第2614話 リーダーのお仕事 ――暗躍――
マクダウェル公カイトとしての仕事で皇都エンテシアへ向かう事になってしまったカイト。そんな彼の代役として様々な業務を行う事になっていたサブマスター三人であるが、その一人である瞬はウルカ共和国とバルフレアからの要請を受けて今回の合同軍事演習に<<暁>>の統率役として参加する事になったバーンタインと再会。久方ぶりの再会という事で少し話を繰り広げていた。
「なるほど……今まであまり魔導書に興味を持った事がなかった……というか、この間『サンドラ』に行った時にはじめて興味を持てたという所なのですが……」
「なんでぇ。お前、『サンドラ』まで来てたのか。それなら一本連絡くれりゃよかったのによ」
「あ……そういえば確か『ウルカ』とは少し近いんでしたか」
言われてみれば、確かに連絡を取ろうとすれば取れないではなかったか。バーンタインの指摘に瞬も少し惜しい事をしたな、と思う。バーンタインに直接話す事はなくても、向こうの馴染みであるシフら知人と久しぶりに話をすることぐらいは出来ただろう。
「そうだな……まぁ、あんま『サンドラ』が好きって冒険者は『ウルカ』じゃ珍しいんだが……それでもお前さんからの連絡ならウチの奴らも喜んだだろうぜ」
「あはは……まぁ、次の機会があれば、ですかね」
「そうだなぁ……」
別段バーンタインとしても連絡してほしかった、というわけではない。単に近くに来たのなら連絡の一つでも寄越してくれれば下の連中が喜んだだろう、というだけの話だ。というわけでこれ以上は特に興味もなかったのか、彼が話題を別に変える。
「っと、そうだ。そういや噂で聞いたんだが、黒龍の小僧を傘下に収めたって?」
「黒龍? ああ、ソーラさんですか」
「そいつだそいつ。わけぇってのに相当な強さだって話じゃねぇか。よく傘下に収めたもんだ」
これは当たり前の話ではあるが、いくらなんでもバーンタインがソーラの詳細を知っているわけがない。なので何か色々とあってカイトが傘下に収めたのだろうと感心している様子だった。が、これに笑った直後。瞬がふと気がついた。
「あはは……あれ? バーンタインさん。それ、そういえばどこで聞かれたんですか?」
「あん? まぁ、ウチもデカいからウチの情報網になるが……どうかしたのか?」
「いえ、実は……」
何かあったのかもしれない。バーンタインは冒険部を率いるのがカイトだからこそ、ソーラ達を傘下に収めたという話には何かの裏があっても不思議ではないと思っていたようだ。なので話を聞く姿勢を見せる彼に、瞬はカイトとソラから聞いていたソーラ達の事情を語る。
「ああ、なるほどな……あそこの<<白い影の子供達>>は有名な組織だ。お前が警戒するのも無理はねぇ……が、これに関しちゃおそらく掴んでるのはウチぐらいなもんだろう」
聞けば色々納得できたが、それと同時にやはり厄介な事になっていたみたいだな、という様子でバーンタインは半分楽しげに、半分呆れ気味に笑う。そうして、そんな彼は続けた。
「ウチは規模がデカいのと、皇国にゃ古くからアンテナ結構張ってるんだわ。必然、情報が手に入れやすい。で、それを紐解くとマクダウェル家の艦隊にソーラの小僧共が乗った後あたりで情報がぷつんっ、と途絶えていた。ってなると、叔父貴が傘下に収めたってのが順当だろうってな」
「なるほど……」
言われてみれば納得だ。そしてバーンタインが掴めるのは自分達ぐらいというのも納得出来る。<<暁>>の様に国の垣根を超えて支部をおけるギルドは数少ない。その中でわざわざソーラ達の事を追いかけよう、とするものなぞ滅多に居ないだろう。が、そうなると気になる事が一つあった。
「ですがなぜソーラさん達を?」
「ああ、黒龍の小僧の暴れっぷりは凄まじいもんだったそうでよ。わけぇのに追われてるみてぇだから、って双子大陸の支部の奴らからウチで保護してやんのはどうか、って提起があったんだよ。で、一旦は様子見してたんだが……」
「保護?」
「どうしても、俺らのような職業は恨みを買いやすいからな。例えそれがどれだけ正しい事でも、恨まれるってのは少なくない。叔父貴なんぞその筆頭だ。叔父貴が買った恨みはとんでもないもんだったろうぜ。何人の貴族が首吊ったかわからねぇ、ってほどだったらしいからなぁ……」
