第2605話 リーダーのお仕事 ――色々と――
ハイゼンベルグ公ジェイクと共に合同軍事演習の視察を行う事になり、更には地球側との交渉への助言を壊れ皇都エンテシアに呼び出されてしまったカイト。そんな彼の代役としてギルドマスター業務に勤しむ事になった瞬とソラの二人はいつもの業務と共に、今回から人員の新規登用の是非という業務を任される事になる。
そんな慣れない業務に二人は苦戦しながらも小規模な遠征を行う事で適性を見極めようと考え、竜騎士部隊の一人に頼んで竜車を出してもらいマクスウェルから少し離れた所での野営に臨む事になっていた。というわけで、野営地にたどり着いた一同だがそこで野営の準備を行っていた。
「うーん……」
いつもならソラも野営の準備の手伝いを行うのであるが、今回は人員が少ない事といろいろと不慣れな事も多い事から、瞬が野営の手伝い。ソラ自身は周囲の警戒と分担して行動していた。というわけで周囲の警戒を行いながら設営作業を行う冒険者達を見ながら、ソラは色々と考えていた。
(なんってか……やっぱ人それぞれ適性ってあるもんなんだなー……)
当たり前といえば当たり前なんだろうけど。ソラは先程の野戦では一撃必殺を見せたり、あの後も戦闘面においては同ランク帯においては頭一つ飛び出していた様子の偃月刀使いの少女冒険者を見ながらそう思う。というのも、この少女だがかなり不器用だった。
(……なんっていうか……いや、全部由利とナナミ任せの俺が言える義理じゃないんだけど……どーやって生活してたんだろ……)
不器用も単なる不器用ではなく、超が頭に付くぐらいの不器用さだ。一応最低限の料理ぐらいは出来る様子――切る煮るぐらい――だが、例えば薄切りをしようとすれば厚切りではという大きさだし、もちろん斜め切りなんて出来ない。他にもそれなら、と任された火力の加減もかなり危うかった。
(いや……でもまぁ……カイト曰く冒険者で料理出来ないなんて普通だぞ、って事だし……ウチは一応キャラバンとか出す時は食堂の人員も連れて行くしな……よい……よな、これぐらい……いや、でも少数人数の時って自分達でやらないといけないよな……)
一応不器用なだけで手伝おうという心意気はあったし、出来ないなら出来る事をするのが冒険者で、それを振り分けるのがパーティリーダーの仕事だ。今回は自主性を確かめる意味も含め意図的に指示を出していないから、と考える事にソラはした。
(い、一応……落ち込んでる……んだよな。あの様子だと……もしかしてあの子、単に感情表現が苦手なだけかも……?)
まだ出会って数時間。直に面接もしていないのだ。人柄を知る要素はほとんどなく、ソラとしてはそうなのかも、と思うだけであった。というわけで、先の偃月刀使いの少女冒険者の戦闘以外の面についてそう評価を下すと、ソラは更に続けて他の冒険者達の様子を見る。その中でソラが一番興味を示していたのは、自分と同じ片手剣持ちの少年冒険者だった。
(うーん……あいつもあんまり生活力なさそうだけど……戦闘面はもうちょっと落ち着き出たら良い壁になりそうだったんだよなぁ……)
若干の気負いが見えたが、それでも戦闘は中々にスマートだった。ソラは道中数度の戦いに関してそう思う。どうやら瞬には危なっかしいと見えたが、ソラからはまた少し違った様子で見えたらしい。
(後は……あの魔術師の子達は……生活力は二人共オッケーそうだな。ちょっと意外だったけど……)
先にソラが注目していた少女魔術師は若干手慣れていない様子ではあったが、対する少年魔術師はかなりそつなく料理にせよテントの設営にせよ行っていた。が、そんな様子を見るソラの顔にはどこか苦味があった。
