第2583話 様々な強さ ――選択――
合同軍事演習に向けた最終調整の中でソラがカルサイトから受けた手札の少なさへの指摘。それを受け、彼は手札を増やすべくカイトへと相談を行っていたわけであるが、そこで様々な助言を受けていくつかの選択肢を最終候補として残す事になっていた。
「なるほどな……魔武闘……いや、魔舞闘? なのか? そういうのもあるのか」
「先輩も聞いた事なかったんっすか」
「ああ……コーチなら知っているかもしれんが……」
「あー……フリンの奴は多分知らんぞ。オレは話してないし、姉貴もそこらひけらかす事は無いからな」
最終的にどうなったのか、という瞬の問いかけを受けたソラがそれに答えていた所に、上体を反らして書類を読んでいたカイトが若干乱雑に口を挟む。これに瞬は意外そうに驚きを露わにする。
「そうなのか……そんな隠していたのに明かして良いのか?」
「隠してたんじゃなくて、未完成。だから使ってないだけ……まぁ、体術と武術の組み合わせだから何を以って完成とするか、ってのが無いし、魔導書との組み合わせとかを考え始めたから若干ややこしい話にはなってきてたからな」
「魔導書……そうだ。魔導書って選択肢無い?」
「なんでオレに聞くんだよ」
ソラの問いかけにカイトは思わず吹き出した様に笑う。これにソラが問いかける。
「いや、魔導書の間合いって分かんないし……ギルドで魔導書持ってる知り合いってお前かティナちゃんぐらいだし……」
「あー……まぁ、たしかに灯里さんが持ってるって言えば持ってるが……」
あれは戦闘向きの魔導書とは言い難いしなぁ。カイトはソラの周辺に魔術師は居るが同時に魔導書を持つ魔術師がほとんど居ない事を理解する。いや、持つには持っている者は何人か居るのであるが、戦闘をサポート出来る魔導書を持つ者が居ないのだ。と、そんな二人の会話に瞬が疑問を呈する。
「そういえば……何がどう違うんだ? 魔術師達が持つ魔導書にも攻撃用の魔術は多く記されているよな? なぜ彼らは近接戦闘をしないんだ? いや、体術の向き不向きは抜きにしてだが……」
「ふむ……そこを抜きにして、か。興味深い質問だ」
瞬の問いかけにカイトは少しだけ面白そうな様子で上体を起こしてわずかに真剣な顔を浮かべる。そうして彼が教えてくれた。
「単純に言えば、魔導書の適性か。魔導書にも性質があってな。この性質はどういう魔術が得意、とかじゃなくてどういう戦闘が得意か、とかの戦士としての適性だな」
「……適性……どんなのがあるんだ?」
「そうだな。例えば発動速度に優れている魔導書。長距離からの狙撃に優れている魔導書。精密度に長けた魔導書……そういったどういった形での魔術展開に長けているか、という所か。オレ達みたいな近接ゴリゴリに相性が良いのは当然、発動速度に優れた魔導書だ」
確かに。ソラも瞬もカイトの明言に無言で同意する。どうしてもコンマゼロ何秒やそれ以下の刹那での攻防戦を行うのだ。展開に一秒でさえ致命的な遅れとなる事は往々にしてあり得た。それに追従出来る魔導書があるのなら、たしかにこれは選択肢になり得るだろう。というわけで、今度はソラが問いかける。
「お前の持ってる魔導書はそうなのか?」
「ふむ……そうだとも言えるし、そうではないとも言える」
「と、言うと?」
「こいつらの場合はオレとリンクすることによって、オレの反応速度に追従している。後は慣れの問題もあるだろう」
「な、慣れ?」
魔導書という書物に対しての発言とは思えない言葉に、ソラが思わず素っ頓狂な声を上げる。
「魔導書が意思を持つのは今更だろう。なら、慣れも十分に重要な要因だ……だから発動速度を魔導書の検索速度と言う事もあるな。この検索速度が早ければ早いほど、該当の魔術を素早く発動出来る」
「へー……」
そんなものがあるのか。ソラはカイトの言葉に感心する。そんな彼に、カイトは話の軌道修正を行う。
「まぁ、それは良い。話を戻すと、魔術師達は近接戦闘を考えていないからかこの適性が距離や精度に割り振られた魔導書を求める事が多い。必然として、近接戦闘をしなくなる。ま、だから逆に速度重視の魔導書とかを持った奴と戦うと押し負ける事が割りとあるみたいだな」
「そうなのか……それならもし俺が求める場合もそういう発動速度重視にした方が良い?」
「そりゃな……ああ、後は持っておかないでも大丈夫な魔術は習得必須だ。両手塞がるとキツいぞ」
「そりゃそっか」
そもそもソラは盾と片手剣という組み合わせの関係上、すでに両手がふさがっているのだ。片手剣を鞘に収めて、というのは良いかもしれないが戦闘中にいちいち鞘に収める事は難しいだろう。必然、手に持っていなくても使える様にしておきたい所であった。
