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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2594話 リーダーのお仕事 ――調整――

 合同軍事演習と日本との交渉への助言を求められ、皇都エンテシアに向かう事になってしまったカイト。そんな彼は後の事をソラら残留組に任せると、単身で皇都へと移動する。

 そうして彼が旧交を温めている一方、ソラは同じく合同軍事演習の実施に備えて鎧の再調整を行ってもらうべくオーアの居る軍基地を訪れていた。そこでカイトの意向で開発されている魔導機の簡易量産型の試験を手伝った彼は、その後は軍基地で一泊していた。


「ふぁー……軍の基地にも客室ってあんだな……なんもないっちゃ何もないけど……」


 ソラの今夜の宿は軍基地に設けられていた客室だ。といっても当然コンシェルジュなどは居ないし、内装も至ってシンプルだ。正しく休むための場所というのがひと目見て見て取れた。


「えーっと……明日の予定は……昼で鎧の調整終わるんだっけ……」


 今回は色々と再調整を行ってもらっていたので、かなり長い時間掛かるらしい。ソラは今回の調整を依頼する際に聞いた話を思い出す。なお、別に夜を徹して行われるわけではなく、単にこちらでの簡易量産型の試験やらが色々とあって、その空いた時間でオーアが調整してくれるので時間が掛かっているだけだ。詰めれば一日で終わらせる事も出来た。


「で、昼からは一回着込んでのチェックと……どっちにしろ夕方ぐらいまで掛かるか」


 やっぱり魔導鎧ってオーバーホールじみた調整をしてもらうと時間掛かっちまうなぁ。ソラは魔導鎧が抱える難点の一つを思い出し、ため息を吐いた。

 こればかりは魔導鎧という存在そのものが技術の塊である以上、仕方がない。それを使う事を選択した時点で受け入れねばならない事だった。


「ふぅ……」


 どうするかね。ソラは特にやる事もなく手持ち無沙汰なため、外を見ながらため息を吐いた。そうして見えるのは夜空とその下で夜間の訓練を行う軍の兵士達の姿だ。


「夜間訓練か……ウチでもやった方が良いのかな……」


 基本的に冒険者といえど夜でしか受けられない依頼以外で夜出歩く事はない。そしてそういう依頼はかなり珍しく、夜間の行動を想定した訓練は冒険部ではあまりされていなかった。が、他方軍は夜動く事は十分に想定される事態であり、定常的に夜間訓練が行われていた。


「……」


 やはり色々と軍の訓練を見るのも勉強になったのだろう。生来の真面目さからか、暫くソラは軍の訓練を観察させてもらう事にする。


「あれ……そういや……」


 軍の訓練を観察していたソラであるが、ふと彼らが着込む装備の多くが闇に紛れられやすい色で統一されている事に気が付いた。これは今のソラが知る由もないが、今回の想定としては非合法組織が闇に紛れて暗躍していて、それへの強襲作戦だった。


「夜間迷彩って奴か……? 一回相談してみるか……?」


 今のところ夜出歩く事はあまりないが、必ずしも無いわけではない。冒険者は依頼に応じて様々な状況で動くのが仕事だ。想定は出来た。というわけで、ソラはそういった冒険者として活動しているだけでは見えない事を軍の基地で確認しながら、暇を潰す事にするのだった。




 さて明けて翌日。朝一番からはオーアの指示で基本は鎧の調整に従事していたのだが、昼を過ぎた頃に再度オーアに呼び出されて朝からの試験で見えた部分へ細かな調整がされた鎧を受け取りに行っていた。


「というわけで、これが完成した奴。朝は伝えてなかったけど塗装とか剥げてた所とかあったから、そこも塗り直しとかしといてやったよ」

「おー……すんません。ありがとうございます」


 今回はオーバーホールじみた調整をしてもらった事もあり、所々で見受けられていた細かいキズや塗装をし直してくれていたらしい。こういった所は時間が無いと出来ない所も少なくないらしく、今回せっかく一日フルに使えるので、としてくれたようだ。というわけで新品同様の仕上がりになった自身の鎧を見るソラに、オーアが告げる。