(うーん……ここら今後に活かさないとかなぁ……やっぱ魔術師としての腕だと俺らもあんま良し悪しわかんないし……)
おそらく是非の判断は今回だけでは終わらないだろう。ソラはカイトがこちらに業務を投げていた事を考え、そう判断していた。
(ってなると次は……楓ちゃんとかに助け頼んでも良いか? それかいっそ灯里さんに頼んでも良いか……? いや、でもなぁ……)
どうするべきか。ソラは次を行う場合どうするか悩む。と、そんな彼に声が掛けられた。
「天城さん。結界の準備終わりました。後はスイッチ押すだけで完了っす」
「あ、そか。わかった……じゃあ、押してくれ」
「良いんっすか?」
「確認か? いいよ、別に……冒険者で一年も活動してるなら、ここら覚えてないわけないだろうし。覚えてなかったら一発アウトだけどな」
「うぁ……怖いっすね……あ、良かった。起動した……」
わはは、と笑いながら冗談を告げるソラに、少年冒険者が僅かに身体を強張らせつつスイッチを押す。そうして正常に起動した結界の展開を見守って、彼がふと目を見開いた。
「……あれ? 俺の経歴……覚えてたんっすか?」
「そりゃ、覚えるだろ。一応、全部暗記してる……えっと、出身地がチボール村だろ? で、そっから……」
「い、いや、良いっすよ。読み上げなくても……」
「あはは……まぁ、俺実はチボールの二つ隣のミナドに縁あってさ。だからことさらお前の事覚えてたんだよ」
「あそこに?」
どうやらこの少年冒険者はナナミの出身地であるミナド村の二つ隣の村出身だったらしい。ソラの口から出た馴染みの村の名前に目を見開いていた。
「知ってるのか?」
「あ、うっす……何回かあそことの行商の護衛の依頼受けた事あるんで……」
「へー……逆に俺そっちの方の行路は行った事ないなー」
基本、ミナド村方面の依頼ではソラが請け負う事が多かった。なのでそちらの方面に関してはよく行っていた彼であるが、逆にそれ故にこそ目的地がミナド村が最終目的地である事も多かった。
まぁ、あの村は近隣の村の中でも比較的大きめの村なので、最終目的地となっている事は少なくなかった。と、そんなわけで少しだけ雑談に興ずる事になるのであるが、ソラも少年冒険者も駄弁ってばかりもいられない。というわけで、ソラが気を取り直す。
「っと……あんま駄弁ってるわけにもな。とりあえず、期待してるからがんばれよ」
「うっす!」
「おう」
少しは励みになってくれたらしい。ソラは少年冒険者の威勢のよい返答に一つ頷いた。というわけで結界も展開されたし野営地の設営についても終わった所で、瞬とソラは一度竜車の中で合流する。理由は言うまでもなく、ここまでの中間評価を行うためだ。
「……どう思う?」
「うーん……とりあえず戦闘面に関しては俺達が何か言えるか、って感じっすね」
「あははは。それを言われると痛いな」
やはり全員が壁超えを果たしていない冒険者なので、戦闘面に関してはまだまだ未熟だ。なので見るべきは危険行為をしなかったか、という一点だけだ。そしてこちらについては特段危険行為が見られないため、全員が合格ラインに到達していると二人は判断していた。
「まぁ、戦闘に関しちゃ全員合格ラインか。ウチの平均前後という所で……何か目についた奴はいるか?」
「それだと、やっぱあの薙刀使ってる子っすね……名前、なんだったっけ……」
「ああ、あの子か……」
「先輩から見てどうっした? 槍……? 偃月刀って薙刀の一種なんっすかね」
「少なくとも槍ではないが……」
まぁ、槍の専門家である瞬からすれば偃月刀と槍は大きく違うみたいだが、そこらの区分はソラにはいまいちわからなかったようだ。
「とりあえず戦闘力ならおそらく今回の希望者の中で随一だろう。こいつに問題は無いな。逆に危なっかしいと言えば片手剣の奴だな」
