第2687話 合同演習編 ――白銀と黄金――
合同軍事演習二日目。そこでカイトは初日とは異なり最前線で活躍していたわけであるが、そんな彼は偶発的に気が付いた<<太陽レンズ>>の攻撃による被害を最小限に留めると、そのまま被害を被った攻略側前線の再構築を行うまでソラと共にシャムロックの神使二人との間で戦う事となっていた。
というわけで、そんな彼はシャムロックの神使の片割れであるエレディなる女性の戦士との間で交戦を開始する事となる。
「さて……何時ぶりですかね、貴方と戦うのは」
「三百年ぶりですね、私の中では」
「あはは。オレの中ではまだ五年か六年ほど前の事ですけどね」
カイトは昔から月の神使としての待遇を受けていた。なのでシャムロックの神使達の中でも当時目覚めていた面子に関してはかなり懇意にしており、手合わせも何度かした事があったのだ。というわけで、笑う彼にエレディが問いかける。
「そちらは時の進みが遅かったのでしたか」
「ええ……まぁ、そこらはどうでも良いでしょう。場所、変えましょうか」
「……よいでしょう。子供の遊びに付き合ってられませんから」
カイトの提案に対して、エレディは轟音を撒き散らしながら戦うソラとサンバスの二人を若干睨むような目で見ていた。とはいえ、こうなる事を予想してサンバスを差し向けたのだ。ほぼほぼ同罪でしかなかった。というわけで、二人は地面を蹴って少し離れた所へ移動する。
「……ここらで良いですかね。そちらは?」
「問題はありません」
カイトの問いかけにエレディは周囲を見回して、特別問題はなさそうだと判断する。そうして両者の合意が得られた所で、カイトはシャルロットから一本の大鎌を受け取って構えを取る。
「よし……」
「一本で、大丈夫ですか?」
「さて……二本目はオレが持つべき物ですかね?」
「あら……なるほど。神使として立つのなら、というわけですか」
「ええ。勇者カイトとして立つのなら二本目も持ってきますが。ここのオレはあくまでも神使カイト。なら、一本が限度です」
エレディの理解にカイトが笑う。神使としてのカイトが持つのは大鎌一つ。もう一つはユリィが持つ事になっていた。だからこそ、神使として立つ彼はここでは一本だけと限度を決めていたのである。
「大変ですね、幾つも立場を持つと」
「気分次第で使い分けられるので楽で良い、とも言いますよ」
「若干、やけっぱちが入っている気もしないでもないですが……」
少しだけ楽しげに笑いながら、エレディが<<輝かしき天鱗>>を構える。
「……子供の遊びに付き合うつもりはあまりないのですが……私達も第一解放ぐらいで留めておきましょう」
「あはは……そうして頂けると助かります」
今回、カイトは常時第一解放状態で戦う事を余儀なくされている。が、同時に第二解放以降使うかどうかは彼の自由意志だったのだが、まだ隠しておきたいという意図があって使わない様にしていたようだ。
そしてエレディとしても今回はシャムロックがカイトの顔を立てて参加しているので来ただけで、そこまで本気で戦うつもりもない。第一解放を上限としたようだった。というわけで、即座に彼女は<<太陽の威光>>を展開する。
「<<太陽の威光>>」
「さて……」
幅広の両手剣を前に構え神剣の力を解き放ったエレディに対して、カイトは先程までの穏やかな様相から気を取り直す。そうしてお互いに僅かに距離を取り、一礼した。
「「……」」
一瞬、両者の間に沈黙が流れる。エレディはカイトが神使である事を知っていたし元々そう認識していたが、本当に神使としての彼と戦うのは初だ。
なので見知らぬ相手と言っても過言ではない状態で、警戒をしていた。それに対してカイトは単に様子見をしているという所だろう。そうして先に行動に入ったのはエレディだった。
