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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2633話 合同演習編 ――前日――

 皇帝レオンハルト主導で行われる合同軍事演習。それは動員可能な全貴族、ユニオンの全面協力の下行われるという皇国史上どころかエネフィア史上最も巨大な演習だった。それにマクダウェル公として、冒険部のギルドマスターとして参加することになったカイトは片やマクダウェル公として公務を行いつつ、片やギルドマスターとして冒険者としてのブリーフィングを行ったりとせわしなく動いていた。というわけで、二時間ほどのブリーフィングを終わらせた後。カイトはルルイラのところへと訪れていた。


「どんな塩梅……っ」


 聞くまでもなかったみたいだな。カイトは明らかになにかが変わった様子のルルイラを見て、わずかにほくそ笑む。どうやら誰よりも当人が一番、この得物こそが自分に適した物と理解したらしい。カイトが来るまでに軽く素振りまで行っていた。


「あ、マスター」

「おう……やはりそちらの方が良かったか?」

「はい」


 カイトの問いかけに、ルルイラははっきりと頷いた。これにカイトもまた頷いた。


「やはりな。君の場合、遠心力を使って戦うようなやり方が見えたんだが……偃月刀だと柄が長すぎて追々自壊することになるだろ。こう……叩きつけた瞬間ぽきっとな」

「柄はもっと丈夫だと思います」

「丈夫は丈夫さ……だが、思う以上に脆くもある。まぁ……最終的に更に遠心力を加えるのなら偃月刀の方でも良いだろうが。あれは少し独特過ぎて、あまりおすすめはできんさ」

「はぁ……」


 カイトの言葉にルルイラはわかったようなわからないような様子を見せる。これについては本当に使ったことがあるかないか、というところではあり、同時に使ったことがあっても熟達の領域にまでたどり着かねばわからないことが多かった。と、そんな様子のカイトに、ルルイラはふと首を傾げる。


「使ったことあるんですか?」

「ん……まぁ、使ったことがないならこんな事は言わん。オレをどこまで知っているかはわからんが……オレはこの通り武器を自分の魔力で編めるという特異体質でね」

「わ……」


 無から武器を生み出したように見えるカイトに、ルルイラはわずかに目を見開く。この魔力でありとあらゆる武器――カイトはすでに武器以外も可能だが――を編めるのは万人に一人という領域ではない特殊技能だ。驚くのも無理はなかった。


「ん……こいつで大体そこにあるそれと同じぐらいの重量バランスだろう。持ってみて良いか?」

「あ、はい」

「サンキュ……うん。見立て通りではあったが……んー……」

「どうしました?」


 重量感としては見た通りだったので良かったのだが、カイトはなにかを感じ取ったらしい。思い切りしかめっ面だった。そうして飛んだ問いかけに、カイトは当人が適した得物を理解したのだから別に隠す必要はないかとはっきり告げてやることにした。


「重量バランスが悪いな。多分、強引に中央に重心を持って来ようとしている。柄は木製かと思ったが……分解清掃は?」

「したことありません」

「全部鍛冶屋にお任せか……」


 まぁ、初心者にありがちな判断か。カイトは今後はそこらも教育することを決める。これはもしルルイラが分解清掃をしていれば自分で気付き、是正していた可能性はないではなかった。


「分解するぞ」

「あ、はい。どいぞ」

「よいしょっと……」

「……」


 ぽかーん。まるで自分の得物の如く手早く偃月刀を分解清掃してみせるカイトに、ルルイラは思わず目を丸くする。まぁ、ここまで手早いのは彼が村正流の手習いを受けていたので出来るだけだ。冒険部の者たちでもここまで手早くは出来ない。というわけで、手早く分解したカイトは案の定、という顔をした。


「やはりな……石突きの部分から少しだが無理くり金属を接合してる。あぁあぁ、かなり無理しちまって……こりゃ、遠からず壊れてたぞ……」

「え? あ……」

「見てみろ、この部分。他にも敢えて重量感を出すために金属を埋め込んだりしている……あぁあぁ、ここもだ」


 こりゃ久しぶりに見る領域でひどい一品だ。カイトはしかめっ面で柄を覆う滑り止め代わりの布を巻き取っていく。すると、柄の至る所にひび割れが生じていたり、ひどいところでは金属の接合が甘すぎたのか剥がれ落ちたりしてしまっていた。と、そんなボロボロの偃月刀を見るカイトの後ろから、声が掛けられた。


「うわ、ひでっ……なにそれ……俺らの時代でもそんなひどいの滅多に見なかったぞ。結構使い込んでんの?」

「うおっ……兄貴か。この子、新入りなんだが……戦い方から大剣への転向を勧めてな。それで大剣渡して今まで使ってた偃月刀を見せて貰ったんだが……ひっでぇな、これ」


 どうやら熟練の戦士二人が見て盛大に顔を顰めるぐらいには、状態は悪かったらしい。というわけであまりに酷い状態にソーラが問いかけた。


「これ、どれぐらい使ってる?」

「一年……と少しです」

「修繕は?」

「何回かこれを買った商店で紹介された鍛冶屋に……」


 ソーラの問いかけに対して、ルルイラは彼は誰なんだろうと思いながらもカイトが親しげだったので答えていく。そんな二人に対してカイトはいろいろな点を分解しながら、顔をしかめて問いかける。


「マクスウェルか?」

「いえ……来る前です」

「そりゃ良かった……いや、よかぁねぇが」


 自分のお膝元でこんな粗悪品を売りつけるような商売人とそれをまるで修理しているかのように見せかけている――実際に事態の早期の露呈を防ぐべく壊れない程度には修理していたが――鍛冶師がいれば、流石に見過ごせない。

