第2671話 合同演習編 ――古代の鎧――
皇帝レオンハルト主導で行われる合同軍事演習。それに参加した冒険部一同であったが、それも初日が終わり次の日に持ち越しとなる。が、それで終わりではなく、上層部の男三人衆と由利に関してはその後も皇帝レオンハルト主催の夜会に参加することになり、ソラは今後の活動を見越して商人や銀行の重役達。瞬はリィルと共にいつもどおりの軍のお偉方と話をしていた。
そんな中でバーンタインから紹介されたのはウルカの大使であるアーキルという男であった。そんな彼であるが、なにかの目的があって二人に接触したとのことで、少しだけパーティの中心から離れた静かに話せる場へと移動していた。
「こんな部屋があるんですね」
「ええ……利用されたことは……無いですか」
「ええ……カイト……ギルドマスターならあるのでしょうが」
四人が移動したのは、会場の脇に用意されていた二階部分。会場は見れる個室みたいなスペースだった。やはり諸侯が集まると込み入った話をしなければならないことも出てくる。そういった時のために用意されていたものだった。なお、当然皇国により盗聴はされるので密談に使うというよりも周囲に聞かれて面倒になりたくない場合に使う、というのが正しいものだった。
「ははは、なるほど……ああ、バーンタイン殿。まずは場を整えてくださりありがとうございました」
「何、良いってこった」
まずはと一つ感謝を述べたアーキルに対して、バーンタインは一つ首を振る。というわけで改めて落ち着いて話を出来る状態になった所で、アーキルが一つの映像投影装置を机の上に置いた。
「さて……本来なら色々と前置きをさせて頂くのですが。お互いに時間はあまり無い。なので単刀直入に話をさせて頂きます。こちらを、ご覧ください」
アーキルはそう言うと、机に置いた装置を起動。そうして映し出されたのは、完全ではないものの半ば朽ち果て半壊した様子の鎧だった。胸部の部分に本来は輝くのか何かが放出されるのかはわからないがガラスに似た部材が使われており、どこか古臭くもあり近未来的でもあるという少しアンバランスな鎧だった。そんな鎧を見て、リィルは小首を傾げる。
「これは……」
「瞬。お前さんは、見覚えねぇか?」
「……」
バーンタインに問われて、瞬は改めて映し出された鎧を見る。それに見覚えはなかったが、たしかに思い当たる節はあった。
「……見た覚えはありませんが……盗賊達が使っていた軽鎧に似ているかと。ただ間違いなくこの中央のガラスみたいなものはなかったし、他にも色ももっと茶色かったような……」
「ええ……これはウルカの大砂漠を拠点とする盗賊達が使っている軽鎧の原案……もしくはプロトタイプ、いえ、オリジナルと言っても良いやもしれません」
「「オリジナル?」」
瞬とリィルは揃って首を傾げる。これに、アーキルが確認の意味で問いかける。
「ええ……大砂漠の盗賊達が奇妙な魔道具を使う、というのは貴方達もご存知ですね?」
「ええ……ウルカ滞在中に何度か交戦しましたので……そこで見たことが」
「私も瞬から伺っています」
軍務で出向していたリィルと冒険者として<<暁>>に預けられた瞬では行ったことが異なっていた。なので瞬はウルカの盗賊達と何度となく戦ったが、リィルはその魔道具類を見たことがなかったのである。
「この鎧も実はその一つなのです」
「俺が手傷を負わされたことがある、ってのは瞬。お前さん聞いたことがあるよな?」
「ええ……まさかそれがこれと?」
「恥ずかしい話だがな。こいつはオーグダインが何度か出た戦いで撮影されたものだ」
瞬の問いかけに対して、バーンタインは懐からアーキルと同じような魔道具を取り出して机の上に設置。数枚の写真を投影する。そこにはオーグダインと戦う盗賊達の姿があり、彼は商隊か何かを支援しつつ撤退している様子だった。そんな盗賊達の数人を見て、瞬が頷いた。
