第2697話 合同演習編 ――リベンジ――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習二日目。正午前までは初日同様に威力偵察を攻略側が繰り返す展開になったものの、防衛側がシャムロックの秘宝の一つである<<太陽レンズ>>を用いた攻撃を刊行した事により事態は急変。
その攻撃が対処可能であると判断した事で更に攻め込むスピードを上げた攻略側に対して、防衛側はそれさえ読んで<<氷結結界>>という分厚い氷のドームを作り出して攻略側の前線を分断。取り残された戦士達を掃討しようと一斉に攻撃を開始する。
そんな中で他同様に前線に出ていた事で巻き込まれた瞬は、同じ結界内に居ソラや<<暁>>の幹部達との間で連携を取って外のカイト達による救援を待つ事になっていた。
「ふぅ……」
レクトールと相対しながら、瞬は深く息を吐く。冒険者でも高位の戦闘力の持ち主三人が挑んで、これだ。正直勝ち目は相当低い状況だった。と、その一方。ドクロの仮面の下部分が動いて、レクトールの口が露わになる。
「はぁ……心地よいな」
「ひ、開くのか……」
「ある方に言われてな……話しにくくないか、と。拵えは同じだがこうやって呼吸をしやすく出来るような物を下さったのだ」
「……そうか」
どうやらいつものドクロの仮面に思えたドクロの仮面は新造されていたらしい。後のレクトール曰く、このおかげで随分と動きやすくなったと嬉しそうだった。そうして彼は左手の闇色の大太刀を消して再び大剣一つに戻る。
「はぁ……」
レクトールは心地よさげに息を吐く。そして、それと同時。今まで課せられていた枷が外されたかの様に、彼の圧力が激増する。
「「「ぐっ!」」」
間違いなくバーンタイン級の猛者。相対する三人はそれを察する。そうして身体を固くする三人に対して、レクトールはかつて彼の祖先が戦いの際にそうした様に騎士がそうする様に大剣を構える。
「レジディア流剣術……<<ディストーション・スラッシュ>>」
「「「!?」」」
大剣を下ろしてこちらに襲いかかろうとしたと同時に三体に分裂したレクトールに、三人は思わず身を固くする。そして三体同時に大剣を振りかぶり、衝撃が訪れたのはピュリただ一人だった。
「「!」」
偽物か。瞬もルーファウスもピュリの方から聞こえた轟音と、自分達を突き抜けた大剣にそれを理解する。が、それこそがこの技の妙だった。
「「ぐぅ!?」」
二人がピュリの支援に入ろうとしたとほぼ同時。この攻撃が外れだと思えばこそ意識がそちらから外れた瞬間だ。二人がピュリの支援に入るべく姿勢を変えたのを見計らったかの様に、二人を横合いから衝撃が襲いかかってピュリとは全く別の方向――勿論二人も別々の方向――へと吹き飛ばされる。そうして増援の芽を叩き潰したのを尻目に、レクトール当人はピュリへと追撃を仕掛けた。
「マクダウェル流剣術……」
「っ」
それならおおよそはわかるはずだ。ピュリはバーンシュタット家にして神殿都市支部の支部長だからこそ、マクダウェル流の大剣技に何があるかを見定める事にする。が、それこそが彼女の致命的なミスだった。
「!?」
何だ、その技は。引きずるような姿勢から放たれる袈裟懸けの一撃に、ピュリは大きく目を見開く。確かにカイト達の開発したマクダウェル流の大剣技の中にはこの姿勢から放たれる袈裟懸けに剣戟を放つ物はある。が、レクトールの放つ一撃は彼女の見た事のない溢れ出るような桜色の輝きを宿しており、そのどれにも属していないものだった。
「っ、<<炎盾>>!」
ピュリの無事な右手の腕に、バックラーの様に小型の炎が収束する。そうして桜色の輝きを宿す大剣と炎のバックラーが激突する直前。溢れ出ていた桜色の輝きが増大。まるで枝垂れ桜が枝を垂らす様に、無数の桜色の斬撃が追従した。
「<<枝垂れ桜>>」
「がぁ!」
叩き込まれる連続の斬撃に、ピュリが苦悶の表情を浮かべる。そうして初撃の大剣の一撃で腕を大きく押し込まれた後。降り注ぐような細かな桜色の斬撃により、彼女の身体の全身に細かな傷が刻まれていく。
「ぐっ……<<暴炎郷>>!」
「む!」
ピュリの足元から迸った巨大な炎を見て、レクトールは最後の一押しと一気に力を込める前にその場を離脱する。そして、彼の判断は正解だった。直後、ピュリを中心として巨大な爆発が起きる。
