第2642話 合同演習編 ――威力偵察――
皇帝レオンハルト主導で行われている各諸侯、ユニオン所属の冒険者達による合同軍事演習。それにマクダウェル公として、冒険部のギルドマスターとして参戦したカイトはひとまず冒険部のギルドマスターとして攻め込んできた冒険者達による攻撃を撃退すると、今度はマクダウェル公として遅滞する諸侯による攻略作戦に圧力を掛けて強引に作戦を進めさせる事にする。
というわけで、マクダウェル家からの圧力により諸侯の艦隊による強撃が行われる事になり、マクダウェル家はそれの支援としてアル達魔導機部隊による支援が行われる事となる。そんな魔導機部隊に<<天駆ける大鳳>>を警戒したカイトは密かに同行する事にしていた。
『マスター。各諸侯による威力偵察部隊の隊列完了しました。こちらに合わせて侵攻する、とのことです』
「わかった……アル、最前列はお前だ。キツイが、行けるな?」
『勿論』
「良し……リィルはその支援。接近戦を仕掛けてきた機体を迎撃し、アルに近寄らせるな……アイギス、それ以外の者へは一旦は二人に最前線を任せ、余力を残す様に告げろ。どうせ鶴翼の内側まで入り込めばその余力もなくなるだろうし、今回は強襲ではあるが相手の出方やらを確認する趣が強い。撤退は必須だろうしな」
『了解』
『イエス』
カイトの指示にリィルとアイギスがそれぞれ承諾を示す。というわけで、魔導機部隊は前線付近にて隊列を組む諸侯の飛空艇艦隊に合流する。
「さて……」
この動きは当然、向こう側も見ているはずだ。カイトは魔導機部隊と諸侯により結成された飛空艇艦隊が隊列を組むのを見ながら、向こうの出方を伺う。なお、彼当人は相手から迎撃に出て来るだろう小型飛空艇や大型魔導鎧の相手はしない。飛空艇の相手は魔導機が行う事になっているし、そのための魔導機部隊だ。
(現在機雷の撤去状況は八割ほど……向こう側の飛空艇の発進状況としては七割……という所か。流石に最古参の公爵二人だと指揮系統がしっかりしてるか)
ここばかりは新参と古参の差かもしれん。カイトはこちら陣営に比べ動きが素早い――様に見えるだけかもしれないが――防衛側の艦隊を見ながら、そう思う。
どうしても貴族の中には歴史を重視する者はいるのだ。歴史の面ではブランシェット家もマクダウェル家も三百年前の戦争で公爵になった新参だ。若干舐められている所は無いではなかった。無論、そんなものは誰も表には出さないが、である。
(まぁ、良い……度を越すならハイゼンベルグの爺さんにチクれば良いし、最悪アウラが圧掛けるのも手か)
アウラは初代宰相にして賢者と讃えられるヘルメス翁の孫だ。まぁ、カイトもそうと言えばそうなのだが、彼は養子だ。やはりアウラの方が上だし、前に言われているがフロイライン家当主はアウラである。
貴族の位こそ無いが、彼女を無下にする事は即ち最終的には初代皇王であるイクスフォスの顔に泥を塗る行為だ。その点から圧力を掛けるのも手だった。とはいえ、そういったものは後だ。今は、強襲作戦であるとしてカイトは気を取り直す。と、そんな彼にアルから報告が入る。
『カイト。各諸侯の艦隊の準備が出来たって。僕らの方も行けるよ』
「わかった……オレは冒険者達の集団に混じる形で潜んでいる。基本は居ないものとして扱ってくれ」
『了解……よし。行こう』
カイトの指示に頷いたアルは、自らに言い聞かせる様に一つ頷く。そうして、彼の移動に合わせて各諸侯の艦隊もまた侵攻を開始する。それに同行する冒険者に扮して、カイトもまた移動を開始する。
「さて、どう出るか……」
こちらの侵攻に合わせて重点的に火砲を放つ防衛側の飛空艇艦隊を見ながら、カイトは更に周囲の状況を確認する。この魔導砲の嵐は見せかけかもしれないのだ。全体を注視する必要があった。