「ああ、この鎧です。俺が見たのは……」
「だろうな……見て欲しいのはそっちじゃない。こいつらだ」
バーンタインはそういうと、写真の奥の方。瞬が見た簡易版の鎧を身に着けた末端の盗賊達ではなく、小さく映る盗賊達だった。そんな盗賊達の身に纏う鎧を見て、二人は横のアーキルの写真と見比べる。
「これは……」
「同じもの……でしょうか。若干細部に違いはありますが……」
「ああ。俺達もおおよそ同じ物じゃないか、と考えている」
バーンタインはリィルの言葉に頷きながら、更に何枚もの写真を展開。そのいくつかに写り込んだアーキルの展開した映像の鎧に似た鎧を身に着ける盗賊達を確認させる。というわけで、おおよそは同じ鎧か同じ出所だろうと納得した二人にアーキルが続けた。
「おそらく色々と差が出ているのは、修復する際に失われた部分を現在の技術で再現したりしたことによるものなのでしょう」
「この鎧を身に着けている奴らは、俺達の調査によると盗賊王を名乗ってる奴の側近……親衛隊の奴らだ。こいつらが使うのが、このオリジナルってわけだ」
「「なるほど……」」
確かに言われてみれば偉そうにふんぞり返っている様に見えなくもない。というわけで、瞬が問いかけた。
「ということは、この鎧はこいつらから?」
「いや……そういうわけじゃねぇんだ」
瞬の問いかけに首を振るバーンタインはアーキルを見る。というわけで、今度は彼が言葉を引き継いだ。
「この鎧ですが、最近新たに大砂漠で見つかった遺跡で発見された物です」
「新しい遺跡……ですか。たしかにウルカの大砂漠は発掘調査もあまり進んでいないとは聞いていましたが……」
「ええ。飛空艇技術が黎明期を迎え、ようやく安全な作業の見込みが立った所で奴らに砂漠の中心から大半を押さえられましたので……」
思うように砂漠の調査は進んでいなかった。アーキルはため息混じりに首を振る。
「そんな折です。バーンタイン殿から話があり、マクダウェル家と共に再度バランタイン様の資料を漁るとその中から未発見の可能性が高い遺跡が幾つか見つかった、と」
「まぁ……そんなわけだ」
お前らはわかるよな。バーンタインはアーキルが自身を見ていないのを良いことに、視線で二人にそう告げる。そしてこれで二人もおおよそは察したようだ。というわけで、これは本題に関係がなかったのでバーンタインがそのまま本題を進めさせる。
「で、その見付かった遺跡ってのはどうにも奴らも手を出してなかった遺跡みたいでな。まぁ、かなり砂漠のはずれにあって、完全に砂に埋もれちまってたからしゃーないっちゃしゃーないんだが……」
「砂に埋もれていたって……良く見付かりましたね」
「大親父の情報がなけりゃ、絶対に探しちゃいねぇだろう。ウチの奴らの大半だって大親父の情報って話がなけりゃ真面目に探しもしやがらなかっただろうぜ」
何度か言われていたことであるが、ウルカにおけるカイトとバランタインの支持率はもはや異常な領域に到達している。それは仕方がないものではあったのだが、それ故にこそ手がかりがそれしかない状況でさえ誰もが真面目に探したらしい。そしてその結果、見付かったのである。と、そんなウルカの民達の頑張りを呆れながらも、バーンタインは首を振る。
「まぁ、そりゃ良いんだ。兎にも角にも見付かりはした……ってなわけでウチがそのまま調査に入ってな。そこで見付かったのが、こいつってわけだ」
「半壊しているのは遺跡が砂に飲み込まれて、とかでしょうか」
「いや、おそらく魔物の襲撃に遭っちまったんだろうぜ。近くに砕けた武器が落ちてたから、相打ちかやられてくたばったかだろう。やっこさんの死体、回収もされずそのままだったからま、そういうことなんだろうぜ」
