第2609話 リーダーのお仕事 ――二つの合格――
皇都エンテシアに呼び出され、マクダウェル公カイトとしての仕事を行う事になったカイト。そんな彼の代役としてギルドマスター業務に精を出すサブマスター三人であるが、そのうちのソラと瞬――桜はもう行っていたため除外――の二人は今回からギルドへの加入希望者の審査という業務を任される事になる。
というわけで一泊二日の遠征を終えて最終ジャッジの所までたどり着いていたのであるが、技術班統括の立場として協力を依頼した灯里に助言をしてもらう事により、なんとか一番良い結論を導き出していた。
「はぁ……灯里さん。ありがとうございます。多分、俺らだけだと誰か落としてた可能性高そうだったんで……」
「っと……ありがとうございます。居てくれて助かりました」
「ああ、良いって良いって。こういう時ぐらいじゃないと、教師っぽいこと出来なくなっちゃってるからねー」
どうしても今では教師と生徒というよりも、同じ冒険者という立場が強くなっている。それでも昔からの流れで教師達は年上として敬われているし、教師たちも大人としてしっかりせねばと考えている所は多い。
が、それが活かせる場というのは、こういった場しかなくなっているのが現実だった。というわけで、せっかく教師っぽい事をしたのでと灯里は教えてくれた。
「まぁ、その上で面接官としてのコツみたいなのを教えてあげると、未来においてどういう感じになってくれそうか、っていうのをイメージしながら話してみると良いわね。まぁ、正確には教導が貴方達の仕事だからそうする、っていうのだろうけども」
「なってくれそうか、ですか……」
「そ。当然ウチに入った後はウチで教育もするわけだから、その内容ってこっちが選べるのよね。だからどこに到れるか、ってのは案外こっちでコントロール出来るものなのよ。後はその当人がやる気を見せられそうか、っていう所を見て判断するわけね。もちろん、適性とかもあるからそこらも踏まえた上でだけど」
「「なるほど……」」
今の自分達に足りなかった視点だ。灯里の助言で二人はあまりに近視的になりすぎていた事を自覚する。
「ま、そんな感じだからある程度こういう感じに進んで欲しいなーとか、未来でこんなことして欲しいなー、とかイメージしてそのイメージに近づけそうだったら採用って感じで良いんじゃない?」
「なるほど……三柴先生は面接された事あるんですか?」
「どっちの意味で? 受ける側? する方? どっちもあるわよ」
「そうなんですか?」
今更言うまでもないが、灯里はアメリカの大学で飛び級をしているので非常に若い。日本の現状なのでそれは隠されているが、それでも新人教師と言える年齢だ。面接官を任されていた事は驚くに値したようだ。
「うん……と言ってももちろん、ウチの入学試験とかの試験官じゃないけどね。煌士くんの所の研究室の立ち上げ時、初期メンバーの選定の時に私面接官やったのよ。いやー、今思えばあの光景。結構おかしな感じだわね」
「……ってことは煌士もあるんっすか?」
「もちろんよ。あの子が最終的な判断してるからね……というか、あの子の研究室なんだから当然でしょ?」
「「……」」
いや、当然じゃないと思うんですが。灯里の言葉にソラも瞬も出しかけた言葉をぐっと飲み込んだ。そしてその代わり、ソラはふと気づいた事を問いかける。
「……あれ? ってことは灯里さん……面接とかしてないんっすか?」
「ああ、うん。私は煌士くんの指名で入ったからね。覇王さんにしても自分の腹心の娘だから安心って事で一発オッケー出たみたいね……大学でも少し付き合いあったし」
ソラの問いかけに灯里は特に隠す事でもないのか、平然と頷いた。というわけで、その後も少しだけ二人は灯里から今後の試験に関する助言を受けつつ、時間を過ごす事になる。