「ふんっ!」
迫りくる爆炎に対して、レクトールは大剣を一薙ぎ。意図も簡単に炎を切り捨てる。そうして彼は地面に着地すると、肩で息をするピュリ目掛けて再度距離を詰めんとした。
「させん! ルーファウス!」
「任された!」
<<雷炎武>>を起動して持ち前の速度でレクトールの眼前に立った瞬がレクトールを僅かに押し戻す。そしてそれに合わせる様に、押し出された先にルーファウスがタックルを仕掛けて更に押し出した。
「おぉ!」
「っ……だが」
動かせたのはごくわずか。故に数歩で距離を詰められると判断したレクトールはルーファウスへと視線を向けて大剣を構える。そうして宿る新緑色の輝きに、ルーファウスは息を呑んだ。
「マクダウェル流剣術……」
「エルヴィン流剣術」
ルーファウスが目を見開いたのは決して驚きではない。この剣技を見知っていればこそだ。故に彼は記憶の奥底。魂に眠る記憶に突き動かされる様に、即座にレクトールと同じ構えを取っていた。そうして、大剣と片手剣という差異こそあれど全く同じ構えを取った両者が、同時にその技の名を告げた。
「「<<風神一閃>>」」
両者同時に、全身で突き出すような形で刃を突き出す。そうして激突した二つの剣が纏う風同士の衝突により弾かれた。そんな一幕に驚きを浮かべたのは、レクトールの方だ。
「何!?」
「……」
ここからどうすれば良いか。先にそれを理解したのは、ルーファウスの方だ。当たり前だ。彼の魂はこの流れを兄弟で何千回と繰り返したのだ。故に彼がルーファウスの背後へと即座に回り込む。
「! っ、<<セイクリッド・サークル>>!」
「っぅ! 駄目か!」
後ろに回った大剣を軸にして生み出される円形の盾に弾かれて、ルーファウスが顔を顰める。が、レクトールの頭上から今度は瞬が強襲する。
「おぉおおおおお!」
「っ! ちっ!」
だんっ。両手で大剣の柄を掴むと、レクトールは地面へと強く切っ先を突き立てる。これに、瞬は更に強く総身に力を漲らせる。
「おぉおおおお!」
「ちっ!」
流石に苦し紛れで使った防御では防ぎきれんか。レクトールは自身の劣勢を理解する。故に彼は大剣から手を離すと、右の拳を引いた。
「!?」
「レジディア流拳術……<<セイクリッド・ロアー>>!」
その瞬間。瞬はレクトールの拳に純白の獅子が宿るのを目にした。そうして、直後。獅子が吠える様に大きく口を開き、瞬へと襲いかかった。
「っぅ!」
「瞬殿! 獅子から視線を外すな!」
「っ!」
言われなければ。瞬は獅子に弾き飛ばされ姿勢を整えると同時に、レクトールに向けようとしていた視線を上げて天高く飛んだはずの獅子を見る。
「っ! はぁ!」
虚空に爪を立てて急旋回していた獅子に向け、瞬はレクトール目掛けて投げつけようとしていた槍をそちらに投げ放つ。だが、瞬の視線が上にむいた直後。彼の真下で声が上がる。
「ぐっ!」
「ルーファウス!」
「っ!」
視線を下に向けた瞬が見たのは、ルーファウスがレクトールにより吹き飛ばされる姿。そしてその直後に自分を見るレクトールの姿だ。やはり地力であればレクトールが上。技術でなんとかカバー出来るのにも限度があった。
「ちぃ!」
「……」
「っ!」
速い。瞬は着地と同時にレクトールが自身の眼前に立つのを見て、もはや槍の間合いではないと刀を編み出す。そうして、彼は袈裟懸けに振るわれる大剣に対して刀で迎撃する。
「はぁ!」
「ぐっ!」
どんっ。轟音を上げて、瞬の立っていた地面が砕け散った。経験・地力・身体。その三つ全てが上回るレクトールの一撃に瞬は苦悶の表情を浮かべながらもなんとか支える。そんな彼の内側から、酒吞童子が声を掛けた。
『力を貸そうか?』
『お断りだ!』
『そうか……力が借りたくなったら、何時でも言え』
こいつは戦う価値がある。酒吞童子はレクトールをそう評価したらしい。いつもとは違いどちらかと言えば挑発するような色が強かった。
実際、今の彼が戦っても相当激戦になるだろう事が察せられる相手ではあっただろう。が、だからこそ瞬は申し出を承諾した瞬間乗っ取られるとも察しており、断ったのである。勿論、実際に受け入れればその瞬間乗っ取っていた。
(つまりはそれほどの相手か!)