それをたった一人で受け止めなんとかしようとしたのだからすごいものであるだろうし、同時に無理でも仕方がない事だったのだろうとバーンタインは思う。が、そんな事を思う彼は一転気を取り直した。
「……ま、そりゃ良い。叔父貴が居た頃は叔父貴がやってくれてたが、居なくなっちまったらしょうがない。叔父貴の様なデカい木が一本あったら、敵も手を出し難いってもんよ。だからウチはそんな奴らを傘下にしちまって、間に立ったりしてやってんだ」
「……」
これがユニオン最大のギルドである<<暁>>か。特に気負う事もなくまるで当たり前とばかりに言われた言葉に、瞬は度量の差を思い知らされる。が、これに笑うのはバーンタインだ。
「あっはははは。ま、そんなもんは単に俺達が腹に据えかねるんでぶちのめすか、ってだけだ。そっちのがデカい戦になるしな。つっても、そんな活動やってたら気付いたらこんな大所帯。もう何人から親父って呼ばれてるかわかりゃしねぇわ」
「確か最初はバランタインさんが親父と呼ばれていたのが最初でしたか」
「バランタインの大親父……バランタイン様は身寄りのねぇガキを拾ってきては自分の子供にしちまってたからな。そいつらが親父って呼ぶもんだから、いつの間にやら傘下のギルドの奴らまで俺達代々の当主を親父って呼びやがる。参ったぜ」
参った。そう言うバーンタインの顔であるが、やはり親父と呼んで慕ってくれているのは嬉しいのだろう。どこか恥ずかしげながらも、嬉しそうな顔を見せていた。と、そんな彼はやはり恥ずかしかったのだろう。話題を変えた。
「ま、そりゃ良い。大体の状況は理解した。まぁ、叔父貴に迷惑が掛からねぇ様に、俺も他言無用にしとくわ。何より、俺が勝手に調べたみたいな所もあるしな」
「ありがとうございます」
「おう……ああ、そうだ。そういや<<白い影の子供達>>で思い出した。いや、全然別件なんだがよ」
なにやらバーンタインは瞬と話している間に何かを思い出したらしい。そういえば、という塩梅で少しだけこめかみあたりを叩いて記憶を手繰る。
「瞬。お前さん、殺し屋ギルドって知ってるか?」
「殺し屋ギルド? 裏ギルドの、ですか?」
「当たりめぇだろ。ユニオンじゃ公的機関以外の殺しの依頼はご法度だ」
正確には殺しや盗みとかだがな。バーンタインは瞬に対して改めて常識を告げる。公的機関が殺しの依頼を出せるのは、指名手配犯の中にはデッド・オア・アライブ。生死不問で半ば魔物の討伐依頼のような依頼を出さざるを得ない相手が居るからだ。
「が……この世の中は真っ当に生きてる奴だけじゃねぇ。殺しに飲まれちまった奴。暗殺の技が生業だった奴とかがどうしても居る。そいつらが非合法な依頼を受けるために集まってるのが、殺し屋ギルドだ」
「聞いてます。関わった事はありませんが……」
「だろうな。普通に生きてりゃ滅多な事じゃ関わらん……その殺し屋ギルドの標的に叔父貴の名が乗ったって話が流れてきたんだが、お前何か知らねぇか?」
「え?」
何故いきなりカイトが殺し屋ギルドに狙われる事になったのだろうか。何かヘマをするような人物とは思えなかったため、瞬は目を丸くするしかなかった。そしてことの性質上、これは緊急度が高いと判断。バーンタインに一つ許可を取る。
「……カイトに聞いてみて良いですか? 流石に状況如何ではすぐに対応しないと……」
「わーった。俺としても叔父貴に何があったか、ってのが知りたいからな」
「ありがとうございます」
バーンタインの許可を得て、瞬は机に格納されていたコンソールを叩いて通信機を起動。マクダウェル家に繋いで貰って、更にカイトへと通信を繋いで貰う。
『オレだ。どうした? って、バーンタインも一緒か』
「叔父貴。久方ぶりです」
『ああ……ああ、そういえば陛下が会うので同席して欲しい、って話が来てたな。神殿都市から来る途中に寄ったのか』
「へい。そうしたらこっちで叔父貴はもう皇都に行っていると。で、せっかく降りたんで瞬やリジェと会ってからそっちに向かおうかと」