さて二人が会議を開始してからおよそ一時間後。時間ギリギリまで色々と話していた二人であるが、なんとか落ち着いていつもの調子で話せる様になった所で灯里を伴って集合場所である入口前に移動していた。
そしてどうやら二人が来た時にはもうすでに全員――それに加えて彼ら彼女らを紹介した者たちも少し離れた所で――が待っていて、若干緊張した面持ちだった。そこに向かって歩きながら、瞬が口を開く。
「……全員もう揃ってるな」
「っすね……どっちが話します?」
「どちらでも良いんじゃないか?」
どうせ合格不合格を告げるだけだし、その結論はもう出ている。そしてそれを考えれば気楽に言える内容だったから、どちらが言っても良いかな、という心情が瞬にはあったようだ。というわけで、一瞬ソラの視線が灯里を向く。が、これに灯里が慌てて首を振った。
「……え、いや流石に私は筋が通らないから駄目よ? 私は判断した者の一人として同行するだけ」
「っすよね……先輩。頼んで良いっすか? 多分、先輩の方が引き締まると思うんで」
「そうか……なら、分かった。俺から言おう」
ソラの提案に瞬は一つ頷いた。というわけで三人揃って入口前へと到着する。
「すまん、皆おまたせ……で、結果発表の前になんだが、まずこっちの女の人を紹介しておく。この人は灯里・三柴……ウチで技術班の統括をやってくれてる人だ。今後もし何かの魔道具とかで世話になる事も多いと思うから、今回の試験の合否判定に関しても助言を貰った」
「というわけで、よろしくねー」
ソラの紹介に灯里はいつもの様に軽い感じで手を振る。というわけで、灯里の紹介を終えた後。ソラが改めて口を開いた。
「とまぁ、そんなわけなんだけど……結果については先輩から発表してもらう」
「ああ……まずは全員、この二日付き合ってくれて感謝する」
やはり瞬は武人肌でもあるからか、礼を言う所はしっかりと礼を言う事にしていたようだ。というわけで一つ感謝を述べてから、彼は単刀直入に結果を述べた。
「それで結論だが……単刀直入に結論から言おう。全員合格だ」
「っと、ストップ。湧き上がる前にちょっとだけ聞いてくれ」
合格が告げられた瞬間、周囲の知人たち含めで沸き立とうとしたその前に。ソラが機先を制する様に手を突き出す。そうして一瞬で場を沈めた所で、瞬に言葉を続けてもらった。
「すまん……それで結論から、と言った様にこれはあくまでも結論というだけだ。各自直してもらいたい点などがある。それについては今この場で指摘しておくから、今後はその点に注意して活動して欲しい」
合格は合格だが手放しの合格ではない。ソラも瞬も予め言える事はしっかりと言っておいた方が良いだろうと思ったようだ。というわけで、例えば偃月刀の少女であれば戦闘面は二重丸でもそれ以外が要訓練。槍持ちの少年であれば攻撃力に少し重きを置いて欲しい、など自分がわかっていて修正したいと望んでいる点もあれば、自分ではわかっていなかった点などを指摘。それについては今後は注意する様に心がける様に告げておく。
「という具合だ……それさえ直れば、もう基本は大丈夫だろうと思う」
「というわけだ……ま、最後だけダメだししちまったけど、とりあえず全員合格おめでとう。これからギルドの加盟手続きとかしてもらうから、このまま俺達について来てくれ」
「あ、ごめーん。それちょっとストップー」
「「はい?」」
今まで何も話さず本当に一応会議に参加した者として居ただけに過ぎなかった灯里が唐突に口を開いた事に、ソラも瞬も思わず目を丸くする。
「あははは……お二人さん。ウチのギルドマスターが誰なのか忘れちゃ駄目よ。というわけで、加入手続きの前にあいつからのお言葉があります」
「「「っ」」」
まさかの流れに、五人の新人達が揃って息を呑む。カイトが居ない事はもともと聞いていたが、それが帰ってきていると思ったのだ。が、もちろんそんなわけはなく、灯里は地面に先程桜から受け取っていた魔道具を設置して起動する。
「カイトー。こっち準備オッケー。そっちは?」
