第2618話 合同演習編 ――炎神の系譜――
合同軍事演習の開催に向けて、その準備や打ち合わせのため皇都エンテシアへと入っていたカイト。そんな彼ははるばるウルカ共和国からやってきたかつての仲間バランタインの子孫にして、彼のギルドとしての後継である<<暁>>のギルドマスターであるバーンタインを手ずから出迎えていた。
というわけで、謁見までの時間があったので皇都のユニオン支部に立ち寄って来た旨だけ話を伝え――この後エンテシア砦支部に行くのて手続きはしていない――て、改めて皇城へと足を運んでいた。そうしてそこで色々な話をしているカイトを遠目に見ながら、<<暁>>の幹部達は呆れ返っていた。
「改めて見てて思うんだけどよ……叔父貴、マジで役者だよな……」
「マジでな……」
とある時には勇者カイトとしての勇ましい素振りを見せながら、またある時にはマクダウェル公カイトとしての優雅な貴族の姿を見せるのだ。
それでいて今は天音カイトとして、辣腕として知られながらも人当たりのよい好青年を演じている。この変わり身には彼らも呆気にとられるしか出来なかったらしい。が、これにカイトから念話が飛んだ。
『誰のせいだと思ってるんだ。お前らが大親父っていう奴が政治関連の話をぜーんぶ丸投げするから、こっちが尻拭いやってたんだぞ。そりゃおべんちゃらの一つや二つも覚えるわ。なんだったらお前らもやってみるか?』
『そりゃ良い。こいつらにも一つ政府の奴らとのやり方を覚えさせたかった所でさぁ。是非、叔父貴から言ってやってくれれば。いや、なんだったらこのまま預けますんで、お邪魔でなければマクダウェル家で鍛えてやってくれれば』
『『『すんません。許してください』』』
どうやらバーンタインもカイトの変わり身の早さは凄いと思っていたももの、同時にこの点は今の幹部達にまだまだ足りない点と思っていたらしい。カイトの申し出に渡りに船とばかりに応じていた。が、彼らは生粋の冒険者。政府高官達とのやり取りは一番苦手とする所で、即座に頭を下げていた。
「はぁ……」
「どうしました?」
「ああ、いえ……お気になさらず。それで、皇帝陛下は?」
呆れる様にため息を吐いたカイトであったが、小首を傾げる事務官に改めて皇帝レオンハルトの状況を問いかける。一応、問題の無い時間に来るようには調整して皇城へやって来ている。
なので問題無いはずだが、やはり多忙な皇帝だ。前の予定がずれ込んで、という事や緊急事態により何かの予定がキャンセルになる事は珍しい事ではなかった。勿論、逆に早めて欲しい、という話が出る場合もあるので一時間前には皇城に到着していた。
「問題ございません……陛下は心待ちにしていたと伝える様に言われておりました。特に、バーンタイン様とは久方ぶりに会えるとすごく喜ばれていらっしゃいました」
「そ、そうだったのですか。確かに心なしか嬉しそうではあられましたが……」
確かに同じ一族で武勇に優れた皇帝レオンハルトとバーンタインは馬が合うといえば馬が合うだろう。特に皇国のバーンシュタット家の武力の低下を嘆いていたバーンタインはそれと相対的に武名を轟かせる皇帝レオンハルトには好印象を持っていたのだが、逆はあまり聞かなかったのだ。というわけで若干の困惑を露わにしたカイトに、事務官が頷いた。
「はい……っと、失礼。はい……はい……はい……? はい? ですが……いえ、陛下がそちらへ、とおっしゃられているのなら……」
事務官と話していたのは単に待合室に通してもらって現状の確認をしていたからだ。というわけで現状の連絡が返ってきた事務官が通信機を使って何かを聞いているのであるが、途中で困惑したような顔に変わっていた。というわけで、暫くの後にバーンタインへ向けて困惑気味に告げた。
「バーンタイン様。皇帝陛下が専用の修練場にお連れする様に言われていらっしゃるのですが……」
「はぁ……あの人は……ったく。無茶する所、本当に変わらねぇなぁ……」
