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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2598話 リーダーのお仕事 ――助言――

 マクダウェル公としての業務で皇都エンテシアに呼び出される事になってしまったカイト。そんな彼の思惑により後進育成の一環としてギルドマスターの職責の代行を担う事になったソラと瞬の両名であるが、二人は 合同軍事演習に向けたいろいろな手配の確認や人員の編成などというある意味ではいつもの仕事を行っていた。

 が、それと共に新たに二人に下された新規加入者の合否の判断という業務は他者の人生を左右しかねないものであり、そしてまた初めての業務という事もあり苦心する事になってしまう。

 というわけで、一足先に代行として合否の判断を任されていた桜の助言により、二人は桜が万が一の場合には頼りにする様にと言われていた灯里の助けを受ける事にしていた。


「そういえば……三柴先生はどこに居るんだ?」

「え……普通に下の第二執務室に居ないっすかね」

「いや……さっきついでであっちに寄って来たが、居なかったんだが……席外しか……?」


 どうなんだろうか。瞬もソラも二人してどうしたら良いか悩む。が、とりあえず席外しの可能性もあったため、ひとまず二人は第二執務室へ行ってみる事にした。


「はーい……って、天城か。っと、一条先輩」

「おう……三柴先生居る?」


 どうやらソラの馴染みの元天桜学園の生徒だったらしい。執務室に入ってきたのがソラだと見て気を抜いたものの、更にその後ろに居るのが先輩だと気付いて思わず姿勢を正していた。ここら、いつまでも天桜の生徒達は当時の名残が残り続けたままだった。


「え、ああ……三柴先生か。えっと……ああ、いや。今日は終日公爵邸地下の研究室に居るみたいだな。一応、通信機で話せるけど……」

「ああ、いや。良いよ。話の内容的に通信機とかで話す内容じゃないし」

「そうか……ってことはお前と先輩もそっち向かう感じ?」

「そうだなぁ……ああ。そうしないと駄目だな」


 流石に試験当日までもう二日しかないのだ。もし灯里が実験中とかであれば待たなければならない可能性もあったし、一度行くのが筋だった。というわけで、二人は第二執務室を後にしてマクダウェル公爵邸の地下へと向かう事にする。が、ここでも二人は肩透かしを食う事になった。


「え、居ないんっすか?」

「ええ……聞いてないの?」

「いや、全く……一応予定表だとこっち居るって言われてきたんっすけど……」


 その様子だとそのようね。ソラの返答にコレットが肩を竦める。


「軍の工廠よ。当分、技術班の方々はあっちにいるらしいわ。何か魔導機の簡易? 量産型とか作ってるって。灯里もあっち」

「うあ……マジっすか」


 昨日の間に聞いときゃよかった。ソラはまさかの居場所に顔を顰める。というわけで、そんな彼にコレットが問いかけた。


「一応、こっちから連絡取れるけど……どうする?」

「す、すんません……お願いして良いっすか?」


 流石にここまで来て肩透かしを食う事になると、あまりにも時間が無駄過ぎる。一応すぐには戻れないかもしれない、と伝えていたし仕事は終わらせてきたので問題はないと思うが、それでも無駄に外に出ているつもりはなかった。というわけで、コレットに頼んで秘書室の人員専用の回線を使って軍基地に居るという灯里に連絡を取ってもらう事にした。


『はい、三柴です』

「あ、三柴先生ですか?」

『あら、ソラくん。珍しいわね、君が私に連絡取ってくるなんて』


 基本的に灯里と瞬はそこまで関わりがあるわけではなく、結果的に喋るのはソラになったらしい。なお、流石に取次で誰かが居る可能性もあったので外聞も考え先生で呼ぶ事にしていたようだ。


「あ、うっす。すんません、何かお仕事中に」

『んー……秘書室からの連絡だけど、その口ぶりだともしかして第二執務室で聞いて公爵邸に来ちゃった?』

「わかるんっすか!?」

『ソラくんだといつもは灯里さんって呼ぶもの。そうじゃない、ってことは誰かが近くに居るってこと。第一執務室だと別に灯里さんで良いものね。で、ってことは残るは第二執務室で直接だけど……君の場合第二執務室で連絡取ろうとはしないだろうから、結論公爵邸。で、近くに居るのは多分コレットさんかなー。ラグナ連邦で関わりあったから、彼女が差し向けられるのが多いだろうから』

「……」


 相変わらず推理力が高すぎる。ソラは前々から知ってはいたものの改めて露わになる灯里の能力に言葉を失う。そんな彼に灯里が軽い様子で謝罪する。


『いや、ごめんねー。ティナちゃんと一緒に外の工廠に居るんだけど……いや、正確にはアイちゃんと一緒なんだけど。もともとこっちに来る事になってたんだけど、軍の工廠に立ち入ってるってほら、あんまり良い顔されないでしょ』

「え、いや……まぁ……そっすね」


 完全にそこまで読んだ上でやっていたのか。ソラは灯里の返答に若干困惑気味に頷いた。ここまで見通した上でやっている所を見ると、おそらく全部話し合った上で対策まで考えていたという事なのだろう。


『でしょ? まぁ、言った事ないんだけど』

「そ、そっすか……で、その様子だとあれっすか? 簡易量産型の試作に立ち会ってるんっすか?」

『ああ、違う違う。流石に私そっちは専門外も良い所だから。私は飛空艇の開発のお手伝い。で、この研究って主導してるのティナちゃんだし、新型の飛空艇のエンジンの試験もついでだからこっちでやるか、ってなって私もこっちに来てるのよ』

