第2645話 合同演習編 ――迎撃――
ついに始まった合同軍事演習。その中でカイトはマクダウェル公として全体の指揮を担いながら、冒険部ギルドマスターとしては冒険部を率いて最前線の支援に乗り出していた。
というわけで、最前線を進む<<暁>>の神殿都市支部の者達の支援として最前線の<<暁>>の迎撃に出る飛空艇を十数隻撃破したわけであるが、流石にそこまでやると目を付けられたのか防衛側の軍から直接的な攻撃を受ける事になる。というわけで、輸送艇で迫りくる防衛側陸戦隊の兵士達の迎撃を瞬に任せた彼は、単身大型魔導鎧と中型魔導鎧の部隊の迎撃に出る事になっていた。
「おぉおおおお!」
「「「!?」」」
誰かしらは打って出てくるだろう。大型魔導鎧と中型魔導鎧のパイロット達はそう予想はしていたものの、まさかの速度に思わず目を丸くする。というより、カイト当人が出て来るとは想定していなかった所もあった。というわけで蒼い弾丸と化して超速度で逆に強襲を仕掛けたカイトは大型魔導鎧の一機の胴体部分を思いっきり殴りつけた。
「おらよ!」
がぁん、という大音が鳴り響いて、一瞬だけ大型魔導鎧が停止。が、カイトの出力に押し負けて大きく吹き飛ばされる事になる。そうして早々に一機が吹き飛ばされたのを見て困惑を露わにする兵士達に対して、カイトは容赦なかった。
「はっ!」
ナコトの力で強化した魔糸――流石にアトラクナクアではない――を投げ放ち、中型魔導鎧の一機を絡め取る。そうして彼は絡め取った魔糸を両手で引っ掴んで、投網の様に振り回そうとした。が、その瞬間だ。中型魔導鎧の一機が右手に取り付けられた刃物で魔糸を切り裂いた。
『させん!』
「! ちっ!」
流石にそこまで甘くはないか。カイトは仲間に魔糸が絡みついたのを見て即座にそれを切り裂いた中型魔導鎧の一機の判断力の早さに、相手が軍でもエース級だろうと判断する。そうして僅かに姿勢を崩すカイトへと、先の一機が左腕に取り付けた魔銃の銃口を向けた。
「っ! ちぃ!」
だんだんだんっ、と連続して発射される魔弾に対して、カイトは即座に小太刀を顕出。それを投げ放つ事で迎撃する。その間に、先の中型魔導鎧に乗る兵士が通信機で仲間に告げる。
『気を付けろ! 少年と見て甘く見ると痛い目に遭う!』
『『『りょ、了解!』』』
どうやらこの中型魔導鎧こそがこの一団のリーダーだったらしい。カイトはこちらに容赦ない砲撃を加えながら仲間を叱咤する兵士の漏れ聞こえた声でそれを理解する。
(ちっ……大型のどっちかだと思ったんだがな)
それを見越すと読まれた上でこの編成にされたか。カイトは速攻を仕掛けられた事で浮足立つ内に減らせるだけ減らそうという目論見が外れた事に内心で舌打ちする。と、そうこうしている間に魔導鎧の一団は立て直し、大型魔導鎧が踏み込んできた。
『おぉおおおお!』
「ち」
面倒だな。カイトは砲撃に向けて槍を投げて砲弾を串刺しにして時間を稼ぎ、上段から振り下ろされる一撃を回避する。が、そうして逃げた先に向けて、中型魔導鎧二機による砲撃が放たれた。
「とっ……」
こりゃどうやら全体的にエース級と言える奴らが集まったらしいな。カイトは放たれる砲撃を今度は後ろ宙返りで回避しながら、軍のエリート集団による強撃を理解する。
まぁ、うまく冒険部を殲滅出来れば最前線の<<暁>>を後ろから挟み撃ちにできるのだ。エリート集団を差し向けても不思議はなかった。と、そんな事を考える彼に今度は最初の一撃で吹き飛ばした大型魔導鎧が切り込んできた。
『おぉおおおお!』
「ちっ」
飛翔機を吹かして突進してくる大型魔導鎧に対して、カイトは指を鳴らして武器を発射する。が、単なる投射では牽制にもならないぐらいはわかっていた。
『なんだ!?』
武器が激突すると同時に迸る無数の閃光を防ぐために大型魔導鎧のコクピットを保護する機能の展開に、大型魔導鎧のパイロットが驚愕する。彼からしてみれば唐突に目の前が真っ暗になったのだ。何事かとわけがわからなかった。
『目眩ましだ! システムをマニュアルに切り替えろ! 彼は安全装置の発動ギリギリを正確に狙い撃つ!』
『りょ、了解!』
「ちっ!」
やはりあのリーダー機の腕が段違いだ。カイトは自分が攻め込もうとすると同時に砲撃や斬撃で機先を制するリーダー機に舌打ちする。あのリーダー機さえ居なければ今頃何機かは撃退出来ていたはずだった。
(どうする……? 僅かに本気でやるか?)
