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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2641話 合同演習編 ――戦端――

 皇帝レオンハルト主導で行われている皇国全軍を集めた合同軍事演習。その中でカイトは前線に切り込んできた冒険者達の迎撃に出て見事追い返す事に成功。しかしそれを終えてなお動かない自軍にこのままでは皇帝レオンハルトの名に泥を塗る事を危惧。マクダウェル家を起点として各諸侯に動きを促す事とすると、アウラに指示を出して会議を強引に終わらせる事にする。

 というわけで、カイトの指示を受けた彼女はどのタイミングで切り込もうかと情勢を見定める。が、やはり彼女とて代行として動くのだ。口を開く直前には、ヘルメス翁の孫にふさわしいだけの覇気を持っていた。


『ウチの騎馬隊なら下をくぐり抜けられる』

『それなら飛空艇による航空支援が必要だろう。それならば……』


 基本的には誰もが手柄は欲しいが、痛手は負いたくない。それは当たり前の話であるが、それをいつまでもやっていられても困るのだ。というわけで、話の切れ目を見定めて通信機の会話システム――流石に誰でも彼でも話せると聞き取れないため――をオンにする。


『む……フロイライン代行』

『どうされました?』

「少し良い? いつまでこの話続ける?」

『『『っ』』』


 一番言われたくない事を。ぴくっと諸侯達の顔が引きつった。当たり前だ。貴族や政治家は言外の意図を悟って悟って悟って、なんとか本意を伝えていくのがお仕事だ。

 それをすっ飛ばしていきなりの本題である。こうもなろう。が、諸侯の中にはそろそろ来るだろうと思っていた者も少なからずおり、アウラの言葉に周囲に頷きを送っている様子も見受けられた。


「あまり長引かせれば諸外国から陛下の評判が下がる。それはひいては攻略側陣営の評価の低下に繋がる。作戦を練るのは良いけれど、時間が限られている事を忘れないで」

『も、勿論わかっていますとも』

『ええ。故にこうやって誰が先陣を切るかと』

「それは聞いてない……聞きたいのは、誰が行くの?」


 タイムアウト。一同はマクダウェル家が焦れたのではなくこれ以上の論争は陛下の名に泥を塗ると判断されたのだと理解する。そしてそれ故に腹を括らねばならないとも理解した。

 当たり前だ。もしここでマクダウェル家にどうぞ、と言ってしまえばその瞬間マクダウェル家が動く。マクダウェル家はそれが出来る家だし、それを望まれる家だ。今まで動かなかったのはそれだとマクダウェル家の独壇場となり、他家の活躍の場を奪ってしまうという配慮に過ぎなかったのである。


「別に誰もやらないのならウチが動く」

『そ、それは……マクダウェル家は主力艦隊。緒戦で切るべき札ではないでしょう』

『そうですとも。緒戦は我らに任せ、どっしり構えてくだされば』


 正直最悪は誰が行っても良いのだが、マクダウェル家にだけは行かれるのは困る。今まで誰にどう行くかと決めかねていた諸侯らは口々にマクダウェル家を牽制する。


「じゃあ、誰が行くの?」

『『『……』』』


 さっさと決めろ。言われなくてもわかるような言外の圧力に、諸侯達は口を閉ざす。が、これこそを好機と捉える諸侯の一人が告げた。


『であれば、我らにおまかせを。ただ戦力が足りぬので、幾ばくか支援はして頂きたい』

「構わない。魔導機部隊で足りる?」

『……魔導機、か。確か新機軸の大型との事ですが……』

「基本運用は変わらない。こういう場で突破力の高い行動が出来る」

『ならば問題ありません。その者達と冒険者、そして我らで先陣を切り開きましょう』


 どうやらこの諸侯を中心として、それに連携を取ろうという諸侯が主軸となって敵陣を切り開く事にしたらしい。まぁ、これについては誰もこの一度の侵攻で成功するとは思っていないが、攻め込む気概があると見せる事が重要だ。というわけで、アウラの圧力を起点として陣形が組まれる事になる。それを、カイトはクズハから迂回して聞いていた。


