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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2602話 リーダーのお仕事 ――開始――

 合同軍事演習と日本との交渉に対するマクダウェル公カイトとしての仕事で皇都エンテシアに向かう事になったカイト。彼は多忙なハイゼンベルグ公ジェイクの予定に合わせるため皇都で一週間滞在する事になったわけであるが、その間のギルドマスターとしての仕事についてはいつも通りソラと瞬が代行する事となる。

 というわけでこれについては特に問題なくという感じだったのだが、今回は更に加えていつもはカイトが行っていたギルドの新規加入希望者に対する試験も行う事となり、二人は慣れぬ事に戸惑いながらも最後の最後まで準備に余念がなかった。それは、当日の朝になっても一緒だった。


「……良し。馬車は問題無し。悪いな、急に御者してもらって」

「いや、良いよ。今回は遠征にもいかないから、こいつも俺もちょっと手持ち無沙汰だったからな。そっちこそ、車の確認悪いな」


 ソラの謝罪に対して、竜騎士部隊の中でも地竜を操るギルドメンバーが笑って首を振る。今回、合同軍事演習も間際という事で竜騎士達もそれに向けて調整を行っている。なので今回はそれに参加しない者に御者を頼んだのだ。


「ああ、良いって。ここらで何か落ち度があると色々とケチが付くからな」

「あはは。大変だな、サブマスターも」


 いつもなら多少の不備や不具合があっても仕方がないで諦めるわけであるが、今回はまだ加入していない者達が居る場になる。そこであまり不手際は見せたくない、という心情がソラにはあった。


「あはは……まぁな。でもま……やればやるほどカイトがヤバいってのがわかる。あいつマジで何なんだ……?」

「そ、そうか……」


 やはりトップに近いとトップの凄さがわかるのかもしれない。この竜騎士はソラでさえすごいと思っていたのに、そのソラがカイトに対して若干の畏怖を滲ませるのだ。それほどカイトが格が違うというのがよく分かる言葉だった。というわけで僅かに落ち込む彼に、気を遣ってくれたのか竜騎士が問いかける。


「……具体的には何がすごいんだ?」

「んぁ? いや、まぁ……なんってか全体的に違うんだよな。あいつの場合だと……数手先まで読んでるのは読んでるんだけど……その範囲も手数も全然違くてさ。俺だとせいぜいマクスウェル近郊ぐらいだけど、あいつ下手すっと皇国全土で数手先読んで動いてんじゃねぇ?」

「そ、そうか……」


 問われてもわからない。そして自分では思いもよらない領域でソラもカイトも動いているのだろう。近視的にしか物事を考えた事のない竜騎士はそう思う。というわけで、下手に突っ込むべきじゃなかったと後悔する彼は慌て気味に本題に戻す。


「と、とりあえず……えっと、今回の運搬はお前含めで8人。物資は二日分。距離はさほどで良いんだな?」

「いや、すまん。言い忘れてたけど、トリン不参加。朝方連絡入ってやっぱ間に合わないって」

「おけ……場所に関しちゃいつもの訓練で使う開けた場所で良いか?」

「それで良いよ……ああ、そうだ。一応お前も全体的に誰か離れてかないか程度だけ見ておいてくれ。それ以外はこっちの仕事だからな」

「わかった」


 一応試験である以上、勝手な行動は慎む様に告げてはいる。なので勝手に離れればその時点で協調性が無いと見做せるので試験の面としては良いのだが、安全面からは危険と言わざるを得ない。

 そしてこの竜騎士は今回は御者以外しないで良い約束で話を付けていたのであるが、監視ぐらいなら請け負ってくれたようだ。と、そんなわけで出発前の最後の確認に勤しむソラに、同じくパワー型の地竜を宥めていた竜騎士が問いかけた。


「そういや、お前こっちに居て良いのか?」

「ああ、希望者は先輩が連れてきてくれる事になってる。わざわざ二人して出向く必要も無いしな……暴れても先輩一人でどうにでもなるし。それに、どうせ準備整ったら向こう移動するしな」

