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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2691話 合同演習編 ――氷鏡結界――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習。それに冒険部のギルドマスターとして参加していたカイトであるが、彼は二日目の正午を回った頃に前線をソラと瞬の二人に任せ、自身はこの二日戦い詰めだった者たちを率いて最後方の冒険部本陣へと帰還する。

 その一方のティナはというと防衛側の行動から次の一手を予想していた。というわけで、その予想がおおよそ固まった頃。彼女はシャルロットを介してカイトと連絡を取っていた。


「ふむ……確かにシャムロック殿ならそこらも考えているだろうし、それなら筋が通る」


 ティナの意見を聞いたカイトは、その推察に対してなるほどと納得を示していた。そうして、そんな彼が続ける。


「確かに一度シャムロック殿と<<太陽レンズ>>の連射については話した事があったんだ」

『どういうこと? 私知らないのだけど』

「そりゃ、お前が寝てる頃の話だ。神界に招かれ<<太陽レンズ>>を見ながらシャムロック殿と酒を飲んでたんだが、そこで前の大戦……神話大戦の頃の話に話が及んでな。これが一日に一度でなければ、と言われていたんだよ」


 実の妹でさえ知らない話をなんであんたがされてるのよ。そんな様子のシャルロットに対して、カイトは当時あった事を語る。と、そんな二人にティナが割り込んだ。


『そりゃ良い……とはいえ、それから三百年。天族に縁の深いレジスタンスであれば、シャムロック殿と連携を取っておっても不思議はなかった』

「ま、そうだわな」

『どういうこと?』

「ああ、ウチの爺さま……賢者ヘルメスは天族、ってのは良いな?」

『それは知っているわ』


 流石にシャルロットも長く生きる間にヘルメス翁の話は聞いた事があったらしい。実際数度は会った事もあるらしく、これに関しては別に何を今更という程度でしかなかった。


「ああ……で、現在の天族の族長はミーシャさん……爺さんのお兄さんの娘さんだ。まぁ、ミースのお母さんだな」

『それも知ってるわ……ああ、なるほど。そこから、というわけ』

「そ。ミーシャさんがレジスタンスの面々と繋がっていたのは今更だが……」


 カイトが思い出すのは、先にラエリア内紛の帰路で浮遊大陸に立ち寄った時の事だ。そこでミーシャの所にはイクスフォスの第二王妃であるサフィールが訪れていた。その時点でミーシャがレジスタンスの存在とイクスフォスの生存を知っている事は明白だろう。


「多分、そこでそっちと連携を取っていたんだろう。ウチにしなかったのはオレが去った事とクズハ達にそこまで負担を掛けられない、という配慮だな」

『なるほど……それでお兄様はその試験運用として、というのは十分にあり得るわね』


 これは十分にあり得る話かもしれない。カイトの意見を聞いたシャルロットはティナの想定が十分にあり得ると納得する。


「ああ……んー……」

『なにやらまだ気になる様子じゃな』

「ここまではなんとなーく想定されている気がしないでもない」

『むぅ……確かにこの程度であれば、というのはあろうか……』


 何かしら持ってきてはいるだろうとは思うが、同時に何か他にあるかもと言われればそうと思えた。


『<<太陽レンズ>>を増産してる……とかかのう?』

『まさか。あれを増産は流石に無理ね。基盤となるクリスタルがそう簡単に見つかるとも思えないわ』

「でも出来なくはない、だろ?」

『まぁ……』


 技術的に不可能かと言われればそうではない。シャルロットはカイトの指摘にそれはそうだが、と言葉を濁す。というより、原料となる巨大な鉱石さえあれば作る事が不可能ではないだけ、太陽光のストックより遥かに容易と言える。その原料が見付かるか、と言われれば三人とも首を傾げるが。


「まぁ、どうにせよ連射であれ何であれ<<太陽レンズ>>なら対応は不可能じゃない。ソラを基軸になんとかしていくしかないだろう」

『そうじゃのう……まさかソラが基軸になる事があるとは思わなんだが』

「まぁ、あれは純粋に力技で対抗するか、オレやあいつの様に神に連なる力を以って対応するしかない。しゃーない。で、地上戦力は<<暁>>を主軸として戦略を構築している以上、ソラが適任だ」

