第2678話 幕間 ――空中の戦い――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習。そこに参加したカイトはギルド同盟の冒険者と共に敵の最前線へと切り込んで、ガッツリと組み合う事になっていた。
というわけでカイト達の活躍によりかなり押し込む事に成功していたわけであるが、今回は軍属に戻っていたアル達はというとその上で艦隊を相手に空中戦を繰り広げていた。
「っ! やっぱり八大の飛空艇は攻撃がキツい!」
『少尉! あまり一人で突っ込むなよ! 少尉の機体の防御装置がなくなると痛い!』
「わかっています! っと!」
魔導機と各諸侯の大型魔導鎧の部隊を率いる総隊長の声に応じたアルであったが、それと共に目の前に閃光が巻き起こり僅かに顔を顰める。が、その意図は読めていた。
「モード拡散!」
『システムチェンジ。拡散モード』
『『ちぃ!』』
閃光を目眩ましに突っ込んできた冒険者達が、アルの魔導機から放たれる拡散弾に大慌てで距離を取る。そこに今度はリィルが切り込んで、舐めるような炎が目眩ましを兼ねた防壁を作り出す。
『アル』
「りょーかい!」
『こちらも合わせる! アルフォンス少尉は防壁を!』
「了解です!」
自身の魔導機の左右に展開する重装備の大型魔導鎧の編隊を守る様にアルは防壁を展開しながら、更に自身も肩部に取り付けられた砲塔に魔力を充填させる。しかしその次の瞬間だ。一隻の大型の飛空艇がリィルの生み出した炎の壁へとこちらに突っ込んできた。
「っ」
『こちらで対応します!』
「ありがとう!」
リィルの槍に突き立てられ軌道を逸れて降下していく飛空艇を横目に、アルは更にチャージを続行する。が、こちらの砲撃よりも前に前方から何発もの魔導砲が迫り、炎の壁を穴だらけにする。
「っ! こちらで防ぎます! そのままチャージを!」
『すまん!』
『その代わり、デカいのお見舞いしてやるからな!』
この一撃は厳しい。アルは魔導砲にチャージしていた魔力を障壁の展開に全て回す。そうして強烈な閃光が巻き起こり、それを切り裂く様にして攻略側の大型魔導鎧の一団による砲撃が放たれた。
『っ! 駄目か!』
『さすがマクダウェル家の肝入り! そしてヴァイスリッター家の麒麟児か!』
舐めていた事は否めない。防衛側の飛空艇の士官達は魔導機の防御性能の高さに舌を巻き、それを操るアルの基礎能力の高さを称賛する。そうしてそんな彼らへと、溜めに溜めた砲撃が襲いかかった。
『うぉ!? 無事か!?』
『っぅ……くっ! 被害状況報せ!』
『りょ、了解!』
地上も激戦だったが、空中はそれにも増して派手に、そして広範囲に渡って激戦が繰り広げられていた。まぁ、飛空艇にせよ大型魔導鎧にせよ攻撃範囲が非常に広いのだ。戦線が広がるのは無理もなかった。
『中央のマクダウェル家の艦隊に向けて砲撃を続けろ! あそこはウチ以外じゃどうにもならねぇ!』
『旗艦がまだ動いてませんよ!?』
『後の事は後で考えろ! てか、旗艦まだなのに被害大きすぎなんだよ!』
技術力が違いすぎる。アウィスは寄せられる各方面からの増援要請に対して矢継ぎ早に対応しながら、声を大にする。今回はある程度本気で攻めている風を装うべく、マクダウェル家も連れてきていた三分の一ほどの艦隊を前に出した。他にもブランシェット家が連れてきた艦隊の戦力の半分出している等、かなりの戦力で攻めていた。
「うぁあ……」
また来たよ。アルは<<天駆ける大鳳>>の攻撃をカイトの支援抜きで防がねばならない現状に僅かに辟易した様子を見せる。が、やらねばならない以上、やるしかなかった。
「はぁ! ぐっ!」
気合を入れた直後に襲いかかる強大な光条に、アルは盛大に顔を顰める。魔導砲の一撃とは思えないほどの強撃だった。そうしてたっぷり数秒。砲撃が停止する。
「はぁ……はぁ……」
『少尉。まだ行けるか?』
「まだなんとか」
『……そうか』
流石に辛そうか。隊長はアルの額に滲む珠のような汗を見て、あまり余裕は無い事を理解する。が、下では陸戦隊が侵攻を続けているのだ。引くわけにもいかなかった。と、そんな所に通信が入り込む。
『アルフォンス。一旦引きなさい。余裕がかなりなくなっているはずです』
「クズハ様。ですが……」
『問題ありません。このまま一気に、とは行かずとも所詮は飛空艇だという事ぐらいはわからせます』