「それもそうか」


 今回の試験の基本的な流れは事前に通達を出している。そして実際の遠征時も集合場所は今ソラ達が居る竜種達の飼育エリアとそれに隣接する馬車などの停車場ではなく、ギルドホーム前になる事が多い。なので竜車も前に移動させている事が多く、今回もそうするつもりだった。


「良し……物資積み込み問題無し。忘れ物も無し……」

「街の外出許可証は?」

「持ってる……おし。こっち大丈夫だ。そっち問題なければ、いつもの所に移動させてくれ」

「あいよ。今日は遠征が無いから空いてるぞ、と……」


 ぽんぽん、と地竜を撫ぜてやりながら、最後にしっかりと地竜と竜車の締結を確認する。これを怠ると移動中に外れて大変な目に遭う事を、彼らは身を以て経験していた。


「良し。じゃあ、行くぞ」

「おう」


 竜騎士の合図と共に地竜がゆっくりと歩き出し、しっかりとした足取りで竜車を引いて動いていく。といっても動くのは数分だけ。建物の外周を半周してギルドホーム前に移動する。そこではすでに瞬が今回の希望者五人を取りまとめ待っていた。


「来たか」

「一条先輩。久しぶりです」

「ああ。悪いな、御者を頼んで」

「大丈夫ですよ。このために何人かは残る様にしてるんで」


 全員で合同軍事演習に参加しないのは勿論、カイトの意向というか指示だ。現在の規模まで大きくなったなら、とどんな遠征でもよほど重要な依頼でない限りは上限をギルドの半数。サブマスターも二人までと定めていた。というわけでこれに頷いた瞬が後ろの竜車を見て問いかける。


「そうだな……ソラは?」

「あ、うっす。すんません、大丈夫っすよ」


 若干身だしなみを整えながら、ソラが竜車の扉を開けて外に降りる。身だしなみを整えていたのは土壇場で鎧を着込むべきかどうするべきか悩んだ結果、今になって脱いだ――いつもの円筒に入れただけだが――からだ。やはり彼自身にもまだ緊張が見え隠れしていた。


「えっと……ソラ・天城だ。俺も一応はサブマスター……役割としちゃギルドマスターの全体的な補佐と代役かな。先輩……一条さんが軍事面主体で、もう一人居るサブマスターの女の子が残留組の統率。俺はその両方の間に立って全体の統率って所」

「ってことは基本、俺達が入れた時は一条さんの指揮下って事か?」

「いや、デカい依頼とかになると俺が全体の統率やったりもするから、そこは臨機応変に考えてくれ。直近で開かれる合同軍事演習になると、ウチのギルドマスターが直々に指揮執る事もあるしな……それにウチだと技術班やら医療班やら色々とあるから、そういった所とかの連携も必要になるんだよ」

「「「へー……」」」


 組織の規模が大きい事は噂には聞いていたが、まさかここまでしっかりとした組織だったなんて。参加希望の少年少女らは半ば感心。半ば驚いたような様子で目を見開く。

 実際、この組織形態についてはユニオンに参加するギルドの中でも類を見ないほどにきっちりとされている。その点もカイトが辣腕と言われる所以の一つだった。そうして現状についての軽い質疑応答にソラが答えた後、説明を彼に一任していた今度は瞬が口を開いた。


「基本的に、こんな形で俺とソラが同時に指揮を執る事はない。どちらかと言えばソラが主軸になり、俺が前に出る形だ。なので今回の試験でも前線で戦う者は俺の指揮下。後方支援やスカウトなど、細かな機微が必要になる者はソラの指揮下で行動してくれ」


 とどのつまり大規模な遠征を行う場合を想定するわけかな。希望者の中でも比較的考える事に長けている者は瞬の説明をそう読み解いた。そしてそのとおりだった。というわけで、その意図をソラが説明する。


「えっと……ウチの特色として、他のギルドに比べてかなり規模がデカい事がある。だから普通のギルドじゃ受けられないような大規模な依頼も多い……けど、多分そういった依頼はほとんど受けた事がないと思うから、それを想定して今回は試験を行うと思ってくれ」

