第2652話 合同演習編 ――作戦会議――
皇帝レオンハルト主導で行われていた皇国の全貴族・皇国内に所属する冒険者達を集めた合同軍事演習。カイトはそれにマクダウェル公としては準備に。冒険部のギルドマスターとしては前線の戦士としての形で合同軍事演習に参加する。
そうして戦いが開始されてしばらく。威力偵察を経て攻勢に出た攻略側陣営であるが、道半ばにして<<天駆ける大鳳>>による対地攻撃を受ける形で一度撤退を余儀なくされていた。というわけで、なんとか冒険部を冒険部本陣へと帰還させることに成功したカイトは一旦状況を整理し情報を共有するため、一旦マクダウェル家旗艦へ有力者達――という名の八大幹部とマクダウェル家の面子――を集めて会議を行っていた。
「というわけで、第一回反省会開始ー」
「いぇーい!」
「わー」
「お子様ズはお気楽で良いなぁ……なんで連れてきたし」
「すいません……」
呑気に反省会なぞとのたまうユリィとソレイユの二人――フロドは旗艦の甲板から偵察してくれている――を尻目に入ったツッコミに、アイナディスが項垂れる。
一応、ソレイユは<<森の小人>>の幹部。それも弓兵部隊を指揮する看板の一枚だ。強いやつが正義に近い冒険者において、彼女は弓兵における頂点。ここに居ても不思議はなかった。が、そんな発言にソレイユが指摘する。
「実際でも反省会でしょ?」
「ま、間違いはないがね」
「そういえば、にぃはなんて言ってこっち来たの? ここ、一応八大幹部かマクダウェル家関係者の集まりでしょ?」
「ああ、別件で離れた体にしてる。中に入っちまえば誰にもわからんしな」
ソレイユの問いかけにカイトは特に隠す必要も無いのであっけらかんと答えていた。なお、なぜギルドマスターではなく幹部かというと、バーンタインは今回皇国の演習ということで目立ったことは娘のピュリに任せているからだ。それに配慮した形であった。無論、そうしないとソレイユが出れないこともある。
「正直いえば若干侮ったな。まさか<<天駆ける大鳳>>の飛空艇がここまで有力か」
「そういえば……何も聞かずに出ていったのですか?」
「まぁな。流石に情報収集し過ぎてもおかしいだろ?」
アイナディスの指摘にカイトは特に恥じるでもなく普通に答える。基本彼は調べられる時には出来る限りは調べて事に臨む。が、今回相手は<<天駆ける大鳳>>という異大陸に拠点を置くギルドだ。冒険部の財力でそこまで情報を集められるだろうか、と考えた場合無理と判断し、一般的に知られている情報だけで事に臨んだのであった。
「相変わらずにぃ舐めプするよねー」
「舐めても勝っちゃうのがウチのカイトですから」
「舐めプ言うな舐めプ。第一やりたくてやってるわけじゃないわい」
別にカイトとしても力を制限したくてやっているわけではない。制限しないと正体がバレてしまうから制限しているのだ。とはいえ、その上で勝つ戦略を構築出来るのはやはり彼だからなのだろう。と、そんな呑気さが垣間見えるカイトに、クオンが問いかけた。
「はいはい……で、とりあえずのところどうなの? 最前線行ってみて、なにかわかったことある?」
「んー……とりあえず<<天駆ける大鳳>>はヤバいな。わかりきってたことだけど。あれでまだ内部の兵力出してないんだから、冗談きついぜ」
今回、冒険部にせよ<<暁>>にせよ追い返されたのは飛空艇による攻撃だ。内部に控えているだろう八大ギルドの冒険者についてはほぼほぼ出ていなかった。
「というわけで、聞いてみたいんだが……誰か<<天駆ける大鳳>>と組んだことのある奴、手を挙げて」
「「「……」」」
「わーお。マジで?」
挙手は一切なし。そんな様子にカイトが大仰に驚いた様子を見せる。
「だって私もねぇねもアニエス大陸中心かクズハに呼ばれてエネシア大陸か、だし」
「ウチは基本どことも組んで仕事はしないわね……ユリィは……」
「私は勿論関わらないし……」
「よねぇ」
「「「……」」」
