第2617話 合同演習編 ――再会――
合同軍事演習の開催に伴って皇都エンテシアを訪れていたカイト。そんな彼はマクスウェルに残るソラ達から適時報告を受けたり、またある時には地球との交渉の助言を行ったりとして過ごしていた。
というわけで基本は皇都にてアドバイザー的な立場で過ごしていたわけであるが、そんな彼の合同軍事演習での目下の業務はというとユニオンとの調整であった。なのでバーンタインが来た時、出迎えは彼が手ずから行う事になっていた。
「叔父貴。お久しぶりです」
「ああ……少し心配を掛けてしまったみたいだな」
「いえ……叔父貴にゃ無用な心配たぁ、思いましたが。一応、事が事でしたので……」
カイトの謝罪に対して、バーンタインは首を振る。武勇・知力共に自分を上回るカイトがこの程度見逃しているか、とは思ったそうだが、万が一という事もある。一応聞いたとの事であった。と、そんなカイトであるが、彼が手ずから出迎えたのは暇だからという事と共にもう一つ理由があった。
「で、だ」
「「「っ」」」
身にまとう風格が変わった。バーンタインを筆頭にした<<暁>>幹部達が僅かに息を呑む。
「前の総会の時にゃほとんど見れなかったんでな……一度、やってみるか?」
「良いんですか?」
「おう……相当仕上がってるぐらいは見てわかったんでな。ちょっと試したい」
顔に獰猛な笑みを浮かべるバーンタインに、カイトは指をスナップさせて異界を創り上げる。今回の合同軍事演習ではバーンタインを筆頭にした<<暁>>は特例的に半分半分になっているが、基本増援になるだろうと目されるバーンタインはマクダウェル家側に配置されている。
なので腕が見たかった事もあり、前もってこうすると言っていたのだ。そんなカイトの申し出にバーンタインは有り難く胸を借りる事にする。
「ふんっ!」
ごぅっ。地獄の業火よりも太陽の猛火。そんな勇ましい勢いを見せる火炎にバーンタインの巨体が完全に包まれる。これに、カイトはまるで試験とでも言わんばかりに指先に小型の太陽にも似た白球を生み出して投ずる。
『っ』
放たれた超小型の白球はカイトの指先から離れると同時に数十メートルにもなる巨大な光球となると、まるで迫りくる壁の様にバーンタインへと距離を詰める。これに、バーンタインは敢えて一切の抵抗をせず、ただ地面をしっかりと踏みしめて受け止める姿勢を見せた。
「やべぇ!? なんだ、ありゃ!?」
「親父!?」
「おい、親父! せめて防ぐ素振りぐらいみせねぇと、あの威力は!」
『問題ねぇ! 俺に任せとけ!』
やっぱこうでねぇと訓練にもならねぇな。幹部達の言葉に対して、バーンタインは猛火に包まれながら笑っていた。そうして、まるで太陽が地に落ちる様にして光球がバーンタインへと激突する。
『おぉおおおおお!』
光球に飲み込まれたバーンタインが、その内側で雄叫びを上げる。すると見る見る内に光球が萎んでいき、ついにはバーンタインにその全てが飲み込まれた。
『ふぅー……はっ!』
どんっ。まるで飲み込んだ炎を吐き出す様に、バーンタインが手のひらに小型の太陽を生み出す。
『叔父貴……流石に今のはやべぇ威力ですぜ』
「じゃないと、面白くもなんともなかっただろ?」
『違いねぇ……ガキ共との訓練より、一番冷や汗を掻きやした』
獰猛に笑うカイトの問いかけに、バーンタインもまた同じ顔で笑って同意する。そうして今度は彼の方がお返しとばかりに太陽を握り潰してその全てを取り込んだ。
『おぉおおおおお!』
「<<炎の巨人>>か。自力……若干他力を利用しちゃいるが自分で出来る程度にはなったみたいだな」
『ぬぅううん!』
感心するカイトを他所に、巨大な炎の巨人と化したバーンタインが同じく炎と化した大斧を振るう。それがカイトの身体を切り裂こうとした瞬間、カイトが大斧を二本の指で摘む様にして受け止める。
『っ』
たった二本の指で自身の大斧を受け止められ一瞬だけ驚いた様子を見せるも、直後にバーンタインが笑う。そうして、彼は左手を大斧から離してもう一つ大斧を生み出す。
『おぉおおお!』
