第2593話 リーダーのお仕事 ――テスト――
合同軍事演習と日本との交渉に際して皇国上層部からの呼び出しを受け、皇都エンテシアへ渡る事になったカイト。そんな彼は皇都にて先代のリデル公であるイリアやハイゼンベルグ公ジェイクらと会談を持ったりしながら日々を過ごす事になる。
というわけで彼の留守を預かる事になったソラであるが、彼もまた合同軍事演習の準備をしていたわけであるが、その中で先の遠征の後に追加された武器の予後を確認してもらうべく、マクスウェル郊外の軍基地に滞在中のオーアの所へ訪れる。そんな彼は手持ち無沙汰であった事、実用化された場合は天桜学園でも活用される可能性があるとの事から、半魔導機の簡易量産型とやらの試作機のテストに付き合っていた。
「一通り移動はしてみたんっすけど……こんなもんで大丈夫なんっすか?」
『ああ、オッケオッケ。とりあえずそれだけ動きゃ十分だ』
前後左右に速度を分けたりS字カーブの様にジグザグに動いてみたり、としていたソラの問いかけに、オペレータは一つ頷いた。というわけで、そんな彼が問いかける。
『で、負担はどんなもんよ? そいつ一応、移動時には負担が掛からんってのが謳い文句だからな』
「ああ、それはマジで無いっすね。ただ動いてるだけの時はマジで動いてるかわかんないぐらいっす。逆にその点、魔導機とか大型使ってる人は混乱するんじゃないっすかね」
『そいつは魔導機やら大型使える奴を想定してないからな。あくまで、そいつらが使えない一般兵向けだ』
「ま、そうっすね」
今までの話の中でソラはこの簡易量産型が魔導機も大型魔導鎧も使った事がないという一般兵向けに開発されている事は聞いていたし、何よりこの負担のなさだ。全く想定していない、と言われても素直に納得出来た。というわけで少しの雑談を繰り広げた所でオペレータ側が別の誰かと話を交わす。
『良し……まぁ、基本操作の面はこれで良いか。後は数とってマニュアル化を進めて行けば大丈夫だろ』
『だな。後はどの点で躓きやすいか、ってのをオペレータ側、兵士側でサンプリングを増やせば良い』
『良し……ああ、ソラ。待たせた。これで基本操作は大丈夫だろ。じゃあ、次。実際の戦闘に向けた動きだな』
「うっす」
ここからが本番か。ソラは一度腹に力を入れて、気合を入れ直す。移動や防御には負担がほとんど無いとの事だが、戦闘にサイスル攻撃はその大半を操縦者が補うとの事だ。正しくここからが本番だった。
『おし……じゃあ、ここからは腕を使ってもらう。まずは両手を振ってみろ』
「振って、って言われても……どうすりゃ良いんっすか」
『適当に振ってみろ。きちんと簡易型の腕が反応するかみたいってだけだ』
「あ、そういう……こんな感じっすか?」
『それで良い。反応良好、と……』
大きめに腕を振ってみたり上下にシェイクしてみたり、としたソラであるが、そんな行動にオペレータは満足げに頷いた。そうしてある程度の基本動作がソラの動きに追従出来ている事を理解して、オペレータが告げた。
『よし。じゃあ、今度は指だ。ぐっぱっとしてみてどうか試してくれ』
「こんな感じっすか?」
『良し。こっちの動作も異常なし……握り具合とかはどうだ? 軽いとか重いとか』
「……あんま違和感は無いっすね。何も持ってないってのもあるんでしょうけど」
『それもそうか……まぁ、そいつの上半身はかなり簡素化してるとはいえ魔導機の上半身と同じ伝達系を有している。動かすのになんか手間にはならないはずだ』
操作性とかだけなら十分に近接戦闘も出来そうなんだけどな。ソラは簡易量産型の腕を見ながら、そう思う。が、これはあくまでも魔術による身体強化無しで動かしているから反応してくれているだけだ。
これが冒険者で言う所のランクB以上になると、途端追従出来なくなってしまうらしい。やはり魔導機ほどの性能は無いのであった。
「てかこれなら別に上半身大型で良いんじゃないんっすか?」
