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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2672話 合同演習変 ――休憩――

 皇帝レオンハルト主導で行われる合同軍事演習。そしてその裏で行われる各国大使や各諸侯らを集めての夜会に参加することになったカイト率いる冒険部上層部。

 そこで瞬はバーンタインと再会すると、彼からウルカの大使というアーキルなる人物を紹介される。そうしてそんなアーキルが話したのは、ウルカ砂漠にて新たな遺跡が発見されたことと、そこから出土した古代の魔導鎧はウルカ砂漠の盗賊達が使う物のオリジナルではないか、と思われていることだった。

 というわけで、鎧の調査に対する協力要請を受けた瞬はアーキルとバーンタインの二人を別れると個室からパーティ会場に向かう道中で立ち止まって、リィルに周囲の警戒を頼み一旦カイトへと現状を報告していた。


「と、いうわけだそうなんだが……もし受けてくれるのなら幾つか見つかっている鎧の内一つをそちらに供出することも吝かではない、ということだ」

『ふむ……たしかにあの砂漠のクソ野郎共には各方面煮え湯を飲まされている。魔族達からも討伐してくれ、という陳述書が結構来ているみたいだしなぁ……』


 魔族領から大陸西部に荷物を運ぶ場合、幾つかの難所を超える必要がある。その難所が幾つかあるルートでもこのウルカの砂漠を通るルートは本来比較的安全なルートが多く存在していたらしい。ここが使えなくなって困ることも多かったようだ。


「お前は何も知らないのか?」

『なわけねぇだろ。ウルカ共和国は皇国だと一番ウチが繋がり強いんだ。魔族領も勿論……だからかウチにまで陳述書が届くんだよ。ややこしいったらありゃしねぇ。魔族にいたっちゃこっちのが近いしな』

「そ、そうか」


 あくまでもウルカ政府に届いているらしい、という話だったようだ。瞬はカイトの辟易した様子の返答にそう察する。とはいえ、ではカイト――ひいてはクズハ達だが――が動けたかというと他国だ。

 ウルカ政府の手前正規軍は動けないし、さりとて冒険者として動こうにも<<暁>>の面子がある。調整程度しかしてやれないのが現実だった。


「とはいえ……とりあえずバーンタインさんからの仲介もあったし、こちらで仲介の話を請け負ったんだが……」

『ああ、それについては受諾の方向で構わん。どうにせよ、オレが関わらない話にはならんだろう。何よりこれが蟻の一穴になって十数年続いてる奴らの天下を終わらせられるかもしれん。協力は悪い判断じゃない』


 カイトとしても盗賊共がのさばる現状をよしとはしていないのは明らかだ。が、現状はバーンタインさえ手傷を負わされたという事実があったため、迂闊に攻め込みたくないというのがあった。その情報が手に入るかもしれないのだ。断る理由がなかった。


『で、他に何か言っていたか? 実際に引き渡す際の手筈とか』

「えっと……大使さんは南部ルートを使いたいとのことだ」

『南部ルートか……』


 瞬の言葉にカイトはそちらの方が安全か、と一つ唸る。そんな彼に、瞬が問いかけた。


「確かウルカへ向かうルートは二つあるんだったか? 俺が使ったのが北部ルートで、南へ向かうのが南部ルート……」

『ああ。北部ルートはウルカの砂漠を突っ切ることになるから若干危険性が高い……使うのはウチやヴィクトルみたいに手を出すと大国の物量とかで一揉みにされるとバカでもわかる所だな』

「だが相手は盗賊だろう?」

『ウチの船に手を出してみろ。魔族領と連合組まれた挙げ句、<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>さえ出てくるぞ。正気じゃやってられん。勿論、ウルカも皇国も出てくるから物量作戦展開されて終わるな。一応、ウルカ政府の立場もあるし皇国としても遠くて利益薄いから意図的にはやらんがな』

「な、なるほど……」


 大の盗賊嫌いとして知られているカイトが率いているマクダウェル家だ。そこの飛空艇に手を出すなぞ、まさにこれ幸いと攻め込む格好の言い訳を与えたようなものだった。

 勿論、こうなった場合は<<暁>>とて黙ってはいられない。世界最大のギルドに世界最強の貴族を敵に回し、挙げ句大国二つを相手取って戦わねばならないのだ。勝敗なぞ火を見るより明らかだった。


『まぁ、それはあくまでもウチや一部の手を出すとヤバい奴らが比較的外れたルートを使うって話だ。一般的なのは南部ルート。南に一度出て、そこから西へ。その後北上して最後にマクダウェル領というルート……こちらは遠いので時間はかなり掛かるが、安全は安全だ』

「今回はそちらを使いたい、ということだ」

『ふむ……まぁ、妥当なのかもしれんか。たしかにウチがやっていてもそっちのルートの方が良いか……?』


 アーキル、ひいてはウルカ政府の懸念を考えて、カイトはこれが妥当なのだろうと判断する。これに、瞬が問いかけた。


「何か気になることがあるのか?」

『まず未知の鎧ってことだから、何があるかわからん。もし何か意図的に動かせるような機能があった場合、もしくは近くにオリジナルの鎧があることがわかるような魔道具があった場合、狙われる可能性がある。砂漠は突っ切らん方が良いな。今回は特にウチが動けるわけじゃないから、最悪は撃墜されかねん』

