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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2646話 合同演習編 ――さらなる迎撃――

 ついに始まった合同軍事演習において、マクダウェル公として全軍の統率を担いながらも冒険部ギルドマスターとして前線の一角を担う事になっていたカイト。そんな彼は冒険部を指揮して最前線を突き進む<<暁>>の支援として一歩離れた所から<<暁>>と相対する防衛側最前線の航空支援を潰していた。

 していたのだが、流石に防衛側の被害が十数隻に登った所で冒険部も警戒される事になり、<<暁>>を飛び越した輸送艇と大型魔導鎧・中型魔導鎧の編隊による防衛側の軍の強襲を受ける事になってしまう。というわけで大型魔導鎧と中型魔導鎧の編隊を率いていた三百年前の勇士の一人と単騎戦うカイトであるが、基本的には優勢という所であった。


「やはりやるな、少年! 多対一の戦闘においては天才的だ!」

「まー、昔は馬鹿だったもんで!」

「ははははは! そう言う様になったなら、成長した証だ!」


 大型魔導鎧二機と中型魔導鎧一機という普通なら絶望的でしかない戦いにおいても一切引く事なく、それどころか逆に押してさえいる現状にカイトもオロフも軽口を叩き合う。

 まぁ、今更だろうがオロフの動きに大型魔導鎧二機も追従出来るわけがない。なのでこの二機は専らオロフのサポートだった。とはいえオロフその人も正体を隠す必要はなくなった、と先ほどまでの倍の速度で動いており、完全に中型魔導鎧が荷物になっている様子さえあった。


「っと!」

「流石に、その鎧だと足かせになってるんじゃないですか!?」

「そうだがな! 閣下に試験運用を頼む、と任されてしまったのだよ!」

「そりゃ、ご愁傷さまで!」


 実際にはオレに最初から全力を出させないためと、正体がわかって以降も本気を出させないための足かせだろうがな。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの思惑をそう読み取っていた。

 そして実際そのとおりである。というわけでカイトは勿論のこと、オロフも本気で戦えない状態だった。そしてそこに、カイトは突破口を見出していた。


『!? オロフさん!』

「!? なんだ!?」

「はいはーい! 私さん参戦の巻!」

「おチビちゃん!?」


 急に動きを止めた大型魔導鎧の片方に困惑するオロフであるが、その耳がユリィの声を捉えて驚愕を露わにする。今まで何度も狙い撃つ瞬間はあったはずなのだ。

 にも関わらずこのタイミングまで現れなかった時点で、オロフは完全に居ないものだと思いこんでしまっていた。そしてこの不意打ちを打てた事によって、カイトが速攻を仕掛けるきっかけにもなった。


「ふっ」

『ぐがっ!』


 衝撃波が迸り、コクピットの中で苦悶の声が漏れ聞こえる。そしてそれと同時に、一瞬で大型魔導鎧は傷もほとんど無いままに消え去った。一応これは概念的には鎧扱いであるため、パイロットが倒された時点で一緒に消えてしまうのである。


「……流石か、少年。障壁の内側に一瞬で移動。その上で衝撃波による貫通攻撃……並の技術では到底出来まいが」

「そりゃ、実戦経験十数年にもなりゃ出来る様にもなりますよ。訓練もしてますし」

「そうだな……」


 やはり勝てそうにないらしい。オロフは決定的な自身の敗北を理解する。が、この敗北は決まっていたものではあった。故に彼は自分ひとりが最後まで残る事も想定内で、撤退は最初から手配していた。

 故に彼の中型魔導鎧の背面の飛翔機に虹色のフレアのような輝きが収束していき、飛び立つ直前にカイト達が攻めかかろうとするその直前だ。唐突に明後日の方向から煙幕弾が飛来する。


「「!?」」

『すまないが、流石に緒戦で情けなく敗退は出来なくてな』

「……一応やっとく?」

「ま、一応姿勢だけはな」


 煙幕を切り裂いて一気に速度を上げて飛翔するオロフに、カイトは煙の中で弓を構えシッチャカメッチャカ矢を放つ。流石に当てるつもりはなかったが、まぐれ当たりぐらいあればな、という感覚で撃ちまくっていた。カイトの言う通り、姿勢だけという所であった。というわけで、彼は煙幕が晴れるまではシッチャカメッチャカ撃ちまくり、晴れた後に一度だけ、意識を集中させる。


