第2599話 リーダーのお仕事 ――助言――
マクダウェル公としての業務で皇都エンテシアに呼び出される事になってしまったカイト。そんな彼の代行を行う事になったソラと瞬の両名であるが、一足先に代行として合否の判断を任されていた桜の助言により、二人は桜が万が一の場合には頼りにする様にと言われていた灯里の助けを受ける事にしていた。
「うぇ……マジっすか?」
「うん。困ったものなんだけどねー。内部の子が手伝っちゃったら、その子の力量がわかんないわけだし」
ソラの確認に対して、灯里は少しだけ困った様に笑いながら頷いた。が、これに瞬も半ば同意しながらも一つ反論を行う。
「ふむ……ですがその場合、少なくとも人脈には恵まれているという事では?」
「そうね。そう考えて良いから、決して減点とはみなしてないわね。私もカイトも。ああ、桜ちゃんもそうね。冒険者でソロ限定で動いている奴以外はパーティプレイだから、何より重要視されるのはその人徳の面だし」
そしてギルドはソロ活動するなら所属する意味がないものだし。瞬の指摘に灯里ははっきりと頷いて同意する。
「ああ、なるほど……確かにそれはそうですね」
「うん……まぁ、そういう子はある意味ではリーダー向きといえばリーダー向きかもね。そこは場合によってまちまちだけど」
「はぁ……」
そんなものなのだろうか。瞬は灯里の言葉に生返事だ。というわけで、そんな話を繰り広げるわけであるが、これについては今は直接的な関係はない。なので灯里は話を再び審査の面に移る。
「で……その上で言うならさっき言った通り、出さないのが一番の悪手。やらないより手を借りてでもやってくれた方が良いからね。その上でそこから反論できれば、よりよいんだけど……」
「「反論?」」
灯里の言葉に二人は首を傾げる。これに、灯里は頷いた。
「そ……貴方達に聞くけれど、提出書類がどうしても忙しくて自力で書けなくて誰かに……そうね。例えばソラくんだったらトリンさん。一条くんだったら山岸くんとかに手伝って貰ったとしましょう。でもそれは当然、自分が書いたものじゃないからどこかに粗があるの。そこから自分で書いてない事が判明した時、二人はどうする?」
「「どうする……?」」
灯里に問われ、二人は一度自分達ならどうするか考える。そうして先に答えを出したのは、やはり即断即決の性格が強い瞬だった。
「……その場合は素直に謝罪します。その上でどうして時間がなかったかなどを説明し、なんとか理解して貰える様に心掛けます」
「ん。誠実さは美徳よ。ソラくんはどうする?」
「自分も同じっすね。とりあえず本来自分でやらないといけなかったんなら、頭下げるのが筋かと」
「でしょうね……さて。その上でも理解してもらえなかったら、どうする?」
「「え?」」
確かに現実問題として、いついかなる場合でも相手の理解が得られるわけではない。なのでこれは想定としてはあり得ないわけではないだろう。そうして暫くの沈黙が流れるわけであるが、ソラがふと口を開く。
「……すんません。一つだけ良いっすか?」
「ん、良いわ」
「今回の場合、想定される書類の内容ってなんっすか? それによって答えがわかれるなー、と」
「あ、そうね。確かにこれは私が悪かったわね……そうね。今回はギルドの内容で話をしているんだから、ギルド関連の書類としておきましょう」
これは確かに片手落ちだったかもしれない。ソラの問いかけに灯里は少しだけ考えて、今回はせっかくなのでとギルドでの話を想定として設置する事にしたようだ。
「なら……逆にこっちが聞きますね。なんで自分で書かないといけないのか、って」
「続けて?」
「あ、はい……ギルドってかユニオンって普通報告書以外は……いや、報告書も最悪直筆でなければならない、ってルール無いんで。最悪直筆サインでも入れちまえば良いでしょ。ギルドって本来はそういった所も補助するためにあるはずなんで……自分が出来ない時にはギルドメンバーに頼るのって冒険者としてみれば普通でしょう?」
本来、冒険者におけるギルドとは互助協会。自分一人だと出来ない依頼や任務を達成するために助け合うためのものだ。その普通を行っただけである以上、怒られる筋合いは確かになかった。これに灯里もまた同意する。
「そうね。最善かどうかはさておき、それで説得するのが良いでしょう。できれば一番だけど出来ない事情があり、執筆を自分でやらなければならない道理が無い。提出しない事の方が問題である以上、出している時点で文句を言われる筋合いが無い……勿論、自分でやらなきゃならないのにやらなかったらその場合は優先順位を見誤ってるからね。でも、今回の話だとその指摘は無いのよねー」
「意地が悪いのう。気付けねば終わりじゃったぞ?」
「教師がいつも素直な問題出してばっかりじゃ駄目だもの」
ティナの苦言にも似た言葉に対して、灯里は一つ笑う。確かに、彼女は一度も自分で書かないといけない書類、とは言っていない。あくまでも提出書類を自分で書かなかった場合、そしてそれを聞かれた場合だ。そしてそういう書類はギルドにおいてまずなかった。
「ま、そういうわけで……今みたいに普通で駄目だった場合って意地悪なんだけど、考えておかないといざってときに厳しいからね。そこまで貴方達が確かめるかどうか、っていうのは貴方達が考えれば良いけど……勿論、相手が何を得意とするかとかも考えた上でやるべきだろうしね」
「はぁ……」
「……」
