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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2698話 合同演習編 ――撤退戦――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習二日目。昼も過ぎた頃合いに防衛側から繰り出された<<氷結結界>>により攻略側地上部隊が軒並み撤退不可の状況に追い込まれるという状況が発生する。それを受けて攻略側はアウラを囮としてエドナによる簡易の『転移門(ゲート)』作成による退路の確保を試みる。

 その一方、内部ではバルフレア率いる<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>により左陣。レクトール率いる<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>により右陣を攻め立てられる事となっていた。というわけで、右陣側のレクトールと交戦する事になった瞬はピュリ、ルーファウスと共に戦闘を開始。ピュリが大ダメージを負いながらも、エドナによる退路の確保までなんとか凌ぎ切っていた。


「……どうする、レクト?」

「答えは決まっている」


 <<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>の団員の一人の問いかけに対して、鎧を全損させながらも大したダメージは負っていないレクトールが笑う。そんな彼に、また別の一人が笑いかけた。


「だがお前がそこまで手傷を食らうのも初めて見たな」

「俺もまだまだだ」

「八大の大幹部……ピュリ・バーンシュタット相手にワンサイドゲームやってまだまだって言えるお前が凄いよ」


 八大ギルドの一つ<<暁>>の最高幹部にして、バーンタイン・バーンシュタットの娘。そして<<暁>>が支部の中でも最重要としている神殿都市支部の支部長を相手に、一歩も引かないどころか圧勝してみせたのだ。鎧の全損程度で済んだのは正直あり得ざる結末だった。


「総員……追撃用意」

「「「おう」」」


 鎧は全損しているが、ギルドマスターとして立つ以上グリムの演技をする必要があるだろう。レクトールはそう判断すると、いつもの威圧的な口調で団員達に号令を下す。そして勿論、追撃の判断を下したのは彼だけではない。全周囲を包囲していた防衛側地上部隊が一斉に攻撃を開始する。


『レクトール。聞いているな』

「なんだ」

『一気に攻め込め。幸い貴様が相手をしていた奴らは尻尾を巻いて逃げ出している。貴様らが起点となれ』

「了解だ」


 レヴィの直接の指示に、レクトールは即座に承諾する。そうして彼が団員を率いて、なんとか撤退出来るまでの殿を務めている重装備の攻略側地上部隊の戦士たちの隊列へと切り込んだ。


「……」

「っ、報告にあった<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>か! 奴も手負いだ! 鎧も無い! 今ならまだ勝機はある!」

「こいつらを絶対に通すな! 通せば被害が馬鹿にならん!」


 敢えて死神の印象を印象付ける様に、レクトールは過日同様に悠然と歩いて行く。そんな彼の前に、何人もの冒険者達が立ちふさがる。


「待て!」

「俺たちが相手になる!」


 おそらく俺を止められるとは思っていない。レクトールは相手の覇気だけでそれを理解する。実際、立ちふさがった冒険者達はランクCが大半。良くてもランクBだ。勝ち目なぞ万が一にも存在していなかった。故に、彼は先手必勝と振るわれる数々の武器の一切を無視する事にした。


「「「はぁ!」」」

「……」


 直撃した。周囲の冒険者達はレクトールの身体に突き刺さる無数の武器を、その身を引き裂く無数の斬撃を見る。が、直後。彼らはレクトールが一切消える様子が無い事を理解する。


「なに!?」

「直撃だぞ!? なぜだ!?」

『「……刈り取らせて貰う」』

「「「っ」」」


 ぞわり。立ちふさがった戦士達は揃って底冷えするようなレクトールの声――死神を思わせる衣装が無いので代わりにエコーを掛けた――に、身を震え上がらせる。そして、次の瞬間。目にも留まらぬ速さで大剣が振り抜かれ、彼に直接攻撃を仕掛けていた戦士達が一斉に消滅する。


