第2611話 リーダーのお仕事 ――ミーティング――
マクダウェル公としての仕事で急遽皇都エンテシアに向かう事になってしまったカイト。そんな彼の代役として、ソラと瞬、桜のサブマスター三人は動く事になる。
というわけで、今回から新たに不在時に行う様にと命ぜられた人員の登用に関する食堂でのやり取りから暫く。ソラは予定通り、トリンとの間でミーティングを行っていた。
「すまん、遅れちまった」
「良いよ……疲れてそうだしね」
「悪い」
トリンの理解に、ソラは一つ首を振る。そうしてミーティング用の椅子に腰掛けながら、一つ謝罪する。というわけで改めてミーティングが開始されるのであるが、話し合う事なぞ基本的にはギルドの統率に関する事だ。
「はぁ……とりあえずユニオンからの通達も来たって所か」
「うん。僕らはやっぱり当初の想定通り、攻め側だね」
これはそもそもカイトが居る以上仕方がないだろう。ソラもトリンも自分達の配属を考えて、特段疑問はないかと判断する。
「となると……やっぱ注意しとかないと駄目か?」
「駄目だねー……相手がヤバすぎるよ」
二人が見るのは、今回の合同軍事演習の陣容だ。先に言われている通り、今回は攻めと守りに分かれて演習を行う。そして冒険部はカイトの関係で攻め側に配属されることになっていた。なのでそれを想定した事前の打ち合わせだった。というわけで、トリンが口を開く。
「今回の想定を改めておさらいしておこうか」
「今回の想定は攻め側は都市が制圧され、それを奪還を目的とする。守り側は逆に都市部に対して制圧戦を仕掛けられ、増援が到着するまで耐える」
「うん。攻め側の作戦目標は都市部中央にある市庁舎の奪還。守り側は逆にそれを制圧されると敗北だね」
とりあえずどちらも市庁舎が最重要施設という認識で良いかな。ソラはトリンの言葉を聞きながら、改めて今回の要点を胸に刻む。そんな彼に、トリンは続ける。
「で、重要な所としては攻め側も守り側も街の住人への被害は最小限に抑える事という点がある。住人はゴーレムを使用する、という事だけど……攻撃がどちらからか、というのに応じて減点がされる事になってるから、ただ勝てば良いというわけではない事に注意かな」
「確か街の各所に点在してる施設に住人が避難してて、そこを攻略出来ても加点されるんだっけ?」
「うん。より正確にはそこの住人を避難させれば、という所かな」
「なんかちょっとゲームっぽいな……」
わかりやすくて良いし、実際点数化されて可視化されればどれだけ出来ているか、という所も見えやすい。減点が増えれば増えるほど住人に対する被害が増えている事がひと目で分かるし、そうなれば何が原因か探りやすい。有用な手段だろう。それは理解しつつもどこかゲームチックな今回の演習に少し意外感を滲ませるソラへと、トリンは告げた。
「ああ、多分これはカイトさんの手腕だろうね。彼、こういった可視化するのって結構得意らしいから。後は冒険者に一目でわかる様にするにはどうするか、だと軍部より一日の長があるみたいだね」
「まぁ……今も冒険者みたいなもんだしなぁ……」
冒険者に直に触れているし、何よりカイト自身が冒険者のようなものだ。なのでソラもこういった冒険者にも一目で状況が掴めやすい演習を考案するのはカイトの得手だったらしい。
「そうだね……実は今回の合同軍事演習においてマクダウェル家とハイゼンベルグ家が主軸となる様に言われてるのも、そこが大きいんだ」
「どういうことだ?」
「ハイゼンベルグ家は当然、諸外国とのやり取りが得意だからね。マクダウェル家は冒険者の統率が長けているからね。今回想定されているのは対<<死魔将>>と対邪神。どちらも冒険者の助力無しでは対応が出来ない……それに対応すると、こうなるわけさ」
「なるほど……」
てっきり発起人だからと思っていた。そんな様子のソラは決してそれだけではなかった事情に感心する。とまぁ、そういうわけなのでカイトはそこらの最終チェックも含めて皇都に呼び出されていたのであった。というわけで、そこらを理解した彼が今度は口を開く。
「……まぁ、それは良いかな。とりあえず……どうする方が良い?」
「大まかにはカイトさんが考えてるだろうから、僕らが決める事は無いけど……まぁ、さっきの話だけど。迂闊に突っ込むと危険だからね。そこだけは注意しておく必要があるかな」
「だよなぁ……」
今回、攻め側の総大将はアウラとクズハ――内々にはカイト――。守り側の総大将はハイゼンベルグ公ジェイクだ。ソラ達の相手は智将として知られているハイゼンベルグ公ジェイクだ。迂闊に突っ込んでいけば何かしらの罠に巻き込まれる事は容易に想像出来た。
「一応、確認なんだけど……夜には復活出来るんだよな?」
「今回は長丁場だからね。どうしてもやられたらアウト、にしちゃうと最初にやられて三日待ちぼうけになる事もあるから……」
あはは。少しだけ苦笑混じりにトリンが笑う。今回はあくまでも演習だ。なので連携を確認したり、きちんと指示通りに動く事が出来るかなどの部分を確認しておきたいという思惑がある。なので毎夜0時時点で戦線離脱者も復活出来る様になっていたのである。
「といっても、演習と舐めて掛からずしっかり行動した方が良いよ」
「わかってる。貴族達も大勢来るらしいしな」
「そういうことだね。だから冒険者達も有名所がかなり集まるみたいだ……噂だと皇国に拠点を置いていない八大も人を派遣するんじゃないか、って話があるぐらいだよ」
「マジか……あ、でも……」