「……」


 狙うのは勿論、オロフの操る中型魔導鎧だ。撃破を狙うつもりはないが、さりとて単に破れかぶれに放つのも格好が悪い。一発ぐらい正確に矢を射れる所を見せておきたかった。


「ふ」


 精神統一からの一矢は正しく光の様に一直線に飛翔し、オロフの背を狙う。しかしこれにオロフは即座に反転。その勢いで右手の剣を振るって迎撃する。


「む!」

「せめて、それぐらいの駄賃はくれといてくださいよ」


 がしゃん。金属が砕け散る音と共に砕け散った剣と更に余波で弾け飛ぶ中型魔導鎧の右腕に目を丸くするオロフへと、カイトは届かぬとわかりながらもそう告げる。正しくまんまと逃げ果せた彼へと一矢報いた形だった。というわけでオロフにまんまと逃げられたカイトは一旦その場で瞬へと問いかける。


「先輩。そっちはどうだ?」

『お前が中型と大型を相手取ってくれたおかげで、なんとか持ちこたえている。が、若干厳しい』

「りょーかい」


 カイトによって大型魔導鎧と中型魔導鎧という強大な戦力を食い止めたわけであるが、それは逆説的に言えば冒険部側も最大の戦力であるカイトを欠いた状態で輸送艇から舞い降りる飛翔機付きの小型魔導鎧の兵士達と戦わなければならないという事でもあった。

 今はまだ瞬や部長連の活躍により敗走は避けられているが、やはり軍のエリート相手では冒険部の平均層は厳しいようだった。というわけで、カイトは次の手を決める。


「先輩。次の増援はこちらで受け持つ。そちらは一旦小休止を入れろ」

『すまん、助かる』


 鶴翼の陣の内側に入り込んだ事により、現状は左右からも敵が来るような状況だ。後ろからが無いだけまだマシだが、厄介な事に違いはなかった。というわけで、カイトは手に持った弓をそのままに矢をつがえる。


「ふぅ……」


 どうやらこちらにはまだ気付けていないらしいな。カイトは冒険部から少し離れた所に居た事により輸送艇に気付かれていない事を理解。輸送艇を撃沈するに必要なだけの魔力を矢に込める。が、それと時同じくして。巨大な剣戟が迸って、その余波で狙っていた輸送艇が揺れ動く。


「セレスの斬撃か……どうやら、側面にも有名な冒険者達が出始めたかな」


 冒険部のような中堅ギルドは考える事が似ていたようだ。ここらの中堅ギルドは同盟を組んでも個々の戦闘力が高くなるわけではない。最前線での華々しい活躍を<<暁>>やその傘下、提携するギルドに譲り、彼らが切り開いた道の維持と背後を取られない様にする事に注力していた。

 なので緒戦では大きな戦いは起きなかったわけであるが、流石に戦端が開かれしばらくすると防衛側の冒険者達の移動も終わって側面での戦いも本格化しだしたのだ。


「ふっ」


 セレスティアの優雅な斬撃を横目に見ながら、輸送艇が体勢を立て直し再加速とブレを抑えた瞬間を狙い撃つ。そうして放たれた矢は流星の如くに巨大な輝きを宿して一直線に飛翔。輸送艇の側面に突き刺さり、爆発を放ってその船体を大きく揺らす。


「さぁ、まだまだだ」


 再び船体を大きく揺らす輸送艇に向けて、カイトは容赦なくさらなる矢の連撃を放つ。そうしてまたたく間にハリネズミが如くになった飛空艇の側面で大爆発の連続が起きて、ついに耐えきれなくなったのか輸送艇の船体が大きく砕け散る。


「よし……ユリィ。しっかり掴まってろ」

「はいさ」


 カイトの指示を受けて、ユリィが再度フードの中に隠れ潜む。流石に彼女が暴れすぎると面倒になるので、基本は分身を旗艦に待機させつつ小型化した彼女はフードに潜んでいたのであった。