一応、冒険部本隊に攻め込んできているのは普通の軍で危険なエリート達は自分が抑え込めている。なのでカイトとしては問題が無いと思って良かったかもしれないが、相手はエネフィア切っての頭脳派集団だ。しかも自分の事まで把握されているとなると、ここを更に上回られる可能性は十分にあった。と、そんな逡巡を狙い撃つかの様に、先のリーダー機が攻め込んできた。
『おぉおおおお!』
「!」
急加速して切り込んでくる中型魔導鎧に、カイトは思考を切り替える。そうして、中型魔導鎧の大剣じみた剣とカイトの刀が空中で何度となく激突する。
「ちっ」
こいつが何者かはわからないが、どうやら舐めて掛かってなんとかなる相手ではないらしい。カイトは見事な剣捌きで自らと打ち合う中型魔導鎧のパイロットに対してそう判断する。
というわけで、このまままともな戦いをしていてもいたずらに時間を食うだけだと判断。彼は刀を大剣に切り替え右手一つで操ると、その腹を滑らせる様にして中型魔導鎧の突きをいなして左手で無数の武器を編んで至近距離からの投射を行った。
『っ! 流石だ、少年!』
「っ! マジかよ!」
自らの剣戟に対して敢えて打たれるに任せたリーダー機に対して、カイトは流石に仰天する。が、敢えて打たれるに任せたリーダー機は的確に障壁をコントロール。武器の飛来する方向にのみ障壁を展開して一瞬だけ拮抗状態を作り出した。そして、それと同時に。リーダー機は左腕に取り付けられた魔導砲の砲口をカイトへと直付けする。
「っ、舐めるな!」
『何!?』
空いていた左手で砲口へと掌底を叩き込んで明後日の方向へと向けたカイトへと、今度はリーダー機が驚きを浮かべる。そうして今度は右手の大剣を捨てて籠手を装着したカイトが踏み込んだ。
「はっ!」
どんっ、と響くような音が鳴り響いて、リーダー機のコクピットにいくつものアラートが表示される。障壁を特定方向にのみ重点的に展開していた事で打撃が直撃したのだ。とはいえ、流石にあんな咄嗟だったためか堅牢な装甲を完全に打ち砕く事は出来ず、撃破には至らなかった。
「さって、どうするかね……」
リーダー機が吹き飛ばされたと同時に迸る無数の魔弾の雨を目視しながら、カイトはどうやってこのリーダー機を攻略しようか考える。
(ぶっちゃけてしまえばこのリーダー機さえ攻略しちまえば……って、おい。マジかよ)
先程まで破片を撒き散らして吹き飛ばされたはずのリーダー機が元通りに復元されるのを見て、カイトは流石に頬を引きつらせる。考えるまでもなく、間違いなくあのリーダー機は中身のパイロットが物凄く強かった。
(こいつ確定で無くても強いぞ。なんで足かせじみた中型なんぞ身に纏わせてんだか)
起きた現象は情報のリロードによる最善状態への復元だ。かなり高位の魔術師でしか出来ない事を近接戦闘を行うこのリーダー機は使うというのだ。冒険者のランクで言い表せばランクAは手堅かった。とはいえ、そんな考察をカイトは切り捨てた。
「……まぁ、良いか。倒せば良いだけの話だ」
『『『!?』』』
まるで舞い踊る様に、双剣を生み出したカイトが全ての魔弾を切り捨てる。この敵が誰だか考える必要なぞない。ただ倒すだけ。それだけで良かった。故に気を取り直した彼はリーダー機のサポートをしてくる中型魔導鎧の一機に狙いを定めて、一気に切り込んだ。
『っ、マズい! 避けろ!』
本気になった。カイトの風格の変貌を見てリーダー機がそれを理解したようだ。即座に注意を飛ばすも、一瞬遅かった。
「はっ!」
「!?」
ごぉん、という巨大な轟音が鳴り響く。そうしてカイトの一撃がコクピットの覆いを正確に打ち砕いて、中のパイロットの姿が露わになった。
「はっ」