「まぁ、結果的だけど今までの10%ぐらいは性能が向上してるはずだ。やっぱり長く使うといろいろな所でガタが来るからね。今まで時間が無くてやってなかった所の修正とかやったら思ったより時間掛かっちまった」

「へー……やっぱ定期的にオーバーホールした方が良いんっすね」

「そうだね。ある程度のスパンでやっといた方が良いだろう……ま、申し訳ない話で私も忙しいしあんたも忙しいからね。どうしても予定調整の方が手間取っちまうから今までのびのびになってたが……」

「そうっすねぇ……」


 定期的にオーバーホールができればとソラもオーアも思わないではないが、オーアは<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>の技術班で忙しいし、ソラはソラでギルドのサブマスター。遠征を率いて出る事も少なくないし、サブマスターの仕事で人と会う事も少なくない。鎧だけ送る事は出来てもその調整に付き合う事が出来ない事が多かった。


「ま、とりあえずこれで暫くは大丈夫だろう。一度着込んでみな。朝の仮組みとは段違いになってるはずだ」

「うっす」


 オーアの指示に従って、ソラはきちんと組み上げられた魔導鎧に袖を通す。と、その最中に彼は昨夜気になっていた事を問いかける事にした。


「そういや、オーアさん」

「ん?」

「いや、昨日こっちで泊まっててふと思ったんっすけど……もし夜間迷彩とか考える時ってどうすりゃ良いっすかね。いや、今のところ夜動き回る事とかあんま無いっすけど……」

「まぁ……あんたら冒険者だしねぇ」


 ソラの問いかけにオーアは別に冒険者なら珍しいわけでもない、と口にする。ここらはやはり非合法組織やらとの戦いも最初から念頭に置いている軍と、何でも屋に近い冒険者の差と言えた。


「あんたら冒険者はやっぱ基本は依頼人からの依頼があって初めて動くからね。依頼人が困る事の少ない夜に動く事は無い」

「そうっすね……一応、軍やらからの依頼で夜にしか出ない魔物の討伐依頼や何かしらの素材の収集をしなきゃならない、ってんで出る事はあるっすけどね。それでも、夜動く事は少ない……何より夜の依頼って割増になるし」

「まー、そりゃね」


 あはははは。ソラの指摘にオーアが楽しげに笑う。これは需要と供給から考えれば、至極当然な話ではあった。というわけで、オーアがそれに触れておく。


「一応、レイとかを筆頭に夜型の種族ってのは居るには居るが……夜のが有利ってだけで夜を中心として動くってのは少ないもんだ。何より、昼型と夜型を比較すると夜型のが母数も少ないしね。で、そういう奴らも基本は昼型の奴に合わせて動く事が多いから、夜寝てる事が多い。結果、需要が少ないから報酬上げるしかない」

「そういうことっすね……まぁ、なんでウチにも時々夜を中心とする依頼はあるんっすけどね」

「まぁ……あんたの所は母数がデカいからね。受けてくれるかも、って投げられる事は多いだろう」


 確かに一般的な冒険者より夜間に動く確率は高いか。オーアは改めて冒険部を思い出して、比較的そういう事が起きる可能性が高い事を理解する。そしてその上で、と彼女は告げた。


「まぁ……それでも夜間迷彩を搭載するのはあんまやらなくても良いかもね。基本、冒険者は夜間に動く場合には魔術でなんとかしちまう事のが多い」

「やっぱそうなるんっすか」

「そうだね……やっぱなんでも鎧やらに組み込んじまうとその分調整が面倒になる。冗長性も失われちまうから、よほどの状況が想定されない限りは仕込まない方が一般的だ」

「なるほど……」


 魔導鎧とて機能的に組み込める量は有限だ。なので余裕を潰してまで搭載する意味がある機能か、と言われるとソラも首を傾げる。というわけで納得した彼へと、オーアが告げる。


