第2685話 合同演習編 ――黄金の戦士達――
合同軍事演習の二日目に起きた神使達による強襲。それを受けたソラとカイトは<<太陽レンズ>>により大きく被害を受けた攻略側陣営の戦線を維持するため、神使二人と戦う事になる。というわけで、サンバスという神使と戦う事になったソラはなんとか戦線の再構築までの時間を必死で稼いでいた。
「っと……」
なんとか目が慣れてきた。ソラは何度目かになるサンバスの高速の攻撃を逃れながら、若干の余裕を見せ始めていた。こう何度も何度も高速での攻撃を受ければ、こうなるだろう。が、実のところ。これこそがサンバスとその相棒たる<<太陽の微笑み>>の目論見だった。
「そろそろ……かな?」
『良いだろう。目も十分にこなれてきたはずだ』
「よし……」
「っ」
何かをしてくる。それに勘付いたソラはサンバスが攻撃ではなく距離を取った事に僅かな警戒を浮かべる。
「……追撃、はしてこないのな」
「まぁ……スピードファイターっぽいんで。下手に突っ込んでも逃げられるだけかなって」
「あはは」
ソラとサンバスであれば明らかにサンバスの方が速度が上だ。それも僅かに上ではなく、徒競走でもすれば周回遅れが何周の遅れになるのか、というレベルでの差があるだろう。まずソラでは追いつけない。なら追いつくのに力を割くより、次の一手に備えていた方が遥かに有意義だった。
「先に言っておいてやる……絶対に、絶対に<<太陽の威光>>を使えよ」
「っ……」
おそらく今日出せる本気で来るつもりだ。ソラは更に風格が上がったサンバスの言葉に息を呑みながら、それを理解する。そしてそうであるのなら、ソラに迷いはなかった。
「太陽よ太陽よ太陽よ!」
「よし……っ」
擬似的な神使であるソラと異なり、サンバスは正式な神使だ。なので第一解放までは口決無しでも問題なく解放出来るらしい。一瞬で両者の姿が黄金に染まる。そして太陽の戦士と化した両者であるが、その直後。太陽の輝きを思わせる極光が迸って、ソラが吹き飛んだ。
「ごふっ!」
『無事か、小僧』
「まっ……だまだ!」
<<太陽の威光>>を使っていなかったら確実に一撃で戦闘不能だった。ソラは僅かに身体が反応してくれたからなんとかなっただけと理解しながら、<<偉大なる太陽>>の言葉に答える。そうして泥水を弾きながら減速した彼は、一直線にこちらに肉迫してくる黄金の影を正面に見据えて両手に力を込めた。
「おぉおおおお!」
「はっ!」
ぎぃん。二つの神剣が激突し、今度は黄金色の閃光が起こる。そしてどうやら、この激突はソラの勝利だったらしい。僅かにサンバスが地面を滑って遠ざかる。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
胸に走る鈍痛を宥め、ソラはぐっと足に力を込める。そうして、今度は彼の方から一直線にサンバスへと踏み込んだ。
「はぁ!」
「っと! 流石に攻め込まれるのは困るんで!」
だんっ、と地面を蹴ってサンバスが再度距離を取る。そして地面に着地すると同時に、彼はソラへ向けて地面を蹴る。が、これにソラもまたすでに地面を蹴っており、両者先程同様に激突した。
「はっ」
「っと」
先程同様、力比べであればソラの方が上回っているらしい。まぁ、今のサンバスはソラに合わせて力を制限している状態だ。なのでソラの水準に合わせるなら、という形で力を制限しているのであった。
とまぁ、それはさておき。ソラに押し負ける格好になったサンバスは再度地面を滑る事になるのだが、当然これは読めていた。
「っ!」
「さ、どうする?」
きぃん、と甲高い音を立てて何かが収束するのに気付いて目を見開くソラに対して、サンバスは<<太陽の微笑み>>の切っ先に純白の光を宿していた。そして直後。ソラに向けて亜光速の刺突が放たれた。
「<<輝煌装>>!」
反応出来たのは偶然とソラ自身の訓練の賜物と言える。基本防御中心のソラにとって、敵の攻撃とは避けるより防ぐものだ。故に彼はいつでも防御を展開出来る様にそういった類の準備を重ねており、切っ先に宿る力の収束に咄嗟に身体が反応したのである。なのでこれに驚いたのは誰より彼自身だった。
「やっばかったぁ!?」
『腑抜けている場合か! 来るぞ!』
「っ」
<<偉大なる太陽>>の言葉でソラは全然安心できる状態ではない事を思い出す。そうして彼は即座に<<輝煌装>>による拘束を解いて、サンバスの姿を探す。
「っ、そこ!」
「とっ! ちょっと気付くの早いぞ!」
斜め上から急降下と共に襲いかかるサンバスに対して、ソラは<<偉大なる太陽>>を振り上げる形で迎撃する。が、流石に急降下の勢いまで加算された一撃だ。ソラに掛かる圧力はとんでもないものだったようで、地面から大量の泥水が舞い上がる。それを見て、ソラは咄嗟に魔術を展開した。
「っ、<<氷の槍>>!」
「<<太陽光>>!」
「ちっ!」
どうする。ソラは自身の放った氷の槍に対して太陽光にも似た熱で完全に再度水に戻されたのを受けて、次の一手を考える。が、この時点での取れる手は限られていたし、どれもこれもが安直すぎてあまり良い手は思い浮かばなかったようだ。
「おぉおおおおお!」
「っ、とぉ!?」
この状況で一番良いのは力技。そう判断したソラは総身にさらなる力を込めて、サンバスを押し返す。そしてサンバスとしてもこの状況で更に力が加わるとは思っていなかったらしく、一気に押し戻されてそのまま押し返される事になる。
「っと……でーも」
「!」
自身に振り払われて空中に押し戻されたサンバスが虚空に足を掛け、自分を正面に捉えるのをソラは見る。
(あんなの食らってらんねぇって!)