「んー……」
どうするのが良いだろうか。ソラはここ数日考えていた自分のもう一つの手札について、再度頭を悩ませる。そうして彼は瞬やカイトが書類仕事をしている横で悩み続けていたわけであるが、しばらくして結論を出したらしい。
「よし!」
「……どうした?」
「何だ、急に……」
「あ、ごめん」
唐突に声を上げたのだ。カイトも瞬も目を丸くしていた。幸い執務室には三人だけだったのはソラにとって良かっただろう。
「えっと……とりあえず。カイト」
「あ、あぁ……」
「その魔武闘? 教えてくれ」
「やんの? 教えても良いが……言っておくが、使い勝手は一切保証しないぞ?」
「おう」
嫌そうな顔のカイトであるが、それに対してソラは乗り気だった。というわけで、彼はその理由を語る。
「魔武闘ならまず間合いの不利埋められるのと、魔導書と組み合わせ考えれば魔術も使えるだろ? 元々俺魔術は若干勉強してるし……どうせなら今ある物を使って考えた方が良いかなって」
「ふむ……たしかにそれは一理ありか」
元々ソラはタンク役。前線に出て盾になる事が役割だ。なので魔術に対する防御。自己治癒を促進する魔術など、多方面にはある程度は習得していた。これを活用したいと考えるのは当然の流れだった。
「んー……わかった。まぁ、そう言っても何かするってわけじゃなく戦闘時に魔術を織り交ぜるって考えるだけだ。なんで習得は本当に実戦形式だけになるが、それは良いか?」
「……マジ?」
「当たり前だろ。元々は近接戦闘で魔術を使うための体術……というか戦闘思考? そんなのを開発する流れで組み上げられているものだ。魔術に合わせた体術、という所が強いか」
そうは思っていなかった。そんな様子のソラにカイトは改めて魔武闘の理念を語る。
「型とかは……」
「そもそも魔術に応じて必要となる動きが違うから、型は作れない。千差万別の魔術に対応出来る舞なんてないぞ。だから戦闘中にどの魔術を使える様にするのかっていう取捨選択も必要になる。勿論、それを動きながら出来る様になる精神力なども必要だ」
「……マジか」
自分で言ったは良いが、思った以上に困難だったらしい。ソラはカイトの言っている言葉に筋が通っていた事から、これが事実であると理解した。が、これではカイトも単に難しいだけしか言っていない気がしたらしく、利点も口にする。
「とはいえ……それ故にこその利点もあるんだ。要はこういう動きをするのが最適、ってのがわかっていれば後はそれに近付けるだけである程度の増幅効果は認められる。だから例えば片手剣を使いながら一部だけ適用させる事で増幅させる事も出来る」
「……え、マジ? それ出来たら無茶苦茶有利じゃん」
思った以上に難しいが、同時にこれを習得できればかなりの範囲で応用が出来そうだ。ソラは今度は逆に前のめりになる。
「まぁ、有利は有利だ。あくまで体術だから普通の攻撃に追撃を入れる事も出来るからな」
「あ、なるほど……でも俺が使うならやっぱ魔導書が必要そうだな」
「それはそうしたいなら、か。ま、本当にやりたいなら教えてやるよ」
どうやら最終的にはソラが魔術をある程度修めている事を最終的な判断要素としたようだ。カイトは最終的な承諾を行う。と、そんな彼に瞬が問いかける。
「……だが良いのか? 未完成の物を使うな、とお前よく言っていたが……」
「ああ、正確に言うとこれに完成は無いんだ。いや、それも正確じゃないんだが……」
「どういうことだ?」
「完成形っていうのはその人によって異なる。使う魔術、使う魔導書など……そういった物に合わせて最適化するから、完成ってのはあくまでもオレの完成だ。ティナや姉貴の完成がまだってのもそれ故だな。魔術が発展するとそれに合わせて体術も組み直しになる……結局、魔術師として成長するとやり直しだから、完成しないんだ」
「「あー……」」
それで天才や鬼才が集まっても完成しないのか。そして同時に、ソラへ教えるのを拒まなかったのもそれ故だ。これはあくまでも考え方や体捌きの理念だからだ。というわけで、カイトが告げる。
「まぁ、そういうわけだから基礎は教えるが後は自分で最適解を見つけ出せ」
「実戦ってのもそういうわけか」
「そ。自分の戦いに合わせて組み上げないと意味がないからな。そうして自分の最適解が見つかれば完成、ってわけだ」
習得は難しそうだが、難しく考える必要もなさそうか。ソラはカイトの解説にそう理解する。というわけで、ソラはこれからカイトに体捌きの理念を教わると共に、自分の伝手を使って魔導書を探すk音になるのだった。
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