「なるほどな……それだと海に出た方が万が一があっても回収出来る可能性はまだあるか」

『そういうことだな……わかった。こちらで受け入れ体制とかは整えさせておく。後はまぁ、報告が上がった体でウルカの大使には伝えておこう』

「わかった」


 カイトの返答に瞬は一つ頷いた。そうして、相談を終えた二人は再びパーティに戻っていくのだった。




 さて瞬との相談を終えたカイトはというと、分割していた思考を停止させて改めてシャーナと共に各国の大使との間で話を続けていたのだが、何も各国の大使との間だけで話をするわけではない。

 当然有力な各界の大物達とも話していたわけであるが、今度はそうなるとシャーナ側の体力・精神力が保たなくなることが危惧されることになる。というわけで、そこを適時フォローするのがカイトの役割であった。


「ふぅ」

「ほ、本当に手慣れていますね」


 あっという間に会場の中心から誰に悟られるでもなく抜け出したカイトに、シャーナは驚いた様子だった。まぁ、社交界で好き勝手にしていた経験であれば、間違いなくカイトの方が上だろう。逆にここらはシャーナはまだまだ新人という所であった。


「時として逃げの一手が重要であることは友から学ばされましたから」

「そうですか……はぁ」


 一応、シャーナも王侯貴族としての最低限の教育は受けさせられている。なので社交界で話すことは出来たが、如何せん彼女の場合は血の力があった。一応、腕輪で抑制することも出来たが彼女はこの場ではそれをしていなかった。それ故にか疲れた様子の彼女へ、カイトが一応申し出た。


「辛いようでしたら、腕輪をされた方が」

「ふふ……大丈夫です。まだいけます……あ」

「ならば、この場だけでも」

「……ありがとうございます」


 シャーナの力はたしかにこの生き馬の目を抜く者たちがひしめき合う社交界では非常に有用だ。が、その負担は並々ならず、久方ぶりに力を解放していたからか彼女にのしかかる負担も大きかったようだ。

 というわけで、それを察知していたカイトから強制的――といっても動きは非常に優雅だったが――に腕輪をはめられ、シャーナは彼の顔を立てることにした。そうして感じられなくなった周囲の様々な気配に、彼女は僅かな安堵を浮かべる。


「ふぅ……」

「無理はなさらず。長丁場になりますので……」

「私より、貴方の方が大丈夫ですか?」

「無論です。一番忙しかった頃なぞ、朝から夕方までマクダウェル領を回って魔物の討伐。そこから皇都へ出てパーティに参加ということもしたことが。それに比べればまだまだ」

「そ、それはまた……」


 カイトだから出来るとしか言いようのないことを。シャーナはおそらく冗談ではないだろうカイトの言葉に頬を引きつらせる。というわけで、彼女は一つ頷いた。


「まぁ……それなら良いのです。そうだ。そういえば相談事の方がもう良いのですか?」

「相談事?」

「思考回路が分割されていた様子ですので……何か話をされていたのではと」

「おや……」


 まさか気付かれていたなんて。カイトは自身の挙動からは見抜けなかったはずな――現にその時話していた大使は一切気付いていなかった――のに、どうやってか気付かれていたことに驚きを浮かべる。

 というわけで、これはブラフやカマかけではないだろうとシャーナの様子から判断。素直に認め、問いかけることにした。


「どの様にして気付かれたのですか?」

「どうにも血の力を使うと、ある程度思考の分割も見抜けるみたいです。思考回路を分割している者には共通して二重にぶれてしまうのが見て取れます」

「なるほど……これは迂闊に思考の分割はできそうにないですね」


 これは知らなかった情報だ。カイトはシャーナの言葉に半ば苦笑気味に笑う。そしてそんな彼が気になったので問いかける。


「ですが当初からそのような事が?」

「いえ……気付いたのは先日。カイトが来てくださった時です。あの時も色々とお忙しかった様子ですが……その時、ふと貴方の中に二つの波? のようなものがある事に気がついたのです」

「ああ、あの時ですか……」


 ここ暫くは色々と忙しかったとはいえ、シャーナの所へ伺う事は欠かせていない。なのでなんとか時間を捻出していたわけであるが、やはり忙しかったせいでか思考を分割したりして他の作業を行わざるを得なかったのだ。


「ええ……そこで初めて思考の分割をしている時にはそう見えるのでは、と。おそらく何度も何度も見ていたから、気づけたのでしょう」

「なるほど……」

「忙しい中、いつもありがとうございます」

「あはは」


 自身に礼を述べるシャーナに、カイトは少しだけ笑う。まぁ、それも仕事だと言えば身も蓋もない。なので笑うだけに留めたようだ。と、いうわけでそんな彼は気を取り直して先程の念話の件を正直に答えた。


「まぁ……あちらは問題ありません。単にウチに調査依頼が、という所でしたので」

「何かまたややこしい事に?」

「どうでしょう……ならねば良いと思いますが」

「そうですね……そろそろ、貴方にもお休みを取って貰いたいと思っている人は多そうです」

「あはは……取れれば、取りたいですが……まぁ、今回の演習が終われば少しはマシになるでしょうか。それも終わってからですね」


 終わったら終わったで今まで遅延していた色々が動き出しそうではあるが。シャーナのねぎらいに対して、カイトは少しだけ内心でため息を吐いた。


「そうですか……なら、もう少しここで休んでいきましょう」

「あはは……はい」


 せっかくのシャーナの厚意だ。カイトは有り難くそれに甘えさせて貰う事にする。そうして、少しだけ会場から離れた場で一服して、二人は改めて会場に戻っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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