『あー、それか。大型の難点の一つに、装着の手間があってな。後狭いってのもか。お前、大型乗った事無いだろ』
「まぁ……」
大型魔導鎧を見た事はあるが乗った事はない。これはどうしても現在カイトとティナの意向により彼の近辺の大型魔導鎧は全て魔導機に切り替えられているからだ。ソラが触れられる機会がなかったのである。
『大型魔導鎧で今までなんでこんな下半身キャタピラの奴が出来なかったか、お前わかるか?』
「……いや、わかんないっす」
『だろうな……その理由のデカいのに、コクピットが狭いってのがあるんだよ。とどのつまり、そうやって座れないってわけだな。まぁ、両手足にコード繋げて動かすからそれでも良いっちゃ良いんだが』
「はぁ……」
そういやアルからコクピットがかなり広くなったって聞いた事あったっけ。ソラはオペレータの言葉にそんな事を思い出す。
『って、まぁ、そりゃ良いか。とりあえずそんな感じでペダルを置いたり出来なかったわけ。で、同じくコード繋げる関係で、どうやってもキャタピラを動かせなかったんだよ』
「なるほど……で、ペダル式にしようと」
『そうだ……で、更に上半身の動きに連動させたりと考えると、魔導機のコクピットに類する物を使った方が一番楽になるってなったんだよ』
「へー……」
やはり色々と考えてこの形になってきたんだな。ソラは感心した様に一つ唸る。そうして少しの雑談に近い話を挟んだ後、彼へとオペレータが告げる。
『っと……そいつはどうでも良いか。とりあえずこれからしてもらうのは、射撃訓練だキャタピラの側面に武装を架橋出来る様にしてある。ちょっと待ってろ』
「了解っす」
オペレータの言葉に応じて、ソラは左右のキャタピラ側面に二つの魔銃が取り付けられるのを座りながら待つ。そうして待っていると、すぐに作業は終了した。
『良し……まぁ、魔銃について説明はしなくて良いだろ。だろ?』
「そっすね……ただどんなのかだけは教えておいて欲しいっすね」
『右は普通のライフル。左は重機関銃だ。で、両肩のはバズーカ』
装備からして近接戦闘は考慮されていないらしい。ソラは武装を聞いてそう判断する。というわけで、架橋された二つの簡易量産型用の魔銃二つを確認する。
「……どっちも触ってみた感触としては魔導機と変わりはほとんど無いっすね」
『良し……それじゃあ、とりあえず的出すから、その場から狙撃してみてくれ。それが終わったら動きながらの射撃とか色々としてもらうから、あんま魔力は使いすぎるなよ』
「うっす」
一応回復薬は用意してくれているが、攻撃はほぼ全て搭乗者の魔力で補われる事になっている。なので使いすぎると自分が辛いのは魔導機も簡易量産型も変わらなかった。というわけで、ソラはその後暫くの間簡易量産型のテストに付き合う事になるのだった。
さてソラが簡易量産型の各種試験に付き合う事になって半日ほど。色々とテストに付き合ったソラであったが、一通り確認したい点は見れたらしくこれで完了という指示が出た事もあり簡易量産型から降りていた。
「ふぅ……」
「おう、おつかれ……とりあえずテストはこれで良いってよ。ああ、後姐さんから終わったら工廠の方に顔出せって」
「姐さん……ああ、了解っす」
基本的に<<無冠の部隊>>で単に姐さんと呼ばれる場合、ティナを指す事がほとんどだ。そして今回の簡易量産型は魔導機の開発を行うのが彼女である関係で彼女を中心として開発されているものだったので、顔を出せという事なのだろう。というわけで、データの解析などは研究班の面々に任せ、ソラは回復薬片手に基地の中を歩いて工廠のある一角へと移動する。
「えっと……工廠でティナちゃんだと……」
確かあっちだったな。ソラは工廠の中心にある設計や開発が行われている一角を目指して歩いて行く。そうして軍の兵士に挨拶してそのまま奥のティナの居る場所まで通してもらった。