「散れ、<<輝かしき天鱗>>」
先にソラが見た様に、エレディの持つ<<輝かしき天鱗>>の刀身が幾つもの部品に弾け飛ぶ。そうして刀身だった分には太陽の輝きを持つ非実体の刃が顕現する。
「……ん?」
エレディの手にする<<輝かしき天鱗>>の柄から放たれる白金の刀身から生まれる水蒸気に、カイトが少しだけ訝しみの様子で首を傾げる。
エレディの持つ<<輝かしき天鱗>>の柄から生じる白金の刀身は超高温だ。つまるところバーナーを収束させて刃としていると言っても過言ではない。なのでそんな白金の刃に雨が当たると水蒸気が生まれるのは当然だろう。が、それをカイトは訝しんでいた。
(<<輝かしき天鱗>>の刃から放たれる熱は全てエレディさんがコントロール出来る……なのに水蒸気がすごい勢いで発生しているという事は……)
これは意図的に水蒸気を発生させているな。カイトはエレディの行動からそう理解する。そうして漂う水蒸気が周囲を満たしていき、彼女の姿が完全に隠れた後。警戒して攻め込まないカイトの見守る中で、天高くに滞留する真っ黒な雷雲に向けて斬撃が迸った。
「っと! 流石にそれはさせませんよ!」
「では、頑張ってください」
「ちっ!」
そういうことね。カイトはエレディの意図を理解して、楽しげに舌打ちする。エレディの意図は単純。シャムロックの神使は太陽神の神使。カイトが月の下で最も戦闘力が発揮出来るのに対して、太陽が出ている場でこそ最大の力を発揮出来る。
が、ここまで分厚い雷雲に阻まれては全力は出せない。なので彼女は雷雲を消してしまおう、と考えたのであった。そして勿論、それをカイトがみすみす見過ごすわけがないというのも理解している。
なのでここまでは想定通りで、彼女は上空に回り込んだカイトに向けて無数に展開した<<輝かしき天鱗>>の破片の切っ先を向けた。
「<<浄化光>>」
使うのはかつてソラが使った光条を放つ攻撃。しかし彼の時とは違い、切っ先の一つ一つから光条が飛び出していた。その数は正しく無数。それが一斉に放たれるのだ。さすがのカイトもこれには防御に回るしか手がなかった。
「ちっ……<<防護壁>>」
放たれた無数の白金の光条に対して、カイトは全周囲に向け魔力の防壁を展開する。とはいえ、この後の展開も見えていればこそ、カイトは次の手をすぐに考えていた。
「はっ」
「<<影渡>>」
エレディが分裂した無数の刀身に対して一斉に突撃を命ずると同時。カイトは自身の周囲を覆う防護壁の中に闇を満たして自らの姿を隠す。そして数瞬。突撃してきた無数の刀身の破片がカイトの防護壁を砕いて粉々にして、その中央に居るだろうカイトへと肉迫する。
「む」
カイト目掛けて刀身が輝きを放ちながら闇を切り裂いて直進する無数の刀身の破片であるが、中に居るはずのカイトの姿がそこにはなかった。そうして僅かに警戒するエレディであったが、直後彼女は背後に向けて<<輝かしき天鱗>>の柄を向ける。
「流石に、この程度では仕留められませんか」
「伊達に神使として正式に任命されたわけではないですから」
「なるほど。遠慮していたと」
背後を振り向きながら、エレディはカイトの問いかけになるほどと思う。昔のカイトにはどこか神器を使う事に遠慮のようなものが見て取れていた。が、今のカイトにはそういった遠慮がなかったのだ。
「貴方達は似ているのやもしれませんね」
「さて……返答に困りますね」
無数の斬撃を交えながら、カイトはエレディの言葉に笑うしかなかった。カイトの遠慮であるが、これは言うなればソラが<<偉大なる太陽>>を手にした時に見せていた遠慮と似ていた。
