第2580話 様々な強さ ――指示――
皇国主導で行われる合同軍事演習に参加するべく、最終調整として小規模な遠征に出ていたカイト率いる冒険部。そんな彼らは遠征を終えてマクスウェルへと帰還したわけであるが、帰還した翌日。
カイトは合同軍事演習の調整で皇都行きの調整を行いながら、遠征で見えた修正点の是正を行いたいというソラの要望を受けて彼のサブ武器選びに助力していた。
「まぁ……槍については先輩に聞くのが良いだろうが。間合いとしては近距離に近いから、あまり距離を取らせるには使わないかな」
「そうだな……確かに距離を取らせる事には使えなくもないが、あまりやらないな」
やはりサブ武器だ。ソラが重要視しているのは取り回しの良さで、槍も選択肢には入っていた。が、間合いの問題から瞬もおすすめはしていなかった。というわけで色々と武器を見て回ったわけであるが、結論としてソラはこう口にする。
「んー……なんってか……どれもいまいちぱっとしないっていうか……なんか決めかねるっていうか……」
「まぁ……そうだろうな。実際の所どれが良いか、なんて即決できる事のが少ない」
ソラの結論にカイトは仕方がない事だろう、と口にする。苦手な間合いを埋められる、もしくは対応できる武器を、というわけで色々と紹介しはしているが、こういうのは使ってみないと何が良いかはわからない事が多い。ほとんど触ってもいない現状では決めかねるのは当然だった。
「どうすりゃ良いんだろ……なんかありゃ良いんだけど……」
「そうだなぁ……まぁ、今この場で決める必要は無いから、一度色々と話聞いてみて、触ってみて決めるのも一つ手だろう。実際、こればっかりは触ってみたりして自分の肌に合う物を見付けるしかないからな。カルサさんが鞭を見つけたのは完全に偶然だし、それが偶々肌に合ったってだけだ。この場で探そうったって難しいのは無理もない」
「そうかな……」
カイトの助言にソラは若干申し訳無さを感じながらも、そんなものなのかもしれないと自らを納得させる様に口にする。そんな彼の様子を見て、カイトは改めて頷いた。
「ああ……それに今は鎧も着ていない。触るにしても実戦を想定してみて、という風にしてしっかり考えて良いだろう。命を預けるんだ。安易な選択はしない方が良い」
「そか……悪い。わざわざ用意してもらったのに」
「良いさ。少なくともこれだけの選択肢がある、ってわかればその分だけ選択肢は増やせるからな……そうだな。鎧との相性などもあるから、オーアとかに話を聞くのも手だろう。後はお前に任せる。何か武器が用意してほしければ、オレやオーアに言うと良い」
「おう、サンキュ」
確かにオーアさんに聞くのは手かも。ソラは鎧の事で頻繁に助言を受けているオーアにも話を聞く事を心に決め、カイトに一つ礼を言う。というわけでこの話はこれで終わりとなり、カイトは別の話を口にした。
「おう……ああ、そうだ。そういえば急な話で悪いんだが、ソラも先輩も」
「俺もか?」
「ああ……悪いんだが、ちょっと皇都に行く事になってな。合同軍事演習が直近に迫ったから、一度二大公五公爵で話しておこう、って話になってな。それに出にゃならん事になった……他にもハイゼンベルグの爺から日本との交渉とかで話聞きたい、って言われててな。ギルドマスターとして行く形を取るが」
日本関連で日本出身のギルドマスターがハイゼンベルグ公ジェイクから呼ばれる事があるのは、特段不思議のない事だろう。皇国としてもカイトを呼び出す際には良い理由付けと活用していた。
というわけで、今回の渡航もこれを表向きの理由にする事になったようだ。そして合同軍事演習が直近に迫っている事は二人としてもわかっていたので、これもまた直近に迫ったが故なのだろうと特段疑問に思わなかった。
「そうか……もう近いからな。仕方がない事なんだろう」
「そっすね……日程的にはどれぐらいなんだ?」
「そうだな……はっきりとはわからんがおそらく戻るのは本当にギリギリか、現地で合流になるだろう」
「長いな……何かあったのか?」
カイトの予定を聞いて、瞬が少し驚いた様な様子で問いかける。これにカイトは首を振る。
「そういうわけじゃないが……一応はこれでも今回の合同軍事演習を主導している立場だからな。爺と一緒に演習を行うエンテシア砦に視察に向かう必要があるんだ。最終確認でな。だから皇都で数日。そこからエンテシア砦へ向かって数日……ってなると日程的にこっちへ戻らなくても、向こうでそのまま待ってた方がよくないか?」
「あ、なるほど……」
これから合同軍事演習までの日程を考えた場合、たしかによほどの事が無い限り向こうで待っていても問題はなさそうではあった。というわけでカイトの言葉に納得した瞬とソラへと、カイトは続けて告げる。