「アル、魔力の消耗としてはどうだ?」
『まだ十分に行けるよ。相当硬いね、この装備』
「術式の維持に力を割かなくて良い上に、センサーで自動的に最適な防御を割り出している。楽に、それでいて高性能な防御を可能とする兵装だ。その分センサーなんかを取り付けないといけないから、攻撃面は激減しちまうけどな」
現在のアルの魔導機であるが、肩部の所には巨大な外付けのパーツが取り付けられていた。これがセンサー兼結界の展開装置の役割を果たしており、アルは魔力をそれに融通するだけである程度自動で防御が行われるのであった。
『これの試験もカイトが?』
「どっちかってと攻撃側でやらされた。マジで多種多様な魔術使わされたわ。役に立ったなら何よりだ」
『あ、あー……うん。役に立ってるよ……』
いつものことと言えばいつものことなのであるが、どうやら今回はカイト側が攻撃を仕掛ける試験に参加させられていたらしい。まぁ、彼ほど多彩な才能を持つ者は数少ない。防御用の兵装を試したり、データを集める上では何かと役に立つのだろう。
とはいえ、カイトまで借り出した防御用の兵装は十分な効力を発揮していた。アルにはほぼ負担なく、おおよそ全ての攻撃を防ぎ切る。それを、カイトは遠目に確認しながら護衛の冒険者の一人として敵陣に突入する。
(そろそろ、アルの魔導機の兵装は打ち破れないと理解する頃だが……そうなると冒険者が出て来るか、はたまた……)
大型魔導鎧が出てきて近接戦闘を仕掛けるか。カイトはこの次の展開を二つ予想する。このままではアルの防御を突破出来ず、無傷の艦隊を相手にする事になる。
そしてゼロ距離になると流石に防衛側も誤射を恐れて支援は出来なくなる。鶴翼の陣の難点はうまく配置しないと味方への誤射が生じてしまう点だ。そこをうまく活用し攻略するというのが、攻略の肝でもあった。そして少し後ろで全体の把握に務めていたカイトの目が、次の防衛側の動きを見定める。
「アル、敵大型が発進する。お前は相手にするな」
『了解。このまま艦隊の防衛を続けるよ』
「そうしろ……リィル。敵が近接戦闘を仕掛けてくる。迎撃しろ」
『了解。各隊、観測機から伝達。近接戦闘準備』
『『『了解!』』』
カイトの指示を受けたリィルの連絡により、魔導機部隊が戦闘態勢を整える。そしてそれと時同じくして、防衛側の守る都市部から大型魔導鎧の兵団が発進する。
『各艦はそのまま前進! 大型魔導鎧に関してはマクダウェル家の戦団に任せろ!』
戦闘を開始する魔導機と大型魔導鎧を横目に、今回の飛空艇の船団の団長が指示を飛ばす。まだ飛空艇の艦隊は無傷だ。このまま突破出来る所まで突破して、可能な限り情報を引き出したい所だった。
「よし……」
これで更に押し込める。カイトは魔導機の戦団は数こそ少ないものの性能が段違いである事を利用して十分な戦果を挙げられているのを見て、一つ満足気に頷いた。そうして魔導機と大型魔導鎧の戦いを横目に進む飛空艇艦隊であるが、流石にここまで来ると次の段階は向こうも想定していたのだろう。すぐに次の矢が放たれる事になる。
「冒険者達と飛翔機付き魔導鎧の戦団か……アル、お前は進み続けろ。こちらでお前に取り付く奴は迎撃する」
『お願い』
一応、後で何か言われない程度には活躍しておかないとな。カイトは表向きアルの出向先として彼の支援に乗り出している体を装うため、出陣してきた飛翔機付き魔導鎧を身に纏う戦士達に対して牽制の武器の嵐を叩き込む。そして同様に出撃してきた迎撃の冒険者達を攻略側の冒険者達が迎撃し、という構図があっという間に出来上がった。
(さぁ、土台は作ってやったぞ……どう出る?)
