第2651話 合同演習編 ――停止――
皇帝レオンハルト主導で行われている合同軍事演習。そこにマクダウェル公カイトとして、冒険部ギルドマスターとして参加していたカイト。
そんな彼は最前線で道を切り開く役目を担う<<暁>>の支援として最前線からほど近いところに位置して<<暁>>を左右から狙う防衛側の飛空艇の撃破をしていたわけであるが、それも一通り終わったタイミングで<<天駆ける大鳳>>の攻撃が殿を守っていた者たちへと襲いかかることになる。
「あれは……地上向けの巨大な魔導砲……?」
戦艦の相手を自身の生み出した鏡像としたカイトであるが、そんな彼が<<天駆ける大鳳>>を見て思ったのはそんなことだ。
(おかしいな……対地戦闘で使うにはでかすぎる)
対地砲撃において一番気をつけねばならないのは、下手に強い攻撃を打ち込んでしまって土地そのものに影響が出ることだ。それだけは避けなければならないため、飛空艇に積まれている対地用の魔導砲は精密性と低威力を重視して作られていた。
(いや……デカいが、なにか妙だ。先端が妙に細長い? まるで絞るような……)
基本的に、魔導砲は大まかに分けて二つのカテゴリに分けることが可能だ。一つは、魔弾を放出するタイプ。もう一つは、レーザのように光条を放つタイプだ。
(これは……レーザ型? 対地用の攻撃で?)
あることはあるが、非常に珍しい。カイトは魔導砲の運用方法などを熟知している関係で、この<<天駆ける大鳳>>の持ち出した魔導砲がなにかを隠しているのではないか、と訝しむ。そして訝しんでいられる時間はほぼ無い。なので彼は即座に専門家に意見を求めることにした。
「……ティナ」
『見ておるよ……非常に珍しい型じゃな。貫通型……もしくはレーザ型の魔導砲か』
「やはりそうか……オレの情報が古かったらあれだから、聞いておく。レーザ型は貫通して地脈に引火する危険性があるため、対地攻撃には滅多なことでは使われないんだったな?」
『間違っておらんよ。余が知り得る限りでもその状況は覆されておらん……はずじゃ』
流石にティナも現実問題として眼の前にレーザ型と思しき魔導砲を対地攻撃に使おうとする八大ギルドの艦隊があるため、もしやすると自分が知らないだけでどこかで可能なだけの技術が開発されたのかもしれない、と思ったようだ。が、そんな彼女もやはり訝しげだった。
『が……あまり道理にはそぐわぬ。というのも魔弾型の魔導砲の方が対地攻撃においては優位に働く。これは変わらんじゃろう』
「効果範囲の関係か」
『うむ。一点突破のレーザ型と範囲攻撃の魔弾型……どちらが有用かなぞ、用途を考えればおのず理解できよう』
カイトの返答にティナは一つ頷いた。そうして、彼女が続ける。
『高威力なレーザ型が使われるのは対飛空艇や対要塞などの強固な結界が展開されている相手じゃが、デメリットとして細いことから特殊な術式を組み込むことには向いておらん。もちろん、点攻撃なので範囲攻撃も苦手じゃ……面攻撃とすると今度は拡散してしまい威力が目も当てられんしのう』
「その点魔弾型は一撃の火力こそそこそこだが爆裂による範囲攻撃。特殊な術式を組み込むことによるホーミング弾や火炎弾などの状況に合わせた攻撃が可能と」
『そうじゃな。対地攻撃に特化させるのであれば、クラスター爆弾にも似た拡散弾も不可能ではない』
そういったことを複合的に考えた場合、地上向けの攻撃にレーザ型の魔導砲は選ばれなかった。が、選んでいるという現実がある。何が考えられるか、気になるところであった。
「が、レーザ型と」
『うむ……となれば考えられるのは一つ。まさかそれを可能とする技術力があるとは思わなんだわ』
「なんだ?」
『レーザによる薙ぎ払いよ。無論、レーザ型の照射時間の延長による一点突破も出来よう』
「げ……出来ると思うか?」
『できねばここで八大、それも飛空艇艦隊こそを誇りとするギルドは名乗るまいよ』
全くもって同意するしかない。カイトはティナの指摘に盛大にため息を吐いた。というわけで、彼は即座に決断を下す。
「ソラ達の支援に入る」
『そうした方が良かろうて』
「やだねやだね、八大を相手にするのは」
ぐっとカイトは虚空を踏みしめる。流石に普通に飛空術で飛んでいては間に合わない。<<空縮地>>を連続させて一気に距離を詰めるしかなかった。そうして、カイトが虚空を蹴って数瞬。一秒にも満たない間を置いて、<<天駆ける大鳳>>の艦隊から薙ぎ払うような光条が放たれることになるのだった。
