第2624話 合同演習編 ――視察――
すいません。昨日投稿忘れていたみたいです。
皇帝レオンハルト主導で行われる合同軍事演習にマクダウェル公カイトとして携わっていたカイト。そんな彼は合同軍事演習が直近まで迫った事で、皇都エンテシアに呼ばれユニオンとの調整を主な仕事として動いていた。
というわけで、その一環で謁見が確定していたバルフレアとレヴィの二人を皇城に案内すると共に、謁見の確約が取れた八大ギルドの一つである<<天駆ける大鳳>>のギルドマスターであるアウィスの謁見の手筈を急ぎ取りまとめていた。そしてそれも、昼前には終わりを迎えていた。
「はぁ……あー……疲れた……」
やはり早朝から動いて、今の今まで忙しなく動いていたのだ。さすがのカイトにも若干の疲れが見えていた。とはいえ、残念ながらこれで終わりというわけではなく、まだ昼前でしかなかった。そんな彼に、ユリィが声を掛けた。
「おつかれー。そっち終わり?」
「おーう……って、そっか。お前は一応昨日で終わってたっけ」
「そーだねー。で、私も演習に参加するから、マクスウェルに戻るわけじゃないし」
そもそもの話なのであるが、ユリィはハイゼンベルグ家の要請を受けた皇都の研究室の要請を受け、皇都に来ていたのだ。ではそのハイゼンベルグ家が何をするために要請を出したかというと、地球との交渉のためだ。それも昨日の時点で一通り終わっていたため、彼女もお役御免となっていたのである。というわけで、カイトもそれを思い出して気を取り直す。
「そーだったな……そういや、イリアは?」
「イリアはこっちから直接向かったよ。まぁ、結局明日には皆で向こうに合流するわけなんだけど」
「あはは」
カイトにせよイリアにせよハイゼンベルグ公ジェイクにせよ、皇都に集まっている理由は合同軍事演習が近づいたため、各諸侯の調整を行うのに一番都合が良かったのが皇都であるためだ。
なので合同軍事演習が開始される直前にはエンテシア砦に全員集合していなければならないわけで、最終的には向こうに全員居る事になるのであった。
「アウラは明日の朝だったな。お前はどっちにするんだ?」
「別にどっちでも良いといえば、どっちでも良いんだよねー」
カイトが一足先にエンテシア砦に向かうのは、視察があるからだ。一応立場としてはアウラの名代として参加する事になっており、その関係もあってアウラは一日ずらして出立する事になっている。
が、ユリィはカイトの相棒枠というか冒険者枠で参加するため、別にカイトと一緒に向かってもアウラと一緒に向かってもどちらでも良かった。
「まぁ、オレとしてもどっちでも良いが……今日ホテル宿泊になるか、こっちで自宅でゆっくりするかの差ぐらいか。後オレと来るなら視察もしとかんと駄目だろうな」
「……残るね」
「あいあい」
行けば仕事をしなければならないなら残る。そう判断したユリィに、カイトは笑いながらそうした方が良いだろうと頷いた。そんな彼がそのまま続けた。
「まー、アウラもイリアも明日だろうし。バルフレアとレヴィが明日のアウラの飛空艇に乗る、って事だから、なんだかんだ残ってる奴の方が多いだろう」
「そだねー……そういえばアイナは? そういえば聞くの忘れてた」
「アイナはオレと一緒に行くらしい」
「そうなの?」
「ああ……まー、風紀委員長殿だからな。オレの視察に同行するつもりなんだと」
真面目なこって。若干驚いたようなユリィの問いかけに、カイトは僅かに苦笑しながらそう告げる。彼女がなぜ視察を行うかというと、実際攻め込む場所の地理を事前に確認しておきたい、という至って真面目な理由からだ。と、そんな話をしながら一休みしていたカイトの所に、ユーディトが声をかけた。
「若様。ユリシア様」
「あ、はい。なんですか?」
「お昼の用意が整いました。食堂へ」
「あ、はい……ユリィ。お前はどうするんだ?」
「あ、食べる食べるー」
どうやら話している間にお昼の支度が整ったらしい。カイトとユリィはユーディトの言葉に促され、立ち上がる。そうして、カイトは少し早めの昼食を食べた後に飛空艇に乗ってエンテシア砦へと出発する事にするのだった。
さてカイトが昼食を食べてから数時間。彼はマクダウェル家の高速艇に乗ってアイナディスと二人、エンテシア砦の上空に到着していた。
「これは……思った以上に凄い物を建造したんですね」
「中身の無いハリボテだ。建物にせよ、廃材を利用して魔術で補強したりしているから、そこまで金は掛かってない」
「それでも、街一つに匹敵する規模の演習場を作れるのは大国の証でしょう」
前々から言われている事であるが、今回の合同軍事演習のためにエンテシア砦の外に設営された演習場は――見かけだけだが――街一つ分に匹敵する施設がある。それを演習のためだけに作ったのだ。それを必要とした、と言われればそれまでだがそれでも出来るのは凄い事であった。
「まぁ、そうだろうがね。そしてそれ故、ユニオンも総力を上げて協力しているわけか」
「そうですね……今の時代、攻城戦に匹敵する訓練は滅多な事では出来ないですから」
「そうなんだよなぁ……三百年前の新兵がすっかり老兵扱いか」
「あはは」
今回の大規模な演習が開かれる主たる目的は前から言われている通り、現代の主力を担う兵士達に街を攻めたり逆に守ったりする経験が乏しいため、それを経験させるためだ。
