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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2588話 リーダーのお仕事 ――集合――

 合同軍事演習の実施に向けて忙しなく動いていたカイト。そんな彼は冒険部の動きとして最後となる演習を兼ねた小規模な演習を企画し、それを特段問題もなく終わらせる。

 が、その中で受けたティナからの指摘により彼は冒険部の業務を一部ソラ達に任せる事を企図(きと)し、更には合同軍事演習の現場の視察や最終チェックを行う必要性などから皇都エンテシアへと向かう事にして、皇都の自宅ことフロイライン邸に入っていた。そこで自身に先駆け皇都に来ていたユリィ、アウラの両名と合流すると空いた時間でしばしのお茶会を楽しんでいた。


「そか……じゃあ、そっちも特に何か急ぐ事も無いか」

「うん。一応、軍学科とか冒険者志望の生徒とかには参加する様に伝えてる。結構、参加率高いみたい」

「今回の演習は皇国史上類を見ない規模の演習だからなぁ……」


 カイトは今回の演習が様々な面で有益なものなのだろう、と考えながらユリィの報告に納得する。そんな彼に、ユリィが告げた。


「しょうがないよ。皇国建国当初は近隣諸国からの圧力があったから行えるわけなかったし、百年経過した頃はもう平和だったから行う意味もないし……で、建国から三百年後ぐらいまではおんなじ状態……そこから連盟大戦。それが終わったら終わったで教国と揉めだして、ここまで大規模なのやっちゃうと教国を刺激しかねない、って話だし」

「ご説明どーも……ま、その教国も今回は視察として人を派遣しているし、教国側もここまでじゃないが大きめの演習やる、って話だしなぁ……」

「噂だとラグナ連邦もやるって」


 カイトの言葉に対して、アウラが口を挟む。これに、カイトが問いかけた。


「どこ情報だ?」

「ハイゼンベルグのお爺ちゃん。外交ルートでちらっと聞いたって」

「あの爺の耳に入るってことは……ラグナ連邦も結構本気でデカい演習やる様子か」


 どうやら皇国の動きに触発されてか、各国軍事演習を行う事にしていたようだ。通常なら先の通り示威行動になってしまいかねないので止められていたが、現状だと逆に大規模なものをしておかないと有事の際に対応が出来なくなる。各国これ幸いと同じ事を考えていたとて不思議はなかった。


「ん……今回の演習が終わって落ち着いたら誰か人を派遣するかも、って。第一案はブランシェット家になってるから関係は無いだろうが、意見は聞くかもって」

「そうか……まぁ、それについては任せるか」


 基本的に五公爵で最も軍事に長けていて、軍事作戦において各国との共同においても主導する事が多いのはブランシェット家だ。なので今回も武官を派遣するならブランシェット家から、となっていたのである。これについてはカイトからしても自然過ぎる流れなので、特に疑問はなかった。


「ふぅ……まぁ、ウチはウチがやる事をやるだけだし、演習をやって有事に備えてくれるのはこちらとしても有り難い。実戦なんて演習通りに行かない事が多いが……それでも、多少準備が出来ているのと無準備で事に臨むのとではわけが違う」

「だねー……にしてもこっちでこうやって飲むの久しぶりだね」

「あはは。さっきオレ達もそう話してたとこ」


 やはりカイト達にとってフロイライン家はもうひとつの実家に等しい。なのでこちらでお茶を飲んでいると何か懐かしいものがこみ上げてくるのだろう。ユリィの言葉にカイトはわずかに目を細めて笑っていた。そんな彼を横目に、ユリィがテーブルから少し離れたところにある開けた場所を見る。


「そっか……昔は、あそこでカイトが剣の修行してたっけ」

「結局重すぎて振るえなかった」

「しゃーねーだろ。あの当時はまだガキだったんだから」


 あの当時。言うまでもなくカイトがこちらに飛ばされて半年の頃の事だ。この時代当初はカイトは一般的な日本の中学生と大差がない。故に金属の塊である両手剣なぞ振るえるわけもなく、重すぎて取り落とす。重量に足を取られ転けるなど様々な醜態を晒していたのであった。と、いうわけで当時の事を言われて拗ねたカイトであるが、それもまた良い思い出と紅茶を一口口にして飲み下す。


「……ま、それもまた良い思い出ということで」

「ん」

「だね」


 忙しい日々を送るわけであるが、たまにはこういうのんびりとした時間も良いだろう。三人はそう思う。と、そんな話をしていたからだろう。こちらの邸宅の管理をしてくれているメイドの一人がやってきた。