『こっちも大丈夫そうだな……良し。まずは全員、合格おめでとう』
「おまっ……聞いてたのかよ」
『まさか。単にそこで合格発表するって事は全員合格にするつもりだろうな、って推測立ててただけだ。違うのか?』
「いや、そうだけど……え、マジ? 灯里さんから聞いてたとかじゃなくて?」
「私が聞かれたのはどこで合格発表するかだけねー。桜ちゃんから」
そしてもちろん、会議室を出た後は桜とは一度も話していない。ソラはカイトと灯里の言葉が嘘とは思えず、思わず頬を引きつらせる。これにカイトは指摘する。
『あのな……普通に考えりゃ誰か一人でも落とそうと考えてりゃ、そんな人が集まりやすい場所を発表の場所になんてしない。全員合格にするからそこでも良いよな、って心理が働いてたんだよ』
「「あ……」」
言われてみれば確かにおかしい。ソラも瞬もカイトの指摘にはっとなる。確かに彼の言う通り、もともとは二人共全員合格で良いだろう、という事で意見を一致させていたのだ。そこに改めて真面目に議論を交わす内に自分達の判断に自信が持てなくなり、最終的に迷走してしまったのであった。
『ま、そこについては二人も今後要チェックという所か。それでは改めて。オレは冒険部ギルドマスターのカイト・天音。本来ならオレもその場に立ち会えればよかったんだろうが……ハイゼンベルグ公やら先代のリデル公やらの呼び出しを受けていてな。立ち会えなかったが、同時に話を通してこういう形で話せる様にしてもらった』
どうやら色々とカイトは格が違うらしい。新入り五人達はこの一幕でカイトがソラ達さえ格が違う格上の存在なのだと改めて認識する。
『それでまず、各個人に対するダメだしはもう二人からして貰っただろう。これについてはオレも逐一は言及しない』
それをするのはソラ達の仕事だし、それが終わった頃合いで起動する様に灯里には伝えてもらっていた。なのでカイトはこれには触れず、次の話へと移った。
『というわけで、オレが今するのは挨拶だけではあるんだが……今回は何分色々と状況が特殊なのでな。本来は自由参加となっている合同軍事演習には特別用事が無い限り、全員参加してもらいたい。というのも、オレがこの時に合流するからなんだが……まぁ、早い話がこれを逃すと更に先まで顔を合わせる機会が無いので、と考えてくれ。というわけで、それに向けて君たちも動いてくれ』
「「「はい」」」
カイトの指示に、五人ははっきりと頷いた。これにカイトもまた頷く。
『ああ……それでそれ以外のウチ独特な点だが、これについては一部は別に説明があるだろう。が、それと共に各自の所属について……ああ、そうだ。ソラ、先輩。所属に関しての話は?』
「あ、一応道中で話してる」
『そうか……ならすでに説明があったとは思うが、各自の所属に関してはまた別途連絡をする様にする。なのでそれまでの間はオレ直轄での所属となるので、何かあった場合はそう答える様にしておいてくれ』
「カイト。そういえば聞いていなかったが、どれぐらいで所属は決められそうだ?」
カイトの発言に対して、瞬がそういえばと問いかける。今回はカイト自身が試験を行っていない事もあり、通常より時間が掛かるかもと二人は思っていたのだ。これにカイトは特に何かを考える必要もなかったようだ。
『ん? いや、もうおおよそは固まってるから、後は二人や灯里さんに最終チェック入れてもらうだけだ。それについては多分明日の朝に椿から話が行くと思う。そこから色々と手続きをすると、各自に通達が出せるのはオレとの顔合わせになるだろう』
「「お、おぉ……」」
まさかのいつも通り。自分でやろうがやるまいが何も変わらなかったカイトに、瞬もソラも呆れ返る。というわけで、その後も少しの間はカイトによって今後の流れなどについて少しの話しがされる事になるのだった。
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