第2654話 合同演習編 ――情報収集――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習。それに参加していたカイトであるが、彼は威力偵察に参加し<<天駆ける大鳳>>に追い返されることとなる。
というわけで<<天駆ける大鳳>>の戦力を測るべくクオンとアイナディスが出たわけであるが、それに応ずるように現れた闘鬼クランとアイナディスが戦うことになり、クオンは単身<<天駆ける大鳳>>の白兵戦力と戦うことになっていた。
「とりあえず……雑兵が邪魔ね。私の剣は安くないのだけど」
『じゃー、私達の出番だねー』
「お願いね」
<<天駆ける大鳳>>の艦隊から飛び降りてこちらに攻めてくる冒険者達に対して、クオンは目も向けない。というわけで、ソレイユ率いる弓兵達により無数の矢が迸る。
「っ! <<森の小人>>の弓兵達か!」
「はいはい、ちょっと通りますよー!」
「はい、っさ!」
放たれる無数の矢に対して応ずるのは、こう来るだろうと見越してレヴィが隊列を組ませていた<<天翔る冒険者>>の冒険者達だ。
ここは比較的ソレイユと組むことが多かったため、彼女の下にいる弓兵達とも組むことが少なくない。なので対抗策もわかるだろう、という配置だった。というわけでいとも簡単に吹き飛ばされる自分の矢を見て、ソレイユが目をしばたかせる。
「あらら……にぃー」
『え、オレ頼るの?』
「大丈夫大丈夫。にぃの得意分野だから」
『そういうこっちゃ無いんですけど。時間掛かんのよ、あれ』
「でもにぃ……やってるでしょ?」
『……』
にたり。ソレイユの指摘にカイトは無言で笑う。無数の手札を持つと言われるカイトだ。こういう大軍を相手にする場合に彼がいつもしていることを、ソレイユは知っていた。というわけで、見抜かれていたなら仕方がないとカイトは仕掛けていた偽装を解除。天空に無数の武器を顕現させる。
『クオン。ソレイユの要請でオレも掃射に参加する……爆風きついからスカートめくれないようにな』
「いやん、えっちー」
『うるせぇよ。後爆発始まったら通信が不安定になるから、そこは……って、今更お前に言うこっちゃないか』
「そうね……それに関してはソレイユに増幅のアンテナ用意してもらったから、問題無いわ」
通信機による通信が可能なのはまだ戦いが始まっていないからだ。なのでその点に注意を促すカイトであったが、自分より長く戦場に立っているクオンが知らないわけがないと即座に首を振る。
そして実際、クオンはそれがわかっていたのでソレイユから一本特殊な矢を貰ってそれを一時的なアンテナ代わり――といってもソレイユと彼女を介してカイト限定になるが――としていた。というわけで、会話の終了から間を置かずにカイトによる爆撃が開始される。
「なんだ!?」
「爆撃!? いや、剣!? 槍!?」
「簡易式の<<魔力爆発>>か! 壊すな! 防げ! 避けても爆発に煽られる!」
「これだけの数を!?」
「豪勢なことをするわね!」
知っている者からすればカイトの得意技とでも言いたいところであるが、知らない者――<<天駆ける大鳳>>の冒険者達――からすれば大量の武器を集めてそれを使い捨てるようなものだ。廃棄寸前の最低価格の武器を大量に集めたとて、気前が良すぎた。が、<<天翔る冒険者>>の冒険者の中でも幹部達は、誰の攻撃か即座に理解して顔を顰めていた。
「げっ……これ……」
「あ、マスター。私ちょっと雨降ってきたから帰るね。お化粧崩れちゃう」
「おいおい。つれないこと言うなよ。もーちょい楽しもうぜ……後、お前化粧してないだろ」
「じゃあ、化粧するの忘れたから帰るー!」
<<天翔る冒険者>>の幹部達はこの爆撃の真価を誰よりも理解している。防ぐのも誤り。避けるのも誤り。やりにくいことこの上なかった。そして勿論、これで終わるわけもない。
「っ! 矢! ちぃ! やはりそう安々進ませてはくれないか!」
この矢と武器の雨の中を突破しなければ、最強に挑む資格無し。そう言わんばかりの嵐に<<天翔る冒険者>>と<<天駆ける大鳳>>の冒険者達が翻弄される。これに、アイナディスを敵と見定め進もうとしたクランが呆れ返る。
「やれやれ……この程度も突破出来んか。まぁ、致し方なし。小さき弓兵の弓術にカイト殿の攻撃。たとえ手を抜けども楽には突破出来まい」
ソレイユとカイトの連携による攻撃が楽に突破出来ないというのはクランも若干だが理解はしていた。が、これで手抜きなのだから誰かしらは突破して欲しいところであった。と、そんな彼の期待に沿うように、巨大な輝きがカイトとソレイユの嵐を突破した。
「む?」
「あら……抜けられるのね」
どうやら八大ギルドの名は伊達ではないらしい。基本カイトが相手なので巫山戯て突っ込む様子を見せない――彼らの風潮もあるだろうが――<<天翔る冒険者>>の幹部達に対して、<<天駆ける大鳳>>のエース達は何ら情報が無いが故に本気だ。エース数人がクオンに肉迫する。