ここで引くわけにはいかない。アルもまた隊長と同じ考えであるが故の撤退命令に対する反論に、クズハはしかし首を縦に振る事はなかった。とはいえ、その理由を即座にアルは理解する事になった。
『『『っ……』』』
『久しぶりにちょっとだけやる。アルは下がって良いよ』
「アウラ様……わかりました。補給のため、一時撤退します」
『ん』
なるほど。たしかに彼女であれば自分よりはるかに広域に、そして強固な防御を展開する事が出来るだろう。アルは天使の如き純白の翼をはためかせて戦場の中心に舞い降りたアウラを見て、撤退が最良と理解する。そうして彼は飛翔機を吹かして、前線にほど近い所まで移動していたマクダウェル家の飛空艇に着艦する。
「少尉! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫です! ただ回復薬を急いで!」
「おい、急いで少尉に持っていけ!」
「は、はい!」
「俺達は今の内に各所のチェックをやるぞ!」
「「「おう!」」」
アルの着艦と同時に、整備兵達が大急ぎで魔導機のシステムチェックや破損状況のチェックを行う。その一方、上空の防衛側艦隊は静まり返っていた。いや、静まり返ったのは防衛側だけではない。攻略側さえ、静まり返っていた。
『『『……』』』
アウローラ・フロイライン。皇国初代宰相にして永世宰相の孫娘。そして伝説の勇者の義理の姉にして許嫁。当人もまた伝説級の次元・空間系魔術の使い手。彼女を取り巻く二つ名はあまりに多く、そして有名過ぎた。下手に手を出して良い相手では決してなかった。故の停滞だった。
「……」
固唾を呑んで見守る周囲の一方。実はアウラは何も考えていなかった。というわけでぽやん、といつもの様に滞空するだけの彼女を見て、ティナが気が付いた。
『お主……なーんも考えとらんじゃろ』
「……ん」
『はぁ……まぁ、防壁の一つでも張ってやれ。ああ、そういや召喚系魔術お主出来たな?』
「ん」
ティナの問いかけにアウラは隠すでもなくはっきりと頷いた。これは三百年前当時は使えなかったのだが、カイトを召喚しようと練習する中で召喚系の魔術も空間系や次元系の魔術と同等には使える様になっていたらしい。
「何体か出す?」
『ああ、良い。お主は出し惜しむ札じゃ』
「ん」
別にアウラとしては特別興味のある事ではなかったし、こんなものは副産物に過ぎないのだ。なので隠す意味も必要性も見出していなかった。何より召喚術師とバレても何を召喚出来るかはわからない。というわけで召喚獣達に関しては召喚待機状態を維持する事にして、アウラは杖を少しだけ持ち上げようとして、停止する。
「……あ」
『どした?』
「……今やっても無駄じゃない?」
『お主……どんな防壁張ろうとしとったんじゃ。単に適当にアルが帰るまで魔導機と魔導鎧の大隊を守れる程度で良い。お主がおるぞー、程度で良いんじゃ』
「おー」
その程度で良かったのか。アウラはうっかり戦場全域を完全に両断するほどの大きさの次元の断層を生み出そうとしていたらしく、ティナの言葉にどこか拍子抜けした様子を見せていた。とはいえ、目処さえ見えれば後は早かった。
「じゃあ、こんなぐらいで」
『『『!?』』』
かぁん。爆音轟く戦場においてさえはっきりと聞こえる杖の音が鳴り響き、巨大な次元の断層が発生する。そこに更にアウラが杖を一振りすると、それだけで攻略側からは向こうが見えるが防衛側からはこちらが一切見えないというマジックミラー状態の防壁の出来上がりだった。
「これで一方的に攻撃出来る」
『え?』
「こっちからの攻撃は通って、向こうからの攻撃は通さない。これはそんなの」
『え、あ、は、はっ! ありがとうございます! か、各機! アウローラ様が作って下さった防壁を無駄にするな! 今の内一気に数を減らすぞ!』
『『『お、おう!』』』
一体全体何を言っているのだろうか。そんな様子で困惑を隠せなかった隊長であるが、アウラが言うのだからと信じて攻撃を開始する。というわけで戦闘再開という様子で砲撃を開始した攻略側に、防衛側もまた大慌てで反撃を開始した。
『っ、目くらましか!?』
『とりあえずこちらも撃て! 小型艇はあの防壁を迂回し、後ろの状況を報告させろ!』
『地上からの報告はまだか!』