そしてその経験が豊富なのは三百年前の戦争を経験している者達であり、そうなってくると総じて三百歳以上だ。老兵と言われても無理はなかった。というわけで、どこか冗談めかした口ぶりをした彼であるが、すぐに気を取り直す。
「ま、老兵ではなく熟練だ、という所を見せられるように頑張りますかね」
「ええ」
カイトの言葉にアイナディスもまた気合を入れて頷いた。というわけで、二人を乗せた飛空艇は緩やかに高度を落としていき、エンテシア砦近郊に用意されていた臨時の飛空艇の置き場に着陸する。
「ふぅ……」
「カイト。これからの予定は?」
「とりあえず今日は市庁舎というか、作戦司令部の視察。それが終われば後は要約すると好きに、という所だが」
「上からの視察は?」
「して良い……が、先に市庁舎だな。まぁ、そこへ向かう道中でゆっくり見る分には問題無いだろう。詳細は後、って感じで考えてくれ」
兎にも角にも攻め込む側としては、全体的に街の構造がどうなっているか。重要な施設はどこらへんにあるか、というんのを見ておきたいのが素直な感情だろう。
というわけで、アイナディスは全体的な構造を見たいらしい。そしてこれはカイトも見るつもりだったが、まずはハイゼンベルグ公ジェイクと共に見ねばならない所を見る必要があった。
「わかりました……明日は?」
「明日は各軍備の状況の確認か。まぁ、単なる最終チェックだが。今回は陛下が来られるからな。最終的にオレらがチェックしないといかん」
アイナディスの問いかけに対して、カイトは更に明日の予定に言及する。今回、用意は基本マクダウェル家とハイゼンベルグ家に一任されているが、あくまでも主導しているのは皇帝レオンハルトになっている。なので皇帝レオンハルトが視察――彼も今回の視察に問題なければ明後日視察に来る――に来る前に最終チェックを掛けるのであった。
「わかりました」
「ああ……良し。メイン動力停止。えっと……」
アイナディスの了承に頷いたカイトであるが、彼は飛空艇のメイン動力を停止させるとそのままコンソールを操って通信機を起動。所定の流れに従って、ハイゼンベルグ公ジェイクと通信を繋げる。
『カイト。来たか』
「ああ。今、飛空艇の停泊所に飛空艇を着陸させた。そっちは?」
『もう市庁舎に来ておるよ。お主の足であれば、さほど時間は掛かるまい。確かアイナディス殿も一緒じゃったな?』
「ああ」
「お久しぶりです、ハイゼンベルグ公」
『うむ』
アイナディスの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクが一つ頷く。そうして挨拶が交わされた後、カイトが問いかける。
「さっき見てた限りだと、市庁舎は真ん中の建物で間違いないな?」
『うむ……案内に人は要るか?』
「いや、どちらかというと無い方が良い。そっちとしても、そっちの方が良いだろう?」
『悪辣じゃのう』
「上司が居るとわかってる場じゃ、誰もが真面目にやるさ。それに、爺が地上から見たならこっちは上から見ておく方が良い。同じものを見た所でさほど意味はないからな」
楽しげに笑うハイゼンベルグ公ジェイクに、カイトはそう嘯いた。まぁ、そう言ってもそこまで真剣に監視のようにするつもりはないが、皇帝レオンハルトが来るのだ。他にも各国の要人達に軍の高官も来る。どこかに緩みなどが無いかぐらいは確認しておかねば、今度は二人が監督責任が問われる事になる。
『ま、そこは任せよう。道中、何かあれば連絡せい』
「あいよ……じゃあ、大体三十分後ぐらいにはそっちに到着できると思う」
『うむ。こちらもその間に一通りは見ておこう』
「あいよ。ああ、防備面は後でオレが見ておくか?」
『そうじゃのう……一発ぐらい打ち込んで貰った方が良いかもしれん。いざ本番で流れ弾一発で結界が弾けとんでも情けないからのう』
カイトの申し出に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクが一つ笑って頷いた。今回の演習でカイトが本気で戦う事はないし、冒険者達もそこまで全力を出す事はないだろう。
が、それでもランクS冒険者が居る以上、それ相応の出力の攻撃は飛び交う。最低限それの流れ弾に耐えられるぐらいの結界は設けているはずだったが、最終チェックはお互い直に確認したかったようだ。というわけで、自身の意見に同意したハイゼンベルグ公ジェイクの言葉にカイトも笑う。
「あはは。確かにな……わかった。結界は後で一発確認する、って伝えておいてくれ。試運転もしておいてくれると助かる」
『そうじゃな。先に展開の試験はしておこう』
「頼む……じゃあ、大体三十分後ぐらいに」
『うむ』
カイトの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクは一つ頷いた。というわけで、彼の了承を得てカイトはアイナディスに一つ頷いた。
「良し……すまん。待たせた」
「いえ……とりあえず、どうしますか? 飛んで移動しますか?」
「だな……わざわざ歩いて作業の邪魔もしたくないし、死角も確認しておきたいしな」
「はい……では、行きましょう」
「おう」
自身の言葉に同意したアイナディスと共に、カイトは飛空艇を降りる。そうして彼はそのまま飛空術を使用して、上から見て問題無いかと確認しながらハイゼンベルグ公ジェイクが居る市庁舎へと向かう事にするのだった。
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