「親父……皇帝陛下と仲良いのか?」
「……まぁな。色々とあったんだよ。もう云十年も前だが」
驚いて問いかける幹部の一人の問いかけに、バーンタインは少し恥ずかしげに頷いた。が、驚いたのはカイトも一緒だった。が、事務官も居るこの場で問いかける事も出来ず、バーンタインの返答を待つだけだ。
「わかった。皇帝陛下の事は俺も知らねぇではないんだ。行くよ」
「はぁ……ありがとうございます」
まさか西部バーンシュタット家の当主にして八大ギルドの一角である<<暁>>のギルドマスターを事もあろうに修練場に招くなんてありえるのだろうか。そう思っていた事務官であったが、とりあえずバーンタインが応じてくれた事に胸を撫で下ろす。
というわけで、彼に案内されて皇帝レオンハルト専用の修練場へ移動する傍ら。カイトが小声で密かに問いかける。
「古くからの知り合いだったのか?」
「……ウチのギルドマスターが代々神殿都市で世話になってる、って話は?」
「前に聞いたな。代々のギルドマスターは累積で五年神殿都市の支部に務める事になってるって」
「へい……あくまでも俺らの故郷はこっちにある、って事を忘れんなってのがありますんで……」
前々から言われている事であるが、<<暁>>は故国であるウルカと同程度にバランタインが骨を埋め、そしてカイトが領主を務めるマクダウェル領を重要視している。
なので間違ってもマクダウェル家を無下にしない様に、と幹部に立つ者は神殿都市の支部で何年か勤める事がルールとしてあるらしかった。
「それでちょうど俺が神殿都市に居た頃に、何度か皇帝陛下……まだあの当時は皇太子でもなかったんですが、その当時の陛下と懇意にさせて貰ってた事があるんです」
「その頃だと……もう二十数年も前か?」
「そんなもんかと」
となると思った以上に古い付き合いだったらしい。カイトは少し恥ずかしげなバーンタインに対して時系列を思い出してそう伝える。ここらのことはクズハやユリィなら何か知っているかもしれなかったが、昔だったからか特に話されていなかったようだ。
「でまぁ……その頃に俺もちょうどこっちの支部に配属されたばっかの頃でして……まぁ、色々とあったんでさぁ」
「……そうか」
その色々が重要だと思うのだが、当人があまり話したがらないなら敢えて突っ込む必要もないか。カイトは最終的には必ずここらは知っているだろうユリィがフロイライン邸に戻れば居るだろう事もあったため、敢えて突っ込んでは聞かない事にしたようだ。
何より皇城の誰が居るかわからない所を歩いている最中で変に話し込んでも面倒と思った事も大きかった。というわけで、その後はやはり気になるらしい幹部達に突っ込まれるバーンタインを後ろに、カイトは事務官に従って皇帝レオンハルト専用の修練場へと歩いて行く。
「こちらが、皇帝陛下専用の修練場となっております」
「おう……ああ、陛下は中央か」
扉を開けて入った修練場の中では、皇帝レオンハルトが中央で愛用する大剣を振るって一人型稽古を行っていた。が、修練場に居たのは一人ではなかった。
「ハイゼンベルグ公。いらしていたのですか」
「はぁ……陛下に呼ばれてな。後は私が引き継ぐ。近衛も居るし、そこの彼も一緒だ。もう戻って良い」
「かしこまりました」
ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、事務官は一つ頭を下げてその場を辞去する。そうして彼が去った後、残されたバーンタイン達に向けてハイゼンベルグ公ジェイクが手を差し出して告げた。
「バーンシュタット殿。よく来てくれた」
「へい……ハイゼンベルグ公もお久しぶりです」
「ああ」
他国とのやり取りはハイゼンベルグ家が主軸となっているのだから、当然ウルカ共和国政府とのやり取り――<<暁>>関連はマクダウェル家に回される事も多いが――も多くはハイゼンベルグ家が関わっている。であればその中でバーンタインと話す事もあったのだろう。というわけで、挨拶を交わした後にハイゼンベルグ公ジェイクが声を上げた。