『そうじゃな……うむ。とりあえずこれで方針は定まった。カイト、お主はそのままソラの支援をしながら、適時頼む』

「あいよ」


 兎にも角にも<<太陽レンズ>>は驚異だ。それへの対抗策は絶対と言える。というわけで、それへの対策を決めた三人は改めてそれぞれがそれぞれの立場で防衛側攻略に臨む事になるのだった。





 さてカイト達が撤退して暫く。<<暁>>を主力とした地上部隊。諸侯らによる飛空艇艦隊による空中戦がかなり進んだ頃だ。そこでようやく、防衛側の秘策が発動する事になる。


「なんだ?」

「寒い? 雨の所為……か?」


 攻略側地上部隊が感じていたのは、得も言われぬ寒気だ。それは死を連想させる寒気であるようでもあり、物理的な寒さでもあるようでもあった。そしてそれは前線で戦いを続けていたソラ達にも訪れていた。


「カイト! 無茶苦茶寒いんだけど、そっちから何かわからないか!?」

『いや、こちらには何も無い……が、各所で似たような反応はあるらしい。何かをしてくる予兆だろう。十分に注意しろ』

「りょーかい! 全員、何かしてくる可能性がある! 気を付けろよ!」


 まだ目に見える異変は起きていないが、同時に感じているのは自分達だけではないらしい。ソラはカイトの返答に声を張り上げる。そうして声を張り上げた彼はそのまま、付近で交戦を繰り広げていた瞬へと声を掛ける。


「先輩! 一旦俺が」

「いや、この場は俺が抑える! 万が一、神の力とやらだった場合は俺ではどうにもならん可能性がある! お前が引いてくれ!」

「っ、了解っす!」


 自身の言葉を遮った瞬の言葉に、ソラがはっとなって了承を示す。そうして瞬に後を任せたソラは一旦後退して、腰のポケットから回復薬をがぶ飲みする。


「ふぅ……よし……っ……さっぶ……これ、ちょっとヤバいな……」


 魔力が急速に回復するのを感じながら、ソラは精神を落ち着ける。感じる寒気は強まる一方だ。そうして立ち止まった彼がふと腕を見てみると、そこには金属が冷却された時に出来る結露があった。


「……やっぱ物理的な冷却か。ってなると……弥生さん」

『なに?』

「<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>のバフで暖房? とか出来ないっすかね? 雨降って濡れた所に冷却されると、服とか鎧が凍っちゃって動きがヤバくなる可能性が」


 これは思った以上に厄介かもしれない。ソラは自分はほぼ金属で出来た鎧なので大丈夫だが、と思いつつもそれ以外の面々に起きそうな事態について言及する。そんな彼の指摘と問いかけに、弥生が納得する。


『なるほど……それは困るわね。暖房は無理でも、体温が一定以下にならないようには出来ると思うわ。多分、それを応用すれば防具を一定の温度に出来ると思う。後はこっちでやってあげるわ』

「すんません、それで頼んます」


 弥生の言葉にソラは一つ感謝を口にする。そうして魔力を回復させながら、彼は今度はトリンに告げた。


「トリン」

『うん、聞いてた。流石に<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>の効力は同盟の冒険者達には適用されないけど、各自で対処を促すぐらいは出来ると思う』

「悪い、頼む……良し。後は……流石に俺がなんとか出来る範囲でもないか」

『無理だし、自分の手の届く範囲で十分だよ』

「そうだな」


 これでギルド同盟の連中ぐらいはなんとか出来るかな。ソラはひとまず自分の周辺ぐらいはなんとかなりそうだ、と考える。そうして呟いた自分の言葉に笑いながら告げられたトリンの言葉に、ソラも僅かに眉間のシワを伸ばす。と、そんな話をしていると寒気が緩和された事を理解する。


「あ……」

『こんな所で良い? ただあくまでも身体が冷えない様にしているだけ。外気温が変化しているわけじゃないわ。温まった事で身体の表面に水は付着しやすくなるから、そこの所は注意しなさい。』

