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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2682話 合同演習編 ――太陽レンズ――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習にマクダウェル家に協力する冒険者の一人として参加したカイト。そんな彼はティナに全体の指揮を任せると、自身はギルド同盟の面々と共に最前線での戦いを繰り広げていた。

 そうして戦い続けること約三時間ほど。昼に近づいた頃にそろそろ撤退するかとその算段を後方のティナと共に立てた頃だ。撤退前最後の休息を取っていた彼は同じ様に休息を取っていたセレスティアとエルーシャの会話から都市部外周に展開していた飛空艇の一隻がその甲板に巨大なレンズを展開した事を理解。偶然ではあったが、防衛側の仕掛けに勘付く事になる。


「む……」

『どうした?』

「気付かれた。しかもよりにもよって一番厄介な男に、だ」

『むぅ……ギリギリまで気付かれんと思うたんじゃがのう』


 遠距離からカイトの姿を確認していたレヴィの言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクは少しだけ苦い顔を浮かべる。今回、彼らが打った策の一つは会と達が訝しんでいた様に兆候がかなり気付きにくい策だ。

 しかも使うのが一見すると照明艦という様に都市の外周部にあっても不思議でない飛空艇に似せていた。気付きにくくなっていたのである。


「あれは偶然だな……こちらにとって運が悪かったと言うしかない」


 遠目に見ていた限りでは、ついさっきまでカイト達は呑気に談話をしていたのだ。まぁ、談話というと言葉が悪いが、精神力の回復は非常に重要だ。リラックス出来ていると褒めて良い。


『何があったんじゃ?』

「単に飛空艇の観察をしていたというだけだろう。あの様子だと……おそらく珍しい飛空艇を見付けてはそれについて女二人が話していた、という所か。その中で偶然、見付けられたらしいな」

『珍しい程度に偽装出来ておったが、それ故に見付けられてしもうたか』

「そう言うしかない」


 マクダウェル領出身のエルーシャでさえ、展開されている飛空艇は未だ照明艦としか考えていないのだ。おそらくそれは攻略側の多くの将校や冒険者達もそうだろう。普通は話の俎上に載る事は無いはずだったが、今回は一緒に居たのが異世界出身のセレスティアだという点が防衛側にとって悪かった。


「時間は?」

『まだ……とのお言葉じゃ。後十五分は欲しい、と』

「駄目だ。気付かれた以上、逃げられる。特に奴の場合、神話関連に関しては公的にも強い事になっている。奴が具申すればすぐに諸侯も動かせる。マクダウェル家は動くだろうしな」

『むぅ……ここまでやれた事をよしとするしかない、か』

「ああ」


 相変わらず苦い様子のハイゼンベルグ公ジェイクに、レヴィは諦めさせる様にはっきりと頷いた。そうしてカイトが防衛側の秘策に勘付いた事により、急速に戦況は変化する事になるのだった。




 さて防衛側が密かに、されど大きく動き出した一方。カイトはというと偶然にも防衛側の秘策に気付いた事を受けてティナに連絡を取ると共に、最前線のソラに連絡を入れていた。


「ソラ! 聞こえるか! 返事が出来なくても念話を<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>に繋げろ!」

『え!? な、何だよ急に!』

「急で構わん! 繋げたか!?」

『つ、繋げたけっ、うお!?』


 戦っている最中にいきなりカイトからの念話だ。ソラはかなり困惑していたが、カイトの剣幕からただ事ではないと理解。即座に<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>へと接続する。それを受け、カイトはソラの困惑を他所にただ一言だけ告げた。


「<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>! <<太陽レンズ>>だ!」

『なんだと!? まさか、ありえん! シャムロック様がそれの持ち出しを許可されたというのか!?』

「そこらの経緯はどうでも良い! あれはソラにしか防げん! 今すぐ、最前線に移動しろ!」

『わかった! 小僧! <<太陽の威光(ソル)>>を使え! 今すぐ前に出るぞ!』

『はぁ!? って、うぉおおおおお!?』


 どうやら<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>はカイトの言葉で何が起きようとしているのかを理解したらしい。困惑するソラを自身を使って強引に引っ張って、戦場の最前列。<<暁>>より少し前まで移動させる。