猛火で作られた大斧を、今度は真上から振り下ろす様にして叩きつける。これに、カイトの姿が頭頂部から真っ二つに両断された、かに見えた。
『ふぅ……』
両断されたカイトの姿が業火となり、元通りの姿へと縫い合わせる。そうして、炎を纏うカイトが右拳をぐっと握りしめる。
『さて……ふっ!』
『ごっ!』
炎の巨人を炎の腕が殴り付けるという暴挙により、バーンタインの巨体が浮かび上がる。そうして一撃で甚大なダメージを負わせた所で、カイトが手を止めた。
「火力は十分……そこまでいければ十分一人前なんだろう。後はそこから圧縮して攻撃力のさらなる増大と速力とのバランスだな」
『へ、へい……』
あの親父が一撃で悶絶状態かよ。腹を押さえる様にして片膝を付くバーンタインを見ながら、幹部達は相変わらずの最強という立ち位置に空恐ろしいものを感じていた。今更だが、バーンタインはユニオンでもトップクラスの猛者だ。それが一撃なのだ。圧倒的と言うしかなかった。と、そんなバーンタインが気がついた。
『……圧縮?』
「ああ。その<<炎の巨人>>はデカくて強いが、同時に速度は若干落ちる。なんで速度とパワーの両立をすると、どうしてもその状態じゃ駄目だ。だから力を圧縮してやると、今度は一撃は更に増して速度も上がる。いや、正確には速度の低下を避けられる、って話かな」
『へ、へぇ……』
どうやら<<炎武>>にはまだ上があったらしい。バーンタインは相変わらずの一族伝来の技の奥深さに感心しもし、呆れもしていた。そんな彼に、カイトは隠すことなく明かした。
「まー、そう言ってもその先が最後だ。後一歩で、バランのおっさんと肩を並べられる領域に到達出来る。後はそのまま基本と応用を繰り返して身体を慣らすだけで良いだろう」
「へい」
本当に後少しなのか。バーンタインは齢50も近い所でようやく到達が見えてきた祖先と同じ頂きに、僅かに感動する様に頷いた。
「で、後は……そうだな。攻撃は良いが、サポートの方はどうなんだ? おっさんはあれで物凄い器用で、自身が主体となって攻めるのもサポートとして周囲を補佐するのも出来た。オレとおっさんが組んで片方に一点集中して敵陣を突破、ってのもよくやったからな。オレがサポートに回る事もあれば、おっさんがサポートに回る事もあった」
「そっちは……まぁ……ちょい手こずってます。どうにも俺の力を受け止められる奴がいねぇもんで」
「そりゃ言い訳だ。おっさんは誰にでも出来る様にしっかり出来てた。ルクスは勿論だし、ウィルにだって渡せていた。おっさんの子供達にもな。そうやって命を繋いだ事も少なくない逆に受け止められない、って奴に受け取らせる様にするのが重要だ」
「へい……」
尤もだ。バーンタインはカイトの言葉に理がある事を理解していればこそ、そして心の何処かで自身がバランタインに追いつこうという気持ちが先行していた事に気付いていたのだろう。カイトの苦言を素直に受け入れる。とはいえ、これにカイトは少しだけ苦い顔を浮かべた。
「まぁ……そう言うは良いんだが、おっさんの場合人にとやかく言いながら自分が死ににいくような事も少なくなかったからなぁ。命綱になるのは良いんだが……はぁ。あの人、時々背負いすぎるきらいあったんだよなぁ……」
「「「……」」」
ため息混じりにどこか困り顔で笑うカイトに、バーンタイン以下バランタインの子孫達はなんと言えば良いかわからず、ただ黙ってそれを聞くだけだ。あの当時何があったか、を知るのはこの場ではカイトただ一人。そんな語られない何かがあったのだと思うばかりだった。と、そんなカイトは一転気を取り直す。
「いや、こりゃ良いか。とりあえず、そこを極められりゃあんたが皆の命綱になる。ただ武神で終わるだけでなく、誰しもを太陽の様に包み込んでこその<<暁>>のギルドマスター、親父だ。そこへ、たどり着いてくれ」
「へい!」
敢えて自身のギルドの名になぞらえて出された言葉に、バーンタインが一つ気合を入れて応ずる。そうして、バーンタインとカイトとの久方ぶりの再会は終わりになるのだった。
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