「……」

「ちぃ! 戦線を押し下げろ! 近付けば奴の間合いだ!」

「なるべく遠巻きに射掛け、近寄らせるな!」

「っ! 矢も魔術も駄目なのか!?」


 攻略側地上部隊の戦士達の困惑の声が響き渡る。まぁ、彼らからしてみればレクトールの攻撃が通用しない力は初めて見るものなのだ。

 そして喩え知っていても、レクトールの実力差がある限り攻撃を当てにいけるのは非常に難しい。ただ一方的に刈り取られるだけ。そしてそんな様子を見て周囲は更に勝ち目を自ら放棄し、尚更当たらなくなる。その悪循環だった。


「っ……流石にあれはヤバいな……」


 死神を思わせるがためにゆっくりとこちらへと接近してくるレクトールを遠目に見て、ソラが顔を顰める。遠目に見ても彼のランクがSである事は明白だ。何より彼とて一撃で両腕を折られた事を忘れてはいなかった。故に、彼は上空のカイトへと即座に連絡を入れる。


「カイト! あの大剣使ってるの、なんとかならないか!? あのままじゃ撤退前に全滅しちまう!」

「あー! あれか! あれは前に戦ったグリムだ!」

「げぇ!?」


 マジかよ。ソラはそれなら納得と思いながら、同時に大いに泡を食う。


「てか、それなら尚更なんとかしてくれ! あんなのに攻め込まれたら撤退前に全滅しちまう!」

「すでに対応済みだ! 後はこっちに任せろ!」

「マジか!? さっすが!」


 どうやらカイトはレクトール(グリム)が来ている事を知っていたらしい。対応をすでに終えている、という言葉にソラが喜色を浮かべる。


『対応って?』

「こ・い・つ」


 エドナの問いかけに、カイトは楽しげに一本の旗を編み出す。そうして、彼は通信機を介して助っ人に向けて連絡を取った。


「セレス……準備は良いな?」

『はい。皆、準備は整っています』

「おし……じゃあ、やるか!」


 くるくるくる。カイトはエドナの上に跨がりながら、旗を回して見得を切る。そうして、レクトールの眼前に向けて槍を放り投げて突き立てる。


「っ!」


 ざしゅっ。そんな音と共に突き刺さった旗を、レクトールは見誤る事がなかった。当たり前だ。彼の祖先達が誇りとした旗だ。軍旗なので様々な種類があるが、その全てを彼は頭に叩き込んでいた。そしてここで突き立てられた旗が何か、彼はわかっていた。


「集合の旗か!? であれば……っ! 総員、隊列を組め! 腕利きが転移してくる!」

「「「っ」」」


 やはり傭兵というだけの事はあり、<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>の団員達は戦闘こそが専門分野だ。故にレクトールの言葉を聞くや否や、全員が一斉に旗から距離を取ってレクトールを先陣として隊列を組む。そして、直後だ。旗の真横にエドナが舞い降りた。


「これが何か、わかっているみたいだな?」

「っ……やはり貴殿か」

「おう……じゃあ、この後の展開もわかるよな?」

「……」


 わからないわけがない。そして自分が彼とてそうしただろう。レクトールはこの旗をわかっていればこそ、大剣を握る力を強くする。そしてカイトが旗の柄を強く握りしめると、旗が強く光り輝いた。


「ふぅ……兄さん、久方ぶりです」

「セレス……それにイミナに……っ、神殿騎士達か」


 これは面倒な奴らが来た。わかっていた事だが。レクトールは自身が本来率いていた騎士団の主力にも匹敵するセレスティアの近衛の騎士達に顔を顰める。

 その実力は誰よりも、カイトよりも彼自身が理解している。味方であれば頼もしい事この上ないが、敵に回せば厄介この上なかった。そして勿論、それだけではなかった。


「よいしょっと……エドナ。すぐに移動はするから、踏み出せる用意だけはしておいてくれ」

『ええ』


 旗を抜いたカイトの要請を受け、エドナは何時でも飛び立てる様に魔力を充足させていく。それを受けて、カイトは楽しげに笑いながら問いかける。


「こんなもんでどうだ? もっと欲しいなら、ルーとアルも呼んでやるが。なんだったら、オレも加わるか?」

「それだけは御免被りたい」


 正直な話、この上でカイトまで攻め込まれればまず自分も無事では済まない。レクトールはカイトを相手にはしたくないというのが素直な気持ちだった。

 とはいえ、カイトの方も更に後ろから攻め立てる防衛側地上部隊や航空兵力を迎撃する必要があったので、レクトール達に構っていられるわけでもなかった。それはさておき。カイトは相手にしたくない、という感情が見て取れるレクトールに、セレスティアが笑う。