「ああ、あいつっすか……まぁ、確かに危なっかしいっすけど……自分としちゃ将来性あると思うんっすよね」
「そうなのか?」
やはり同系統の武器を使うため、瞬としてもソラの判断の方が正確と思ったらしい。というわけで、ソラがその理由を口にする。
「盾持ちって安全策取る奴が多くて、逆に如何にカウンターを上手く決められるか、ってのが結構重要なんっすよね。防ぐだけなら普通の奴にも出来るんで」
「なるほどな……当たり前と言えば当たり前か」
盾持ちに求められるのは敵の攻撃をしっかり防ぐ事だ。そしてそれが出来る事は前提とした上で、そこから如何に攻撃に繋げられるのか。それが将来性に繋がる重要な点だった。
「うっす。出来て当たり前の事は出来ても普通なんっすよ。で、その上で、って考えるとなんとか攻撃につなげよう、ってしてるのは好印象っすね」
「そうか……確かに危なっかしいのはその顕れと言っても良いか……」
危なっかしいのは若干意識的に攻撃しようとしているからかもしれない。瞬はソラの指摘でそう評価を改める事にする。というわけで評価を改めて彼へと、今度はソラが問いかける。
「そうだ。同じ武器って事ならあの槍使いの奴はどうなんっすか? 最初の一戦以降、先輩の所で戦ってもらってましたけど……」
「ああ、あいつか。あいつは逆に俺からすると面白く映ったな」
「面白い?」
どこか興味深い様子かつ楽しげな瞬に、ソラは首を傾げる。ここらはソラにはわからない所で、是非を判断するためにもかなり重要な点だった。
「ああ。俺の戦い方が攻撃に偏っているのは……いまさらか?」
「今更っすね。超攻撃型っしょ、先輩の場合」
「まぁな」
超攻撃型。瞬の戦闘は基本短期決戦の一戦一戦に全力を尽くすタイプだ。これは瞬の性格上、そして彼の師との相性も最も合致した戦い方だった。
「それに対して、あいつは守勢を得意とした戦い方だ。相手の攻撃をいなし、すかし、そして一瞬の隙きを縫う様に攻撃を放つ。今はまだ攻撃力も防御力も完璧ではないが……十分将来性はある」
どうやら瞬はこの槍使いを今回の五人の中で最も注目していたらしい。今度は逆に彼の方が槍使いに対しての将来性に言及する。というわけでその後は魔術師二人に話が及び、これについては両者共に今回の反省点として魔術師を用意するという事で決着する。
「やはり、お前もそう思ったか」
「っすね。まぁ、一応今回はなんとか見るつもりですし、概ね問題無いかな、とは思うんっすけど……」
「まぁ……俺もそんな所か」
やはり専門外の所で判断するのは今の自分達では難しいな。ソラも瞬もとりあえずは判断はするけども、と少し苦い顔だった。というわけで、そこらを今後に活かす事にして二人は次にそれ以外の集団行動に対する適性を思い出す。
「それで……野営地の設営だが。こっちは……まぁ……」
「あ、あはは……そっすねー……と、とりあえず全員やろうとする努力は見られるって所で……あ、でも魔術師二人はオッケーっすね」
「そうだな。あの二人は問題無いだろう」
半日見てみて、結論としては魔術師二人は合格。近接三人の内槍使いと片手剣の少年らは及第点。偃月刀を持っていた少女に関しては論外だったが、これに関しては協調性の有無。つまり手伝おうとする気概があるか否かが重要だった。なので腕前については鑑みない事にしたようだ。
「まぁ……今日一日の判定としてはこんな所か。後は今日の夜と明日という所か」
「っすね。じゃあ、戻りますか」
「そうだな」
ソラの言葉に瞬もまた同意する。そうして、二人は再び試験の観察に戻るべく外に出て野営地で待機する事にするのだった。
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