回収することさえ出来ないほどにボロボロになってしまったのだろう。瞬はバーンタインが語る話を聞きながら、そう思う。とはいえ、その結果この情報が手に入ったのだ。後世の彼らからすると、悪い事ではなかった。
「ええ……それでその遺跡については今はウルカ共和国が密かに支援しつつ、バーンタイン殿やオーグダイン殿に調査を進めて頂いています」
「俺とあいつじゃねぇけどな……リーナ、覚えてるか?」
「ええ。娘さんの、ですよね?」
「おお。あいつが調査隊率いてる。俺とダインの奴は目立つからよ。盗賊共を引っ掻き回して、その裏であいつが調査してくれてんだ」
「「なるほど……」」
リーナというのはバーンタインの娘の一人で、大柄な女性だ。ウルカに居た頃に瞬は何度か世話になっていた。腕前も確かで瞬曰く、強くなった今でもまだ勝てないだろう、という猛者の一人だった。
が、彼女当人はバーンタインやオーグダインに比べて目立っていない――意図的に目立っていない類――ため、オーグダインが表立って盗賊と戦う間にこうやって密かに情報を集めているのであった。
「で、そいつを筆頭にいくらかまだマシな魔導鎧が出土してな。まぁ、盗賊共にバレない様に密かにやってるから、中々進んじゃいないんだが……」
「それでも、今まで手に入れられなかった情報を幾つも手に入れることが出来ています。そこで、お二人……バーンシュタット家。ひいてはマクダウェル家、もしくは冒険部の皆さんに依頼したいのはこの魔導鎧の解析へのご助力となります」
「解析?」
確かに技術班を持ち合わせている冒険部ならば解析まがいなことは出来るだろう。瞬はそう思いつつも、マクダウェル家の技術力の方があまりに圧倒的過ぎて比較にならないが故に困惑を隠せないでいた。と、そんな彼に今度はバーンタインが告げた。
「ああ……まぁ、瞬。お前さんの困惑は尤もだ。が、これにゃ勿論しっかりとした理由がある」
「理由……ですか?」
「ああ……大使さん」
「はい……」
バーンタインの要請を受けて、アーキルは投影されている鎧の映像を回転させる。そうして映し出されたのは、ちょうど肩の部分だ。かなり擦り切れていて見えにくいが、そこには何かしらの意匠が彫り込まれていた。
「これは……」
「魔術的な意味はさほどありません。が、何かしらの意味がある紋様であることだけは事実です」
「おう……そういうわけでよ。確かに技術的な解析ならクズハの叔母上に頼んじまうだけで良いだろうが、宗教的な話になってくるともしやすると、って話になる。で、こっちのことがわからねぇ俺らだと判断しかねるから、お前ら通した方が早いだろう、って判断したんだ」
「なるほど……たしかに、エネシア大陸の神話に関してはこちらの方が情報がある可能性はありますね……」
これは仕方がないことではあるのだが、どうしても旧文明に属していた者たちと直接つながるのはカイトだ。そして現在冒険部では遺跡探索を専門としていることもあり、そこらの情報は他のギルドや貴族より多く保有していることになっている。
そして何度か言われているが、ここ一年のエネフィアで一番多く遺跡探索の実績があるのは冒険部だ。冒険部の意見も、と思ったのは自然な流れだっただろう。勿論、その裏にはカイトに報告するならこの二つのルートが一番確実と思ったことも大きかった。
「わかりました。カイトに相談しておきます。返答はどうすれば?」
「私の方へ持ってきて頂ければ。この三日間なら皇国の旗艦にいますし、そこから先は皇都に居ますので……連絡は取れるかと」
「わかりました」
兎にも角にもカイトに是非を確認しないことには動けない。というわけで、瞬はアーキルの要請にひとまず応ずることとして、この案件を持ち帰ることにするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




