第2571話 様々な強さ ――仕切り直し――
皇国主導で行われる合同軍事演習に参加するため、最後の調整として飛空艇で一時間ほどの所にティナが作成した魔道具を使っての演習と模擬戦を繰り広げる事になっていた。というわけでその最後としてカイトはソラ、瞬の両名と共にソーラ、カナン、カルサイトの三人と雪原の上で多対多の模擬戦を繰り広げる事になる。
そこでカイトはソーラと、瞬はカナンと戦いを繰り広げていたわけであるが、残るソラは戦っていたカルサイトに自分では経験の差を埋めきれないと判断。瞬に支援を求める事になるのであるが、それをきっかけとして両陣営は一度集合し仕切り直しとなっていた。
「それでソラ。どうした?」
「いや……カルサイトさん、俺だと勝ち目薄そうだったんで……まだ俺がカナンちゃんのが抑え効くかなって」
「カルサイトさんか……」
あはは。瞬は自身も先にカルサイトと戦えばこそ、カルサイトの腕は身に沁みて理解させられていた。故に自身とほぼ同格と言えるソラで勝ち目が薄い事は言われなくても納得出来たようだ。
「おそらく俺でも勝ち目はないぞ? さっきの話だと加護まで持っていたとの事だし……」
「先輩の時は使わなかったんっすか?」
「ああ……そこまではたどり着かなかった」
それであの実力だったのか。瞬はカルサイトとの戦いを思い出し、その底の見えなさにわずかに畏怖を滲ませる。これが、百年にも及ぶ戦争を生き延びた冒険者の実力。それを如実に見せつけられた格好だった。
「……もしかすると三百年前の冒険者達の一番恐ろしい所は底が見えない所……なのかもしれないな」
「……あー……」
瞬の視線の先を見て、ソラも思わず納得する。二人の視線の先に居たのは言うまでもなくカイトだ。この男こそが三百年前の戦争を終わらせた勇者であり、そして今なお最強と謳われる猛者だ。その彼もまた、底知れぬ強さを持っていた。と、そんな二人の会話に一言言わねばならぬとティナが告げる。
『そやつの一番恐ろしい所は底が見えぬ所ではなく、未だ成長しておるところよ。地球であやつが何と呼ばれておるか知っておるか?』
「なんて呼ばれてんの?」
『<<未完の英雄>>……まだ完成されておらぬ英雄。ま、<<最初の人類>>、<<至りし英雄>>と呼ばれるギルガメッシュ王と対比して最後の英雄じゃという意味で使われる事もあるがのう』
「「……」」
それはなんとも厄介だ。ソラも瞬もそう思う。大抵、英雄達はすでに終わった存在として語られる。が、カイトは全く違うのだ。彼はまだ未完成。底が見えぬではなく、底が見えたとしてその底が更に深くなる可能性さえ秘めているのであった。
『ま、それは良いわ。魔物との戦いが湖の広さを広げるのであれば、人との戦いは湖の深さを深くする……三百年前の英雄達が軒並み底が見えぬのは、戦争という特殊な状況に百年も放り込まれたからじゃのう。その末期の泥沼状態に放り込まれ、百年も底を深くし続けた奴らを相手に戦い死物狂いで戦を治めたんじゃ。そりゃぁ底は見えぬ様になるし、バカをやりまくったとの事じゃから広くもなろうて』
「今は横に広がってる奴が大半ってことか」
ティナの言葉の裏に秘められた言葉を、ソラが口にする。これにティナも認め、頷いた。
『そうじゃな……その意味で言えばカルサイト殿は強い。無論、あの小僧もな』
ぶんぶんぶん、と大剣を振り回し準備運動に余念のないソーラを二人は見る。ソーラもまた大戦時代を生き延びたのだ。その主軸は魔物相手だったとはいえ、対人戦がなかったわけではない。彼もまたソラや瞬以上に対人戦の経験は豊富だった。と、そんな事を聞いた瞬であるが、一転して首を振って気を取り直す。
「まぁ、良い……それで、どうする? 流石に俺もカルサイトさんに勝てるとは思わんぞ」
「やっぱ、そっすよね……」
多分単純な戦闘力であれば自分達と同格か少し下だろう。ソラは今戦った所感を踏まえ、瞬でも厳しいと判断する。というわけで、二人の視線は必然残る一人の集まる事になる。
「「……」」
「はいはい……言っとくが、兄貴もカナンも強いぞ? 実力にそんな差は無いんじゃないかな」
「わかってるよ……でも多分、こと対人戦に限ると一番厄介なのはカルサイトさんだ。いや、つってもソーラさんと戦った事ないからわかんないんだけど」
