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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2578話 様々な強さ ――苦手――

 皇国主導で行われる合同軍事演習に冒険部として参加する事にしていたカイト達。そんな彼らは直近に迫った合同軍事演習に向けて、最終調整を行っていた。というわけでティナ作の魔道具を使って色々と不足している面を見つけ出し、その解消に向けて動き出した頃。カイトはソラから相談を受けていた。


「苦手な間合い?」

「おう……カルサイトさんに苦手な間合いを埋められるサブ武器持っておいた方が良いって言われてさ」

「あー……」


 キューブ型の魔道具の上部。ティナの作った魔道具の後片付けを行いながら、カイトはソラの言葉になるほどと納得する。というわけで、彼は作業をしながら教えてくれた。


「まぁ、カルサさんが言う通り基本どんな戦士でも苦手な間合いは存在している。それがひいては苦手な武器という塩梅にな。わかりやすい所だと、先輩の槍とナイフは組み合わせとしては案外ありきたりだ」

「そうなのか?」

「エネフィアだと槍使いは投槍で遠距離攻撃ができるし、槍そのものが中距離武器に近い。必然、至近距離である間合いの内側が一番苦手になるんだ。勿論、その人や流派にも拠るが……先輩の場合は基本に該当する。姉貴がフリンに卒業記念としてナイフを贈ったのも、そこらがある。それをわかっとけ、っていうな」

「へー……」


 それで先輩はナイフだったのか。ソラは今更瞬の選んだサブウェポンがナイフである理由に納得し、感心する。というわけで、彼は引き続きカイトへと問いかける。


「ってことは俺はなんだろ……魔術とかかな?」

「それを苦手とする盾持ちは少なくないな。やはり盾持ちは重武装になる事が多い。機動力が無いから、一方的に射掛けられると弱い」

「だよな……俺とかアルって回避して突っ切るってのが出来ないから……」


 冒険部では頻繁に各種の間合いを想定した模擬戦は行われており、ソラが由利と戦う上で一番困難なのは狙撃されている状況だ。こうなるとソラは誰かに頼るしか手がほとんど残されていなかった。


「そうだな。だから必然、遠距離攻撃が一番苦手という事になる……なるが、お前は違うな」

「そ、そうか? 俺も苦手なんだけど……」

「それはそうだろう。こればかりは戦闘スタイルの関係で必然だ。が、今のお前ならそれを埋められる方法がある。考えなくて良いだろう」

「埋められる方法?」


 何かあったかな。カイトの指摘にソラは首を傾げる。が、これをソラが理解出来ないのは仕方がない所があったらしい。カイトが普通に教えてくれた。


「ああ、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>だ。あれの突破力は並の狙撃手では応対できん。強弓を放とうにも速度が速すぎて追いつかないし、速度を重視すれば今度は力が足りずお前の守りを突破出来ない」

「あ、なるほど……確かにあの状態なら大半の攻撃防げるもんな……」


 しかも身に纏う力も強大だ。遠距離の敵にはなんとか近付けるだけの余裕は得られそうだった。


「だろう? まぁ、相手もそれをわかって動くだろうから、そこから先は自分次第だが……どうにせよ絶対的に不利とまでは言い難いだろう」

「なるほどな……って事はなんだろ」


 遠距離攻撃に対して絶対的な不利にならない程度には手札があるらしい自分を見つめ直し、ソラは改めて頭を捻る。と、そんな彼にカイトが告げる。


「考えるのは良いんだが、一旦どいてくれ。こいつ片付けちまう」

「あ、おう。悪い、作業中に」

「別にオレが何かしてる、ってわけでもないんだがな」


 実のところ、カイトは作業をしているというよりも遠隔でティナが指示しているのでそれに従っているだけという具合らしい。魔術の応用で思考の分割ができる彼にとって、ソラの相談に応じても手元が狂うなぞという事は起きなかった。というわけで、ソラは一旦キューブ型魔道具を降りるのだが、その直後に魔道具は元の手のひらサイズに縮小される。