「何だ!?」

「っ! ソラの小僧!? どうしたんだ!?」

「い、いや! 俺にも何がなんだか!?」

『話している暇は無い! 良いから構えろ!』

「っ、だから何なんだよ! せめて少しは説明してくれ!」


 まぁ、ソラからしてみればなんの説明も無しに強引に連れてこられたのだ。何事かと怒鳴っても無理はないだろう。が、逆説的に言えばそれだけ事態が逼迫しているという事でもあった。

 そして、防衛側が行動に入る直前。カイトからの連絡を受けたマクダウェル家旗艦から戦場全域に向けて防御体勢を取る指示が出される。


「は!?」

「防御指示!?」

「後ろの連中はなんのつもりだ!?」


 なんの兆候も無いにも関わらず出された命令に、冒険者達は総じて困惑する。が、その直後だ。セレスティアが見つけた飛空艇の上部に取り付けられた巨大なレンズ――カイト曰く<<太陽レンズ>>――が黄金の輝きを放つ。


「は?」

『小僧! さっさとしろ! 後ろが全滅するぞ!』

「っ、太陽よ太陽よ太陽よ!」


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の言葉でソラがはっとなり口決を唱え<<太陽の威光(ソル)>>を展開するのと、巨大なレンズに太陽光が収束するのはほぼ同時だった。そして、刹那でさえない時間で巨大な黄金の光条がソラへ発射された。


「っ、<<偉大なる盾(オーダー・グランデ)>>!」

「「「!?」」」


 ソラの前面に巨大な黄金の盾が現れるとほぼ同時。否。それこそ黄金の盾の展開が始まると同時に、彼へと黄金の光条が激突する。しかしそこでソラが得たのは訝しみだった。


「……あれ? 全然重くない?」

『当たり前だ……<<太陽の威光(ソル)>>を使っている状態では<<太陽レンズ>>による攻撃は通用せん。ギリギリ、間に合ったか……』

「ど、どういうことだ?」


 まるでそよ風を受けている程度でしかない軽い攻撃を訝しみながら、ソラは堪えていた足から僅かに力を抜く。それほどまでに彼に掛かる負担は少なかった。が、そんな彼は変わらず黄金の光条を受け止めながら周囲を見て、この一撃の真の威力に息を呑む。


「なぁっ……なん……だよ、こりゃぁ!」


 ソラが見たのは、自身の前面の溶岩化しグツグツと煮えたぎった地面。そしてあまりに強大な力の激突により乱反射する力の余波により生じた無数の巨大な穴だ。それほどまでに強大な一撃にも関わらず、ソラにはノーダメージなのであった。

 そして数秒。ソラに激突していた黄金の光条が更に力を増して巨大化し、ついにはソラの展開した巨大な<<偉大なる盾(オーダー・グランデ)>>をも飲み込んだ。


「っ!」

『安心しろ。貴様には一切通用せん……が、流石に小僧の腕では溢れたか』


 流石にこれだけ巨大な光条なのだ。ソラの現在の実力では食い止められる範囲にも限度があった。これについてはカイトもティナも気付くのが遅れた時点で仕方がないと諦めていた。

 と、そうして十数秒も間伸し掛かっていた光条が緩やかに上を向いていき、今度はマクダウェル家の艦隊へと襲いかかる。


「シャル」

『ええ……流石にこれはとやかく言える状況じゃないわね』


 襲いかかる光条であるが、カイトはすでに手を打っていた。というわけで彼の要請を受けたシャルロットがすでに旗艦甲板の上に立っており、その横にはティナが大結界とやらの調整を行うべく杖を構えていた。

 そして、マクダウェル家の艦隊に黄金の光条が直撃する直前。かかんっ、という二つの甲高い音が鳴り響いてマクダウェル家の艦隊が共鳴。一つの球体のような巨大な結界を生み出した。


