第2620話 合同演習編 ――炎神の系譜――
皇国主導で行われる合同軍事演習に向けた調整のため、皇都エンテシアを訪れていたカイト。そんな彼は今回の一件に対してウルカ共和国から視察で向かって欲しいと要望を受けたというバーンタインを皇帝レオンハルトの所へと案内する。
そこで彼はユリィからバーンタインと皇帝レオンハルトが古馴染みであった事を聞く一方、皇帝レオンハルトとバーンタインは数十年ぶりに矛を交えていた。そんな二人を見ながら、<<暁>>の幹部達は目を丸くしていた。
「お、おい……叔父貴。あれ本当に皇帝陛下っすよね?」
「ああ……強いだろう?」
「強いっていうか……」
下手をしなくても俺達並にあるかもしれない。もともと皇帝レオンハルトがランクS冒険者にも匹敵する戦闘力を有しているという噂は有名ではあった。
が、これはよくある皇帝を持ち上げるための方便の類だろうと誰もが思っていたのだ。まさか本当にランクS冒険者に匹敵する猛者とは思っていなかったのである。とはいえ、カイトも少し驚いていたのは事実だった。
「つっても……爺。陛下があそこまで強くなっていたのはオレも思ってなかった。何かあったのか?」
「ああ、それなら二つじゃな。まず第一にお主が返ってきた事で<<炎武>>を更に極められた事。そもそも陛下のあれは独学に近いからのう」
「まぁな。陛下も血脈としちゃバーンシュタット家の血脈にある。だから使えて不思議はなかったし、リィル達も使えてたからな」
ただバーンシュタット家から離れていた事。そもそも基礎を教えたのが皇帝レオンハルトの祖母だった事などからきっちりとした訓練を受けられていなかっただけだ。というわけで、カイトは皇帝レオンハルトから聞いた<<炎武>>を使える様になった経緯を思い出す。
「確か陛下のお祖母様が<<炎武>>の基礎は教えていらっしゃったそうだが……ご高齢だった事と完璧にマスターしたわけじゃなかったのが悪かったみたいだな。まぁ、これはバーンシュタット家全員に言えた事だが……」
「そればかりは仕方があるまいよ。完璧な形で<<炎武>>を理解しておるのがもはやお主しかおらぬような状況じゃったからのう」
カイトの言葉に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクもまた頷いた。勿論、これは西部バーンシュタット家にも言えた事で、それ故にカイトが失伝してしまっている所の手直しに奔走しているのである。
そしてこれについては強くなった一因としては納得だが、<<炎武>>も使っていない状況では若干当てはまらなかった。というわけで、もう一つについてハイゼンベルグ公ジェイクが口にする。
「最近は兵士達の手前もあり訓練する時間を増やす事が出来た、という所と……まぁ、儂らの存在か。こちらは何分暇が多いのでのう」
「あー……日替わりで対戦相手してたわけか。納得」
どうしても対<<死魔将>>という事で忙しいカイト達に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクを筆頭にした各家の始祖達はかなり手持ち無沙汰だ。
それに関してはそもそもイクスフォスの支援を行うため、という点があったわけであるが、それも終わりを迎えつつある今、本当に暇が多くなっていた。というわけで、それならと皇帝レオンハルトの模擬戦の相手を務めていたのである。
「ま、それは良いか……とりあえず。バーンシュタット家の血脈である以上、<<炎武>>を使ってからが本番みたいな所はある。さて……陛下がどこまでたどり着いたのか。ちょっと見させてもらうかね」