「はー……元々そんな小さかったのか」

「一応は携行可能な訓練用の施設、って触れ込みらしいからな……ティナ。手のひらサイズに戻したぞ」

『うむ。ではホタルに回収させるので、後はこちらでしておこう』

「任せる」


 どうやら五回も模擬戦だ演習だと行っていれば、良い塩梅に黄昏が垂れ込める時間になっていたらしい。カイトが見上げた空は赤く染まっていた。

 一応、今日はこれで終わりで明日の午前中に軽い演習を個人で行う者は行って、それで今回の遠征は終了だった。というわけでカイトはホタルに魔道具を手渡すと、改めてソラの相談に乗る事にする。


「……よし。っと、悪いな。待たせて……」

「ああ、いや……こっちこそ悪いな。仕事中に……」

「構わんよ。それもこれも仕事っちゃ仕事だからな」


 カイトからすれば後進の育成も公爵としての仕事もどちらも仕事だ。申し訳なさげなソラに笑って首を振る。というわけで、二人は一旦後片付けや休憩に入った面々を横目にカイトが編み出した椅子に腰掛ける。


「やっぱ便利だな、お前のその力……」

「まぁ、便利さであれば他の追随は許さんだろうが……で、お前の苦手な間合いか」

「おう」


 改めて二人は今回の問題について言及する。とはいえ、これはやはりカイトが見通していたようだ。


「はっきりとこれと言えないが……一つ思い当たったものはある」

「なんだ?」

「んー……論より証拠。やった方が早いか」

「お、おぉ……」


 くいくいっ。カイトは手招きしてソラに立ち上がる様に告げる。そしてソラとしても実感として得られれば一番早いと考えたのか、立ち上がる。


「えっと……どうすりゃ良いんだ?」

「まぁ、いつも通り軽く打ち込んでくりゃ良いよ」

「お、おぉ……」


 とりあえず言われた通りにしてみるか。ソラはカイトの指示に従って、いつもの様に打ち込んでみる。が、次の瞬間にはカイトの左手が自身の右手を掴み振り下ろせない様にして、右の手のひらが彼の胴体に添えられていた。


「あえ?」

「ちなみに、この後は掌底で打撃を浸透させる事になるが……受けたいか?」

「いやいやいや! んなわけねーだろ!」

「ま、だろうな」


 とんっ。カイトはソラを押し出す様にして距離を取らせる。そうして改めて間合いを取った両者であるが、カイトが顎でもう一度と示した事でソラも改めて気合を入れる。


「うっし……ふぅ……」


 今のはかなり油断してた。あくまでも打ち込むだけと考えていたので何も考えないで打ち込んだのだが、カイトがそのつもりならソラもまたきちんと自身の弱点を見出すために動くつもりだ。

 というわけで、彼は相変わらず何も持つつもりのない様子のカイトへ向けて一瞬で距離を詰め、先程の様に腕を取られない様に姿勢を低くして切り上げる構えを取る。が、これにカイトは片手剣の柄のお尻の部分を握りそれ以上進まない様にしてしまう。


「甘い」

「っ」

「ちなみに、この状態からなら顔面か胴体に膝打ちが有効だ」


 とんっ。再度カイトはソラを押し出す様にして距離を取らせる。そうして何度もカイトへと攻め込むソラであるが、十数度繰り返した所で諦めた。


「はぁ! はぁ! はぁ……ま、まるっきり手も足も出なかった……今の……別に俺より物凄い早いってわけじゃないよな……?」

「水準としちゃカルサさんの七割ぐらいか。お前より少し弱い程度だな」


 どうやらソラは最後の方は<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の力や加護こそ使わなかったものの、ほぼほぼ全力と言って良い力で戦っていたらしい。にも関わらずカイトには一切通用せず、正しく遊ばれた様な感じだった。