更に近付いていく攻略側陣営の威力偵察部隊と<<天駆ける大鳳>>の飛空艇艦隊を見ながらカイトは次の動きを見定める。
実のところカイトとしても<<天駆ける大鳳>>がどんな兵装を持っているかは定かではない。というのも、<<天駆ける大鳳>>の活動の軸足はエネシア大陸ではないからだ。
(どんな武器があり、どんな戦術を取るのか……それを知らん限りは先に進めん)
おそらく自分がここに居る事はレヴィ達は掴んでいるだろう。カイトはそれ故に最後の切り札は切るな、と言われているだろう事は承知の上で情報収集に徹する。そうして突き進む威力偵察部隊であるが、やはり防衛側もまだまだ兵力は万全の状態だ。街の防衛兵器の射程圏内に入った所で、流石に停止する事になる。
『カイト。これ以上は流石に駄目かも。火力が高すぎて、防ぎきれない』
「だろうな……良し。威力偵察部隊の総隊長に報告。この場にとどまり情報収集を行う様に具申しろ」
『了解……』
カイトの指示を受けて、アルが威力偵察部隊の総隊長に報告を入れる。そもそも今回の目的は情報収集と攻める意思を各国に示す事だ。というわけで、アルの報告に飛空艇の艦隊側も承諾を示しここでの情報収集を決定する。そうしてその場に留まって交戦を開始した飛空艇の艦隊であるが、それにレヴィは一つ頷く。
「ふむ……ハイゼンベルグ公」
『なんじゃ』
「どうにもこうにも、面倒な奴が乗り込んできた様子だ」
『見えておるな……是が非でも情報をかっさらうつもりじゃのう』
レヴィの指摘に同じく拡大された映像でカイトを捉えるハイゼンベルグ公ジェイクが笑う。彼とてカイトの目的が情報収集にある事はわかっている。が、わかっていてもなんとも出来ないのは嫌な所であった。
「だろう……あいつに来られると厄介でならん」
『育てすぎたのう』
「……情報を一つくれてやってさっさとお引取り願うべきだと思うが」
『そうじゃのう……そうせねばあれは引かぬし、手に入らぬ内は被害も最小限に抑えよう』
「何より、魔導機の戦団は厄介だ。このままだとこちらの大型が食い尽くされた挙げ句、周囲の艦隊まで食い散らかされる。さっさと撤退して貰った方が良い」
『じゃな……<<天駆ける大鳳>>に連絡を。迎撃を頼む、と伝えよ』
どうやらこれ以上攻略側の威力偵察部隊に内部に留まられて被害を増やされるのは得策ではないと判断したようだ。ハイゼンベルグ公ジェイクは威力偵察部隊を正面に捉える<<天駆ける大鳳>>に迎撃の要請を行う。これに、<<天駆ける大鳳>>を率いるアウィスは即座の了承を示した。
「団長! ハイゼンベルグ公から要請! 想定通りです!」
「おう、来たか! 準備はどうだ!」
『へい! 出力安定! どでかいのカマセます!』
どうやらアウィス達はこうなるだろう、というのを読んでいたらしい。やはり彼らも伊達に八大ギルドの一角と言われるのではなかったようだ。というわけで、すでに準備もほぼほぼ整っていたらしい。すぐに、迎撃の準備が周囲からも見える様になる。
「おぉ? これはまた……」
とんでもない物をお持ちのようで。カイトは<<天駆ける大鳳>>の旗艦だろう飛空艇の甲板が開いて、奥から現れる超巨大な魔導砲の存在に思わず半笑いで頬を引きつらせる。そして収束する魔力の濃度に、カイトは即座の判断を下した。
「あ、これ駄目だわ……アル! 結界をオレがサポートする! 飛空艇には即座に退避行動を取る様に告げろ!」
『りょ、了解!』
どうやらアルもこれはマズいと理解したらしい。彼は魔導機を虚空にしっかりと固定して、前面の障壁の強度を最大まで上昇させる。そしてその肩の上に、カイトが着地。外付けされている防御用の兵装に手を当てて、障壁の強度を外側から底上げした。その直後。ハイゼンベルグ公ジェイクの要請から十数秒後だ。<<天駆ける大鳳>>の旗艦が誇る超巨大魔導砲の一撃が、迸った。
「っ!」
展開が早い。カイトは<<天駆ける大鳳>>の主砲の一撃に顔を顰める。せめて後十数秒でも余裕があればと思うが、即座にそれでこそ八大の一角と称賛に切り替える。が、本当に彼が驚くのはこの後だった。
『「!?」』
一撃を防ぎきったカイトとアルが見たのは、放った直後に再度の魔力の収束を見せる<<天駆ける大鳳>>の主砲だ。
「連射!? こりゃ駄目だ! アル! お前はここに留まり、後ろの艦隊や魔導機部隊は即座に撤退させろ! 流石にこの威力で連射されりゃ現状じゃ打つ手なしだ!」
カイトも受けてみてわかったが、<<天駆ける大鳳>>の主砲の威力はド級の戦艦型飛空艇でも耐えきれない物だった。冒険者で例えるならランクA相当の一撃だろう。
飛空艇の主砲でこれは十分驚異的だし、何よりこれで連射が可能であるのなら一撃に全てを込めればどれだけかは想像も出来なかった。というわけで、カイトはアルと共にその場に留まりひとまず撤退のための時間を稼ぐ事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




