第2659話 合同演習編 ――夜会――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習。それの初日が終わってその日の夜。今度は皇帝レオンハルト主催の各国の大使や貴族が集まったパーティが開かれることになっていた。
というわけで、シャーナから同伴の指名を受けおまけに皇国からの要請もあったカイトは彼女の同伴者として夜会に参加。一方その結果空白になった冒険部の代表には瞬とソラの二人がそれぞれリィル、由利を伴って参加していた。
「これ……は」
すごい数だな。こちらは教国側からの要請で夜会に参加することになっていたルーファウスであったが、やはり大陸でも有数の大国と呼ばれるエンテシア皇国。それも皇帝レオンハルトが主催するパーティの凄さは想像を超えていたらしい。思わず言葉を失っていた。
「瞬殿。瞬殿は一度皇帝陛下の参加される夜会に参加したことは?」
「いや、無い……なんで驚いている。すごいな、この数は……そういえばソラ。お前はたしかアストレア家のパーティに参加したことがあると言っていたな?」
「この間の依頼の時っすね。まぁ、流れで参加した、って所っすけど」
ソラが思い出していたのはリデル家でのコンベンション前に行われたアストレア家による懇親会だ。その時も五公爵の一角が主催するパーティとあって人は沢山参加していた。というわけで、彼へと瞬が問いかける。
「それと比べてどうなんだ?」
「ああ、そりゃこっちのが多いっすね……まぁ、騒がしいとかそういうのならあっちだったかもっすけど」
「そ、そうなのか?」
アストレア家のパーティは騒がしいものなのだろうか。瞬は騒々しいパーティというものがいまいち想像出来ず、困惑した様子で首を傾げる。
「ああ、いや……たしかに騒がしいんっすけど、別にうるさいとかそういうわけじゃなくて……あれは一応ペット愛好家達の集まりって所があるらしいんで、まぁ、そういうことっすね」
ここには当時参加していた参加者もちらほらと見受けられるのだ。勿論、アストレア公フィリップもすでにいる。迂闊なことは言えなかった。とまぁ、そんな感じで開会まで暫くを過ごすわけであるが、アリスが口を開いた。
「兄さん」
「ん? ああ、あそこか。皆、すまないが、父が居た。一旦失礼する」
「ああ、そうか……また後でお父上にはご挨拶に伺う。よろしく伝えておいてくれ」
「ああ」
瞬の返答にルーファウスはアリスと共に一同に一度だけ頭を下げて、その場を後にする。ここまで一緒に来たは来たが、一応二人は軍務で冒険部に出向している形だ。なのでここでは父と共に行動することになったようだった。というわけで去っていく二人の背を見送った瞬だが、そんな彼はふと見覚えのある影の姿を発見する。
「あれは……」
「バーンタインですね」
「ああ」
リィルの言葉に瞬も一つ頷いた。この会場には八大ギルドのギルドマスターが全員揃っている。なのでバーンタインの姿があっても不思議はなかったのだが、彼ほどの大男だ。殊更見付けやすかったらしい。
なお、バーンタインはウルカの大使と共に歓談しつつ、パーティの開始を待っている様子だった。と、そんな彼らに今度は後ろから声が掛けられる。
「瞬くん」
「ブラスさん。お久しぶり……というほどではありませんが。お疲れ様です」
「ああ」
声を掛けたのはリィルの父ブラスだ。まぁ、バーンシュタット家、ヴァイスリッター家両家と瞬はかなり懇意にしている。前者は恋人の実家だし、後者は妹の恋人の実家。アルは同僚に近いのだ。
なにげにカイト並には近い所にあるのだった。そして軍とのやり取りを行う場合は瞬が主軸になることが多いため、今回の演習でも連携の確認等で足繁くブラス達と話をしていたのであった。
「すまないね、娘の同伴を頼んでしまって」
「いえ、大丈夫です」
「ありがとう……っと、アルフォンスくん」
「なんです、おじさん」
瞬の返答に再度の感謝を示したブラスであるが、そのままアルを見る。
「エルロードなんだけど、少し遅れるよ。ちょっと軍務が長引いてしまってね……まぁ、軍務というか、だけど」
「あ、はぁ……」
一応、マクダウェル家特殊部隊においてエルロードは団長。ブラスが副団長になっている。なので他家とのやり取り等が絡むとどうしてもエルロードが立たねばならないことは少なくなく、今回は状況が状況なので特にそうだったのだろう。
「っと、そういうわけだから暫くは君とお兄さんで応対しておいてくれ、とのことだ」