酒吞童子が戦っても良いというほどには、レクトールの実力は高いらしい。それを瞬も理解して、酒吞童子を好きにさせないためにも一つ気合を入れる。
「おぉおおおお!」
「む」
今まで押し込まれるだけだった瞬が僅かに盛り返したのを見て、レクトールは僅かに目を見開く。そうして僅かに盛り返した瞬間を狙い定め、瞬は<<雷炎武・禁>>を展開した。
「おぉおおおお!」
「ぐっ!」
いきなりの出力の増大に、レクトールは僅かに姿勢を崩す。そうして一瞬だけ生じた拮抗に、炎の塊がレクトールに激突した。
「おぁああああああああ!」
「ぐぅ!」
どぉん、という爆音とも取れる轟音が鳴り響き、レクトールの姿が真紅の焔に飲み込まれる。そうして、炎の塊と化していたピュリが膝をついた。
「はぁ! はぁ!」
「ピュリさん!」
「ははは……流石に一発もダメージ無しは格好がつかないからね……一発ぐらいはまともにダメージ与えたかったんだが……」
さて、どうだか。ピュリは完全に不意を突く事が出来たと思いながらも、地力の差と蓄積している自身のダメージから仕留め切れはしなかっただろうと理解していた。当たり前だ。本来彼女は脱落していてもおかしくないレベルのダメージだ。仕留めきれるわけがなかった。
「……鎧を壊されたのは初めてだ。先代……先々代から続く特注の鎧で、俺の自前の物にも匹敵していた逸品だったんだが」
レクトールの激突で砕けた地面の中から、鎧がほぼ全壊に等しい状況になった彼が姿を露わにする。そして流石にピュリが溜めに溜めた一撃だ。ノーダメージというわけではなく、若干だがダメージが入っている証となる赤い跡が身体の各所にあった。これにピュリは笑う。
「まー……そんなもんか」
「今の一撃、見事だった」
とんとん。レクトールはもはや身体の動きを阻害する程度にしかならない鎧を軽く叩いて、異空間へと格納する。そもそもこの鎧は彼にとってギルドマスターの証以外の意味はない。なので彼は全身に僅かに感じる鈍痛を魔術で一瞬で治療。ある程度のダメージを元通りにする。
「さて……鎧はなんとかって所かね。瞬、あー……ルーファウスだったか? まだやれるか?」
「はい」
「無論です」
笑う膝を押して立ち上がるピュリの言葉に、瞬もルーファウス――復帰した――も揃って頷く。そうして両者再度の戦いとなろうかというその瞬間。極光が両者の真横で生まれ、四人がそちらを見る。
「あれは……」
『先輩! まだ無事っすか!?』
「ソラか! 何があった!?」
『カイトっす! なんかよくわからないんっすけど、大穴を開けてくれたみたいです!』
何が起きた。四人が困惑する最中に響くソラからの連絡に、瞬は撤退が可能になった事を理解する。そしてそれを理解したら、後は一つしか手はなかった。
「ピュリさん、撤退です!」
「「「っ!」」」
そういうことか。瞬の言葉で残る全員もこの極光が何だったのかを理解する。そして瞬は声掛けと同時にピュリに肩を貸しており、地面を蹴っていた。
「逃さん」
「させん!」
「っ」
<<闇駆け>>で逃げようとする瞬とピュリの二人を追撃しようとしたレクトールに、ルーファウスは残るような斬撃を放って追撃を一瞬だけ阻止する。そうして闇の中に沈んでいた彼が強制的にはじき出されるのを見て、ルーファウスもまた撤退を開始するのだった。
お読み頂きありがとうございました。