「あ、なるほど……」


 そもそもティナが向こうに居る理由の一つは外のような広大な敷地を確保出来ない試験を行うためだ。なのでせっかくだからと飛空艇の試作機も持っていって、出来る事を一緒にしてしまおうと考えたのであった。


『それは良いかしら。とりあえずなんか用?』

「え、あー、いや……」

『まぁ、遠慮しなさんな。私今でこそこっちの仕事中心で動いてるけど、本職教職員だし。生徒の悩み見過ごしちゃおれんのよ』

「あー……えっと、相談で」

『ふーん。恋の悩みなんて相談する子じゃないから、何かギルド関連の事?』

「そうっす……それで一条先輩と二人で伺ったんっすけど……」

『おろ……これは存外深刻そうね』


 思った以上に厄介な話なのかもしれない。瞬も一緒だという現状に灯里はそう判断する。


『そうねぇ……それだったらそのまま立ち話もなんでしょ。ティナちゃーん。ソラくん達こっち呼んでだいじょぶー?』

『構わんが……なんじゃ。あやつら、何かトラブっとるのか?』

『いや、よくはわかんないけど、一条くん一緒って事だから冒険部か天桜の事でしょ』

『ああ、それか。であれば……』


 どうやら灯里とティナは一緒だったらしい。通信機の先で何かをやり取りする声が聞こえてきた。


『ふーん……それ、ティナちゃんの差し金でしょ』

『……なぜそう思う』

『いや、カイトは絶対まだやらせないから。でもそろそろやらせといた方が良いんじゃないかなー、と思う今この頃で。やらせるのならティナちゃんしか居ないでしょ』

『「……」』


 この人の洞察力や推理力は本当に恐ろしい。正鵠を射ている灯里の結論に、通信機の先のティナとソラは揃って言葉を失う。というわけで、更に数言のやり取りがあった後、最終的に許可が出たようだ。


『あ、とりあえずオッケーだって』

「……あ、うっす。とりまそっち向かいます」


 思った以上にこの人はすごい人なのかもしれない。ソラは度々桜の弟である煌士から灯里の凄さは耳にしていたが、それ以上なのかもしれないと思い始める。というわけでコレットに礼を言って二人は公爵邸を後にして、街の外の軍基地へと移動する。


「と、そんな具合なんっすよ……それで桜ちゃんに助言貰って、灯里さんに相談って流れなんっすけど……」

「助言ねぇ……別に私特に何もやってないけど」

「え、でも桜ちゃん。すごい正鵠を射た内容で助かったって」

「あー……そりゃ、子供が書くような内容の、それも嘘とか入った所なんて一発わかるでしょ。それにホントに賢い子ってこっちがわからないわけないから、って嘘書かないし。誠実さ見せた方が得ってわかってるのよね。それよりきついのってそういった文章化されてない子達の方だし」


 基地の一角にある研究室の中。灯里と合流した二人はひとまず状況を説明したのであるが、どうやらそもそもティナが居たので今更逐一説明する必要さえなかったらしい。ついた時にはすでにソラ達の現状把握は終わっていて、次に彼らが何をしたいか、という点の説明だけだった。


「なんでっすか?」

「だって何の努力もしてないから」

「「あ……」」


 確かに言われればその通りだ。まずマクダウェル領で生まれ育てば最低限の教育は受けなければならなくなる。なのでこの時点で読み書きは出来る。ではそれ以外の土地ではとなると、代筆という手段がある。これはユニオン支部が格安で代行してくれることも珍しくない。依頼の報告書の提出が義務付けられている冒険者がこの制度を知らないわけもなく、それをしない時点でやる気が無いと思われても仕方がなかった。


「まぁ、別に良いのよ。全部対面で終わらせられる自信がある、っていうなら。でもそれもいまいちで書類も出さないなら、ねぇ。勿論、出してない以上はその時点で出した子達と比較してマイナス要因だから、差はついちゃうし……私もカイトも加点方式だからね。合格点に届かないならそれまで、って所で」

「何人か居たんっすか? 合格点に届かなかった奴」

「まぁ、何人かはね。桜ちゃんもそこらはすぐ気付くから普通は問題はないんだけど……あの子も忙しいから、それなら補佐してあげるのが教師の役目。そこらはドライにやってるわね」


 おそらく灯里が言うのだからかなりシビアなのだろう。ソラも瞬も今までの流れからそう思う。実際、カイトの公爵モードの冷酷さは間違いなく灯里の影響が強いだろう。その灯里が甘いわけがなかった。


「ま、そんな感じで色々と改めて読んでると何かしらの粗が見つかる事もあるんじゃない? そこから判断しても良いし、粗が見えた所でここは突っ込みたいな、って言う所があるかもしれない……ああ、後そうだ。ソラくんだったらトリンさん居るじゃん。そういえば彼は?」

「あー、いや、実は……合同軍事演習で同盟で動く事になりそうなんで、今同盟の人の所に行って貰ってるんっすよ」

「あー……」


 それでこっちに来たわけか。灯里はいつもなら話を聞くだろうトリンが居ない理由に納得する。


「ん。まぁ、そういうことなら何かあったら相談して頂戴な。何が出来るかはさっぱりだけど……今までの傾向と対策ぐらいなら話してあげられると思うわ」

「「ありがとうございます」」


 ソラと瞬の二人は協力を快諾してくれた灯里に一つ頭を下げる。そうして、そこから更に暫くは今までの人員の登用に関しての助言を灯里から受ける事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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