「っ……アイギス」

『イエス。出力安定……まぁ、今回の場合はシャルロットさんの支援がありましたので特段問題は無いかと』

「そうか……が……」


 些か手酷いカウンターを貰ったやもしれん。ティナは光条がだんだんと小さくなっていくのを見ながら、飛ばした使い魔で周囲を確認する。

 何かがおかしいと思った時点でマクダウェル家の艦隊は現在の高度から僅かに上に上がる様に指示を出していたので間一髪難を逃れたが、それ以外の艦隊はかなり破損してしまっている様子だった。


「ギリギリ、か。アイギス、被害がこれで収まった要因は」

『考えるまでもなくマスターが気付いた事ですね。<<太陽レンズ>>の効力は現地時間昼の12時に最大となります。僅か、マスターが早かった』

「やはりそうか」

「ウチの下僕が一瞬早く勘付いたのは良かったけれど……お兄様も中々本気でとんでもない物を持ってきたわね」


 アイギスの返答に納得を得ていたティナに対して、シャルロットは前を見ながら僅かな苦笑を浮かべる。当然だが彼女は兄の秘中の秘たる<<太陽レンズ>>を知っている。それを持ち込んだとは、と驚きしかなかった。


「まぁ、そうは言っても一日に一度しか使えんのじゃろ?」

「そうね。<<太陽レンズ>>は一日に一度しか使えないお兄様秘中の秘……手は?」

「無論、考えておるとも。明日は通用させんよ」


 この程度が秘策であるのなら、特段問題はない。ティナは寄せられる被害報告に対して適当に処理しながら、シャルロットの問いかけに自信有りげな様子で答える。

 確かに<<太陽レンズ>>を持ち込まれた事は素直に想定外の事態であったが、使えるのは後一度だけだ。その一度を防げる手札があると断言出来た以上、この程度は問題にはならなかった。


「アイギス……特殊作戦機体の使用を許可しよう」

『イエス……ついにお目見えですか』

「そうじゃ……度肝を抜いてこい」

『イエス。マスターに連絡を』

「そうせい」


 非常に楽しそうな顔で、ティナはアイギスの言葉に許可を下す。というわけで、ティナの指示に灼熱のマグマを消し飛ばしていたカイトが笑う。


「りょーかい。特殊作戦機体……重特機の使用か……当然、明日だな?」

『イエス。<<太陽レンズ>>への対抗策として十分かと』

「オーライ。最初まーた巫山戯てんのか、って思ったもんだが」

『ノー。かつての宇宙での交戦により必要性は想定されていましたし、クラス3やそれ以上というマスターの情報により特殊作戦機体は必要不可欠と判断されるのは必然です。更に幸運な事に『リーナイト』での惨劇によりログが手に入りました。天運と考えるべきかと』


 楽しげに笑うカイトに対して、アイギスははっきりと道理を説く。


「チートも良い所だが……」

『それはイエスですね。ですが<<太陽レンズ>>なんてチート持ってきた以上、こちらもチートを持ち出して良いかと』

「神代最高の魔道具対重特機か。心が躍るかと問われれば踊るが……使えるんだな?」

『イエス……かつてマスターと共に戦った方々に敬意を』

「オーライ……それならもはや何も言うまいよ」


 開発を開始して十数ヶ月。そこに色々な技術革新やらが起きた事で試作機が完成したと聞いたのはついこの間の事だったが。カイトはその試運転として絶好の機会と判断したティナの判断を受け入れる。


「が……その前に今日の戦いか」

『それはイエスですねー。ここから厳しくなると思いますので、頑張ってくださいね』

「あいあい」


 兎にも角にも重特機のお披露目は明日だ。そしてここから更に数時間は戦いが続くのだ。今は目の前の事に対応するしかなかった。


「誰でも良いしどこでも良いから、魔術師に告げて雨でも降らせてくれ。熱くて叶わん……ああ、雨が良いな。そろそろ彼らが来る頃だ。ちょっと変身したい」

『イエス。マザーに具申しておきます』

「頼む」


 周囲で泡立つ溶岩をなんとかしてくれない事にはカイトは兎も角他のギルド同盟の大半が動けなかった。勿論、普通の兵士達も動けるわけがなく、何かしらの手段で動ける様にする必要があった。

 そうして、そんな彼の要請から数分。後方にて待機していた事で被害を逃れた魔術師達の手により、土砂降りの雨が振る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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