第2630話 合同演習編 ――集合――
マクダウェル公としての仕事で冒険部を離れ皇都エンテシアを訪れていたカイト。そんな彼は皇都で各方面との調整を行いながら日々を過ごしていたのであるが、それもハイゼンベルグ公ジェイクが地球との交渉を一段落させた所で終了。彼や同伴したアイナディスと共にエンテシア砦郊外に設けられた演習場の視察を行っていた。そしてそれも終わって、少し。カイトはマクダウェル家、冒険部の統率を取りながら、一旦アイナディスと共にエンテシア砦に戻ってその両者の到着を待っていた。
「おーう、カイト。飛空艇サンキュー」
「あいあい。長旅……にはならなかったか」
「そうだな。さすがはマクダウェル家の最新鋭の飛空艇って所か」
カイトの問いかけにバルフレアがマクダウェル家の飛空艇を見ながら頷いた。これには当然アウラもユリィも乗っているのだが、実はバルフレアとレヴィは防衛側になるのでここで別行動になるのであった。と、いうわけで乗り心地など複合的に見て称賛するバルフレアに対して、レヴィが口を開いた。
「それは良いが、さっさと行くぞ。ハイゼンベルグ公に挨拶をせねばならん。多忙な公を待たせるわけにもいかん」
「っと……そうだったな。とりあえずカイト、飛空艇サンキュ」
「ああ……爺なら一旦こっちで陛下を出迎えるから、今は市庁舎の方に詰めてるはずだ」
「わかった」
ハイゼンベルグ公ジェイクが多忙なのは今更言うまでもないだろう。が、今回はレヴィが軍師。バルフレアは冒険者側の最終責任者だ。どちらも彼に挨拶をせねばならないが、もう集合も始まった今だ。取れる時間はかなり限られているが、それ故にこそあまりのんびりもしていられなかった。
というわけで二人がエンテシア砦の市庁舎に向かう一方、カイトはそのまま空港に待機してアウラとユリィの二人に連絡を取る。
「二人共、そっちに異常は無いか?」
『こっちは無いよー。後はクズハとこっちで合流して、って感じ』
「そうか……まぁ、あっちももう出発はしているから、後は本当に到着するのを待つだけか」
『だね……で、カイトはそのまま空港待機?』
「いや、昼食ったら向こうに移動だ……ま、その後は結局こっちに来る事になるんだけどな」
『あはは』
当たり前だが一介の攻略側に所属する冒険者ギルドに過ぎない冒険部に対して、カイト当人はマクダウェル公としての立場がある。ハイゼンベルグ公ジェイクがそうである様に、皇帝レオンハルトを出迎える必要があった。
「一応、陛下が来る夕方にはこっちにオレも来る。そこで全員合流って流れかな」
『りょーかーい。まぁ、どっちにしろそれまでこっちも何かするってわけじゃないけど』
「お前の場合はな……とりあえずまた夕方にはこっちに戻るとアウラには伝えておいてくれ」
『んー』
「あ、聞いてたのか。てなわけで後は頼む」
『『はーい』』
どうやら一緒に居たが話には参加していなかっただけらしい。カイトはアウラの声に一つ笑うと、それで話を終わりとしておく。というわけで、彼はそのまま昼過ぎまでエンテシア砦で待機して、昼を過ぎた頃に一旦エンテシア砦を後にして、攻略側の冒険者が集合する一角へと向かう事になるのだった。
さて数時間後。昼食を摂ったカイトはエンテシア砦を後にして攻略側の冒険者達が集合する一角にたどり着いていた。理由は勿論、ソラ達と合流するためである。
「お、来たな……」
少し先に見えた冒険部の保有する輸送艇を見付け、カイトは腰掛けていた椅子――自分の魔力で編んだ――から立ち上がる。
「ソラ。こっちからお前らの姿が見えた。誘導らしい誘導は無いから、こっちから誘導する」
『え、無いの?』
「一応、軍が管理しているから欲しければ貰えるがな。その場合、相当待たされるし空中待機の方が良い、って判断する所もちらほらって感じになってる」
『あー……それで周辺で浮かんでる飛空艇が多いのか……』
着陸して停泊したければどうぞ。そんな様子なのだろうとソラは理解する。
「そういうこと……とはいえ、オレの場合は先に来てたし軍と渡りをつける事の出来る立場だからな。先に話を通して、着陸出来る一角を貰っておいた」
『あ、そうなのか……サンキュ。こっちからはお前がわからないんだけど、どうすれば良い?』
「現在位置をそっちに転送する。それで確認してくれ」
ソラの問いかけを受けて、カイトは予め貰っておいた座標を飛空艇へと送信する。そしてそれを頼りに、ソラが飛空艇の航路を微修正した。
『えっと……こっちか。あ、人影が……拡大……あ、居た』
「見付かったみたいだな」
『おう。速度を落として……着陸体勢に移行。先輩! 着陸体勢に移行しますんで、全員に座席に腰掛ける様に頼んます!』
『ああ、わかった!』
通信機の先が少しだけ騒がしくなり、飛空艇が更に速度を落としていく。といっても飛空艇は時速数百キロで飛行する事も可能だ。すでに砦が近く速度は落としていたが、時速は数十キロになっていた。というわけで、あっという間に飛空艇はカイトの眼の前まで到着する。
「ちょうどその位置だ。そのまま降下しろ」
『おっけ……高度低下……高度計確認……着地センサー異常なし。良し』
カイトの案内に従って飛空艇を着陸させたソラであるが、その後計器類に異常の無い事を確認。問題なしを判断して完全に停止した。
「こっちからも着陸を確認した……おつかれ」
『おう……ふぅ』
「そういえばもう一隻は誰が操縦してたんだ? 先輩がそっちってことは他だろ?」
『ああ。ちょっと打ち合わせやっときたかったから、先輩はこっちに乗ってもらってた。で、あっちは翔』