実は彼も正式に神使となったわけではないのだから、と大鎌の力をフルで発揮する事に遠慮を見せていたのである。その戒めが解かれた今、かつてと違って大鎌の力をフルに使えていた。というわけで、遠慮のなくなった彼は背後に再度闇を顕現させる。
「っ」
空振った。エレディは自身の斬撃が空を切るのを知覚。気配を読んでカイトの姿を探すも、見付からなかった。これに彼女は意を決する。
「ならば!」
気合を入れると共にかっとエレディの姿が光り輝き、周囲に極光が轟いた。カイトが闇を纏って姿を消したなら、全周囲を攻撃する事で偽装を無効化。しかしもし転移等で移動していたのであれば、これまた全周囲を攻撃する事で密かに攻め寄られるのを未然に防ぐつもりだった。そしてこれが、功を奏する。
「っと」
「そこっ!」
身に纏った闇が振り払われ姿を現したカイトに、エレディは容赦なく白金の刀身を振り抜いた。が、流石にこれはカイトの反応速度の方が早かったらしく、刀に変貌を遂げた大鎌で普通に防いでいた。と、そんな彼だがそのまま連撃に移るのではなく、即座にその場から離れる。
「ちっ」
逃げられたか。エレディは楽しげな舌打ち一つで、目論見が外れた事を受け入れる。実は先の<<浄化光>>でカイトに差し向けた分身はあれで全てというわけではなく、幾つかを自身の万が一の防御・カウンター用として用意していたのである。というわけで第一の策が外れたエレディであったが、次の手はすでに考えられていた。
「こんな技は、如何ですか!?」
「っ!」
僅かに遠く離れて距離を詰めようとしてくれていたらしいカイトに向けて、エレディが白金の刀身を伸ばして刺突を放つ。これにカイトは一瞬だけ驚きの顔を浮かべるも、敢えてそのまま突っ込んだ。
「!?」
このカイトの行動に驚いたのは、この展開は全く想像していなかったエレディだ。とはいえ驚きながらもすでに行動には入っており、何かが出来るとすれば白金の刀身が伸び切る前に動く必要があった。
が、それも間に合わなかったようで、そのまま伸び切るのを待つしかなかった。そんな白金の刀身の切っ先の直前に、闇の穴が生ずる。
「<<影渡>>」
「っ」
どこに飛ばされる。エレディはカイトの前に生じた黒い穴をすでに転移術の亜種。もしくは簡易版の『転移門』と予想していた。
そしてこれが柄本と接続されている限り、両者の接続が刀身が持っていかれる事はまず無いそうだ。しかもこれはあくまでも刀身なので、気配を読んだりが通用する事もない。どこから何が来てもおかしくない。そんな状況だった。そして、直後。彼女の真後ろに真っ黒な穴が生まれ、そこから刀身の先端が現れてエレディへと襲いかかる。
「ぐっ」
エレディの背へと切っ先が激突し、僅かな苦悶の声を上げさせる。が、それでも彼女はその場から動く事なく、カイトだけを見据えていた。
「はぁ!」
「くっ……はっ!」
今の段階で逃げようとしても、カイトからは逃げ切れない。そう判断していたエレディは背に走った鈍痛を敢えて受け入れて、即座に手を振って分裂した刀身へと指示を出す。そうして白金の刀身とカイトの大鎌の刃が激突し、その直後だ。先程と同じく、カイトを刀身の破片が取り囲む。
「っ」
次の攻撃を行おうとしたカイトであったが、流石にそうは問屋が卸さないとばかりに展開された刀身の破片に仕方がなくその場から距離を取る。
「それも、お見通しです!」
再び闇に包まれ消えたカイトに、エレディは再度周囲に極光を迸らせる。その極光により、再びカイトの姿が露わとなる。
「ちっ! 後がキツいですよ!?」
「貴方の方こそ、あまり調子に乗りすぎないように!」
「っと!」
放たれる無数の光条による面攻撃に、カイトは慌てて虚空を蹴って一旦距離を取る。そうして、神使達の戦いは更に激しさを増していく事になるのだった。