さてカイトが殿を離脱してしかし撤退する者たちの支援に入ると決めたとほぼ同時。ソラは遠くで放たれた何条もの光条を見て目を見開いていた。
「あぁあ……まぁずい! 先輩!」
『見えている! 流石にこれはまずい!』
自分ぐらいならなんとかなるだろうが、おそらく直撃を受ければそれ以外は壊滅だろう。ソラも瞬も考えを一致させる。どちらもせいぜいデカい魔弾ぐらいだろう、と考えていたのであるが、まさか地面を這うように追いかけてくるレーザだとは思っていなかったのだ。
『ソラ、間に合いそうか!?』
「わかりません! 今大急ぎで向かいはしますけど!」
とりあえず駆け抜けるしかない。ソラは瞬の問いかけに精一杯足掻くことを選択する。動けば共倒れの可能性もあるが、動かねば救えない。やるしかなかった。と、その次の瞬間だ。駆け出したソラの真横に、カイトが現れる。
「カイト!?」
「お前の速度じゃ間に合わん!」
「うわっと!?」
「舌噛むから黙ってろ!」
手を引っ張られ驚愕に声を上げるソラに対して、カイトが声を荒げる。どうしても重防備のソラでは速度が足りなかった。というわけで、カイトは飛空術と<<空縮地>>を併用して、空中で見付けていた冒険部の一団のところへと一瞬で移動する。
「っとぉ!? もうちょっと安全におろしてくれよ!」
「そんな余裕はねぇだろ!」
地面を滑って急制動を仕掛けるカイトは兎も角として、ソラは受け身を取るのが精一杯だったようだ。
そうして地面を滑るカイトと制動を仕掛けてなんとか着地したソラを見て、瞬が声を上げる。
「カイトとソラか! 全員、停止!」
「全員停止だ! その場で停止しろ!」
瞬の掛け声に合わせて、部長連の誰かが声を上げて撤退を停止させる。このまま逃げたところで十何秒後かには背後から迫る光条に飲み込まれるだけだ。それならいっそ、正面を向いてこの場で耐え凌ぐ方が良かった。
「はぁ!」
急制動を仕掛け冒険部の一団の最後尾にまで移動したカイトが、地面に向けて思い切り手を突っ込む。そうして彼はまるでちゃぶ台返しのように地面を大きく持ち上げた。
「全員、影に隠れろ! ソラ! 先輩! 魔術師は全員こいつに魔力を集中させろ!」
「なるほど!」
「ああ!」
「「「おう!」」」
流石にここまでわかりやすい行動であれば、誰もが意図を即座に掴んだらしい。カイトが作り出した岩壁に向けて全員が魔力を集中させる。そうして、冒険部の守りが出来上がった数秒後。<<天駆ける大鳳>>のレーザが岩壁へと襲いかかる。
「おい、あっちだ!」
「俺たちも手伝うぞ!」
「こっちも同じように壁を作るぞ!」
「「「おう!」」」
カイトの行動をきっかけとして、逃げられないと悟った冒険者達が協力して地面を持ち上げたり隆起させたりで即席の壁を作り出す。そうして瞬く間に無数の壁が乱立することになり、更に十数秒。レーザ型の難点の一つである持続時間の問題から、砲撃が終わることになる。
「……終わった……のか?」
「だと思うが……」
ソラのつぶやきに瞬もまた少しだけ自信なさげな様子で同意する。岩壁はかなり巨大だ。飛び上がって確認するならまだしも、現状で下手に顔を出せば顔だけが吹き飛ぶことになりかねない。どうするべきか少し悩みどころだった。とはいえ、それはこの二人だからであり、カイトの方は行動が早かった。
「誰か使い魔を」
「あ、はい……えっと……周囲問題ありません。光条、止まってます」
「そうか」
壁の構築をしながら使い魔の顕現はしたくなかったのか出されたカイトの指示に、使い魔を使えるらしい魔術師が簡易の使い魔を生み出して周囲の状況を確認。問題無いことを確認する。というわけで受けた報告に一安心という雰囲気が蔓延しそうになるわけであるが、その前にカイトが制した。
「全員、落ち着くのはまだ早い! 急いで本陣まで帰還する! 駆け足用意!」
「「「っ!」」」
そうだった。全員が気を取り直す。所詮、今の行動なぞ一発を防いだにすぎない。そしてここまで魔導砲が届くのは確定なのだ。次の一射が打ち込まれる前に本陣に戻らねばならなかった。
というわけで、冒険部の面々は近くに居たことで難を逃れた他の冒険者達と共に冒険部の本陣へと無事に帰還することになるのだった。
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