第2684話 合同演習編 ――黄金の戦士達――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習。その二日目の正午直前に放たれた<<太陽レンズ>>による強大な一撃。それは相性が最高と言われるソラが守って尚、攻略側陸戦隊に多大な被害を与える事になる。
そうして甚大な被害を被ったもののカイトの事前察知とその差配により被害を最低限に抑える事に成功していたため、攻略側は作戦続行を決定。そこでソラはカイトと共に戦線の立て直しまでの間、シャムロックと共に今回の演習に参加した神使四人の内二人との間で戦う事になってしまっていた。
「んー……なぁ、お前。名前なんて言うんだっけ?」
「え、あ……ソラ・天城です」
「そか……俺はサンバス・ゼゼーナン。よろしく」
「あ、よろしくおねがいします」
元々気さくな様子は見て取れていたが、どうやら思った以上の気さくさだったらしい。ソラはわざわざ地面に降りてきてまで手を差し出してくれたサンバスの手を握り返し、そのまま頭を下げる。
勿論、サンバスもこのまま投げ飛ばしたりという無粋な真似はしなかった。そうして両者挨拶が交わされた所で、サンバスがソラに問いかける。
「なぁ、ソラ。お前飛空術はどのぐらい使える?」
「あ、いや……すんません。まだ殆ど……」
「そっか……ああ、気にすんなって。俺もお前ぐらいの年齢の時にはそんな飛べてなかったし」
真っ当に神剣を授けられたサンバスに自分の不甲斐なさを明かす形になってしまった、とソラは思っていたようだ。かなり恥ずかしげな様子で肩を落としていた彼に、サンバスは笑って首を振る。というわけで、サンバスの方はそれならとルールを設ける事にした。
「よし……それならルール決めとくか。まず、お互い飛ぶのは無し。で、流石にお前に第二解放とか求めるのも酷だろうから、第一解放……<<太陽の威光>>までにしとこう」
「え?」
「ルールだよ、ルール。こっからの戦いの。流石に俺が一方的にお前ボコったらかっこ悪いだろ?」
困惑するソラに対して、サンバスは笑いながらそう告げる。当たり前だが、エレディがそうである様にサンバスもまたソラと自身の腕の差ははっきりと認識している。
なのでここで自分がソラが到底使えない――そもそも今の<<偉大なる太陽>>が出来るかもわからないが――だろう第二解放等の更に上の解放を使う事はご法度としたようだ。
「え、いや……どうなんっしょ」
「あはは。俺が言われるの……さて。じゃあ、やろうか」
「っ」
やはり神使。子供っぽい笑みを湛えながらも、その身に宿る闘気はソラを大きく上回っていた。と、そんな彼がそういえばと告げた。
「ああ、周囲の事なら気にするなよ。そのためにわざわざ<<太陽レンズ>>使って周辺吹き飛ばしたし、撤退させられる様にしてやったんだからな」
「それで……」
どうやら神使達が思う存分戦える様に、というのがシャムロックの意図だったらしい。そしてそうであるのなら、ソラには逃げられる道理がなくなった。
「一分だけ、待ってもらって良いっすか? 気合い入れるんで」
「おう」
「すんません……ふぅ」
『気負うなよ、ソラ。勝てない相手ではあるが、同時に分別はわかる奴だ。決して大人げない事はしてこない』
「知ってるのか?」
『無論だ』
<<偉大なる太陽>>はソラの問いかけにサンバスは当たり前の様に知っていると明言する。そうして意識を集中させ精神を研ぎ澄ませるソラを見るサンバスであったが、ふと思い出した様に口を開いた。
「あ、そだ……お前も久しぶり。それとお疲れ」
『かたじけない……<<太陽の微笑み>>も久方ぶりだ』