「そういうわけだから、多分戻らん。まぁ、戻らんでも大丈夫なようにはしているし、どっちにしろ演習の開始数日前には現地入りする様には日程を組んでるだろ? ま、どうしてもって場合には戻ってくるからそこは臨機応変にって感じか」
なるほど。どうやら日程的に現地集合の方が楽だから現地集合と言っているだけで、別に必要なら戻ってくるつもりはあったらしい。単にハイゼンベルグ公ジェイクらの予定の兼ね合いもあり戻れないかも、と言っているだけだと二人は理解する。そしてすでに用意は一通り終わっていたので、別に問題もなかった。故にソラが口を開く。
「そか……わかった。それならこっちはこっちで人員集めて移動までやっとくよ。確か移動の手配とかはもう出来てたんだよな?」
「それについてはすでに押さえているし、チケットの手配も椿が準備してくれている。飯はさほど問題なならんしな。そこの準備も今回の演習に含まれるし」
「そか……なら本当にもう後は現地に向かうだけか」
現状、合同軍事演習に向けてやらねばならない事はと言われればほぼ無いに等しい。なのでソラとしても単に人員を統率して現地に向かう以外に仕事がないのだと理解したようだ。実際、カイトとしてもこれ以外をやらせるためにそこについては準備万端にして出るつもりではあった。
「ああ……それに何かがあっても出立までに終わらせておくつもりだ。そっちについては単に人員を集めて現地に向かってくれるだけで良い」
「そか……わかった。じゃあ、そっちについてはそうしとくよ」
別にそれなら特に気にする必要もないかな。ソラは特にやる事もなかったため、カイトの指示に素直に従う事にする。というわけで、そんな彼の応諾にカイトは話を次に進める事にする。
「頼む……ああ、そうだ。で、オレは出にゃならんって話なんだが……いつも通り仕事はしておいてくれって話なんだが」
「そっちで何かあるのか?」
「無いっちゃ無いんだが……ほら。定期的にやってる人員の登用に関する判断。あれをやっておいてくれ。二人で相談してで構わん。やり方も任せる」
「は?」
「え?」
やはり今までしていなかった仕事を急に任せられるのだ。ソラも瞬もぎょっとなった様子で目を見開く。そんな二人に、カイトは嘯いた。
「いや、本当ならオレもやっていくかと思っていたんだが……流石に今回は渡航が急に決まったから、どうするかと思ってな。急に向こうを呼びつけるのもあれだろう」
「で、任せると……」
「ああ。幸い今回は人数も少ない。事前の調査も済んでるから、後は実際に話してみたりして問題がなさそうか、ってチェックするだけで良い。何をチェックするか。どうチェックするかってのは任せるよ。オレみたいに一回戦ってみて、でも良いし実際に一日遠征に出て、ってのでも良い」
流石に完全丸投げはカイトとしてもどうか、と思ったようだ。一応二人ならやれそうだ、という助言を与えておく事にしたようだ。そんな彼に、ソラが問いかける。
「お、おう……え、マジで?」
「マジだ……しゃーないだろ。流石に皇帝陛下の日程ずらせるわけもないし、かといってせっかく準備してもらってるのにそれを延期にするわけにもいかんしな」
「まぁ……」
確かにカイトの言っている事は筋が通っているし、今回は急に向こうで集まる事が決まったという話だ。そしてギルドマスターとしてどちらを優先するべきか、というと間違いなく皇都での話し合いだろう。それはソラも瞬もわかっていたようだが、いきなり人員の登用に関する判断をしろ、である。気後れがあっても無理はなかった。というわけで、カイトがダメ押しする。
「何も蹴落とせ、とか言ってるわけじゃない。自分で話をしてみてこいつならウチでやってけそう、って判断するだけだ。その場で即断する必要もないから、何か不安になったら連絡しろ。別に連絡が取れないわけじゃないからな」
「そか……」
「ふむ……」
やはり人員の登用になってくると、瞬もソラも若干気後れが生じていたようだ。が、いつまでも避けて通れる話ではなかったため、カイトはこのまま押し切る事にする。
「勿論、行くまでにこういう事をしようと思う、とか相談があればしろ。それについては他の仕事と変わらん。単に人員の登用を行うってだけだ。ま、ぶっちゃければ今までオレしかしてなかったのがおかしいっていうか……本来はそういった事をオレが出来ないならサブマスターがやらないといけない仕事ではある。いつまでもオレしか判断出来ないってのは組織としてマズいからな」
「「……」」
確かにカイトの言う事は筋が通っている。ソラも瞬も自らの役職に与えられている権限を考えて、カイトの言葉に反論は出来なかったようだ。というわけで、この話についてはこのままカイトに押し切られる形となり、二人は若干不安そうではあったものの人員の登用についての判断を行う事になるのだった。
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