「ひのふのみの……」
雨を抜けたのは三人。その中に先の大男の姿は無し。クオンは一瞬で敵を把握する。
「剣姫クオン! 相手をしてもらう!」
「熾天の頂き! どの程度か見せて貰おう!」
「三対一! 卑怯と思ってくれるなよ!」
カイトとソレイユの攻撃の嵐を抜けてくるのだから、この三人もそれなりには腕に覚えがあるらしい。が、それでもクオンに単騎で挑んで勝てると思うほど驕る様子もなく、三人で同時に切り込んでいた。
「……はぁ」
甘く見られたものだ。三人で掛かれば多少相手になるなぞと。剣姫モードに戻ったクオンが女王の如き威厳を滲ませため息を吐く。そうして、接敵からおよそ一秒。誰もが勝負の開始を予感したと同時に、しかし勝負は終わっていた。
「遅い。せめて先の大男ほどの防御力が……え、何?」
『だからー。あまり早く終わらせちゃうと情報が取れないんですけどー』
「あ、ごめーん。もうちょっとゆっくりやるわ」
剣姫モードでさっさと終わらせて冷酷に告げていたクオンであるが、あまりに早すぎて情報が一切得られていなかった。なのでソレイユから苦言が飛ぶことになるのであるが、このクオンの謝罪が口だけであることをソレイユは長い付き合いから理解していた。
『言ってるだけでしょー』
「あはは……まぁ、でも。抜けてきた奴の武器ぐらいは見れるようにしてあげたでしょ?」
『にぃに怒られるよー?』
「それは困るわね。でも足切りはしっかりしてるわ。この程度の斬撃も防げないようなら、情報があったところで意味ないもの。多少腕に覚えがある程度の奴なら吹けば飛ぶもの」
『それなら良いけど……逆に数が来られて本気になることなんて無いようにねー』
「そのために貴方が居るんでしょう?」
ソレイユの指摘に対してクオンは笑う。というわけで、そこからしばらくの間彼女は自分が相手にするまでもない相手に足切りを仕掛けとしていくのであるが、そんな光景をアウィス達は苦々しく見ていた。
「あれが剣姫クオンか……親父。親父は見たことあるのか? いや、戦ってるところって意味だけどよ」
『何度かなぁ……が、ありゃ相変わらずやべぇ』
「生半可なことやってても勝ち目はねぇだろ? なにか弱点ってのは無いのか?」
『ねぇな。ありゃ見ての通り並じゃ相手にならんし、並でなくても相手にならん。やるなら練習って甘い目で見ねぇでガチ目でやらにゃならねぇな』
アウィスの問いかけに、先代である父は盛大にため息を吐く。一応、彼は先代の八大のギルドマスターだ。なのでクオンとは当然顔見知りであるし、経歴としてはアウィスよりかなり長い。クオンと共に仕事したことこそなくても、何度か見掛けはしたようだ。
「そうか……で、親父。親父、今どこだ?」
『ああ、俺か。俺ぁ、外だ』
「外? 親父、まさか……」
『ま、流石に同じ八大だって言って舐められたままで終わるのは情けねぇ。それに一回はやってみたいってのはずっとあったんだよ』
目を見開くアウィスに対して、父は楽しげに笑う。そうして地上に降り立つ彼の姿を、クオンもまた認める。
「あら……懐かしいのが来たわね」
『なんかあったー?』
「ああ、ほら……アムティス」
『へ? あ、ホントだ』
どうやら先代の<<天駆ける大鳳>>のギルドマスターの名はアムティスというらしい。確かに顔立ちとしてはアウィスと似ており、親子と言われれば素直に納得出来た。そしてそんな彼の姿に、クオンが少しだけ笑う。
「そういえば、あいつと戦ったこともなかったわね」
『八大だからねー』
前にラエリア内戦の頃も言われていたが、八大同士の遺恨になることは避けねばならないと言われていた。まずこの時点で八大同士で戦いになることがないのだ。
そしてクオンとしても挑まれれば応ずるが、程度で若い頃の八大のリーダー達に挑まれることはあってもギルドマスターになった後に戦うことは非常に少なかった。というわけで、先代とはいえ八大ギルドの長の一人とあってクオンも流石に興味を持ったようだ。
「そうね……ソレイユ。カイトも」
『あー……はいはい。戦いたいのね。どーぞ』
「さすが王様。話が早くて助かるわ」
みなまで言うな、とばかりに掃射を取りやめたカイトに、クオンが笑う。そうして彼女は敢えて挑発するように、アムティスへと笑いかける。
「来なさいな……そのために降りてきたんでしょう?」
「……」
どうやら自分は足切りを無視して進ませて貰えるらしい。アムティスは自分の姿を見つけるなり停止した攻撃の雨にそう判断する。というわけで、クオンは元八大ギルドの長との戦いを開始することにするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