 まぁ、それも今回のオロフとの戦いで防衛側にはバレただろうが、それでも打てる手は限られる。まだまだ有効に使わせて貰うつもりだった。というわけで、カイトは大きく砕け散ってゆっくりと高度を下げていく輸送艇の側面に向けて思い切り地面を蹴る。


「急げ! 墜落前に出るぞ!」

「準備が整った奴から順次出撃しろ!」

「それは少し遅い」

「「「!?」」」


 墜落する飛空艇の中で慌てて出撃の準備を繰り広げる兵士達が、出来た穴を通って現れたカイトに驚愕を露わにする。が、兵士達とて長く苦しい訓練を積んで飛翔機付き魔導鎧の装着を認められたエリートだ。数瞬でカイトが敵冒険者だと察すると、最も反応が早かった一人が即座に斬りかかる。


「はぁ!」

「とっ! 失礼!」


 剣戟を飛び跳ねて天井に張り付く様にして回避すると同時に、カイトは輸送艇の天井に向けて<<バルザイの偃月刀>>を突き立てる。そうして意図的に天井に偃月刀を支えとして張り付いているかの様に見せかける彼へと、また別の兵士が飛び上がって斬りかかる。


「おぉ!」

「と……」


 放たれる再度の剣戟に対して、カイトは<<バルザイの偃月刀>>から手を放つと同時にもう一振り<<バルザイの偃月刀>>を顕出させる。そうしてこちらもまた輸送艇の床に突き立てて、そのまま逃げる様にして輸送艇の側面に空いた穴から外へと飛び出した。


「っ、追え! この際飛翔機の飛翔は構わん! 着地してからなんとかしろ! もしくはそのまま戦え!」

「「「おぉおおお!」」」


 飛翔機付きの魔導鎧であるが、これは概念型を採用しない限りどうしても飛び立てるまでに若干のタイムラグが存在するというデメリットが存在する。これは鎧と体重を浮遊させるのに十分な出力が必要である点から仕方がない事で、輸送艇から飛び立つ際にはその出力を得てから飛び立つのが基本だった。

 が、事ここに至ってはそれをしているとカイトの仕掛けた何かしらの影響を受ける可能性がある。故に地面に着地してそのまま戦うか、地面に着地してからその十分な浮力を得ようと判断したのであった。

 というわけで、カイトが出た穴や後部ハッチを強引にこじ開けて追撃に入ろうとした瞬間。連続して鈍い音が鳴り響く。


「うぐっ!?」

「がっ! いっつぅ!」

「なんだ!?」

「何が起きた!?」


 音が鳴り響いたのは、カイトが空けた側面の穴から飛び出そうとした兵士達の方向だ。そうして走って飛び出そうとして何かに激突して苦悶の声を漏らした最前列の兵士達は、自らの前に立ちふさがった透明の壁に気が付いた。


「な、何かが……」

「壁……?」


 これは兵士達が気付かなくても仕方がない事なのであるが、実はカイトは輸送艇に突入前に空いた穴の左右に<<バルザイの偃月刀>>を突き立てていた。

 それを脱出と同時に起動させ、壁を生み出していたのである。まぁ、別に脱出と同時でなくてもカイトなら自分とユリィだけを通すような壁を作る事も出来る。どちらでも結果は同じなので、楽な方を選んだのであった。それはさておき。側面から響いた鈍い音の所為で後部ハッチから出ようとしていた兵士達の手も止まっており、その数秒の遅延が命取りになった。


「これで、一隻」


 背後に感じる爆風に煽られながら、カイトは次の敵を見定める。天井と床に仕掛けた<<バルザイの偃月刀>>を起点としたルーン文字が炸裂し、爆発と共に船体を内側から引き裂いたのである。勿論、その爆発を間近で受けた兵士達は全滅だった。


「さて……」


 次はどうしようか。カイトは次に驚異となりそうな敵を見定めながら、そう考える。そうして、カイトはそれからもしばらくの間小休止を挟む冒険部の支援に乗り出す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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