どうやらすでにカイトの方にはバーンタインが皇都に来る話は伝わっていたらしい。どちらも特に疑問もなく、お互いの状況をすんなり受け入れる。というわけで、そこらの話が交わされた所で瞬とバーンタインから先の話を説明。カイトが何か知らないか、と聞いてみる。
「と、いう感じでして……」
『ああ、それか。あー……まぁ、下手な混乱招いてもな、って思ったから言ってなかっただけなんだが……先輩。前の『子鬼の王国』事件は覚えてるか?』
「ああ。裏で非合法組織が暗躍しているのでは、という噂があった事は知っている」
これについては一度は抜けてしまった関係で、上層部の面々にはある程度は伝えている。が、そちらの成果などについてはアルミナの暗躍などがあったため、教えずにいたのだ。
『ああ……で、オレが追跡したのも良いな? その時に非合法組織のアジトで殺し屋ギルドの幹部と遭遇。これを拿捕した』
「え?」
『拿捕……生け捕りだな。偶然にこっちに攻めてきた奴が幹部格だったみたいでな。幹部だったのは思わぬ幸運だったが……情報が欲しかったんで、捕まえたんだよ』
「そりゃ……よく生け捕りなんて出来やしたね。奴ら、口の中とか胃の中に毒仕込んでた筈だったんですが」
どうやら殺し屋ギルドの幹部を生け捕りにしたのはバーンタインからしても驚きの事だったらしい。どうやったのだ、と少し興味深い様子で問いかける。
『ああ、そいつなら魔術を仕込んでたがこいつは魔糸で身体のコントロールを奪った。具体的には傷口から直接神経を操る方法』
「そりゃ……また」
『あはは……で、生け捕りにした暗殺者は現在ウチで教育中だ。後少しすりゃメイド姿で拝めるぜ。暫くはドジっ子メイドとして頑張って貰う予定。久しぶりにイキが良いの入ったわー、ってルーナさんが喜んでたな』
「「えぇ……」」
殺し屋ギルドの幹部格を生け捕りにして、それをメイドとして活かすなぞ。おおよそ正気の沙汰とは思えない行為に瞬もバーンタインも思わず頬を引きつらせる。
『あっははは。ウチはそんなもんだ。元暗殺者、元騎士だの……それにおかげで殺し屋ギルドの概形ぐらいは見えてきた。バルフレアの奴も喜んでたな』
「ってことは、ユニオンとして何か動くつもりで?」
『ああ……前もって言っておくと、皇都に集まった時にそこらの話もしたいって事だ』
「なるほど……」
今回の合同軍事演習はユニオンも重要視しており、バルフレアも来るかもと言われていた。そしてどうやらこの様子だと来るのだろう。そして他にもクオンやアイナディス――クオンはマクスウェルが本拠地、アイナディスはクズハが居るため――も参加予定だ。自分を含めれば八大ギルドの半数が確定して参加するのなら、と話を出すつもりだったらしい。
「わかりやした。それでしたら、詳しい話はその時に」
『ああ。別件でちょうどマクスウェルに来たフィオも連れてきている。バルフレアが足として船団? の長ってのに送ってもらうって話で、上手くやれば八大の長全員を集められるかも、って調整してるみたいだ』
「そりゃまた……わかりやした。そのつもりで動きます」
どうやら今回の一件では思った以上にユニオンも協力的だったらしい。バーンタインは自分が思った以上の規模になりそうだ、と少し楽しげだった。というわけでそこらを話した所で、カイトが瞬へ告げる。
『てまぁ、そんなわけで。殺し屋ギルドには狙われる事になっちまったんだが……問題はない。現状、オレというよりマクダウェル家の意向で動いた様に見せているからな』
「そうなのか」
『ああ……ま、実際にゃオレが居る以上どっちでも変わらんが。それに、この一件でちょっと暗殺者ギルドも関わってくる。向こうも迂闊にゃ動けん様にはしている』
「そうか……」
どうやら言わないでも問題無いような領域の話ではあったらしい。瞬は杞憂だったかと思う事にしたようだ。というわけで、カイトが皇都で待つというのなら行くか、とバーンタインは少し足早に席を立ち、瞬は瞬で同じく合同軍事演習に向けての支度に勤しむ事になるのだった。
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