「皆様、こちらにお揃いでしたか」

「ん……どうしたの?」

「イリア様からご連絡です。いかがされますか?」


 このメイドはカイトが三百年前当時から知る古株だ。なのでカイトが居ても何ら不思議に思わなかったし、先代のリデル公が連絡を取ってきても不思議に思っていなかった。彼女もカイトが来た当時によくフロイライン邸に来ていた一人だったからだ。というわけで、先に口を開いた流れでそのままアウラが問いかける。


「何か用?」

「いつも通りかと」

「そう……カイト。どうする?」


 カイトが来ているのだ。なのでアウラとしては彼に問いかけるのが筋と思ったようだが、これにカイトが笑う。


「フロイライン家で集まってるから、お前が決めるべきじゃないのか?」

「じゃあ取る」

「あはは……」


 ここらややこしい話であるのだが、カイトはマクダウェル家の当主ではあるがフロイライン家の当主はアウラだ。それは最終的にカイトとアウラが結婚したとしても変わらない。

 というわけで、フロイライン家に連絡があったのであればアウラが決めるべきこととカイトは判断したのであった。そうして彼女の判断により応ずる事が決まったのであるが、結局フロイライン邸にもティナの手が加わっており、この庭園のテーブルにも通信機が設けられている。単にそちらを起動させるだけであった。


「ん」

『相変わらず呑気そうね』

「そっちも相変わらず忙しそう」

『忙しそう、じゃなくて忙しいわ。商家だもの……あら、ユリィ。戻ってたの。そっちは仕事終わり?』

「終わったっちゃ終わったかなー。また明日も大学行かないとだけど」

『ま、そっちも忙しいわよね』


 基本的に先代のイリアと当代のリデル公イリスであればフロイライン家の三人にとっては先代の方が懇意にしていた。なのでアウラとユリィも彼女に対しては貴族として、よりも年の近い友人としてと話す事が多かった。そんな彼女にアウラがカメラの関係で死角なっていたカイトについて言及している。


「あ、後カイトももう来てる」

『あ、あんた来てたの。おつかれ』

「おい……ぞんざい過ぎねぇか」

『何年の付き合いよ。仕事でもなけりゃぞんざいにもなるわよ』

「いやまぁ、そうなんだけどさ」


 完全に貴族と貴族のやり取りではない二人であるが、前に当人達が言っていた様にこちらの方がやりやすかったようだ。久方ぶりの再会を終わらせた後はこっちの方が気楽で良いらしく、イリアが引退しているのを良い事に二人共応対が完全に昔に戻っていた。


「ま、良いわ。で?」

『ああ、アウラに頼まれてた商品が手に入ったからどうする、ってだけ』

「お茶してるから来る?」

『あら……お邪魔しようかしら』

「忙しいんじゃないんかい……」


 さっき忙しいとのたまった一分後にはお茶会に興味を示すのだ。カイトが思わずツッコミを入れたのも無理はなかった。なお、実際忙しいのはカイトも知っているが、それを言えばカイト達とて忙しいがお茶会をやっている。空き時間が一つもないというわけではなかった。というわけで、イリアが半眼で問いかける。


『何よ。文句あんの。あんたの家だけどあんたの家じゃないでしょ』

「ねぇよ……あ、いや、ちょい待った……ああ、来てくれた方がオレも有り難いわ」

『え?』

「いや、昼過ぎにハイゼンベルグの爺が来る事になっててな。さっきまで日本との交渉の話してたんだが……昼から今度は合同軍事演習の絡みで話をする事になっててな」

『ああ、なるほど……』


 イリアが皇都に入っている理由はリデル領で娘のリデル公イリスが合同軍事演習の支度をしているため、皇都でのリデル家としての応対を彼女が代行しているからだ。

 そういう事なので今回の合同軍事演習において最も重要な三家はマクダウェル家、ハイゼンベルグ家、リデル家の三つだ。もともと忙しいので代理で集まって話すか、と考えていたところなのでイリアの時間さえ合わせられればこのまま流れで三家であつまれそうだったのである。というわけで、イリアも即座に了承を示す。


『わかった。それならこっちも時間合わせるわ』

「どうせならお昼食べに来る?」

『あ、良いわね。久しぶりにそっちで食べるのも』

「おい」

「私当主」


 カイトのツッコミにアウラはここぞとばかりに当主の権限を使おうとする。まぁ、確かに彼女が良いと言えば良いのだろう。というわけでこの一時間後にイリアも来る事になり、だんだんとかつてカイトが来た当時にフロイライン邸に来ていた者がフロイライン邸の庭に集まってくる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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