第2657話 合同演習編 ――夜会へ――
皇帝レオンハルト主導で行われる各諸侯やユニオンが集まっての合同軍事演習。それにカイトは冒険部のギルドマスターとして、そしてマクダウェル公爵家のトップとして参加していた。
というわけで初日はほぼほぼ情報収集と様子見に徹することになったわけであるが、それが終わった後にカイト、ソラ、瞬の三人に待ち受けていたのは演習にかこつけて行われるという貴族や各界の大物達が集まる夜会だった。というわけで、三人は急いで着替えると瞬はリィル、ソラは由利を伴い合流。飛空艇を待っていた。が、そこに来た更に二人に、瞬が目を丸くする。
「ん? 二人も参加するのか?」
「ああ……父が参加しなさい、というのでな。針のむしろの気分だが」
はぁ。瞬の問いかけを受けたルーファウスが心底疲れた様子でため息を吐いた。まぁ、彼にしてみれば演習なぞ軍で何十回と経験していただろう。なのでまだ様子見でしかない状況では、この諸外国の大使達や各界の大物と会う方が疲れるのであった。
「それなら同伴は……」
「流石に軍務で出向中の身で女性連れはおかしいだろう? まぁ、そのかわりのこいつだが」
「ああ、それもそうか」
確かにルーファウスの言う通り、彼は一応軍務の一環で皇国に来ている。そこで女性を連れていれば軍務なのでは、と疑問が飛んで不思議はない。無論、それはアリスも一緒でそれなら一緒にしてしまえ、という判断なのだろう。というわけで納得した瞬に加えルーファウス、アリスも一緒に待っていると小型の飛空艇が近隣に着陸する。
「三人とも、とりあえず乗ってくれ。移動する」
「っと……行こう」
カイトの促しを受けて、瞬が飛空艇へ向けて足を向ける。というわけで小型飛空艇に乗って一旦シャーナの乗る飛空艇へと移動することになるのであるが、そこでふとカイトが問いかけた。
「そういえば……ソラ」
「ん? おう。なんだ?」
「お前、結局昇格の手続きどうなったんだ?」
カイトがふと気になったのは、ランクAへの昇格手続きのことだ。こちらに関しては合同軍事演習前のドタバタでソラに一任していた――カイトが手を貸すのもおかしいが――ので、どうなっているか聞けずじまいだったのだ。夜会ではオークションの件もあるので今の内に聞いておこう、と思ったのである。
「ああ、それ……それなら一応、今書類整えてはいる。後は公的書類? とかなんとかが届くの待ってるって感じ」
「公的書類? ランクAになるのにそんなものまで必要なのか?」
カイトの問いかけに答えたソラに対して、瞬がびっくりした様に問いかける。これにソラは慌てて首を振る。
「ああ、いや……違うんっす。いや、違わないんっすけど……」
「公益性の高い任務……国や政府からの要請に関してはそれに参加したという証明が発行出来るんだ。それの証明書の発行というわけだ。で、この発行は政府やらがやるもんだから、一日二日じゃ発行はされん。記録照会しないといけないからな」
「らしいなぁ……」
どう答えたものか。そんな様子で返答に困る様子のソラに対して、カイトが代わって説明する。元々昇格する条件の中には公益性の高い任務の実績が必要なのは瞬もわかっていたようだ。
「なるほど……ということは俺も昇格するなら早いうちに申請しておいた方が良いか」
「どうだろうな。ユニオン側にも資料は残っているはずだから、必要の無い事も少なくない。まぁ、万全を期すなら取っておいて損はない、というところだろう」
「なるほど……」
必要かどうかは本当にその時々に応ずるというところなのだろう。なお、当然無いより有った方が良いので、瞬もソーニャに相談の上で申請する際には送って貰う様にしていた。そしてこの書類を取りに行くのなら、とカイトは改めてソラに問いかける。
「まぁ、それならソーニャの助言ってところだろう」
「そだな。取っといた方が良いのは良いです、って聞いて申請した。郵送で一週間だそうで、一応戻ったら届いてる予定」
「そうか……それなら問題はない。オークショニア達とも話しやすいだろう」