「お前の場合、苦手な間合いというか無意識領域なんだろうが……素手の相手をかなり軽視してしまっているきらいがある」

「軽視?」

「ああ、軽視だ……素手の相手の攻撃に対してお前はかなりの頻度で攻撃を受けても良いかな、っていう考えを持っている。勿論、並程度の相手にならそれでも大丈夫だろうが……」


 カイトは先程までの一幕を思い出し、やはり自分の見立てが正確だった事を理解していた。


「鎧を貫いて衝撃を通せる奴になると、途端危険だ。まぁ、これはお前に限った話じゃなくて、重武装の戦士全般に言える事だがな。防御力に自信がある奴ほど手数重視の敵の一撃を侮っている」

「……」


 そうかもしれない。カイトの指摘にソラは先程までいつもの自分ならしなかっただろう動きが散見されていたことを思い出す。いや、そもそもの話としてカイトに打ち込んでこい、と言われてもすぐに打ち込みに行く事自体が彼の常ではないのだ。

 カイトが素手なのでなんとかなる――特にカイトが苦手なのが素手である事もある――だろう、という甘い考えがあったとも言えるだろう。とはいえ、カイトは苦言を呈してばかりというわけでもなかった。


「とはいえ、だ。これが絶対的に悪いかというとそうではない。重武装の奴は防御に自信があればこそ、多少の攻撃を前にしてもひるまず突っ込む事ができる。これは当然、重武装の奴の強みだ」

「強みが裏返って弱点になっちまってるみたいな感じか……」

「そう言って良いだろう。さっきの模擬戦の話だが、あのままカルサイトさんと戦わない方が良かったのは確実だろう。特に彼の場合、普通に浸透させる打撃を打つ事ができる。一番相性が悪いのはお前だったな」

「マジか……」


 ソラがカルサイトとの交戦を厭った理由は単純で、彼との経験値の差が埋めきれないと判断したからだ。正直相性などを考えているわけではなかった。が、これは期せずして正解という所だったようだ。というわけで、自分の苦手な相手を理解したソラが問いかける。


「で、それをどうやって対応すりゃ良いんだ?」

「それが難しい所でな……正直、素手の相手に関して言えばお前はまず当たらない事を考えにゃならん」

「マジか」


 カイトの指摘にソラは再度、言葉を失う。とはいえ、これが事実だったのだから仕方がない。


「ぶっちゃけるとどの攻撃が鎧を貫通するか、とわかれば別にそれだけ良ければ良いんだが……そんな都合よく物事は進まん。偶然読みきれなかった一撃が、とかだと悔やんでも悔やみきれんだろう。そうなると、避けるしかない」

「いや、それ難しいんじゃね? そもそも俺ら盾持ち重装備って機動力全部捨てて防御全振りにしてるだろ? それに対して素手の奴って基本防御全捨ての速度全振りだ。俺みたいな奴が一発ももらわないってまず無理だぞ」

「だろうな」


 ソラの言う通り、素手の戦士はいわゆる速度特化型だ。その分一撃の威力は軽く、当たっても問題はない。本来ならば、だ。故にカイトも少しだけ苦い顔で告げる。


「なら、もう近寄らせない様にするしかない」

「どうやってだよ。いや、いくつか思い付くけど……どれもこれもやったらこっちも攻撃出来ないぞ?」


 ソラの得物は片手剣。それが<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>か否かぐらいしか変わらない。というわけで基本的には自分の間合いイコール相手の間合いと言ってよかった。


「だろうな……というわけで、お前が持つべきサブ武器は中距離から遠距離の武器で、命中率がある程度確保できそうなものだろう。それが何か、という所だが……」

「……なんだよ」

「まぁ、これに関しちゃ今ここで決められるわけじゃない。一回触れてみて確かめるしかないだろう。こればかりはな」

「確かになぁ……」


 ソラとて今後自分の命を預ける武器なのだ。触ってもいないのにこれを、と決めるつもりはなかった。というわけで、カイトはその後も少しの間ソラへと素手の相手との戦い方を語っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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