第2585話 リーダーのお仕事 ――支度――
皇国主導で行われる合同軍事演習に向けた最終調整を行ったカイト率いる冒険部一同。その中でソラはカルサイトから自身の弱みを指摘されると、その是正を行うべくカイトへと相談を持ちかける。
そこでいくつかの提案を元にして魔術をサブ武器として使う事を決めた彼は、カイトの指示により魔導書を探す事になる。というわけで、彼が魔導書の入手に向けて動き出して暫く。彼はトリンに現状の報告やらを含めミーティングを行っていた。
「てわけで……結局ランクAに上がらないと駄目になっちまった」
「あはは。だろうね……冒険者ならランクA以上限定っていうオークション、本当に多いから」
「そうなのか?」
そもそも今までの所、ソラはオークションというものに一切の縁がない状態だった。なので冒険者がオークションに参加するならどうなのか、というのは調べた事もなく、トリンさえ知っている様子に驚きを隠せない様子だった。
「うん……僕らの場合はお爺ちゃんの名前があったから逆に招かれたりする事もあったけどね」
「お師匠さんが? なんで?」
「……一応、僕ら考古学者だったんだけど。考古学的は見地から、って所かな。オークションだと前文明の遺産とかが出る事、少なくないからね。それに、あの賢者ブロンザイトが絶賛した、とかって良い箔付けと思わない?」
「あ、なるほど……」
ブロンザイトが考古学者であった事を完全に忘れていた様子のソラに、トリンが改めて自分達の本来の立場を説明する。そしてその上で語られた理由にソラも納得出来たようだ。というわけで、一通りの現状のすり合わせと今後の予定などをすり合わせた後。ソラはため息と共に呟いた。
「はぁ……てかなんでこんな事やらされてるんだろ。いっそカイトが手伝ってくれた方がよっぽど早いと思うんだけど……いや、まぁ、あいつも時間無いんだろうけどさ」
なにせギルド内で一番忙しいのはカイトだ、というのがギルド内での共通認識であるぐらいだ。ギルドマスターが対外的な仕事を行うギルドでギルドマスターが忙しいギルドは珍しくはないらしいのだが、それでも群を抜いて忙しいと言われていた。なのでソラも自分で探せ、と言ったカイトには仕方がないと諦めて自分でなんとかしていた。と、そんな彼のつぶやきにトリンが反応した。
「ああ、それは多分君が自分の頭で考える様にするため、かな」
「自分の頭で?」
「あ、いや、ごめん……これは少し正確じゃないかな。正確には自分の持ち得る手札で、って所かな」
「お、おぉ……」
何か余計にわからなくなってしまった。トリンの返答にソラは逆に困惑を深める。これにトリンが慌てて補足する。
「ああ、ごめん。とどのつまり僕やソーラさん達を頼って答えを見付けるって所かな。別にカイトさんは自分で答えを見付ける完璧超人になれ、って言っているわけじゃないからね。上手く他人を使うのも、指導者の役割だよ」
「なるほど……」
「その点、君は僕やソーラさんが居るから相談には事欠かない。その点はギルドにおける君の強みと言えるかもね」
「そうなのか?」
いきなりトリン達が居る事が自分の強みと言われたソラが少し驚いた様に問いかける。これに、トリンははっきりと頷いた。
「うん……ここら、瞬さんの強みはカイトさんにすぐにその場で聞ける事。君の強みは自分で考えて行動して、それでもわからない場合に聞く事っていう明確な違いがある。勿論、瞬さんも考えた上でわからないから聞いているけどね。そこは考えなしに聞いているわけじゃない、って所はわかっておかないとね」
「そりゃわかってるよ」
まるであたかも馬鹿の様に言っている様に聞こえかねなかったが故の補足に対して、ソラも一つ笑う。というわけで、トリンがソラと瞬の差を口にする。
「だよね……で、君の場合カイトさんにその場で聞かない理由の一つには僕が居る事もあるんだろうね。少し考えてもわからないなら、まず僕に聞いてその上で考える。そこでやっぱりどうしても腑に落ちないならそこでカイトさんに聞くって流れ」
「だな」
この流れは変えるつもりもないし、冒険部内でもソラが前線で動けない場合はトリンに指示を仰ぐ様に出来ている。今更といえば今更の指摘だった。
「このどちらが良いか、っていう是非は置いておくけど……聞ける環境が整っているからね。それを有効に使う訓練の一環って所だと思うよ」
「へー……」
「まぁ……多分そこらは追々カイトさん、瞬さんにもやらせるつもりだと思うよ。彼の方の今の弱みってそこだから」
「そ、そうなのか?」
「うん。天桜の人員だけだとどうしても足りない面があるからね。何か考えてると思うよ」
「……」
多分カイトなら考えているだろうし、そうなると今度は先輩側に無茶振りが行きそうだなぁ。ソラはどこか他人事のようにそう思う。まぁ、実際他人事なので若干どうでも良さげではあった。とはいえ、今はそちらより目先の自分の事だ。故にソラはすぐに気を取り直した。
「まぁ、そりゃ良いかな。とりあえずそれじゃ、今回のオークションの流れって……」
「多分カイトさんが見繕ってる流れそのままだと思うよ。そこらがわからない人じゃないだろうから」
「だよなぁ……」
あのカイトが魔導書を手に入れるならどうするのが一番良いかわかっていないわけがない。ソラはトリンの指摘に完全に彼の手のひらの上で踊らされているだけと理解する。