『ああ、友よ。またこうして会えた事を嬉しく思う』
<<偉大なる太陽>>の言葉にサンバスの持つ神剣から声が響く。それは<<偉大なる太陽>>よりもかなり若い男の声に似ていた。と、そんな<<太陽の微笑み>>が問いかける。
『どうなのだ、そちらの使い手は』
『若いな、まだまだ……だが、良き師と縁に恵まれた』
『そうか。それは良かった』
<<偉大なる太陽>>から見ても、ブロンザイトは良い師であったと言えたようだ。そして彼が結んでいる数々の縁はどれも得難い物で、それもまたソラの成長に良いだろうと考えていたようだ。そんな神剣達の会話に、サンバスが笑う。
「なら、ちょっと本気でやっても良いかな。よし、一分」
「うっし! おっけーっす」
「おし」
ソラの返事と共に、サンバスが神剣を構える。そうして両者一瞬の睨み合いの後、同時にぬかるんだ地面を蹴った。
「「はぁああああ!」」
両者同時に雄叫びを上げて、たった数歩の距離を駆け抜ける。そして一秒にも満たない刹那。神剣と神剣が激突する。
「ぐっ!」
アスラエルほどではないが、とてつもない圧力がソラの手に伸し掛かる。そうして神剣の激突により生じた衝撃波により雨粒が吹き飛んで出来た僅かな空間を、サンバスが一瞬で駆け抜けてソラの背後に回り込む。
「おらよ!」
「っ! ちぃ!」
回り込まれた。気配だけでそれを察したソラは背後に盾を回して、剣戟を防ぐ。そうして身を捩って背後を振り向いて、彼はそのまま<<偉大なる太陽>>を突き出した。
「はっ!」
「っと! っ」
突きと共に僅かに見えた空色の線に、サンバスは一瞬だけ目を見開く。しかし彼はその場から離れる事なく、細剣を線に交差させるような形で構えた。
「そいつはわかってるんでな!」
「ちっ」
やっぱそうは問屋が卸さないか。ソラはサンバスが放つ黄金色の線の軌跡から離れる。ソラの使う技の半ばは元々エルネストが使っていたものだ。なので必然当時の仲間である神使達にはわかられていたのである。というわけで、ソラはここでは無策にエルネストの技を使うべきではないと判断。ひとまずは基本的な剣技とエルネストから継承された以外の技だけで戦う事にする。
「っと……ふぅ……」
サンバスの攻撃から逃れ、ソラはぬかるんだ地面に足を取られない様に注意しながらも一瞬だけ息を吐く。そうして、彼は地面に<<偉大なる太陽>>を突き立てる。
「っと! やばっ!」
ソラの行動から何をしてくるか理解したサンバスは大きく地面を蹴る。そして直後の事だ。地面が大きな爆発を起こして、水蒸気が舞い上がる。
「蒸気?」
爆発までは読んでいたサンバスであったが、その後に吹き出した超高温の水蒸気は予想していなかったらしい。空中で僅かに小首を傾げる。と、そんな水蒸気の中にソラが突っ込んだ。
「借りるぜ、アル! <<氷の拳>>!」
舞い上がった水蒸気がソラの拳に収束し、一瞬で氷の拳を作り上げる。そうして彼はそれを容赦なくサンバスに向けて解き放った。
「っと! やるなぁ!」
そういうことか。ソラの水蒸気の意図を理解して、サンバスが感嘆の声を上げる。ソラの意図は簡単だった。一つ目は地面に溜まった水や雨粒より水蒸気の方が粒が小さく操りやすいのと、水蒸気による目眩ましで氷の狙いを読みにくくするためだ。
無論一度温められているので氷化するのに余分な力を使う事になるが、今回は長期戦を狙って勝てる相手では決して無い。ソラは繊細さより力技の方が有効と判断したのだ。というわけで、その目論見に気付くもサンバスには回避するか受け止めるしかない。故に彼は<<太陽の微笑み>>を振るって氷の拳を切り裂いた。
