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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2613話 リーダーのお仕事 ――西からの来訪者――

 皇都エンテシアにマクダウェル公としての仕事のため呼び出される事になったカイト。そんな彼の代役としてマクスウェルにてギルドマスターとしての仕事の代行を行っていたソラと瞬。二人は初となる人員の登用の可否に関する業務を行ったわけであるが、そこで得たのはただただ大変だという事であった。

 というわけで、カイトが軍やユニオンが手に負えない魔物の始末を行っていた一方。合同軍事演習が直近に迫ってきた事もあり再びそちらに向けての支度を行っていた。いたのであるが、そこでとある人物の来訪を受けていた。


「バーンタインさん。お久しぶりです」

「おぅ、瞬。久しぶりだな。元気だったか?」

「ええ……まぁ、この通りという所です」


 冒険部のギルドホームにやってきたのは、エネフィア最大のギルドである<<(あかつき)>>ギルドマスターのバーンタインだ。というわけで彼と久しぶりの挨拶を交わした後、瞬が一つ問いかける。


「それで、どうされたんですか?」

「ああ、ほれ。皇国で合同軍事演習が行われるだろう? あれに参加して欲しい、ってバルフレアの奴から要請があったもんでな。ま、どうにもこうにもウチはユニオン傘下のギルドじゃ最大だ。今度の演習にせよ一番数として多い参加はウチになる。その統率を考えたら、俺がいっぺん出てこにゃ話にならねぇって話だ」

「なるほど……」


 <<(あかつき)>>は冒険部とは異なり規模は傘下のギルドも含めれば数万。支部はウルシア大陸と未開の地である暗黒大陸を除くエネフィア全土に跨って存在している。

 誰かが統括して統率を取らねばならないが、そうなると西部バーンシュタット家の本家筋の誰か。バーンタインかその子供達の誰かしかありえなかった。というわけで、彼はその中でも自分が動いた理由を特に隠さず教えてくれた。


「遠征にゃ俺が行くかダインの奴が行くかはまだ決めてねぇが、今回の演習じゃダインの奴が別件で動いてたし、ウルカの大統領からも見てきて欲しい、って直々に頼まれちまったもんでよ。流石に大統領直々の要請とありゃ、俺様が直々に動くしかあるめぇ? ま、実際の実働はピュリの奴に任せるがよ」

「あはは……さすがですね、<<(あかつき)>>は……」


 中小国とはいえ一国の大統領が直々に頭を下げに来たというのだ。それほどまでにウルカ共和国において<<(あかつき)>>が重要視されている証だったし、そうされた以上はバーンタインとしても動かざるを得なかったようだ。


「で、そんなわけだから神殿都市から皇都に向かう道中で叔父貴に挨拶してくるか、と思ったが……叔父貴は留守か。クズハの叔母上に挨拶した時に聞いたぜ」

「ええ……今回の合同軍事演習の件で一度皇都へ向かい、そこからエンテシア砦で合流するそうです」

「そうか……まぁ、俺も皇帝陛下から呼ばれてるから、その時に会えるか」

「呼ばれているんですか?」

「一応、俺と皇国の皇帝陛下は縁戚にあたるぜ? 自分の所とは違えどバーンシュタット家の当主が遠路はるばる来る以上、陛下としても挨拶はせにゃならねぇんだろうさ」

「あ、そういえば……」


 楽しげに笑うバーンタインの言葉で、瞬はそういえば皇帝レオンハルトがバーンシュタット家の血を引いている事を思い出す。

 そもそも軍からの評判が良い皇帝レオンハルトであるが、それは彼自身が武人肌である事が大きい。それは祖母がバーンシュタット家の女性だった事があり、彼女から鍛えられた事が影響しているのだ。


「ま、そう言っても大親父……バランタイン様の時点で別れちまってるから、かなり血としては遠いんだがな。が、一応は同じ一族だし、ウチは<<(あかつき)>>を率いてる。無視は出来ねぇさ。もし何か叔父貴に伝えて欲しい事とかあればついでに話しとくが?」