真っ黒な壁に阻まれ攻撃がどこから来るかわからない、という最悪の状況の中。防衛側飛空艇の艦長達は苦心しながら対応を告げていく。そしてそんな状況はすぐに、背後のレヴィ達やバルフレア達ユニオン最高幹部達に伝えられる。
「はぁ……これだからマクダウェル家の奴らは嫌なんだ」
『おい、ウィザー! 見たか、今の! アウラの奴、すげぇ事出来る様になったじゃねぇか!』
「なんでお前はそんな嬉しそうなんだ……」
おそらく親戚の兄貴分の心情なのだろうが。レヴィは興奮冷めやらぬバルフレアの言葉に、盛大にため息を吐いた。
「言っておくが、これに対応せねばならんのは私達だぞ」
『わかってるって! 出て良いか!?』
「駄目に決まっているだろう! さっき言ったな!? 貴様の出番はこの後だと! 何よりアウラ一人に八大二つも差し向けられるわけがあるか!」
こんなものはアウラにとっては朝飯前の見せ札だ。しかもアウラの前面にはアウィスら<<天駆ける大鳳>>まで居るのだ。この状況下でバルフレアに出られては堪ったものではなかった。
『わ、悪いって……そうカッカするなよ』
「はぁ……誰のせいだ、誰の……興奮するといの一番に出ていくのは貴様の悪い癖だ。いい加減直せ」
『わ、わかってるよ。居ても立っても居られなくてさ……』
「はぁ……アウィスに連絡を取れ。この程度は貴様らで対応しろ、と伝えろ」
「りょ、了解しました……」
大変そうだなぁ。ハイゼンベルグ家のオペレーターはアクの強い冒険者達を取りまとめるレヴィに対して、そう思いながら彼女の指示を伝達する。というわけで、その指示を受けたアウィスはこれは本格的に打って出るべきタイミングと腹をくくる。
『との事です』
「了解……ふぅ」
相手は伝説の勇者の義理の姉にして、超級の空間系・次元系魔術の使い手だ。アウィスはアウラ一人に完全に全ての攻撃を防がれる現状に一度だけ深呼吸をする。そんな彼に、艦橋の一人が口を開く。
「……ものすごいっすね、アウラ様。全然傷一つ付きやしない」
「マジでな。おい。試しにウチの主砲。最大出力でぶちかましてくれ」
「え? さ、最大出力っすか?」
「やるだけやってみるだけだ」
やる前から結果なんて見えてるけどな。アウィスは内心でそう思いながらも、どの程度通用するか見てみたいという子供心にも似た興味が抑え切れなかったようだ。と、そんな<<天駆ける大鳳>>の旗艦艦橋に彼の父アムティスが駆け込んできた。
「アウィス! 主砲を最大出力で」
「もうやってる!」
「そうか!」
どうなるだろうか。<<天駆ける大鳳>>のギルドメンバー達はかつての英雄の中でも中心核に位置する者たちにどれだけ通用するか、固唾を飲んで見守る。そうして、数分後。先にアルに撃った時とは桁違いに蓄積された旗艦の主砲が発射される。
『何だ!?』
『魔導砲!? これが!?』
あまりにあり得ない。周囲の者たちは<<天駆ける大鳳>>の最大の一撃に度肝を抜かれる。比較するのであれば、ラエリア内紛での巨大魔導砲の一撃。それにも匹敵していた。が、そんな一撃もアウラの防壁の前には、意味をなさなかった。
「嘘だろ……」
「き、傷一つ無し……」
「くっ……」
「ぷはっ!」
「「あっはははは!」」
あまりに圧倒的な戦闘力に、アウィスもアムティスも笑うしかなかったようだ。これでまだカイトら戦闘員ではなかったというのだ。彼らからしてみればその頂点たるカイトがどれほどの化け物だったのか、と信じられなくなる一幕であった。
「親父。次は俺が出るぞ」
「好きにしろ。空中戦ならお前の方が上手だ」
「おう」
ばさっ。アウィスは天族の翼に似た翼を背に顕現させ、空中へと舞い上がる。そうして彼はアウラへと剣の切っ先を向ける。
「ふぅ……挨拶代わりの一発だ! 受け取ってくれ、アウラ様!」
どうやら八大の一角が出てきたらしい。アウラは攻撃の鋭さからそれを理解する。
「クズハ……10分で戻る」
『え、あ、10分ですね。タイマーセットしておきます』
「よろしく」
アルが引いて回復薬を飲んで、それからここまで戻ってくる時間。アウラはそこらを複合的に判断した結果、アウィスとの交戦時間を10分と判断したようだ。というわけで、アウラは少しの間だけアウィスとの空中戦を行う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