『という感じでしょうか』

「へー。あのレーメス伯爵が先陣に名を連ねるとはねー。何が起きるかわからないもんだ」

『ですね……お兄様に脅されたのが良薬になった、という事なのでしょう。近々聞いた話であれば』

「聞いてるよ、オレも。息子の教育をやり直してるみたいだな。楽しそうな悲鳴が響いているとかいないとか」

『みたいですね』


 やはお隣同士なのだ。揉めているより良好な関係が築ける方が有り難い。勿論、治安が良いならなおのことだ。次代もなんとかなりそうだというのなら、そちらの方が良いに決まっていた。というわけで笑い合う二人であるが、それならと気合を入れ直す。


「とはいえ……それならオレが腑抜けた所は見せられねぇよなぁ。クズハ、先陣にはアルとリィルを加え、魔導機部隊の主軸になる様に告げろ。まぁ、二人には適当に暴れろと告げておけ。どうせ連携しようにも二人の腕に周囲が追いつかんからな」

『かしこまりました』


 アルとリィルの二人は今回、冒険部ではなくマクダウェル公爵軍に復帰している。が、この二人には今回初戦では完成した二人の専用機を使う様に告げており、魔導機部隊に加わる様に言っていたのであった。


『そういえば……お兄様も出られますか? 一応、魔導機パイロットの中に含めておきましたが』

「いや、まだアイギスにもホタルにも飛空艇の操艦を任せておきたい。なーんかいやーな予感すんのよね」


 クズハの問いかけに答えるカイトが見るのは、ハイゼンベルグ家の艦隊に代わって都市の中心に陣取った<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊だ。八大ギルドの中でも飛空艇に特に力を入れた一団が中央に陣取っているには何かしらの理由がある。カイトはそう判断していた。


「……アイギス。敵飛空艇の陣形は鶴翼で間違いないか?」

『イエス。敵陣形は鶴翼……こちらの艦隊を引き込み、街の防衛システムなども活用して迎撃する目的かと』

「真正面を<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>の艦隊が引き受け、各諸侯の艦隊が左右から突き進んできた艦隊を迎撃って腹か」


 見たままではあるが、おおよそはそういうつもりなのだろう。カイトは防衛側の陣形からそう判断する。


「一見するとバカバカしい陣形だが……」

『まぁ、入り込めば集中砲火。決して侮れん陣形じゃのう……ひとまずはどの程度の火砲があるか、調べねばなるまいて』

「だな……アル達にはあまり深追いするな、と告げておけ。現状は敵がどの程度の火力があるか、を調べる程度にな」

『イエス』


 カイトの指示をアイギスはそのまま魔導機部隊へと伝令。今回は失敗を前提としている面もあり、趣としては威力偵察に近かった。危険な任務なので無事に帰るのはアル達腕利きでないと不可能と判断したが、相手が相手だ。万が一どころか油断すれば普通に撃墜はあり得た。


「ソラ……聞いての通り、レーメス伯爵やらが先遣隊となり敵の威力偵察を行う。こちらも一旦地上に降りて、その支援に回るぞ」

「え、あの伯爵が?」

「驚くのも無理はないが……勿論、伯爵だけじゃない。何人かの貴族の連合だ」


 やはりソラの印象としては一番最初の頃。盗賊をマクダウェル領に引き込んだ最悪のイメージが頭にこびりついているようだ。特にこちらはカイトとは違い隣領地の領主の話なぞ滅多に聞かない。

 必然、疑い深くなっても仕方がなかった。とはいえ、そんな彼も他の貴族達も一緒――何より先程のカイトの様子もあったが――と言われれば納得は出来たらしい。


「あ、そう……で、俺ら以外は?」

「ウチ以外もそろそろ戦闘開始ってことで飛空艇を降ろす事になるだろう。実際、見てみろ」

「あ……」


 確かに言われてみて気が付いたが、冒険者が運用する飛空艇がゆっくりと降下を始めつつあった。今まで降下していなかったのは防衛側の陸戦隊の攻撃を避けたいがためだが、動くとなっては降りるしかなかった。