コクピットを打ち砕いた中型魔導鎧の機体を足場にして、カイトは空中へと舞い上がる。そしてそれと同時に指を鳴らして無数の武器を容赦なく中型魔導鎧へと叩きつけ、一機を完全に消滅させた。
「ナコト、バルザイ」
『リロード完了』
「はぁ!」
空中から投げ下ろす様に、カイトは顕現された<<バルザイの偃月刀>>を次の中型魔導鎧に向けて振り下ろす。が、これにリーダー機が即座に反応してきた。そうして進路上に立ちふさがったが右腕の剣を振って迎撃する。
『させんよ!』
「それは読んでいる」
『何!?』
がしゃん。まるでガラスが砕け散るような音と共に<<バルザイの偃月刀>>が砕け散り、しかしその破片はリーダー機の周辺で再生。リーダー機を迂回して無数の<<バルザイの偃月刀>>となって背後の中型魔導鎧へと殺到した。
『っ! だが!』
流石に中型魔導鎧もリーダー機を迂回して殺到する無数の<<バルザイの偃月刀>>には驚きを浮かべたものの、リーダー機による迎撃の停滞があったからか対応は出来たようだ。前面に障壁を展開して食い止める。が、その次の瞬間だ。中型魔導鎧のパイロットは自らの障壁に浮かぶ複雑奇っ怪な紋様を見て驚愕する。
『何だ!? っ!』
障壁に対する干渉を検知。中型魔導鎧のパイロットはコクピットに表示されるアラートに目を見開く。が、気付いた所で遅かった。その次の瞬間には障壁を転用して発動した魔術により障壁の内側からコクピット目掛けて無数の魔術が殺到し、強固な装甲がまたたく間に削られていく。
『障壁を解除しろ! それで対応できる!』
『っ!』
その手があったか。リーダー機の助言で中型魔導鎧のパイロットは大慌てで非常用のシステムを起動。強引に障壁を解除して突き立てられた<<バルザイの偃月刀>>を振り払う。
が、その次の瞬間だ。まるでそれを狙い澄ましたかの様に真下から<<バルザイの偃月刀>>が飛来。コクピットを貫通する。一本だけ攻撃に加えず、こうなる事を見越した上で別に取っておいたのである。
『『!?』』
本気になるやまたたく間に二機撃破したカイトに、大型魔導鎧のパイロット達が驚愕する。力量の差は歴然たるものだった。
『流石か、少年』
「あんたオレと会った事があるな? 誰だ。顔を隠してるのもオレ対策か」
「はははは。流石にここまでやれば気付くか、少年」
「あぁ! オロフさん! お久しぶりです!」
どうやら案の定、カイトはこの中型魔導鎧のパイロットとは知り合いだったらしい。カイトが気付いたのを受けてこれ以上隠す意味もないかとコクピットの中身を隠す目隠しを外す。
そうして現れたのは壮年の男性なのだが、ハイゼンベルグ家に三百年前の大戦以前から仕えていた軍人だった。そしてそうであれば、カイトも納得だった。
「なーるほど、強いわけだ」
大戦の百年を生き抜いた勇士が相手なのだ。それはこちらの攻撃に対応してくるだろうし、一人だけ腕が格段に違うのも当たり前だ。カイトは納得しながらも、そうであればこそどうするか考える。
(さーすがにオロフさん相手にゃ小手先の技じゃ通用しないか。てーか、こっからが本番って可能性もあるな)
もう正体はバレた後なのだ。確かにサポートする中型魔導鎧二機を撃破したが、その程度で意味がある相手でもなかった。と、いうわけで現状の手札で攻略方法を考えるカイトへとオロフなる兵士が告げた。
「さて、少年。久しぶりの挨拶も交わした所だし……もう少し遊んで貰おうか」
「嫌ですよ、とマジで言いたい所ですが……そうも問屋が卸さない、と」
大型魔導鎧二機は最悪通しても瞬達でなんとかなるだろうが、流石にこのオロフだけはなんとかしておかないと被害が馬鹿にならない。カイトはそう判断すると、仕方がなしにどちらの足止めかわからない戦いを更に続ける事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