「はぁ……まぁ、良いや。それなら何かあったら手助け貰えそうだし」
「そうだね。今はまっすぐ進むだけで良いと思う」
「おし……じゃあ、とりあえずソーラさんのとこ行ってくる。ランクAに上る上での話聞いておきたいし」
「うん、わかった。じゃあ、僕は昇格に必要な書類とかソーニャさんと用意しておくよ」
「助かる」
書類集めなどはトリン達でも対応出来るが、実際の昇格を受けるのはソラだ。なのでこの割り振りになったようだ。というわけで、ソラはギルドホームを後にしてソーラ達の宿泊する宿屋へと向かう事にするのだった。
さてソラが昇格に向けて動き出した一方その頃。そう仕向けた当の本人であるカイトはというと、自身が留守にする暫くの間で問題の起きない様に。
もしくは起きた場合に迅速なリカバリが出来る様に手配を行っている最中だった。とはいえ、そのためにもまずは瞬とソラが何をしようと考えているのか、聞く必要があった。
「と、いう流れにしようと思っているんだが……これはソラも同意しているし、二人で考えたプランだ」
「ふむ……わかった。二人がそれで良いなら、それで良いだろう。プランにも特段の穴があるわけでもないし、そこまで時間が掛かるわけでもない……桜、問題ありそうか?」
「いえ……無いと思います。そこまで遠くないのなら即応部隊も出せるでしょうし……こちらとしてはティナちゃんがフォローについてくれるのなら問題無いでしょうし」
今回、冒険部の新規加入者の是非に関してソラと瞬の二人が共同して行う様にと言われている。なので二人は一泊二日の遠征を行って野営地の設営や共同生活に支障がある様な問題点が無いか確認したく思っているらしく、その間はどうしても抜けねばならないのだ。なので唯一残るサブマスターである桜の許可も取っておこう、と判断したらしかった。
「そうだな……後はシャルも残ってくれる事になっているし、コナカナコンビも残る事になっている。戦力面での問題はないだろう」
「シャルちゃんはなんていうか……」
「なんで私がわざわざ下僕についていかないといけないのよ」
「オレ様悲しい……」
「いや、普通に考えて逆でしょう」
冗談混じりというか冗談しかないカイトの様子に、シャルロットが呆れ返る。確かに女神が出るから神使も出る、というのは普通だろう。その逆はたしかに、普通とは言い難かった。というわけで、少しのじゃれ合いを交わしたカイトは満足したのか改めて瞬へと顔を向ける。
「あはは。だわな……っと。それで遠征か。桜に問題無いならオレにも問題は無い。ただ、常に連絡が取れる様にはしておくこと」
「それはわかっている。ソラもそこらも含めて見ておきたい、とか言っていたからな」
「そうか……」
なぜソラがそんな事を言ったのか。その意図も理解している様子の瞬にカイトは一つ頷いた。というわけで、彼は一つ試しに問いかける。
「それはなぜか、まで共有しているか?」
「ああ……もし自分が知らない出来事に遭遇した時、きちんと学ぶ事が出来るか。そこを見ておく事も重要なんじゃないか、だ」
「そういう事だ。素直に聞ける奴は伸びるし、聞けない奴は死ぬ。人の忠告を聞かない奴ほど、他人まで危険に晒す。今後ギルドで動いてもらう以上、そこは何より重要だ」
瞬の理解にカイトは一つ頷いた。これがわかっているのなら、カイトも異論はなかった。そして遠方にしているのも、それが理由だった。というわけで、彼は更に話を進める。
「それで、移動はどうするつもりなんだ? 流石に飛空艇は使えないぞ?」
「わかっている。なんで一台竜車を用意する。竜騎士の奴らにも話は通している」
「ふむ……」
確かに竜がいるのなら、ある程度安全も担保出来そうだな。カイトは瞬達の方針に一つ頷く。これなら費用も最低限に抑えつつ、竜騎士達の訓練も兼ねられそうではあっただろう。
「わかった。それならそれで良い。必要な物資についてはまた別に書類を上げておいてくれ」
「わかった。用意は?」
「椿。そちらは任せる。先輩達から書類が上がったら、手配だけしておいてやってくれ」
「かしこまりました」
現状の瞬達の状況は計画書をカイトに提出し、その裁可をもらう段階だ。予算も概算では出ていたが、実際に見積もりなどはこれからになっていた。
そしてそれが実行段階になるとカイトはギルドホームに居ないため、手配を椿にまかせていたのである。まぁ、居ても椿に頼んでいたのでさほど流れは変わらない。
「良し……ひとまずこれで良いだろう。その上で先輩は飛空術をある程度形にする事を主眼として動いておくこと……で良いのか?」
「ああ。暫くは適度に軽く依頼をこなしつつ、とするつもりだ」
「そうか……まぁ、オレも急ぎの依頼以外はそうするつもりだから、それで良いだろう」
もうすでに合同軍事演習も近い。最終調整も終えている今、そこまで大きく動くつもりは誰にもなかった。大きく動いているのはソラぐらいなものだろう。というわけで、カイトは瞬とソラの計画について了承を下す事として、その後も暫くは自身が不在の間の手配を行う事にするのだった。
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