「ま、それならそれで外付けでやるってのも一つの手だし、それが出来るのが魔導鎧の利点だ」

「そんなんあるんっすか」

「なんだ。そこは気付いてなかったのか。昨日夜間訓練をしてた奴らなら、魔導鎧も着込んでたと思うけど……オプションとして夜間迷彩の役割を果たす装備をアタッチメントとして装着してたよ。そんな高くないし、ヴィクトルなら普通に買えるだろうね」

「へー……」


 もともと外付けするウェポンパックには様々な種類があるとはソラも聞いていた。が、そんなものまであるとは、と感心していたようだ。と、いうわけでもし必要になったらその時に用立てれば良いかと彼も判断した。


「じゃあ、それはその時用立てれば良いっすか」

「そうだね。そうしといて良いと思うよ。実際、それで事足りなかったって話は聞かないし」


 ソラの結論にオーアも同意する。というわけでそんな話をしながら鎧を着込んでいると、あっという間に装着は完了する。


「うっし……おー……なんか感覚が違うっすね」

「動きは格段に良くなってるだろうからね……良し。じゃあ、調整後の試運転と行こうか」


 再調整は終わったから、後はソラが今の鎧に合わせて身体を慣らすだけだ。肩を回したりして感覚を確かめる彼に、オーアが実際に使ってみてどうかを確かめる様に勧める。そうして、ソラはそれから一時間ほど掛けて慣らし運転を行う事になるのだった。




 さてソラが慣らし運転を行って一時間ほど。調整後の鎧は概ね良好という事で調整そのものは終わったのだが、その後ソラは朝の調整で見れてなかった部分の調整に付き合わされる事になっていた。


「結局……俺これやるんっすね」

『せっかく機能があるからね』

「はぁ……」


 通信機から響くオーアの声を聞きながら、ソラは一つため息を吐く。そんな彼が今どこに居るかというと、魔導機のコクピットの中だ。前にブロンザイトとの旅で発覚していたが、ソラの魔導鎧には魔導機のパイロットスーツに近い役割を果たす機能が搭載されている。その調整のためだった。とはいえ、その実情を彼が理解できないわけがなかった。


「……てか、早い話またなんかのテストっすよね」

『あっははははは。そだね。総大将が一週間丸々出ちまったからどうっすっかって所に、ちょうどあんたが来てくれたからね。せっかくだからあんたで良い奴はあんたで良いかって話』


 総大将って何なんだろう。ソラは相変わらず全体的に便利屋としてこき使われている様子のカイトに、そう思う。一応これで<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>総大将であり、マクダウェル公爵だ。

 前者はまぁ、義勇軍なので良いだろう。が、公爵であるにも関わらずこうも自然とこき使われているのは非常に珍しいと言うしかなかった。とはいえ、ソラは調整を無料でしてもらう代わりに、そこらに手を貸す事が条件だ。なので従うしか道はなかった。


「で、何すりゃ良いんっすか」

『そうだね。いつもの事だけど、難しい話やら難しいシステムやらは総大将がいつも通り帰ってから試験する。あんたはいつも通り、技術班で開発した武器を確かめてくれりゃよいよ』

「つまりいつも通り、と」

『そういうこと……ああ、今回は結構広い場所だから、飛翔機を使って空中での試験もやるつもり。余裕は残しておいてくれ。もしキツいってなったら冷蔵庫に回復薬入ってるから、それ飲んじまってくれ』

「うーっす」


 飛翔機を使う事を含め、ソラとしてはいつも通りといえばいつも通りだった。そしてこういう試験はこれまで大小合わせて十数度行っており、彼自身も慣れたものだった。というわけで、彼はこの日は暗くなる直前まで魔導機の試験に付き合わされる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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