対抗策になってもらう必要がある」
『あれなぁ……ノーダメだから良いんだけど、肝冷えるんだよなぁ』
カイトの言葉にソラは深くため息を吐いた。<<太陽レンズ>>はやはりあれだけ派手な攻撃なのだ。現在のソラの立場上無傷で対応出来るは出来るのだが、本来はそんな事は決して出来ないような威力だ。どうしても無意識的には対応出来るのかと心配になってしまうようだ。
「まぁ、それはしゃーない。が、諦めてくれ。あれを攻略側で無傷で対応出来るのは、オレかお前ぐらいだ……一応、シャルも居るけどシャルはシャムロック殿が出ない限り出せないからな」
『わかってるよ……そういえばシャムロックさんは今の所出てこられてないけど、明日はどうされるんだろ』
「明日は流石に出てくる。シャルもその予定だ……まぁ、姿を見せる程度だけどな」
『……なぁ』
「安心しろ。流石にこんな場だ。遊ばれる事はあるだろうが、お前が不安視するような事はならんよ」
もしかしてまた俺にちょっかい出されないか。そんな心配を滲ませるソラに、カイトは少し笑いながら大丈夫だと口にする。これに、ソラはほっと胸をなでおろした。
『そか。それなら良いんだ』
「あはは……ま、彼にせよ神使達にせよ、どうしてもあまり大っぴらに力は見せられない方々だ。敵襲も近い今、そこまで手札は見せられん」
『そうだろうとは思ったけど……わかんないからさ』
「そうだな……ああ、そうだ。やってお前も思ったろうが、基本彼らは飛ぶ。飛空術はこれから必須技術だと思った方が良いぞ」
『あ、それは思った……ちょっと集中的に訓練した方が良いのかなぁ……』
今回、サンバスと話していてソラも飛空術は必須だと思ったらしい。これに、カイトは頷いた。
「ああ……飛空術の利点は戦闘時もそうだが、何より戦場で障害物やらを無視して移動出来る事が大きい。それを考えれば、味方の救援やらなんやらにも有用だ。無論、敵が居る場所に急行する、ってのにもな」
『だよなぁ……』
今回、サンバス達が即座に自分の所に来れたのは走るより遥かに速い飛空術を使ったからと言っても過言ではない。なのでソラも飛空術の有用性を改めて理解して、真面目に取り組もうと思ったようだ。というわけで、この後は明日からの事や飛空術に関する話等を行う事になるのだった。
さて翌日の朝。合同軍事演習の最終日だ。この日もこの日で前日に夜会に出席した面々は情報の漏洩等が無い様にエンテシア砦近郊のホテルに宿泊させられたわけで、朝一番で演習場に戻っていた。戻っていたのだが、そんな彼らを含め全員が唖然となっていた。
「……え、何あれ。え、ちょっと待って。マジで何あれ」
唖然となったソラが見ていたのは、攻略側陣営に現れた巨大なクリスタルだ。その巨大さは横にある戦艦クラスの飛空艇をも上回っていたほどで、彼だけではなく明け方になりその存在に気付いた――夜間は移送の兼ね合いもあって魔術で隠されていた――攻略側、防衛側の者たちも揃って呆気にとられていた。
「え、カイト……マジであれ何?」
「あれ何、って言われても……攻略側に置いてある時点で攻略側の何かしらの武器だろ」
「え、いや……デカくね?」
なにせ横の飛空艇がおもちゃに見えるほどの巨大さだ。ソラがそう思うのも無理はない。そしてデカいかそうでないか、と言われればカイトも素直に認めるしかない。
「うん、まぁ……そうだな。デカいな」
「いや……何なんだ、あれ。マジで。ラエリア内紛の時のデカい魔導砲ぐらい無いか? いや、縦幅ってか横幅ってか……奥行き? そんなのは全然無いけどさ……」
「あれはもう少し小さかった気もしないでもないが……」
困惑気味なソラ同様、瞬もまた少し困惑気味に巨大なクリスタルを見ていた。残念ながらクリスタルは透明ではなく、中に何が入っているかはわからない。というより、何に何かがあるのかもわからなかった。
「まぁ……そうだな。別に隠す意味もあまり無いから教えておくと、あれは封印だ」
「「封印?」」
カイトの言葉にソラと瞬が小首を傾げる。とはいえ、封印と言われては良い印象はなかったらしい。ソラは意味を理解して顔を顰める。
「封印ってことは……何かヤバい物が中入ってるのか? しかもあれだけ巨大と相当ヤバそうな……」
「ああ、いや……危険性は一切無い。そりゃ、兵器の類になるから危険じゃないか、と言われりゃそうじゃないけどさ」
「だが……封印しているんだろう?」
カイトのどう言ったものか、というような様子に対して、瞬が尤もな指摘を行う。これにカイトは封印の理由を語ってくれた。
「まぁな……ただまぁ……これは封印したくてしたわけじゃなくて、封印しておくのが一番良いだろう、って話になったからなんだ」
「どういう事だ?」