「うっす、ありがとうございます」


 とりあえず動きが阻害されなければ良いし、後は何かされた時に対応するしかない。ソラはそう考える事にする。何よりこれで身体が氷漬けになる事はないし、氷漬けになってもある程度なら自動解凍も出来る。今出来る事はしているだろう。


「よし……っ、マジか」


 一息吐ける状態かな。そう思って一息ついたソラであるが、それによって吐いた息が真っ白になっていた事に驚愕する。どうやらこの数分の間に、外気温は一気に一桁代にまで降下してしまっていたらしかった。


「カイト。気温の低下が無茶苦茶ヤバい」

『わかっている……すぐ撤退指示が出る。足並みを揃えて撤退しろ』

「マジか……引いといて良かった……」


 こういった撤退戦で重要になるのが自分である事はソラも理解していた。急転直下の事態に驚きながらも、彼はそれまでには魔力を十分に回復出来るだろうと安堵する。というわけで、彼はそれを瞬に伝達する。


「先輩、カイトからの情報っす。撤退指示が出るらしいんで、引ける準備を」

『わかった。丁度こちらも波が引いた頃だ』

「え゛」


 それは即ちどういうことか。ソラは瞬の言葉の意味を理解して、顔を顰める。敵が引くということは、こちらに何かをしてくる可能性が非常に高い状況という事だ。ここで突っ込むのはあまりに危険な状況だった。というわけで、ソラは今度はそれをカイトへと報告する。


「カイト。先輩からの……あれ? っ、トリン!」

『聞こえてる! こっちでも観測済み! 通信障害……ううん、通信妨害! でもどこから!?』


 どうやら使用している通信機の中継機からの通信を妨害されてしまっているらしい。通信機の先で対応しようとするトリンの声が響く。それに、ソラは引きつった笑いを浮かべた。


「こりゃ、ヤバいな……先輩!」

「ああ、すまん!」


 少し遠くに見えた瞬に向けて、ソラは自身のポケットから回復薬を取り出して投げ渡す。どうやら猶予は幾許もないらしい。そして瞬が回復薬を受け取ると同時に、最後方の艦隊から撤退を指示する信号弾が打ち上げられる。


「全員、急いで撤退だ! 駆け足じゃなくて全速力! コケたら置いていくと思えよ!」

「「「おう!」」」


 元々冒険部を含むギルド同盟では前線拠点を設けていた事により、全員への情報の伝達がスムーズにできていた。なのでこの状況下でも即座に撤退が出来たようだ。と、そうして冒険部を含むギルド同盟の面々が撤退を開始しようとすると同時に、上空の飛空艇艦隊から支援砲撃が開始される。


「っ……おし」


 敵は引いているから後ろから冒険者達の攻撃が仕掛けられる事は無いだろうけど。ソラはそう思いながら、瞬と合流する。


「先輩。そっち任せます」

「ああ……気を付けろよ。俺も万が一の場合は引き返す」

「すんません」


 瞬の持ち味はギルド内でも有数の速度と攻撃力の二つだ。万が一回り込まれた場合に戦線を切り開きつつも、高速で移動して殿となったソラ達を救援する一手になる事も出来た。というわけで、ソラ率いる殿がその場に留まり大慌てで踵を返したと同時だ。ソラは急に上が明るくなった事に気が付いた。


「なんだ? っ、なんだ!? 先輩! 撤退ストップ! 上!」

『何!?』


 ソラの方が先に気が付いたのは、立ち止まって敵の動きをしっかり確認する事が出来たからだろう。そんなソラの言葉を受け急停止した瞬であるが、上を見て驚愕を露わにする。


『氷!? っ、退路が!』

「っ……」


 そこから先は一瞬だった。都市部を中心として晴れ渡ったエリア一帯が、巨大な氷によって封じられたのだ。と、その次の瞬間だ。左右で爆発が起きた。


「っ! 次はなん……マジか」


 次はなんだ。そう言おうとしたソラが見たのは、バルフレアが左陣に攻め入る瞬間だ。こうして、ソラ達は撤退も出来ない。増援も望めない。前からはこれを好機と一気に攻め掛かる防衛側の戦士達。そんな最悪な状況に追い込まれてしまうのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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