「先輩。着陸と同時に周囲の安全の確保と、結界の構築を。地上なら届く攻撃も少なくない」

『わかった……お前はどうするつもりだ?』

「嫌な予感がどうにも離れん。アルとリィルの支援に回るつもりだ」

『それなら俺も行こうか?』

「いや、今回は諸侯との共同作戦だから、魔導機での動きになる。先輩じゃ追従は出来んだろう」


 瞬の問いかけに対して、カイトは一つはっきりと首を振る。そんな彼の視線は<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>に注がれており、何かしらの秘策の存在を警戒している様子だった。


「飛空艇の船団や魔導機の戦闘行動に追従しようとすると、せめて今しがた攻め込んできているような冒険者並の戦闘行動は取れないと話にならん。流石にそれはな」

『そうか……確かに俺達では行っても足手まといか』

「そうだ、と言うしかないだろうな。生半可な飛翔じゃ敵陣ど真ん中に落ちる可能性もある。最低、自力で帰還出来るぐらいは必要だ」

『そうか……わかった。こちらは着陸後の陣地確保に努める』

「頼む」


 別に残ったからやることが無いわけではない。というより、同行した方がやることがないという事態だって考えられるのだ。なので瞬は残って着陸後の陣地設営を優先する事にしたようだ。というわけで、彼とソラに後を任せて、カイトは降下を始めた飛空艇の甲板から飛び出した。


「さて……アル、リィル。どちらでも良い。聞こえていたら返事しろ」

『聞こえているよ。そっちの姿も視認……じゃないけど確認してる』

「万が一に備えて、オレも同行する……<<天駆ける大鳳バード・イン・ザ・スカイ>>は油断して良いはずがない」

『八大ギルドの一つ……か』

「ああ……どんな秘策を持っていても不思議はない。鶴翼の中に入った瞬間、滅多打ちにされても不思議はない。勿論、飛空艇の船団を主体としているんだ。飛空術は普通に使えるんだろう……他にも諸侯の艦隊に乗った冒険者の支援はさせるつもりではあるが、十分に注意しろ」

『了解』


 カイトの指示にアルは一つ頷いた。そしてその返答を聞きながら、カイトは後方にて待機している自身の艦隊の中核を担う一隻である空母型の飛空艇の近郊へと移動する。


「アイギス。発進時を狙われても面倒だ。オレも支援に入るが、前面の結界は厚くしておいてくれ」

『イエス。すでに実施済み……魔導機部隊発進準備完了。付近の艦艇は注意せよ。アルフォンスさん、発進どうぞ』

『了解』


 カイトの指示に返答を返すアイギスは、そのまま周囲の飛空艇に向けて魔導機の発進が行われる事を通達する。この空母型は現状ではまだマクダウェル家と近衛兵団しか運用していない機種だ。飛空艇の隊列を組むにしても慣れていない諸侯の方が多く、進路を邪魔する形になってしまう事が少なくなかった。

 そうしてカイトの見守る中で艦隊が魔導機の発進に合わせた形に隊列を組み直し、アルの乗る魔導機が発進する。


『っと……前に乗った時よりやっぱり随分楽かな』

「それだけパワーアップしたって事だ。アル、防衛用の飛空艇に代わって前面の守りに就け」

『了解……大規模結界展開装置起動。出力安定……安全装置問題無し』

『ん……問題なさそうじゃのう』


 今回、大規模な演習である事もあってアルの機体には最前線で周囲の機体の支援が可能な大規模な結界の展開を可能とする装備がオプションで取り付けられていた。その試運転も兼ねて、結界の展開を行わせたのだ。それに問題がない事を確認したティナの言葉を聞きながら、アイギスが続けて発進許可を出す。


『アルフォンス・ヴァイスリッター専用機の発進を確認。順次発進準備が出来た者から発進どうぞ。発進後は他の魔導機、諸侯による飛空艇艦隊の準備が整うまでその場で待機してください』


 アルの専用機の発進をレーダーで確認し、アイギスは続けて魔導機達の発進を許可する。そうして、アイギスの号令を受けた魔導機部隊が発進し隊列を組む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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