どうやらカイトの関係者各位は<<天駆ける大鳳>>と組んで仕事をしたことは一切ないで確定らしい。というわけでなにげに詳しい情報を誰も持っていないことが判明したことにより、視線はピュリに集まった。が、これに彼女はため息を吐いて首を振る。
「残念ながら、ウチも拠点はウルカか皇国だ」
「だわな」
半ば意図したことではあったが、基本攻略側陣営はエネシア大陸に拠点を置いていたり縁が深い面子を集めている。それに対して防衛側はバルフレアの意向もありアニエス大陸・双子大陸に拠点を置いている者たちだ。防衛側冒険者の情報がなくても不思議はなかった。というわけで、カイトもまたため息を吐いた。
「はぁ……まぁ、元々それも想定して組分けはしているというかそれを前提としてるようなところもあるからしゃーないか。まさか組んだ奴も皆無とは思わんかったが」
「そーなの?」
「情報が無いほうが未知の敵想定に近くなるからな」
というわけで情報が集まらないことにした。ソレイユの問いかけにカイトは元々わかってはいたし、さほど期待はしていなかったがと口にする。とはいえ、だからこそ情報を集めるべく威力偵察などを繰り広げざるを得ないという実際に沿った形を取っていた。
「とはいえ、だ。白兵戦に持ち込みたいところではあるな。あそこの奴ら、強いのかどうかってところが気になる」
「他は……あ、バルっちのところはいつも馴染みみたいなもんだもんね」
「そうだな。特にそっちはアニエスにも拠点を置いているから、馴染みは馴染みだろうさ」
ソレイユの言葉にカイトは一つ頷いた。ソレイユ達とバルフレア達は組んで仕事をすることが多い方ではあった。勿論、カイトもバルフレアとは昔から懇意にしていたし、あそこの現在の一線級の冒険者達は古馴染みである者も少なくない。必然こことは戦わなくてもおおよその勝手はわかるのであった。と、そんな彼にクオンが告げる。
「強くはないでしょう。勿論、粒はいるでしょうけども。でもその粒もバルフレアクラスじゃないわね」
「なんでそう思う?」
「私が興味持ってないから」
「「「……」」」
それは何よりもわかりやすく明白な答えだ。基本、クオンはエネフィアに居る名のある猛者で居場所の掴める相手に一度は戦いを挑んでいる。その彼女が興味を示すほどの武名を持つ者はいない、というのなら個々人の武力としては特に気にしないでも良いというわけであった。
「……まぁ、それならそれで良いでしょう。とはいえ、それでも曲がりなりにも我々と同じく八大の一角。油断して良いとは思いません」
「それはそうね。貴女やバルフレアみたいに油断してると私も危ない、っていうのが居ないだけで八大にふさわしい実力者は居るでしょう……そうね。次は私が一当てしましょうか?」
「クオンがやるの?」
「ちょっと測るだけよ。測って面白かったら戦うけれども」
驚いたようなソレイユの言葉に、クオンは少しだけ剣姫の風格を零しながら答える。彼女の場合、あのレーザ攻撃はほぼ意味をなさない。もし彼女が出るのであれば<<天駆ける大鳳>>も誰かしらが出て防衛に回らねばならないことは明白だった。というわけで、そんな彼女にカイトが問いかける。
「ふーん……それなら何か支援するか? バルフレアにはいつもの通りアイゼンぶつければ良いだろうし、そうでなくても誰かしらの天将をぶつければ時間稼ぎにはなるだろうからな。あ、そうだ。今回誰が来てるんだ?」
「ああ、今回はバルフレアが来るなら、ってアイゼン。あとは陣地防衛にヴァイスの爺さまとユウナ。あとは増援で誰かしらは参加すると思うわね。そこに関しては後は好きに任せるわー、で任せたから知らない」
「そうか……あれ? アイシャは?」
アイナばりに真面目なあいつなら来ると思ってたんだが。クオンから名前が上がらなかったことにカイトが驚いた様子で問いかける。打ち合わせの段階では参加予定だったこともあった。これにクオンは普通に答える。
「ああ、来てるわよ。でも天将が初日から三人も攻め込むのもあれでしょう? 流石にウチの天将は安くないわ……貴方が総指揮を取るなら話は別だけど」
「なるほど。たしかに安くはねぇな。初手から大々的にビッグネームを切り過ぎると各国の使者も飽きちまう」