「っと……そりゃわかってる」
「はぁあああ!」
氷の拳を隠れ蓑に接近していたソラが、雄叫びを上げてサンバスに襲いかかる。が、これは当然サンバスも読めていたし、ソラも読めているだろうと判断していた。
故に即座に斬りかかるサンバスの剣戟を右手の<<偉大なる太陽>>で受け止め、左手はサンバスの両断した氷の拳の残骸に向けていた。
「!?」
「ど、どうだ!?」
剣戟で叩き落されぬかるんだ地面で満足に減速も出来ず滑りながら、ソラは自身の攻撃の結果を見る。そんな彼が見たのは、完全に氷漬けにされたサンバスの姿だ。
ここまで近付けば回避できないだろう。そう判断しての事だった。そして案の定だったわけであるが、勿論この程度でサンバスが戦闘不能になるわけがない。ぼんっ、という音と共に氷が一瞬で水蒸気へと変貌する。
「おー……上手いな。完璧に食らっちまった」
『筋は良いようだ。エルネストとは違って魔術も学ぶ意欲もある……もしかすると、奴よりよい使い手になるかもしれんな』
「な。あいつ本当に魔術からっきしってか覚える気なかったからな」
『懐かしい』
すんません。俺も覚えようって思ったのついこの間っす。ソラは勝手に勘違いしている様子の主従に対して内心そう思う。とはいえ、この結果サンバスを少し本気にさせる事になったらしい。次の瞬間には彼がソラの眼の前まで肉迫していた。
「!?」
「じゃ、行こうか……おらよ!」
「ぐっ!?」
細身の<<太陽の微笑み>>から放たれる強撃により、ソラが地面を大きく吹き飛ばされる。そうしてあまりの強撃に目を白黒させながらも急制動を仕掛けた彼の真横を、黄金が通り過ぎる。
「っ! リミットブレイク・コンマワンカンド!」
間に合わない。そう判断したソラが鎧の力を解放。制動は完全に捨てて身を捩って反転。サンバスの姿を正面に捉える。
「リミットブレイク・オーバーブースト・スリーセカンド!」
「へぇ」
面白い物を持ってるじゃん。サンバスはソラの鎧に生まれる輝きに、僅かに目を見開く。そしてそうこうしている間に両者の距離がなくなり、サンバスが刺突を放った。
「はっ!」
「おぉ!」
放たれる黄金の刺突に対して、ソラは気合を入れて<<偉大なる太陽>>を振り上げる。そうして僅かにだが切っ先が逸れて、<<太陽の微笑み>>の刀身が彼の横を突き抜ける。それを横目に、ソラは勢いを利用して地面を蹴ってサンバスへとタックルを仕掛けた。
「おらぁ!」
「っと! 流石に重量級のタックルは勘弁な!」
「はぁ!?」
速すぎる。ソラは自分のタックルが激突するよりも前に<<太陽の微笑み>>を引き戻し、その勢いさえ利用して距離を取ったサンバスに驚愕の声を上げる。そんな彼に、<<偉大なる太陽>>が教えてくれた。
『サンバスは速度に長けた戦士だ。生半可な腕では捉える事さえ難しいぞ』
「ぽいな」
<<太陽の微笑み>>は明らかにパワー重視よりスピード重視の戦士にこそ適する武器だ。なので武器からソラもサンバスはスピード重視の戦士だろうと読んでいたが、案の定だったようだ。
「でもなら!」
僅かに距離を取ったサンバスに向けて、ソラは腕に取り付けて貰った砲口を向ける。これには流石にサンバスも目を大きく見開いた。
「へ?」
「おら!」
「っとぉ! マジか! そんなのあんの!?」
楽しげながらも大慌てでサンバスがその場から飛び跳ねる。まぁ、まだ試作段階なので威力はそこそこだったが、牽制程度には十分な効力を発揮出来たようだ。そうして太陽の戦士達の戦いは更に白熱していく事になるのだった。
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