 というより噂が入っていれば間違いなく海棠翁らにぶん殴りにいけ、もしくはぶん殴りに行くので許可を出せ、と言われ対応に頭を抱えるところだった。先に気付けて良かった、と言えた。


「とりあえず、こいつ売った商店とこいつの整備点検を請け負ってた鍛冶師。両方とも後でどこのどいつか出してくれ。流石にこいつは見過ごせん」

「そ、そんななんですか……」


 どうやら自分が思った以上にこれは見過ごせない物だったらしい。もしかしたら死ぬ可能性さえあった事態に、ルルイラは顔を少し青ざめていた。


「こいつ、そのまま預かって良いか? 証拠品として保管する」

「あ、はい。どうぞ……」

「ああ……ったく……どこのどいつだ、こんな粗悪品を売りやがって……アコギな商売してやがる」


 やはりカイトも十数年以上も冒険者をしているのだ。いくら新人相手だからと言っても、いや新人相手だからこそこんな悪徳な商売を認められなかったようだ。

 なお、後にルルイラの提出してくれた資料を使って調査させ最終的には他の案件と合わせて是正勧告を出させていたので、彼女だけではなく他にも色々とあくどい商売をしていたようだった。というわけで証拠品として偃月刀の紛い物を押収したカイトへとソーラが問いかける。


「やるか?」

「そんな楽しそうな顔すんなよ……こういうのは裏から叩く方が良い。追々、変なのが絡んできたらやるが……今は様子見だな」

「そか」


 どうやらそれならそれで良いか、程度にしか思わなかったらしい。楽しげに笑っていたソーラが肩を竦める。これに、ルルイラが問いかけた。


「……えっと、このじょ……だ……方は?」

「くっ……男だ男。こう見えてな。ぐげっ」

「こう見えて言うな、こう見えて」


 がすがすがすっ、とカイトの脇腹に肘を打ち付けるソーラに、カイトは楽しげに笑う。そんな彼はそのまま、ソーラの事を紹介した。


「こいつはソーラ。まぁ……オレ限定で兄貴って呼んでるんだが。厳密にはウチのギルドメンバーじゃないんだが……」

「おっす。一時的だけど世話になってる」

「はぁ……」


 そうなのか。やはり大規模なギルドになると傘下に収める――ルルイラはそう勘違いしていた――事もあるのだろう、とルルイラは思ったようだ。そんな彼女の一方、カイトはソーラへと問いかける。


「で、何しに来た」

「いや、大剣ぶん回してる奴が見えたから、何か面白い事でもあっかなって」

「なんも無いぞ。そもそも大剣に触らせたのだって今日からだし」

「そういや、そう言ってたな」


 別にカイトもソーラが大剣を使うからと彼を呼んだわけではなかったらしい。が、ソーラの側は自分も同じ大剣を使うので興味が湧いたのだった。


「みたいだな……あ、俺も大剣使うんだ。よろしくな」

「あ、はい」


 ソーラの差し出した手をルルイラが握る。そんな彼女に、ソーラが笑う。


「にしても、大剣士が増えてくれて嬉しいよ。えーっと……冒険部? 数多いけど大剣士って少ないからなぁ。俺とこいつぐらいか? 大剣まともに使うの」

「オレをまともに含めるなよ。てか、兄貴の大剣もまともかと言われるとオレは首振るぞ」

「まー、そうだけどさ。でもウチじゃあんまり大剣使う奴居なかったからなぁ」


 ソーラの大剣はかつて彼らが人体実験された研究所が竜殺しの大剣として作り出した兵器だ。なので数々のギミックが仕込まれていたし、ソーラが現代の技術や冒険者に合わせた改良を施した事でパワーアップを遂げているらしかった。


「あー……そういや、あんま居なかったな。いや、大剣作るほどの金属は確保し難いかぁ……」

「あー……なるほどなー……」


 カイトの指摘でソーラもそれであまり大剣がなかったのかと納得する。彼らが活躍したのは戦争時代だ。物資は基本不足しており、大量の金属を使う大剣は数が用意されていなかった。結果、ソーラを含む僅かな人員しか大剣を装備していなかったのである。


「っと、それはともかく。どうせだから助言してやってくれ。専門家の方が良いだろ」

「いいよ。暇だから」

「おけ……じゃ、ルルイラ。とりあえず体幹を身につける必要がある。一度それを持ったまま走ってみたりしてくれ」

「はい」


 カイトの師事にルルイラは大剣を専用の剣帯に背負って走り出す。と、そんな彼の所にソラが先に彼の下に配属された少年冒険者を連れてやって来た。


「あれ? カイト? ソーラさんも」

「ああ。ソラか……どうした?」

「あ、おう……あ、ルルイラちゃん。あれ? 大剣?」

「ああ、偃月刀が少し色々とな……大剣に転向して貰った」

「「はやっ!?」」


 さっきの今で大剣に転向させたカイトに、ソラ――と少年冒険者――は思わず仰天する。そんな彼に、カイトが問いかける。


「色々とな……で、お前は?」

「あ、おう……一度対人スキルがどんなもんか、って模擬戦に」

「ああ、そういう……こっちは大剣の指南してるから、お前もまぁ、好きにしとけ」

「おう。邪魔にならない程度に離れてるわ」

「すんません、失礼します」


 カイトの許諾を受けて少し離れた所へと向かうソラに、少年冒険者はカイトに一つ頭を下げてそれに従う。というわけで、カイトはそれを横目にソーラと共にルルイラの指南に努める事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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