「え」
「ははは……ああ、それで……礼を失することにはならないように見てやる、だそうだから頑張って」
「……」
マジか。アルは驚いた自分に対して告げられた言葉が誰のものかを理解して、拒否権は無いと理解する。まぁ、誰かなぞ考えるまでもなくカイトだろう。この状況を聞いたカイトはそろそろ社交界での独り立ち覚えて良いだろう、とエルロードの遅刻を許したのである。というわけで去っていった幼なじみの父の背を見送って、アルは深い溜息を吐いた。
「マジかぁ……まぁ、主体的には兄さんが対応してくれるんだろうけども」
「駄目なの?」
「駄目だろうね……」
こういう時ばかりは自分が天才ともてはやされたことが嫌になる。アルは凛の言葉に盛大にため息を吐いた。と、そんな彼にリィルが少しだけ同情気味に告げる。
「まぁ……頑張りなさい」
「うん……はぁ」
嫌だなぁ。アルは暫くは自分で頑張る量が増えることになりそうだ、と考えて少し憂鬱な様子だった。と、そんなこんなで知己を得ている面々の来訪を受けつつ開幕を待つわけであるが、開幕まで後わずかになった所で場が僅かなざわめきを生んだ。
「ん?」
「……シャーナ様が来たっぽいっすね」
こういう場においては、やはり瞬よりソラの方が場馴れしていたようだ。なので彼は場のざわめきが生まれるタイミングやそれがどちらの方角から始まったのか、等を見抜くとそちらに視線を向けて震源を理解したようだ。
「っ……何度かはお見かけしたが。やはり王族か」
「っすね……お飾り、には見えないっすね」
お飾りや傀儡の王なぞではなく、シャーナからは一人の王としての風格が滲んでいた。それについてはソラ達も一応話したことがあるのでわかってはいたが、今回は内々の場ではなく外交の場での姿だ。やはり風格が違っていた。
「だが……それにしたってざわめきが大きすぎはしないか?」
「そりゃ……多分顔を出すのがほぼ初めてだからっすかね」
「初めて?」
シャーナの姿は何度か見ているし、たとえは大陸間会議の折にも姿は現している。この場にはあの会議に参加していた者も少なくない。なのに初めて見るとはどういうことなのだろうか、と瞬は首を傾げる。
「いや、ほら……前までシャーナ様って顔を隠されてたっしょ?」
「あ、そういえば……」
シャーナの亡命が報じられた時もそうだし、大陸間会議の時も彼女の顔は隠されていた。その素顔を見たのはほぼほぼマクダウェル近辺か皇国上層部のみだ。それが顔を露わにして現れたのである。ざわめきもむべなるかなであった。
「だが良かったのか? 顔を隠していたということは意味があったんだろう?」
「あー……いや、そりゃ多分……」
顔を隠す意味はなんだったのか。それを察していたソラは瞬の疑問に苦い顔だ。というわけで、そんな彼に瞬が小首を傾げる。
「わかるのか?」
「多分代役を立てやすくする……もしくは殺してもバレない様にするって感じじゃないっすかね。大大老がくたばった今、もう隠す必要無いんっすよ。更に言えばもう代替わりしてますし……」
だからもはやシャーナが顔を隠す意味はない。瞬の疑問に対して、ソラはそんな推測を口にする。そしてそこに道理を見て、瞬もなるほどと思わされた。
「なるほど……たしかにそれはあり得るか」
「うっす……まぁ、今回の皇国のサプライズって所じゃないっすかね」
おそらく場のざわめきが大きいのは、そこらの効果をしっかり見定めた上で最適なタイミングで入場したからだろう。ソラはそう思う。と、そんな彼と共にざわめきの中心を見る瞬だが、シャーナの横で注目を集めながらも一切の淀みのないカイトに気付いて少しだけ呆れ返る。
「まぁ……あいつは問題なさそうか」
「でしょうね……慣れてる感すげぇんで」
かつてはカイト当人がサプライズ扱いされる立場だったのだ。なので彼は一切気負うこともなく、さりとてシャーナの邪魔になるわけでもなくあくまでも同伴という姿だった。と、そんな二人が来たということはすなわち、開幕まで後わずかということでもあった。故にソラが他の面々に告げる。
「っと……皆。多分、もう陛下が来られると思うから一回身だしなみチェックした方が良いっすね」
「っと……」
そういうことか。ソラの言葉に瞬も素直に従った。そうして、二人の到着から数分。皇帝レオンハルが入ってきて、開幕の挨拶が開始されることになるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