「なるほど……いえ、あいつは基本いつでも連絡が取れる様にはしてくれていますし、基本は椿さんがなんとかしてくれる様にも出来ていますので……」

「ははは。確かに、叔父貴にゃ要らねぇ話だったか」


 自分達が子供の頃から大英雄として謳われ、そしてその偉業に恥じぬ才覚を有している事はバーンタイン自身がわかっていた。なのでカイトが何か要らぬおせっかいを焼かなくても大丈夫にしている事は彼からしても自明の理であったようだ。


「まぁ、一応ウチのガキどもも何人か今回の演習に参加させるから、また顔でも見せてやってくれや」

「はい」

「おう……で、一個気になってたんだが良いか?」

「あ、はい。なんですか?」

「そいつ、何だ? またどえらいモン身に着けてやがるな」


 小首を傾げる瞬に対して、バーンタインは胸元を指し示しながら問いかける。そこにあるのは言うまでもなく、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>だ。


「ああ、これですか。ちょっと縁があって槍を一つ手に入れたんです」

「その風格だと……魔槍の類か? 意外だったな。お前さんだと魔槍とかの我の強い槍より、素直な聖槍とかの方が良いと思ったんだがな。飼いならすの、大変だろう」

「いえ、実は……」

「ほー……地球から……」


 そんな事が。瞬とバーンタインの二人は暫くの間、瞬が魔槍を手にするに至った経緯を話し合う。それにバーンタインは驚きつつも、それならじゃじゃ馬を手にしたのも納得と頷いていた。


「そうか……そういう事なら納得だ。が、がんばれよ。魔槍ってのは言葉があれだし纏う風格もエグいが、俺ら冒険者からしてみりゃとびっきりのじゃじゃ馬だ。振り回されんじゃねぇぞ」

「はい」


 バーンタインの激励に瞬は素直に頷く。というわけで一通りの話が交わされた所で、今度は瞬がふと思って問いかけた。


「あ、そうだ……そういえばバーンタインさん」

「なんだ?」

「バーンタインさんの大斧は何か銘とか無いんですか? そういえばあまり聞いた事がないな、と」

「ああ、あいつか。そういや、俺も滅多には名前で呼ばねぇからな。いや、まぁ名前で呼ぶときゃ武器技(アーツ)を解放する時なんだから当然なんだがよ」


 そういえば言った事はなかったな。瞬の問いかけにバーンタインもそういえばと思い出す。別に隠しているわけでもないし、自分の誇りであり相棒でもある武器だ。名乗る事に恥ずかしい所なぞ一つもなかった。


「あいつは<<冷王斧(れいおうふ)>>。炎を凍らせる斧だ」

「炎を凍らせる?」

「そんな力が存在してやがるんだよ、この世にはな。ま、滅多にゃ使わねぇ大技だ」


 どうやらどんな力なのかは教えてはくれないらしい。笑ってはぐらかす様子のバーンタインから瞬はそれを読み取る。が、そんなバーンタインが若干苦笑いに近い笑みを浮かべる。


「と言っても、多分叔父貴はご存知だろうがな。気になるんなら叔父貴に聞いてみると良い。俺は説明が苦手なんで、叔父貴に丸投げさせてもらうわ」

「あはは……あ、そうだ。そういえば砂漠の件ってどうなったんですか? 何か旧王国の王子を探されるとの事でしたが」

「ああ、そういやお前それ知ってたな。実はダインの奴が今回来れないってのもそっちの調査隊の支援で動いちまったからでな」


 はぐらかしはしたものの、バーンタインは瞬に砂漠の一件を語っていた事を忘れていただけだったらしい。そういえば教えていたな、と思い出してそれならと教えてくれた。


「あれなんだが……今南側の調査がおおよそ終わったんで、叔父貴に頼んで魔族の連中に協力を要請してな。北側を調べてるんだが……その第二次調査の最中に、調査隊が盗賊のクソ野郎共に遭遇したみたいでな。調査隊に被害が出ちまった、って魔族の連中から連絡があったんだよ。で、一旦撤収ってなっちまって、その支援でな」