「陛下! バーンシュタット殿が来られました!」
「そうか! ふぅ……っと。すまん」
型稽古の終了と同時に差し出された飲料水を受け取って、皇帝レオンハルトは一息つく。そうして大剣を背負うと、そのままこちらに歩いてきた。
「バーンタイン。久しぶりだな」
「へい……お元気そうで何よりです」
「ははは。最近は訓練の相手に困らんのでな。充実した日々を過ごしている」
どうやら親しくしていた、というバーンタインの言葉は事実らしい。皇帝レオンハルトはどこか年齢の近い友人相手に話すような気軽さが滲んでいた。それに対するバーンタインはやはり相手が大国の長なので敬いはしていたが、どこか肩の力が抜けた感じがあった。というわけで少しだけ話し合いが持たれることになる。
「すまないな。予定よりはるかに前に招いて……」
「いえ……何かあったんですかい?」
「いや、単にお前と久しぶりに戦いたくなってな」
「「陛下?」」
正気か。全く予定になかった皇帝レオンハルトの言葉に、カイトとハイゼンベルグ公ジェイクが声を揃える。確かに皇帝レオンハルトは猛者の一人として名を連ねているし、並の冒険者よりは相手になるだろう。が、それでも冒険者の中でも最強クラスに名を連ねるバーンタインには敵う見込みは一切なかった。というわけで、正気を疑うような視線の二人に皇帝レオンハルトは若干胡乱げだった。
「わかっている。俺ではバーンタインには勝てんよ……ただ、今の自分がどの程度かと見たいだけだ」
「まさか……そのためだけに一時間も不自然に予定を空けられていらっしゃったんですか?」
「そうでもせねば勝手に予定を入れるだろう。かといってバーンタインとの謁見は記者が入る。バーンタインは冒険者だ。下手に技を見せるわけにもいかんし、俺が<<炎武>>を使えるというのはあまり大っぴらにはしたくはなかろう」
「いや、まぁ……それはそうではあるのですが……」
まさかの皇帝レオンハルトの言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクがかなりのしかめっ面ながらも筋は通っていたので返答に窮していた。が、これにバーンタインが笑った。
「あんた本当にそういう所、変わらねぇなぁ」
「ははは。安心したか?」
「へい……はぁ。ああ、安心した。ハイゼンベルグ公。おたくの所の陛下は言い出したら聞かねぇだろう。良いのか?」
「はぁ……わかりました。一戦だけにしておいてください。それと陛下。この埋め合わせはきちっとなさってください」
「わかっている。というか、そのために問題無い様にしたのだ」
ハイゼンベルグ公ジェイクの条件に対して、皇帝レオンハルトは二つ返事で快諾を示す。というより、もともとそのつもりで動いていたのだ。何より予定通りに動いている以上、下手に埋めたりすると今度はそれに振り回される周囲が大変なのだ。受け入れるのが一番良いと判断したようだ。
とはいえ、流石に来てすぐにというわけにはいかないし、皇帝レオンハルトは先程まで稽古をしていたのだ。なのでハイゼンベルグ公ジェイクが小休止を挟む事を最後の条件として、カイト達は一旦その場を離れる。
「ハイゼンベルグの爺。一つ聞きたいんだが」
「知らん……というより、おそらくそれならお前の方が詳しいと思っていたのじゃがのう」
「オレは聞いてないんでな……とはいえ、これなら多分ユリィ呼んだ方が早いか」
どうやらハイゼンベルグ公ジェイクもバーンタインと皇帝レオンハルトの関係は詳しくは知らないらしい。後に聞けば当時は半隠居状態だったため、あまりこの話題に関わりがなかったらしい。というわけで、カイトはハイゼンベルグ公ジェイクと共に状況を掴むべくユリィを呼び出す事にするのだった。
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