「ああ。それと、戦闘以外の野営地の設営などに関しては俺達も手伝いはするが、基本は五人で協力して行ってくれ。俺達はそれを確認させて貰い、今後の野営地設営に関して問題が無いか。もしくは成長の可能性がありそうか、などを判断させてもらう」

「つまり、今回の遠征の全部が試験になる……ということ?」

「そう思って貰って大丈夫だ」


 一人の問いかけに瞬ははっきりと頷いた。と、また別の一人が竜騎士を見ながらソラと瞬へと問いかける。


「その人は? 単なる御者ですか?」

「いや、彼もウチのメンバーだが……ああ、そうだ。一応竜騎士や即応部隊も言っておくか?」

「あー……即応部隊は良いっすかね。今そこまで話す意味無いでしょうし」

「そうか……ああ、それで彼は竜騎士部隊というウチで飛竜と地竜を中心とした部隊に所属する一人だ。今回は荷物やらを運ぶ竜車を引いてくれるだけで、何も手伝いはしない事にしてもらっている」


 いつもは違うがな。瞬は今回はあくまでも五人の力量などを確認するため、竜騎士には手を出さないでもらう様に告げている事を明言する。


「そうだ……一応わかっていると思うが、多分お前らの力量だとウチの地竜には勝てない。下手な事はするなよ。飼いならされているとはいえ竜種。種族としては最強の一角だ。気性は荒いぞ」

「まぁ、そうなる前に俺が注意するし、戦闘にも慣らしているから基本は問題無いよ。ただ、下手をすると普通にブレスは吐いてくるから気を付けてくれな」


 ぽんぽん。話を振られた事を受けて、竜騎士は一応の所を明言する。これは単に馬鹿な事をするな、というだけだし今回の希望者の中には竜種と直接戦った事のない者も少なくない。

 なのでどちらかというと近づかない様にしよう、と考えている者の方が多そうだった。というわけで、一通りの注意事項と更に簡易の質疑応答、加えて今日明日の予定を一通り説明した所で、一同は竜車に乗り込む。そうしてゆっくりと走り出した竜車の中で、ふと一人が問いかけた。


「そういえばギルドマスターはどうしたんですか? 通例なら彼が最後の試験をされる、と聞いていたんですけど……」

「ああ、カイトか。あいつは急遽皇都に行く事になった」

「皇都に?」


 皇都に呼び出されるなぞ、普通のギルドマスターではあり得ない。あるとするとよほどの事態が起きた時ぐらいだが、そのよほども想像は出来なかったらしい。問いかけた一人が顔を顰める。が、冒険部では珍しい事ではなかったので、特に瞬も気にせず答えた。


「ああ。えっと……今回はハイゼンベルグ公だったか?」

「すね。後は色々と向こうでリデル家のイリアさんと物資の話で調整とかするつもり、って話してたから、多分他にも話するんじゃないっすかね。あ、そういやブランシェット家とも話すとかなんとか……まぁ、全部ひっくるめて一週間っぽいっすね」

「「「……」」」


 まさかの公爵達から直接のお呼び出し。普通に生きていれば関わる事のないだろう名に希望者達は思わず恐れ慄く。そんな彼らに、ソラが告げた。


「ま、そんなわけだから何かとウチのギルドマスターも抜けてる事多いけど……そこらあいつは普通に終わらせてから出ていくから、問題無いと思ってくれて良いよ」

「今回も、全部の手配を終わらせて後は物資を受領するだけにして出ていったからな……」

「そういや、あいつ急に決まったのに全部終わらせましたね……」


 一応今回の渡航にはカイトの思惑も多分に含まれていたが、同時に急遽呼び出された事もまた事実だ。それにも関わらず一切の手配を終わらせて出ていった事を理解して、ソラも瞬も頬を引きつらせる。と、そんな彼らに前の方から声が掛けられた。


「それマジ? 急に決まったって言ってなかったか?」

「マジマジ。な? ヤバいだろ」

「ヤバいな、おい……」


 御者席で話を聞いていた竜騎士もカイトの凄さを改めて理解する。そうして、図らずも当人の居ない所で加入希望者達にカイトの凄さを見せつける形で、試験はスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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