「まぁ、兄さん……まるで私なら余裕で勝てると思っている風ですね」

「勝率は俺の方が遥かに高かったはずだ」

「この一年、各地を回って訓練していましたから。記憶喪失になっていた兄さんとの差、少しは縮められたかと」

「俺も訓練しなかったわけではない」


 ざんっざんっ。レクトールとセレスティアは笑い合いながら、大剣を地面に突き立てて同じような姿勢で立つ。そんなレクトールに、<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>の団員が問いかけた。


「お前の知り合いか?」

「前に語った俺の妹だ」

「あんなかわいい子だったのか……」

「マジかよ。似てねぇんだな」

「血はあまり繋がっていない。縁戚という所か。義理の妹のようなものだ」

「道理で……」


 やはり<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>も一皮剥けば冒険者集団なのだろう。腕利きの傭兵団ではあったが、どこか普通の冒険者集団のような掛け合いが見受けられた。


「ギルドマスター権限で悪いが、あいつは譲って貰う。調子に乗った妹に現実を突きつけてやりたくてな」

「あいよ、団長」

「オーライ……あっちのお姉さん方も強そうだしな」


 やはり戦いを専門としていればこそだろう。誰も彼もが血の気は多かったし、相手の強さを見定める力も十分持っていたようだ。イミナ達が決して油断して良い相手とは思わなかったようだ。数では勝るが、逆に数で勝らねば勝てないレベルの相手。彼らは揃ってそう判断した。そうして交戦の意思を固めた一方で、団員の一人がレクトールに問いかける。


「で、あいつ(カイト)はどうするんだ?」

「あの方は……放置しろ。彼の厄介さ加減は前に組んだ時に嫌というほどわかったはずだ。後ろの連中に対処させろ」


 それしかないよな。流石に<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>の団員達もイミナ達を相手にしながら大軍の掃討が可能なカイトまで相手にはしたくなかったらしい。軒並みカイトを敵として指定しなかった。そんな様子に、カイトが肩を竦める。


「オーライ。まぁ、ご指名してくれれば何時でも戦ってやるよ」

「指名禁止を厳命しておこう……指名料が安くなさそうなのでな」

「ふふ」


 相当にカイトと戦う事だけは嫌らしい。そんな様子が見て取れるレクトールにセレスティアが笑う。


「ま、後はお好きに……セレス。間違ってもここで離脱はやめてくれよ。これ以上の被害はこっちも御免被る」

「はい……撤退は」

「問題無い。問題なかったろ?」

「はい」


 旗を地面から抜いたカイトに、セレスティアは一つ頷いた。来る時もこの旗を使った以上、帰りもこの旗を使うつもりだった。カイトも久しぶりにやるのでかなり不安はあったのだが、上手くいったからか少し上機嫌だった。


「よし……じゃあ、エドナ」

『ええ……振り落とされないで』

「あいよ」


 エドナの言葉に応ずる様に、カイトはしっかりと手綱を握りしめる。そうして彼が自身にしっかりとしがみついたのを受けて、エドナは一瞬で天高くまで舞い上がった。


「さて……」

「久方ぶりですね、こうやって相対するのも」

「大体……主観的には二年ほどぶりか」

「もう少し前かもしれませんが……」


 異世界から飛ばされて一年間と少しの間合流出来ていなかったのだ。その間は勿論模擬戦なぞ出来ていなかった。だからか両者共に久しぶりの模擬戦とあってかなり楽しみに感じている様子があった。


「では……」

「始めよう」


 両者同時に大剣を地面から抜き放ち、セレスティアは僅かに切っ先を下げた形で。レクトールは騎士がするに似たポーズで大剣を構える。そうして、両者同時に地面を蹴るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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