第2581話 様々な強さ ――助言――
皇国主導で行われる合同軍事演習に向けて、最終調整や支度に忙しい冒険部。その中でも公爵との二足の草鞋を履いているカイトはやはり一際忙しく、公爵としての仕事で急に皇都へ向かう事になっていた。
というわけで、彼からサブ武器の助言と皇都行きを聞いて翌日。ソラは前日のカイトの助言通りオーアにサブ武器の選択について助言を受けに行っていた。
「てな具合なんっすよ……」
「なるほどね……確かに武器選びで鍛冶師に話を聞きに来るってのは珍しい話じゃないね。あんたら冒険者が使い手なら、私ら鍛冶師は作り手。そっから見えるものは違うからね」
ソラからこういう状況でサブ武器を選ぶことになった、と言われたオーアは彼女の言葉通りそれが珍しい事ではなかったのか、すんなり要請に応じてくれていたようだ。というわけで、彼女は改めてソラの現状を口にする。
「えっと……で、総大将曰くあんたの不得意は格闘術と」
「そっすね……鎧を頼みにしてるから、ゼロ距離の素手を軽視しがちって……」
「ま、そうだね。あんたらみたいに重防備に身を包んでる奴はどうしても自分の防備に自信がある。故に防御がおろそかになる事はないが、同時に自信があればこそ多少のダメージなら無視しがちだ。一見すると手数重視の攻撃には無意識的に突っ込んで行きやすい」
これは総大将の言う通りで間違いないよ。オーアは改めてはっきりとカイトの発言が間違っていない事を明言する。そしてこれはソラもあの後何度か自らの動きをイメージしてみて、たしかにそうだろうと納得出来ていた。
「うっす……確かに言われてみりゃ素手相手には結構突っ込んでっちまってるな、とは思います」
「だろうね。ま、これについちゃ悪い話ってわけでもない。そういった手数重視の攻撃に強引に突っ込んでいける事こそ、あんたら重防備の奴の利点だからね。そこでダメージを受けるかも、って気後れしちまったら自分の持ち味を殺しちまう」
しょうがない事だろうし、それが利点である以上は諦めるしかない。オーアはソラの弱点があくまでも長所があるが故に生じているものだと告げる。というわけで、それを告げた彼女はそれならと改めて次の話に焦点を合わせる。
「かといって、当然それをやられてダメージを受けちまったら元も子もない。ってなわけでカルサイトの旦那のサブ武器を持て、ってのはある意味当たり前の話だろう」
「うっす……ってなわけで、何か良いアイデア無いっすかね」
「そうだねぇ……確かに総大将の言う通り、間合いに入られない様にする。間合いに入られたら一度引いて仕切り直せる様にする、ってのは常套手段だ。無理に攻めるより、そっちのが生存率は格段に向上する」
ソラの問いかけにオーアは改めてカイトの助言が間違っていない事を明言。その上で、と話を続けた。
「で、そうなるとやっぱ色々と武器を選ばにゃならんのだけど……うん。どうすっかね。これについちゃ総大将も言ってる通り、色々と触ってみてって感じで一番自分に肌の合う物を探すしかないんだけど……」
その肌にあったものが見付からないから困っているというのだ。オーアはソラの相談内容を思い出し、どうするか考える。
「そうだね。あんたらみたいな重武装の奴が取る内容としちゃ、色々とある。確かに総大将が告げたサブ武器ってのは選択肢の一つで間違いない」
「何かあるんっすか?」
「そりゃ、鍛冶師だからね。色々と相談を受ける事はあるさ」
先にオーアが述べていた通り、カイトはあくまでも使い手で彼女らは作り手だ。故に作り手だからこそ様々な要望を聞く事があり、カイトにはなかった視点を持っている様子だった。
「まずよくあるのが、簡単なのくれって要望だね。武器一つで精一杯というか、面倒くさがり屋とかがよく言う」
「あー……」
自分も可能であればあまり武術に近い形でゼロから習得しないで良い方が助かる。ソラはオーアに寄せられた相談のうち、一番良くあるという要望に心底同意する。が、これにオーアは笑ってツッコミを入れた。