「また奴らですか」

「ああ……ちっ、面倒な奴らだ」


 顔を顰める瞬と同じく、バーンタインもまた顔を顰める。やはり<<(あかつき)>>の冒険者が一番関わるのはウルカ北部にある砂漠を拠点とする盗賊達で、バーンタインも年に何度も盗賊達と戦っている。なので苛立ちにも実感が籠もっていた。


「まぁ、そんなわけでな。こっちにゃ俺が動くしかねぇってんで動いたわけだ。まぁ、大親父の助言でやってる南側の再調査で遺跡が一個見つかったぐらいが収穫って所か」

「遺跡……そういえばルナリア文明とは若干異なる文明なんですよね?」

「ああ……詳しい事はまだわかってねぇらしいが、学者先生共が興奮してやがった。何がたのし……って、すまねぇな。よく思えばお前さんら一応遺跡調査が専門か」

「ああ、いえ。別に俺達も遺跡調査が好きでやってるわけじゃないので……」

「あはは。それもそうか」


 首を振る瞬に、一瞬やべっと思ったバーンタインも笑う。実際、冒険部はそれしか地球に帰れる道が無いので遺跡の調査を専門にしているだけだ。別に遺跡調査がしたくてやっているわけではなかった。


「ああ、それはそれで。俺達としちゃ魔導書の一冊二冊でも見つかりゃ儲けもんって所でやってるがな。後は大親父の助言で後数個遺跡が眠ってるはずだから、そいつの調査もやらねぇとって話ではあるか。暫くはまた砂漠か」


 終わったと思ってたんだがなぁ。<<(あかつき)>>はバランタインの助言により新たに判明した遺跡の調査も請け負う事になっていたらしい。バーンタインは少しだけ嫌そうな顔をしていた。なんだかんだ、砂漠に好き好んで入りたいわけではないらしかった。


「魔導書……良く見つかるんですか?」

「ねぇから見付けたら儲けもんだ。今回は特に不明な文明の魔導書だからな。オークションとかに売れば良い値がつくし、国が買い取るにしても良い値にはなる」

「はぁ……」


 どうやら遺跡から見つかった魔導書は総じて高値で取引されるらしい。と、そんな事を考えた瞬であるが、そこでふと気になった事があった。


「あれ? オークションとか行かれるんですか?」

「行きたかねぇが、護衛で行く事はある。後はさっき言ったみたいに何かしらの理由で珍しいモンが見付かって売りに出す時ぐらいか。時と場合によっちゃ俺自身が行かねぇといけねぇって時はある」

「へー……ああ、実は今ウチのソラ……もう一人のサブマスターがオークションで魔導書を買おうと悩んでるみたいで。ちょっと気になったんで……」

「あー……魔術師ってわけでもねぇだろうが……確かに魔術は一つは覚えておいて損はねぇわな。俺も一応、簡単なのだが魔導書は持ってるしな」

「そうなんですか?」


 見るからにパワーファイター――実際パワーファイターだが――というようなバーンタインから発せられた内容に、瞬は大きく目を見開く。これにバーンタインが笑う。


「あはは。上にいきゃ、魔導書の一冊二冊譲り受ける事はある。自分で手が足りないってんで一冊持つか、ってのも少なくない。ソラの小僧も同じだろう?」

「そうですね」

「だろうな……ま、お前さんも機会があれば探してみると良い。存外、持ってみると思った以上に楽って思う事もあるかもな」

「思われたんですか?」

「思ってねぇならこんな事言わねぇだろ?」

「あはは」


 楽しげに語るバーンタインに、瞬もなるほどと納得する様に笑う。そうして一通りの重要な要件は終わったのか、この後は普通に他愛もない雑談となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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