「あの中に入ってるの、ちょっとでかすぎてさ。輸送方法まーったく考えてなかったんだ、ウチのバカ」
「「はい?」」
どこか呆れる様に、カイトは輸送方法を全く考えていなかったらしいティナを笑う。
「まぁ、まだまだ試験的な技術で作られてるものだからしょうがないんだが……あれだけのデカさだ。輸送も一苦労でな。その輸送出来る技術がまだ無いんだ」
「もしかして最初から参加してなかったのって……」
「輸送技術がなかったから、陛下に伝えたらそれなら最初からの参加は駄目って言われた。で、陛下やイリアと話して二日目の夜に到着する形で決着。昨日の夜、夜闇に紛れ込む形で輸送させたわけ」
ソラの言葉にカイトは今回の演習での裏を語る。なお、後の彼やレヴィ曰くもし最初から参戦していた場合、防衛側はバルフレアらが本気で出ない限りは初日の間に敗戦が確定していただろうとの事であった。まぁ、皇帝レオンハルトもそれを危惧し、最低限防衛側の<<氷結結界>>の展開が行われてからにした方が良いと判断したのであった。
「何なんだ、あれ」
「それは見てのお楽しみ」
瞬の問いかけに、カイトは楽しそうに笑う。せっかくの今回の演習の目玉の一つだ。ここで明かしてしまうのはもったいなかった。というわけで、彼の様子から語られる事はないだろうと察したソラが別の切り口で問いかけた。
「でもなんで封印なんだ?」
「それか……さっきも言ったけど、あいつはデカすぎて輸送技術がまだ無いんだ。輸送用のカプセルやら格納庫やらがな……そしてあれだけのデカさだから、空母型にも乗り切らない」
「下手すると縦幅は空母型よりデカいもんな……」
ソラは改めて今回カイト達が持ってきたらしいクリスタルを見る。あのクリスタルがどうなっているかは未だわからないが、直径100メートルはありそうな巨大な球体だ。魔導機を格納するために通常の飛空艇より縦長のシルエットを持つ空母型の縦幅よりも大きく、確実に格納できそうにはなかった。
「そ……だから輸送用の飛空艇に架橋させて持ってこさせる事になったんだが、あれだけの大きさの物体を覆うとなると、必要になる物資は馬鹿にならん。無論、道中で敵襲に遭った場合も考えれば最悪は使い捨ての格納庫になっちまう……ひようが馬鹿にならん。結果、封印が一番安上がりとなったんだ」
「安上がりで封印が選ばれるって……」
どんな世界だよ。ソラはカイトの語る言葉に盛大に顔を顰めた。
「ま、その結果中は見られない様になったし、封印だから金属とかで出来た格納庫より強度も高い。魔力の消費が激しいから、輸送用の飛空艇が無防備になっちまうのが難点だが……」
「今回はそれを考えなくて良かった、と」
「ああ。補給線の分断は出来ないものとなっているからな」
瞬の指摘に対してカイトは頷いた。と、そんな事を話しているとあっという間に飛空艇はエンテシア砦郊外に設けられた演習場に到着する。というわけで、別に分かれていたルーファウスらとも合流。動きの最終確認に入っていた。
「よし……先輩。先輩は先に話した通り、冒険部としてピュリさんに合流して<<暁>>幹部と共にバーンタインの支援。詳しい動きはリィルから確認。ソラはアル、ルーファウスらと別働隊として動ける様にしてくれ」
「おう」
「ああ」
カイトの指示にアル以下三人が揃って頷いた。今回、ソラは別で動かねばならないが彼が<<太陽レンズ>>に対する切り札である事はすでに防衛側でもわかっているだろう。
なのでアル達が護衛を兼ねて動くのだ。ただし、先に言われていた通りリィルらバーンシュタット家の面子はバーンタインの支援があるためそちらで、ソラの支援に動くのはアル達だけだった。と、そんな話を聞いたアリスがふと問いかける。
「……そういえばカイトさんはどうされるんですか?」
「オレはオレで別に動く事になっている。まぁ、今回は最初の間は冒険部として動ける事が殆ど無いからな。オレは個別に動いて戦った方が良いという判断になった。状況に応じてそっちに合流する事もあるだろう」
「なるほど……」
確かにカイトほどの戦力を遊ばせる意味は殆ど無いだろう。そして話を聞く限り、バーンタインの援護は瞬や他の冒険部の面々だけで十分との事だ。そこに指揮が必要ないというのであれば、確かに待機させるよりカイトに限っては戦闘させた方が良い様に思えた。というわけで、アリスの納得を受けてカイトが話を締める。
「よし……じゃあ、各自それに向けて支度を。一応、オレも連絡は取れる様にしている。必要に応じて報連相は忘れずにな」
「「「はい」」」
カイトの号令に、全員が応諾を示す。そうして、一同はそれぞれが向かうべき場所へと向かう事になるのだった。
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