あれを何度も何度も受け止めれば早晩負けるのはこっち。ソラはいつかは対応仕切れなくなる未来を理解していればこそ、次は回避する事を選ぶ。が、何度も言われているように速度であればサンバスが圧倒的だ。普通に逃げた所で即座に軌道修正されて襲われるのが目に見えていた。故に彼はサンバスが飛ぶより前に、手を前に突き出す。
「はっ!」
「なんの、この程度!」
咄嗟の判断で張った程度の障壁では止められない。サンバスはそれを理解していればこそ、一切の迷いなくソラの展開した障壁に突っ込んだ。そうして、一瞬の衝突と停滞の後。ソラの展開した障壁が砕け散る。
「っ」
「はっ!」
たんっ、と地面をソラが蹴るのと、サンバスがソラの目論見に気付いたのは同時だ。別にソラとてあの障壁でサンバスの攻撃を防ごうと思ったわけではない。
あれは単なる一瞬の足止め。自分がその場から飛び退くためだけのものでしかなかったのだ。そうして<<太陽の微笑み>>が地面に深々と突き刺さるのを見て、ソラが一気に襲いかかった。
「おぉおおお、っ!」
「っと! よくやった!」
ソラが襲いかかろうとしたとほぼ同時。彼は咄嗟に感じる何か強烈に嫌な予感に突き動かされ、地面に向けて<<偉大なる太陽>>を叩きつけ、その反動で上空へと飛び上がる。その次の瞬間だ。サンバスを中心とした地面が大きく膨れ上がり、泥水諸共に吹き上げられた。
「ぐっ!」
巻き上がる泥水に打たれ、ソラは咄嗟に顔を顰める。そんな彼へと、地面に突き刺さった<<太陽の微笑み>>を地面ごと吹き飛ばすという荒業で抜き放っていたサンバスが襲いかかった。
「はぁ!」
「ぐっ!」
元々先に行動に入っていたのはソラである事も相まって、なんとかサンバスの一撃は防ぐ事が出来ていた。が、その一撃により彼の身体は更に高くへと打ち上げられた。
「さ、もう一発だ!」
「くっ!」
虚空に足を乗せて<<太陽の微笑み>>を引くサンバスに、ソラは非常に苦い顔で再び気合を入れ直す。
「ほらよ!」
突き上げられるような鋭い極光の刺突が、<<太陽の微笑み>>の切っ先から迸る。これに先のサンバスの直接的な刺突を防ぐために利用した盾を再度突き出して、なんとか防ぎ切る。
「はぁ……はぁ……」
流石に辛いな。ソラは<<太陽の威光>>の展開により毎秒単位で削られる魔力と精神力を維持しながら、少しだけ内心でため息を吐いた。本来は今のソラには不相応な神剣の力を解放しながら、今までずっと戦っていたのだ。しかも相手は自分より何もかもが格上なサンバス。常に最大出力で攻撃や防御を繰り返しており、スタミナはギルド内でも有数なソラであってもそろそろ厳しくなってきたようだ。
「っ……」
もうこうなったらこれしかない。ソラは一か八かの賭けである事を暗に理解しながらも、短期決戦を決めるのならもうこれしかないと自らの懸念を自らで払拭する。そうして、覚悟を決めた彼が更にもう一つの力を解き放った。
「<<風>>よ!」
解き放たれたのは風の加護。それも今では身体能力の強化には役に立たないものであるが、風を操る力そのものは失われていなかった。
「<<風の踊り子>>!」
兎にも角にもこちらから攻撃が出来ない事にはどうしようもない。ソラはそれ故に風の分身とも言える<<風の踊り子>>を使う事を決めたようだ。そしてこれは彼にとって偶然にも最善の一手となっていた。
「! ちっ!」
ソラの生み出した<<風の踊り子>>が顕現すると同時。サンバスは周囲に漂う強大な風の力に矢も盾もたまらずその場を離れる。そんな彼が離れると同時に、サンバスが立っていた所へと黄金の風となった風の踊り子達が襲いかかった。
「なんだこりゃ!?」
『シャムロック様の加護を得た事により、お前の風の力にも変質が訪れたらしいな』
「マジ!で?」
それは想定していなかった。ソラは自分の思わぬ所で起きていた事態に思わず声を荒げる。今までは併用が難しいとの事だったのであまり使うつもりはなかったらしいのだが、別にカイトとしても身体能力の強化には使えないだけで他の用途には使えると言っていたのだ。何ら不思議のある事ではなかった。
「取り合えず、整列!」
サンバスと入れ替わる形で地面に着地したソラが、改めて黄金の風の踊り子達に号令を下す。そんなソラに対して、サンバスは少し離れた地面に着地して笑う。
「っと……こりゃちょっと手加減しすぎたかな?」
『構わないだろう? 元々測る事が目的だったんだから』
「まぁな」
基本、カイト達の迷惑にならない様にとソラとのやり取りはアスラエルが中心となっていた。が、やはりかつての仲間の武器を継承した男が居るというのだ。気になっても仕方がない。なので今回の戦闘に前のめりになっていたのだが、ここまでできれば十分と言い切れたらしい。
「……ちょっとだけ、もう少し上に力を上げてみるか」
『好きにしろ……私も見せてもらうだけだしな』
「おう……じゃ、やるか」
そもそも力量差は圧倒的と言われていたサンバスとソラだ。なのでソラが思わぬ収穫を手に入れたとしても、サンバスの優位は変わっていなかった。というわけで彼はソラの底を見過ごすべく、もう暫く戦いを続ける事になるのだった。
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