先程バーンタインについては最後の一歩手前までたどり着いていた事は理解した。なら、今度は皇帝レオンハルトの腕を見せてもらうか。カイトはあまりの強さに呆気にとられる幹部や近衛兵達を他所に、呑気に構えていた。そうして、彼の見ている前で戦いは本番を迎える事になるのだった。
さてカイトが観戦に戻った一方。雄叫びを上げて炎を纏った両者は共に一度猛る血を宥める様に、深呼吸を行っていた。
「ふぅ……」
「はぁ……」
共に段階としては同じ程度。当たり前だが二人共本気ではやるつもりはない。が、それ故にこそ自分が調整を完璧に出来る領域で留めており、技術を見るには一番良い段階になっていた。
勿論、使うのも<<炎の巨人>>などの発展形ではなくバランスの良いノーマルだ。そうして先に仕掛けたのは、皇帝レオンハルトだった。
「<<焔王の剣>>」
波打つ炎を纏った大剣が伸びて、バーンタインへと襲いかかる。そんな非実体の炎を、バーンタインはまるでそこに在るかの如くに引っ掴む。が、その瞬間だ。驚いたのはバーンタインの方だった。
「ん!?」
「そちらが実戦的に得てきたのなら、俺とて七百年もの間培った皇国の技がある事を忘れて貰ってはこまるな」
「ちっ!」
先にも言っているが、この炎に実体は無い。なので引っ掴んだ所で鞭でも無いので、普通に伸びてきたのだ。そうして伸縮自在に伸び縮みする炎の剣を振るう皇帝レオンハルトに、バーンタインは自身が強くなった事を過信しすぎた事を認めた。故に、彼は大きく息を吸い込んで迫りくる炎の剣に向けて業風を吹き付ける。
「ふぅううううううううう!」
「む!」
「そっちがお上品な技だってんなら、こっちは冒険者仕込みの荒業ですぜ!」
「っ」
器用な奴め。吐息で生み出した竜巻を操って炎の剣の切っ先を自身に向けてきたバーンタインに、皇帝レオンハルトはそう思う。とはいえ、炎の剣は彼が生み出しているものなので、伸ばす範囲を絞れば良いし、そもそも鞭の様にしならせているのも彼だ。
剛性を持たせるだけで良い話でもあった。が、それなら別に伸ばさなくても良いので、彼は炎そのものを大剣に纏わせる程度にまで引っ込める事にした。
「ふぅ……」
さて、どうしようか。皇帝レオンハルトは炎を引っ込めて、僅かに悩む。相手は格上。経験としても地力としても負けている。勝ち目はかなり薄かった。
そんな一瞬の考察を行う皇帝レオンハルトであったが、バーンタインが待ってくれるわけがなかった。彼は再度大きく息を吸うと、一瞬の沈黙の後に再度大きく息を吐く。
「がぁあああああ!」
「っ!」
そんな手があったか。燃え盛る火炎の吐息を放つバーンタインに、皇帝レオンハルトは飛び上がって回避する。それに対してバーンタインは地面を舐めるような火炎の息を振り回し、地面を大きく燃やした後にまるで大道芸人がする様に大斧に向けて火炎を吹きかける。
「大道芸人か」
「叔父貴は一時期やってたそうですぜ」
「そう、か!」
バーンタインの軽口に対して、皇帝レオンハルトは虚空を蹴って急降下して襲いかかる。これに対して、バーンタインは炎を纏わせた大斧で迎撃した。
「ふんっ!」
「はぁ!」
急降下による加速と体重を乗せた一撃と、地面をしっかりと踏みしめて放つ強撃が激突する。そうして両者の激突により火炎が舞い上がり、爆発が起きた。
「「っ」」
爆風に煽られて、皇帝レオンハルトは僅かに舞い上がり。バーンタインは地面を僅かに滑る様にして僅かに距離を離す。そうして着地した皇帝レオンハルトの所へと、滑る力の反作用を利用して全身に力を込めたバーンタインが襲いかかった。
「おぉおおおお!」
雄叫びを上げて、バーンタインが大斧を振りかざす。これに皇帝レオンハルトは受け止めきれないと判断。まだ残っていた後ろへの力を流用して、距離を離す。そうして、次の瞬間。地面に振り下ろされた大斧により、大爆発が起きた。
「相変わらずの馬鹿力め!」
「叔父貴よりはマシでさぁ!」