「あ、そういう……」
今回の合同軍事演習は冒険部としても今まで経験した事の無い領域で、この規模の作戦になると辛うじて上層部の面々がラエリア内紛で経験したぐらいだろう。その彼らも部隊を率いての参加ではなく部隊として参加した限りで、統率をどうすれば良いかなどは未知の領域だった。それ故、最後まで話し合いをしていた、というわけなのだろう。
「とりあえず。どうにせよ今日はこのまま待機。明日の朝から開始だ。部長連は借りた方か?」
『そんなとこ』
「なら、リモートでぱぱっと流れの確認だけしちまって、今日は休みにしておこう……一旦休憩を挟んで、って先輩に伝えておいてくれ。時間は一時間ぐらいで良いだろう。部長連には先輩から話を通しておいてくれ、と伝えておいてくれ。オレは軍にギルドとして到着した旨を報告してくる」
『わかった』
自身の指示に頷いたソラの返答を聞いて、カイトは頷いた。というわけで彼は冒険部の統率をソラに引き続き任せると、所定の通信コードを利用して攻略側の人員などの統括を行う司令室的な施設に連絡を入れた。
『はい、なんでしょう』
「こちらギルド冒険部ギルドマスターのカイト・天音です。ギルドとして到着しましたので、報告致します」
『了解しました。ご報告ありがとうございます。何か必要な物などがありましたら、お申し出ください』
「ありがとうございます」
オペレーターの返答に、カイトは一つ礼を述べる。ユニオンには軍から一括して申請が通る様になっており、今回エンテシア砦のユニオン支部にわざわざ向かわなくても良かった。
何より各地から集まった数万人単位の冒険者に大挙して押し寄せられても、ユニオンとしても捌ききれない。軍が一括してくれるのはユニオンとしても有り難かった。
「良し……ソラ。こっちは終わった」
『こっちも通達終わったって。で、飛空艇の方も問題無し。魔導炉なんかも安定してる』
「そうか……っと、いつまでも外で突っ立ってる意味も無いか。オレもそっちに向かう。タラップを降ろしてくれ」
『あ、悪い。忘れてた』
カイトの言葉でソラは外に出るためのタラップを降ろし忘れていた事に気付いたようだ。少し慌てた様子で外へ降りるタラップを出す。そうしてそれを辿って、カイトは飛空艇の中へ入った。
「っと……おつかれ」
「おーう……で、とりあえず聞いておきたいんだけど、新しい子達への通達っていつ出す? もう先に出しちゃって良いのか?」
「あー……それか。一応各員問題ないんだよな?」
「おう。一応先輩とかも通達書見てたから問題無いと思うけど……」
冒険部では所属が決まったり変更になったりする場合、最終的に統括する者――例えばソラ達――の承認印が必要になる。なのでこの時点で関係者全員が確認しているため、異論や問題が出ればもうわかっているはずだった。
「そうか……先輩。通達書に問題何かあったか?」
「あれか。いや、俺の方は問題無い。あれで良いだろう」
「そうか……後は灯里さんとティナか」
一人は自分の所の直属になるから問題はないし、後の二人は後方支援の技術班や魔術師部隊の所属になる。なのでその最終責任者であるこの二人に異論がなければ、今回の配属は決定となった。
「ティナも灯里さんも技術班と一緒か?」
「だと思う」
「そうか……通信器借りる」
「おう」
ソラの返答を聞きながら、カイトは奥で作業をしている二人へと連絡を取る事にする。
『なんじゃ? こっちホタルの調整で忙しいんじゃが』
「ホタルの調整? 何やってるんだ?」
『今回は相手が相手じゃからのう……兵装も色々用意しといた方が良いじゃろ』
「あー……そうだな。すまん、頼むわ」
今回の対戦相手はハイゼンベルグ公ジェイクとレヴィ、更にはバルフレアまで居るのだ。こちらもクオンを筆頭に戦力は揃っているが、知略の面では向こう側が一枚上手な構成ではないか、というのがカイトの見立てだ。しかもこの三人共、カイトの存在を把握している。何をされてきても不思議はなかった。
「っと、それは任せるんだが、今回の新入りの子の配属について問題が無いか最終確認で連絡した」
『ああ、それか。余のサインも入れたはずじゃが』
「わかってる。が、一応の最終チェックってわけ」
『そうか……』
それなら仕方がないか。カイトの返答にティナは一緒に聞くだけ聞いていた――作業をしていたため――灯里に声を掛ける。
『灯里殿。こういう感じじゃが』
『問題無いわねー。あ、ティナちゃん。縮退砲の調整終わったー。相転移砲、どうする?』
『あー……そっちは使わせん方が良いじゃろうが……調整だけはやっておくかのう。と、そんな塩梅じゃが。ひとまず灯里殿も問題無い様子じゃな』
「あいよ、手間取らせて悪かったな。流石に通達の際にはこっちに来て欲しいが、時間は合わせよう。いつが良い?」
『ふむ……三十分後で良いか? 余の方の調整がまだ終わらんのでのう』
「わかった。すまんがその時にはこっちに頼む」
長話になって作業の邪魔になっても悪いか。そう判断したカイトはティナと灯里の返答を確認するとすぐに通信を終わらせる。
「良し。ソラ、全員の合意が取れた。待っている間にそっちだけ終わらせたいが、流石にオレが直で呼び出すのもあれだろう。頼めるか?」
「おう。ちょっと待っててくれ」
カイトの要請を受け、ソラが一つ頷いた。そうして、一旦は彼が新入りの者達を呼びに走ってくれる事になるのだった。
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