すでにランクAの昇格に向けて準備をしている。そう言えるのは向こう側としても顧客として扱いやすい話ではあった。これに瞬が首を傾げる。
「なぜそうなるんだ?」
「公的書類を取ってる、っていうことは政府機関からの依頼を請け負った実績がある、ってことだからな。まず貴族側に印象が良い。そこから、ってわけだ。勿論、これが嘘なら後々痛い目に遭うだけだが……ウチの噂を知ってればそれはないだろう、というのはわかる」
流石に各界の大物達が冒険部もとい天桜学園の話にアンテナを張っていないわけがないからな。カイトは瞬に対してそう語る。が、これに瞬は再度疑問を呈した。
「そんなウチは注目を集めているのか?」
「ウチ……というよりも日本……いや、地球か。それとの交渉を考えた際、ウチの動きは結構重要になる。なんで必然ウチの動きにもアンテナを張っておく方が良い、って話だ」
「そんなものなのか」
「そんなもんだ」
よくわからないことはわからないが、そういうものなのだろうと納得した瞬にカイトもそういうものなのだと告げるに留める。というわけで、そんな昇格に関する話を繰り広げながら少しの間座って待っていると、演習場から少し離れたところにあるシャーナの飛空艇に到着する。所要十分程度だった。
「もうか。あっという間だったな」
「シャーナ様の飛空艇は演習場に来てるからな」
「そういえばなぜシャーナ様の飛空艇はオッケーだったんだ?」
本当に少し話している間に到着したことに驚いていた瞬であるが、そういえばと疑問を呈する。一応、今回の演習の観覧に来た大使達は揃って皇帝レオンハルトと共に彼の搭乗する近衛兵団の旗艦に乗っていた。
下手に乗り入れられても邪魔になるからだ。無論、その分監視と警備の手間も増える。一箇所にしてくれ、という話もわからないではなかった。が、シャーナは一人飛空艇――しかもかなり大型――で乗り付けているのだ。気になりもしたのだろう。これにソラが推測を口にする。
「多分元王様だから、ってところじゃないっすかね」
「……まぁ、そんなところだな」
実際には読心能力があるため、別に分ける様に手配しただけなんだが。とはいえ、実際にシャーナが元王様だから、という理由が無いわけではないのでカイトは敢えて認めるに留めたようだ。と、そんな彼であるがそこで口を開く。
「皆はここで待っていてくれ。オレはとりあえずシャーナ様に挨拶してくる」
別に全員でシャーナと会う必要はないし、今回そもそも同伴者はカイトだけだ。単に向かう先が一緒で乗り入れる飛空艇の台数を減らしたいから、という理由でソラ達も乗せてもらうだけである。挨拶の必要はなかった。というわけで、他の面々を残したカイトがシャーナの待つ部屋へと移動する。
「シャーナ様」
「カイト。お疲れ様でした。大活躍……とまでは言わずとも活躍されたみたいですね」
「ありがとうございます。それでご支度の方は」
「こちらも大丈夫です……常日頃ドレスですので」
「そうでしたね」
シャーナは元王族というだけあって、そもそも身に着けている衣服は高級なものだ。そして立場上ドレスを着ていることの方が多く、そのままパーティに参加しても失礼にならない服こそが私服だった。というわけで彼女の返答に笑ったカイトはそれならばと一つ頷いた。
「では飛空艇を発進させます。ああ、そうだ。まずは陛下とお会い頂ければ」
「わかりました」
今回の各国の大使の中でも一番位が高いのはシャーナだ。そしてハイゼンベルグ公ジェイクが言っていた様に、彼女の参加の是非を鑑みて今回の夜会に参加を決めた国は少なくない。
なので皇帝レオンハルトというか皇国は最初にここと話すことで彼女の参加を各国にアピールしたい狙いがあったようだ。というわけで、カイトは夜会での大まかな流れの打ち合わせを行いながら、夜会の会場へ移動するのだった。
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