「まー、これについちゃ私らから言わせりゃ無理言うなよ、ってツッコミ入れるけどね」
「え、だめなんっすか?」
「あのね……そりゃまぁ、片手剣とナイフぐらいある程度互換性がありゃ問題無いけどね。あんたこれから槍も使え、って言われた時、使えるって言える様になるまでどんぐらい時間掛かると思ってるのさ」
「あ……」
確かに単に振り回すだけなら、持つだけで良い。だがそれはあくまでも持つだけ。使える、というのとは話が違った。それをオーアの指摘でソラも理解する。
「わかっただろ? 簡単なの、って言われても簡単なのなんて無い。てか簡単、って言ってるのはその武器使ってる奴に対して失礼だ。勿論、自分が作った武器にもね。だから私らは無理言うな、って突っ返す。俺に合ったの教えてくれ、って言われりゃ助言の一つもしてやるけどね」
「す、すんません……」
確かにオーアの言う事は尤もだ。ソラは簡単に使えるのを教えてくれ、と言っている事自体がその武器を主兵装として使う者を侮辱している事を理解して項垂れる。これにオーアは再度笑う。
「あはは……ま、わかったなら良い。何よりその素直に反省するのはあんたの良い所だしね」
「すんません」
「あはは」
ソラの改めての謝罪に、オーアは再度笑う。そうして一つ笑った彼女が、呆れる様に告げた。
「まぁ簡単なの、って意味で互換性のあるナイフとかを提示すると決まってこういうんだ。そんなナイフの間合いぐらいならこいつでなんとかしてみせる、ってな。でも必要なのはそういった互換性が一切無い分野を埋められる武器だ。そうなると、ゼロから習得するぐらいの覚悟はしておかないとな」
「うっす」
オーアの言葉にソラは改めて気合を入れ直し、ゼロからの習得を心がける事にする。というわけで、決意を新たにしたソラへとオーアは話を進める事にした。
「で……そうだね。基本的な手持ち武器はなんだかんだ総大将が案内してるだろ。そっちについては今更私が言うのもね。となると、私が助言してやれるのは鎧に外付けしたりアップデートになるだろうね」
「おー」
「さて……どんなのがあるかな……」
ここからが本題。改めてソラに案内するべきなのはなんだろうか、とオーアはコンソールを使って部屋に備え付けられているモニターに現在開発している武器のリストを表示させる。そうしてその中からソラの用途に合致しないものを省いていくと、かなり選択肢は絞り込めたようだ。
「……んー……ソラ。基本手で持って使うのと、簡単に使える様になるの。どっちが良い?」
「え? さっき簡単なの無いって話してませんでした?」
「そりゃ、武器としての簡単なのは無いって話。道具に頼るなら色々と手はあるさ……勿論、所詮道具だから威力も精度もお察し。相手によっちゃ牽制にならない可能性もあるっていうデメリット付きだけどね。すぐに使えるっていう利点はある」
「なるほど……」
時間を掛けて自分で技として身に付ければその分どんな相手にでも使える可能性を有するし、道具に頼るなら簡単に使えるし即効性もあるが高ランクの冒険者を相手にするなら役に立たない可能性は高い。どちらも一長一短だった。
「んー……どっちも欲しいっすね」
「お……言うね。実はそれが正解だったりする。その場しのぎは道具に頼って、道具に頼らないで良くなったら自分の技でってのが実は正解なんだ」
「へー……」
ソラとしては考えて出した結論であったが、どうやらこれが正解だったらしい。少し感心した様なオーアの言葉にソラは少しだけ照れくさそうに頷いていた。
「で、その上で言えば道具の面で言えばあんたの場合は左手の盾と右手の籠手のアップデートかな……ソラ。こっちで用意しておいてやるから、あんたは一度鎧とってきな。あ、後ついでに総大将も呼んできてくれ。総大将がテストやってたり、総大将が原案だったりするのがあるから居た方が早い」
「あ、うっす」