思えばバルフレアさんは皇国の演習を重要視していて、それに協力する事を前提として遠征の延期を認めたとかって言ってたっけ。暗黒大陸が夏になる――南半球にあるためマクダウェルと季節が逆――前には遠征に出たい、と言っていたバルフレアであるが、皇国を中心とした各国が大規模な演習を行うと聞いてそれなら若干の延期も受け入れると言っていた。それをソラも思い出し、あり得ない話ではないと思ったようだ。
「後は各国も人が来そうだな」
「あれ? 聞いてない? 教国からはヴァイスリッター家が来るって話あったんだけど……君、挨拶しとかないと駄目だよ?」
「え、マジ? ごめん、なんにも聞いてないんだけど……」
ここで出るヴァイスリッターは間違いなくルードヴィッヒだろう。ミニエーラ王国の一件では教国の<<白騎士>>を主軸とした部隊に救われているため、ソラも挨拶せねばならなかった。それは彼もわかっているのだが、故に困惑する彼の様子を見たトリンが頷いた。
「っぽいね……まぁ、まだ確定情報じゃないから、確定したらルーファウスさんから話があるんじゃないかな」
「そか……わかった。それ想定して動ける様にしとくよ」
現状、冒険部はルーファウスとアリスを出向という形ではあるが受け入れている。なので冒険部を代表してカイトが会いに行くのは必然だろうし、そうなればソラも筋として話をする提案ぐらいはしておくべきだろう。というわけで、これについてはカイトとどうするか相談する事を決めたソラは、そのまま話を進める。
「っと……悪い。それはともかくだ。各国の重鎮とかも来そうだから、結構本気でやってくる所も多そうだな」
「そうだね……相手に居る人達次第だと、苦戦は免れないかな。ああ、そうだ。そういえば当然開始までどちらにどこが配属された、っていうのはわからないけど、一応アンテナだけは立てておいて。先にわかればわかるほど、動きを決めやすいから」
「おう」
やはり軍略や知略を学んだからだろう。ソラにも情報の重要性が身に沁みて理解出来ており、トリンの要請に二つ返事で快諾を示す。というわけで、それから少しの間二人は合同軍事演習に関する打ち合わせを行うのだった。
さて合同軍事演習に関する軽いミーティングを行って暫く。それも終わった頃に二人は小休止を入れていた。
「ま、こんな所か……」
「そうだね……ふぅ。やっぱりそろそろ温かいお茶が美味しい季節になってきたね」
「だなー……あ、ありがとう」
「熱くなければ良いけど」
「……ん、大丈夫かな。ありがとう」
コナタの言葉にソラが一つ礼を言う。基本給仕はナナミがしてくれる事も多いが、彼女が下の食堂で空いていない時にはコナタがやってくれる事も少なくなかった。今はちょうど夕食の仕込みが始まる頃なので、ナナミはそちらの増援に行ってしまっていたのであった。というわけで、少し熱めのお茶を口にする。
「ふぅ……あ、そうだ。そういや今さっきの話に全く関係無いんだけどさ。一つ聞いて良い?」
「あ、うん……何?」
「さっき合否発表の時にさ……」
トリンの問いかけに、ソラは先程の合格発表においての一幕を語る。色々と考えてみたが、なぜあそこでカイトがわざわざ出てきたのかがわからなかったのだ。
「あのタイミングでカイトさんがなぜ出てきたか、ねぇ……んー……」
「なにかわかんないか? いきなり出て来るのはいつもの事っちゃいつもの事なのかもだけどさ。わざわざあそこで顔見せしたの何か意味があったんじゃないかなー、って」
「そうだね……多分、意味はあったと思うよ」
ソラの問いかけに、トリンは今のところわかっている情報を集約して考える。
「理由は色々とあると思うけど……一番大きいものはやっぱりあれかな。引き締め効果という所も大きいかな」
「引き締め……それってあれか? これだけの事が出来るぞ、って知らしめる事でか?」
「うん。ゴーレムを動かして君達の行動を監視してた、は兎も角として彼がすごいのはそれをマクダウェル家などに協力してもらっているという点。これは間違いなく彼の凄さを表すものになるだろうね。特に冒険者ならマクダウェル家の名は知っておかねばならないものだ。それをある程度動かせる、協力して貰えるっていうのはすごいからね」
「なるほど……思えば今回ってカイト自分でやってないから、自分の凄さを見せつける場所が無いのか」
それなら納得だ。ソラはトリンの解説からカイトの思惑をそう推測する。これに、トリンも頷いた。
「だろうね……そういった所を複合的に鑑みて、多分あの場で言うのが一番って判断したんじゃないかな」
「なるほど……」
ってことは今後もありそうかな。ソラはトリンの推測に対してそう思う。
「うん。多分あると思うよ……でもまぁ、それもその時々に応じてになるかもね。しなくて良い、と判断したらしないだろうし。そもそも今後は君たちに直接委任される事もあるかもしれないしね」
「あ、そっか……そのパターンもあるんだよな……っと、悪い。結局なんだかんだこんな時間なっちまった」
「ああ、いいよ。逆にごめんね、気付かなくて……」
「ああ、良いって良いって」
一応問題無い様には色々と手配を終わらせてからミーティングに入っていたが、その結果少し遅い時間まで話し合いをしていたらしい。ソラの謝罪にトリンが謝罪し、それにソラが謝罪するといういたちごっこの様相が見え隠れしていた。というわけで、ソラ達の久しぶりの大仕事の一日は特に問題もなく、終わる事になるのだった。
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