あまりの火力に悪態を吐いた皇帝レオンハルトに対して、バーンタインは楽しげに笑う。そんな彼に向けて、皇帝レオンハルトは炎の斬撃を放った。
「ふんっ!」
「おっと!」
放たれた炎の斬撃に対して、バーンタインは左手を大斧から離して受け止める。が、流石にこれは余裕を見せすぎた行為だったらしい。僅かにだが押し込まれ、右手で掴んだ大斧と共に地面を滑る事になる。
「っと」
「少し余裕を見せすぎたな」
「みたいで」
自分がふらついた瞬間を狙いすまして距離を詰めてきた皇帝レオンハルトの言葉に、バーンタインが笑って応ずる。そんな彼は急接近してきていた皇帝レオンハルトを真っ向から迎え撃つ様に、地面に突き刺さったままだった大斧を持ち上げて振り下ろす。が、流石にそこまで皇帝レオンハルトも甘くはない。
「おぉおおおお!」
今度は皇帝レオンハルトが雄叫びを上げて、しっかりと腰を落として大斧を迎撃する。そうして大斧と大剣が激突するも、押し勝ったのは皇帝レオンハルトだ。が、これはバーンタインも想定内だった。
「ととと……」
「っ」
バーンタインがふらつくような様子を見せながらも、僅かに一瞬どこか茶化す様に笑ったのを皇帝レオンハルトは確かに見る。故に彼は直後に仕掛けようとした次の一撃を取りやめて、咄嗟に前面に展開している障壁に力を回して何かに備えた。そして、これが功を奏した。
「おぉおおおおお!」
「!?」
雄叫びと共に吐き出される特大の吐息に、思わず皇帝レオンハルトが顔を顰める。そうして猛烈な勢いで押し戻されそうになる身体を食い止め、彼は地面をしっかりと踏みしめて押し負ける事なく大剣を振りかぶった。
「っと」
やはり思った以上の戦闘力だ。バーンタインは自身の息に負けじと大剣を振り抜こうとする皇帝レオンハルトを見て、僅かに目を見開く。別段苦戦しているわけではないが、手を抜いてやって良いわけでもなかったようだ。というわけで、彼は皇帝レオンハルトが押し出せないと見るやかっと目を見開いた。
「かっ!」
「!? そんな事も出来たか!」
大音声と共にその反動で自身を後ろへ僅かに移動させたバーンタインに、皇帝レオンハルトはもはや面白いやら呆れるやら感心するやら複雑な感情の乗った声を上げる。そうして僅かに遅れて彼が居た所を皇帝レオンハルトの大剣が薙ぎ払うも、空を切るだけだ。
「とっとっと……とっ!」
その一方、僅かに後ろに移動したバーンタインはというと今度は右手を大斧から離してぐっと拳を握りしめて引き絞る。そうして彼の腕を炎が包み込んで、そのまま正拳突きの様に右手を振り抜いた。
「っ、はぁ!」
放たれる巨大な炎の拳に対して、皇帝レオンハルトは大剣を振り抜いた。しかもその上、自身の大剣に纏っていた炎でバーンタインの放った炎を絡め取り、更に自らの大剣の火力を増す。
「おっと、こりゃしくったかな?」
口調と反して、バーンタインは楽しげだ。そうして猛火を纏わせた大剣を握りしめて再度肉迫する皇帝レオンハルトに対して、バーンタインは強く地面を踏み抜いた。
「っぅ!?」
「まだまだ!」
「ちっ」
揺れた地面に煽られて僅かにバランスを崩した皇帝レオンハルトの所に、バーンタインが余裕の表情で攻め込んだ。が、やはり皇国でも有数の猛者である皇帝レオンハルトもバーンタインが足を僅かに上げた時点で地面が揺れる事を想定していたようだ。バーンタインが自身の射程圏内に入った瞬間にはすでに立て直せており、彼の大斧に対して自らも大剣を合わせていた。
「おぉ!」
「ふんっ!」
本日何度目かの大剣と大斧の激突が起きる。そうして再度業火が舞い上がり、それに煽られるかの様に両者の戦いもヒートアップしていくのだった。
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