<<熾天の剣>>の天将は名だたる冒険者の中でも最上位の八人だ。実戦なら必要に応じて出すのも吝かではないが、各国から使者の来ている演習で彼女らを初日から切るのはあまり得策とは言い難かった。
「わかった。とりあえずバルフレアは良いだろうが、もうちょいと誰かしらは来るだろうしな。そこいらはこっちも人員出して適当に対処するか」
「にぃはどうするの?」
「オレ? オレは出れないぞ。ランクAだからな」
「戦闘力の面でもランクEXなカイトがランクAを偽装するってわりと世の中終わりだよねー」
「お前も偽装してるようなもんじゃろが」
ユリィもまた名前が大きすぎるし、出てくると一気に警戒されてしまう。なので基本は小型化してカイトのフードの中に潜んでいるのであった。と、そんな呑気と真面目が同居するような会議であるが、おおよその流れは固まったようだ。
「ま、それはそれとして……とりあえず次はクオンに強襲して貰う流れで周囲はその支援で」
「とりあえず情報欲しいねー」
「そうだなぁ。まぁ、<<天駆ける大鳳>>の艦隊はウチの艦隊じゃないと相手にならん、ってのがわかったぐらいしか情報無いもんなぁ……で、そのウチのも流石に今切るには情報が足りん」
ソレイユの言葉にカイトもまた同意する。兎にも角にも攻略するには情報が足りなさ過ぎる。しばらくは情報収集に徹するしか手はなさそうだった。
「ソレイユ。お前は今まで通り偵察やら情報収集やら頼む」
「後にぃの補佐だねー。いつものことだけど」
「ま、そうなんだよな」
バルフレアも言及していたが、基本戦場においてソレイユはカイトの支援役となることが多かった。特に彼女はカイト同様に大軍を相手にすることに長けているため、カイトとソレイユによる飽和攻撃はたった二人なのに驚異的な殲滅力を誇る。
無論、そこからカイトが前線で敵を食い止めソレイユにより敵の数を減らす、逆にソレイユが牽制で敵を食い止めカイトの圧倒的な攻撃力を放つ、と出来るなど戦略の拡張性も高い。そして慣れからくる読心術による念話や魔糸に頼らない連絡など、ここを組ませておけばひとまず安牌なのであった。
「で、支援どうすっか、ってお話なんですが」
「私が行きましょう。そろそろ肩慣らしもしておきたいですし」
「おっけ。じゃあ、それで……でも本気ではやってくれるなよ? まだ初日。情報収集の段階だからな」
アイナディスの申し出にカイトは一つ頷いた。彼女であれば並のランクS冒険者でも話にならない。なので名のある冒険者を引っ張り出すことができそうだし、逆に名のある冒険者が出てきていても対応は余裕だ。こちらもまた安牌だった。というわけで、そんな彼の言葉にアイナディスは頷いた。
「わかっています」
「そういえばアイナと一緒なのは久しぶりね。前の守護者の一件を除けば、だけど」
「あれを勘案しなければ本当に久しぶりですか」
クオンの言葉にアイナディスもそういえば、と考え込む。そうして思い出した最後の戦いはこれだったらしい。
「前は……厄災種が出た時でしたか?」
「そのぐらいかしら……そういえば契約者になってからは戦ってなかったわね」
「肩慣らしで敵と戦う前に身内で肩慣らししようとすんのやめときません? ウチの旗艦の会議室はお前らの戦闘に耐えれねぇよ」
ちゃきん、と刀を鳴らすクオンに、カイトが呆れ気味に首を振る。まぁ、彼女からしてみれば明らかにアイナディスの方が楽しい相手なのだ。こうなるのも無理はなかった。これに、クオンは闘気を収めた。
「わかってるわ。後にしましょう」
「それはご自由になさってください……はーい。じゃあ、とりあえず解散ー。おつかれさんっしたー」
「次は第二回反省会だー」
「次は何時やるー?」
「反省会前提で話しないでくれませんかね……」
ユリィとソレイユの呑気な様子に、カイトはがっくりと肩を落とす。そうしてほぼほぼ反省会というか次の一手はどうするか、という話し合いに終始して一同は一旦解散となるのだった。
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