道具に関してはどうやら鎧のアップデートで対応出来そうらしい。というわけで、ソラはオーアの指示に従って自室に鎧を取りに行く事にするのだった。
さてオーアの指示に従って冒険部のギルドホームに鎧を取りに行ったソラ。彼は彼女の指示に従って鎧を取りに行くと共に、数日はソラ達の準備のサポートに費やす事にしていたカイトに一緒に来てもらっていた。
「おーう。来たぞー」
「おーう。来たね。事情はソラから聞いた。サブ武器探させてるんだって?」
「ああ……んで、籠手と盾のアップデートだって?」
「そうだね……ソラ。こいつだ」
カイトとのやり取りもそこそこに、オーアは机に置いていた籠手と盾をソラへと提示する。盾のデザインや形状についてはほぼほぼ変わらなかったのだが、籠手については手の甲の部分が若干肥大化している様な印象があった。
「……盾……はあんま変わった様子ないんっすけど。こっちの籠手の方はなんかこの部分大きくなってないっすか?」
「ん、そうだね……まぁ、とりあえずサイズとかは合わせてないけど一回嵌めてみ。使い方はそこからだ」
「はぁ……」
どうにせよ助言を貰っている立場なのだ。ソラはオーアの指示に素直に従う事にして、鎧の右手の籠手を外してオーアが新造したという籠手を装着する。
「着けてみた感覚は……さほど変わらないっすね」
「そりゃ、つけ心地の面はね……で、使い方だが……そうだね。実戦想定でやるか。ソラ。予備の剣で良いから手に持って、腕を前に突き出して手をだらんと垂らす様にしな」
「はぁ……っと!?」
オーアの指示にソラが従うと同時に、籠手の部分が更に盛り上がりわずかにだが銃口を覗かせる。
「よし。展開に問題はないね……そいつは見てわかる通り、三門の魔銃による魔弾の速射だ。威力はお察しだね」
「へー……確かにこいつなら意表を突く事も出来ますし、上手くやれば単体への牽制にも集団への足止めにも使えそうっすね」
「そうだね……ま、そいつについちゃ良いだろう。で、盾……盾も今あるの外して新しいの装着しな」
「うっす」
どうやら見た目はほとんど同じなだけで、色々と変更点はあるみたいだ。ソラは今の一幕でそれを理解して、今度は左手の盾のみを取り外して付け替える。それを見て、オーアが告げた。
「よし……大将。こいつ何かはわかるな?」
「ああ……あれだろ? 盾に魔銃と同じ機能もたせたの」
「そ……まぁ、魔銃ってよりも魔導砲の方が強いかもだけどね」
どうやらこちらの盾がカイトが意見を出しただかテスターをしたものらしい。カイトの返答に頷いたオーアは付け替えが終わったソラを見る。
「そいつは右手の連射特化に対して、一発の威力重視の一撃を放つ盾だ」
「……銃口とかどこにあるんっすか?」
「盾の持ち手にあるスイッチを押し込んでみろ。誤操作防止スイッチもあるから、押し間違いにも対応してる」
「……これっすか」
オーアの指示に従って、ソラは盾の持ち手に新設されていたスイッチを押し込む。すると、まるで左手をグローブやナックルガードの様に覆う様な形でカバーが現れた。
「っと! なんすか、これ!」
「銃口……そいつを向けて撃つって感じだね。威力重視の左。連射力の右……近づかれた牽制は右手でやって、決め手の右手で大ダメージってわけさ」
「はー……」
左手をすっぽり覆う様な装置に向けて、ソラは一つ感心した様に頷く。銃口を覗き込まない様にして左手を見てみると、少し巨大な銃口が左手に装着されている様な形だった。
「ま、他にも色々とあるから、一度どれが良いか確認しながら試してみな。大将、私が居ない時とかは説明任せた。基本こんなのばっかだから、大将にまかせて問題ないだろ?」
「あいよ……ま、元々こっちが促した側だ。素直に協力するよ」
「おう」
「悪い」
オーアとソラはそれぞれの形でカイトへと感謝を口にする。そうして、ここからはカイトも加わってソラのサブ武器選びが続く事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