「む……おぉ、終わったのか。おつかれじゃったのう」
「あ、おう……ティナちゃんもこっち来てたのか」
「簡易量産型をちゃちゃっと仕上げたいのでのう……まぁ、こんな用途は限定され、性能も落としておるものじゃ。そこまで時間は掛けてられんよ」
そもそもティナの本来の役割は対<<死魔将>>における戦略や戦術の解析、それに対抗する手段の開発だ。その点で見れば一切の役に立たない簡易量産型の開発に割ける時間はかなり限られていたのであった。無論、完全に役に立たないわけではなく街の防衛などには役に立つが、決定的な役割を持てるわけではなかった。
「で、あれ何? 天桜に配備するの?」
「カイトはその想定でおるよ。先にお主も使ったじゃろうが、使い方さえ間違えねばある程度の魔物の群れの蹴撃に対しても一機で有効な手立てとなる。数機置いておくだけでも、十分な役割を果たしてくれるじゃろうて」
「確かに、あれの連射力というか掃討能力はかなり高そうだったもんな……そのかわり近接能力からっきしだけど」
やはりソラにとって使っている上で一番気になったのは近接戦闘能力が皆無に等しかった点だった。まぁ、それを想定していないと言ってしまえばそれまでだが、それでも何か手を考えた方が良いのではと思うほどだったようだ。そしてこれはティナも思っているとことではあった。
「まぁ……わからぬではないがのう。が、あれ以上装甲を貼っ付ける事もできん。そしてそのために弾幕を張れる様にしたんじゃ。数で弾幕を張って敵を近付けん様にして時間を稼ぐ。それが基本的な戦術じゃ」
「あー……数をね……」
確かにあれが数十機も並んで一斉砲撃を行えば、相当な弾幕になるだろう。ソラはそんな光景を幻視する。これに、ティナは頷いた。
「うむ。それにそのために極限までコストを落としたんじゃ。簡易量産型、というのは伊達ではないからのう」
「コスト面だとどれぐらい変わるんだ?」
「ゼロが違う領域で変わる」
「マジか」
もともと魔導機一機の値段が非常に高価である事はソラも知っていた。それの詳細こそ知らないが、高い事に疑いはない。その桁が変わるのであれば、多くの貴族達にも手が届きそうだった。
「ま、それだけ過剰な性能を魔導機が有しているという事ではあるが……どうにせよゼロが変わればある程度数を用立てる事が出来る様になる。簡易量産型、という利点を活かして数で攻める考え方じゃ」
「そっちの方が良いのは良いか……」
基本この簡易量産型を使うのは専門の教育を受けていない兵士達だ。持久力などを筆頭に大型魔導鎧や魔導機を扱えるほどの地力はない。そしてそれが多数派だ。その利点を活かすだけであった。
「それは良いわ。とりあえず……何か思う点やこうした方が良いのに、という点は見つかったか?」
「あ、そうだなぁ……」
ティナの問いかけにソラは何かあったっけ、という様子で少し考える。そうして暫くの後に、彼はティナへと告げた。
「あ、そうだ。バックなんだけど、今って座席横のレバーを引いて制御してるだろ? あれ、ペダルを引く事でなんとか出来ないか?」
「うん……? まぁ、可能は可能じゃが」
「ならそっちのが良いと思う。もし両手で魔銃を持ってた時、座席のレバーをひこうとして連動しちまって、武器を取り落としたりしちまわないかなって」
「ふむ……確かにそれはあり得る可能性かのう……」
というより、武器を取り落とす事を考えればそちらの方が良いかもしれない。ソラの意見にティナはそう判断を下す。
「……うむ。これについては考えて良いじゃろう。他には何かあったか?」
「えっと……」
後何か思う所とかで報告してない点って無いかな。ティナの再度の問いかけにソラは再度頭を悩ませる。そうして、この日は一日簡易量産型の改良案についての話し合いにソラは参加する事になるのだった。
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