生返事な瞬に対して、ソラはかなり真剣に考えている様子だった。というわけで、暫くして彼が問いかける。
「……なんか良いアイデア無いっすか? こんな時にどう聞くべきか、とか考える方法……」
「確かに……今みたいに予めある程度想定して聞ければ楽だな……」
どうせ冒険者なのだ。答えはおおよそ想定出来たし、よしんば想定されない返答があってもそれは逆に個性的な意見として有用になる可能性はある。その時々で考えれば良い。なのでここで考えたいのは、ある程度標準的な流れだった。
「それならそうね。貴方達、ロープレってした事ある?」
「ロープレ……あ、そっか。その手があったっすね」
「ああ、ソラくんはした事あったの」
「ロープレ?」
どうやらソラは基本商人や街のお偉方と話す事が多かったからか、したことがあったらしい。それに対して瞬は生来の気質が武人気質だった事もありそのままでも行ける、と判断されていたらしく逆にしたことがなかったようだ。というわけで、灯里が教えてくれた。
「ロープレ。ロールプレイング……ゲームじゃないわよ?」
「あ、それはまぁ……それで、どういうものなんですか?」
「ある役割を決めてこういう場合にどう受け答えするか、とかを練習する事をロープレというのが一般的ね」
「なるほど……」
そんなものがあったのか。瞬は感心した様にそんな訓練があるのかと頷いていた。まぁ、これはおおよそ社会人が行う事が多いものだ。学生である瞬が知らないでも不思議はなかったし、やった事がないのはもっと不思議のない事だった。
「あなた達の場合、せっかく二人居るんだからそれぞれ交代交代で受け答えの練習をしてみるのも良いでしょうし、なんだったら一度桜ちゃんに相手役を頼むのも良いかもしれないわね……あ、あの子の場合される側に回ると無茶苦茶手強いから、先にお手本としてやってもらうのが良いかも」
知性の面であればサブマスター三人の中で最優は桜だ。それはカイトがブロンザイトの修行を経た後でも内政面であれば桜を筆頭として置いている時点でも明らかだろう。
「あー……そりゃ良いかもなんっすけど……桜ちゃん、今俺らの空いた穴を埋めて貰ってるんで……逆に手を空けられると困るっすね。そっちのが効率悪化するんで……」
「あー……それはそうねー……まぁ、手が空いてれば、って所で良いんじゃない?」
これはアイデアの一つだ。そして本来は二人に与えられた仕事だ。ソラとしても瞬としても無理をされるぐらいなら、手伝いは不要だった。
「そっすね……なんか他に無いっすか?」
「他にねぇ……後はおおよその流れをどうするか、とか相手を見ないとなんとも言えない所だけど……あー……後は一個だけ。大丈夫とは思うけどウチの特色に合わせた試験を行えるか、って所かしら」
「ウチに合わせた?」
ウチという事はすなわち冒険部という事で良いのだろうが。瞬はそう思いながらも首を傾げる。これにソラが明言した。
「ああ、それなら大丈夫っすね」
「そうなのか?」
「うっす……さっきほら、話してたじゃないっすか。ウチだと気を付けるのってなんだろって」
「ああ、あれか……確かに言われてみれば冒険部に合わせた試験か」
そもそもカイトに言われていたのが、冒険部でやっていけるかどうか考えて判断しろという事だ。なので二人共冒険部で活動する上で重要なのはなんだろうか、と話し合って予定を決めていたようだ。
「そういうことっすね。てな感じで、一応盗掘とかしない様にとか、色々と物資の管理は厳し目にやってる事は最初の時点で話しておくつもりです」
「そうねー。あんまりこういう事言いたくないけど、手癖の悪い子もいないわけじゃないだろうし。盗掘されちゃうと困るのカイトだからねー……まぁ、あの子の場合居ても裏で暗躍するんでしょうけど……」
「あんまり、それ連発されても困るっすからねー……」
何よりそれで面子が立たないのは加入許可を下す自分達だ。ある程度自分達の所で見極め、もしくは抑制が出来るのが最善だった。
「そうなのよね……あの子が考えてるのって完全に自分が抜けた先の話でしょうし。どっちかっていうと、貴方達の場合大変なのはこれが終わった後かもね。カイト筆頭に今の上層部はマクダウェル家側の人員として抜けちゃう子少なくないから」
「「ぐっ……」」
痛い点を突かれた。灯里の指摘に瞬もソラも顔を顰める。カイトが公職に復帰、すなわちマクダウェル公カイトに戻った時、上層部の半数ほどはマクダウェル家の人員としてそちらに所属する事になる。その中には勿論桜が含まれるわけで、いつまでも桜に頼り切りでいられるわけではなかった。というわけで、そこはわかっているらしい二人に灯里は告げる。
「あ、それはわかってるのね……なら、今のうちから自分の人材をしっかり育成しておいたほうが良いわよ。そうなった時に辛いのはカイト見てればわかるし……まぁ、あの子の場合は逆にそこをしっかりしてたから今が楽って形だけど……」
「あれもその当時は苦労しとったぞ。だから逃げとったわけじゃしのう。少なくとも、あれが逃げ出すぐらいには忙しかったと思っておれ」
というか現時点でも忙しいんだもんなぁ。その昔は今は育っている人員が居なかった事を改めて認識する。というわけで灯里から教えてもらった情報をベースとして、二人はこれからの流れなどを改めて見直すべくギルドホームの執務室に戻る事にするのだった。
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