もしかしたらソーラこそが一番厄介なのかもしれない。この中でソーラと戦った事があるのはカイトただ一人だ。故にその危険性は孕んでいたが、今のままでは勝ち目は万に一つもなかった。
「そか……ま、今回はお前の指示に従うって言った手前、それに従う事にしよう」
可能ならもう少しソーラと戦いたかった所だが。そんな様子を滲ませるカイトであるが、素直にソラの要請に従う事にしたようだ。こちらは手をぐっぱっとして戦闘再開に備えて準備運動を開始する。
「で、そうなるとソーラさんっすけど……」
「あちらもあちらでヤバそうだな……こっちもこっちでやばかったが」
ソラの提示に瞬は一つ笑う。やはり彼も想定外だったのがカナンの力だ。今までメインは斥候としての戦いだったし、基本彼女が今の様に血の力を使って動く場合はカイトかティナの指揮下に置かれていた。変に彼女に頼る癖を付けられても困るからだ。
というわけで、正確にカナンの実力を二人が知らないのは無理もない事ではあっただろう。なお、これについては今後も変える気はない、というのがカイトとティナの判断だった。
「……多分、ソーラさんは先輩の方が相性良いと思います。で、ぶっちゃけると俺は勝ち目ないっすね」
「なぜだ?」
「前に俺がカルサイトさんの要請で出た時、覚えてます?」
「ああ。この間の事だな」
そもそもソラとカイトが戻ってからまだ一ヶ月も経過していないのだ。瞬は忘れていなかった。
「うっす……その時、竜化? なんかそんなのできるの見たんっすよ。あれ使われると多分俺じゃ押し負ける。当たらない事が重要になるんっすよ……多分」
「多分か……だが、それなら俺も覚えがある。ラエリア・ラダリアの迷いの森のあれか?」
「あ、あれっす。あれができる様になってたっぽいっていうか……」
「なるほどな……」
その出力の増大がどれほどかはわからないが、カイト曰くソーラの体内に埋め込まれたコアは厄災種のものだという。そんなものをコントロールするのがどれほどの苦行だったかはわからないが、使いこなされてしまえば絶大な力を与える事は想像に難くない。
必然、当たれば負けはわかりやすかった。であれば防御を主体とするソラは相性が悪く、回避主体の瞬の方がまだ勝ち目はあった。それを理解し、瞬はソラの提案を受け入れる。
「……わかった。俺がやろう」
「頼んます……多分まだカナンちゃんなら俺でもダメージは防げると思うんで……」
「そうか……」
そうと決まれば、後はやるしかないだろう。ソラと瞬はお互いに自分が戦うべき相手を見定める。そんな相手方を見て、カルサイトは笑っていた。
「どうやら、向こう固まったみたいだな。黒龍の小僧にカナンの嬢ちゃん。お前らでカイトの奴抑え込めるか?」
「無理じゃないですかね……今って多分……」
「だよなー……」
まさかここまで成長していたとは。ソーラはカイトの成長っぷりに嬉しくもあり、どこか寂しそうでもあった。そうして、彼が口を開く。
「今って多分、完全にこっちのペースになっていた様に見えて全部あいつの手のひらだ」
「ですよねー……」
「あっははは」
呆れ肩を落とすカナンに、カルサイトも同意する様に笑う。それはそうだ。そもそもカイトの真髄は一対多、もしくは二対多。本来圧倒的不利に追い込まれるはずの不利の状況だ。その彼が一対一の状態で場をコントロール出来ないわけがなかった。
「はぁ……マジでやりたくねぇな、あいつとだけは」
正直カイトと定常的に戦いたいというクオンの言葉は耳を疑うしかない。カルサイトは自身の横のつながりにある猛者達の何人か、おおよそ戦闘狂と呼ばれる者たちがカイトに懸想する気持ちが理解出来なかった。そんな彼に、ソーラが問いかける。
「そんな嫌か? 普通だったけど」
「そりゃ、お前さんが普通として遊ばれてたからだろ……あいつの一番厄介な所は武器を切り替えて戦う所だ。あれをやられるとキツいんだわ」
「……昔からだったけど?」
「……ま、そーなんだろうがよ」
なんかいまさらの事を言われたぞ。そんな様子のソーラに対して、カルサイトはしかめっ面だ。が、これはソーラが今のカイトを正確に知らないから、という所かもしれなかった。
「はぁ……がちのあいつはこっちの一番やられたくない事してくるんだよ……」
全ての状況に対して得意とする得物一つで戦い抜けるのは天才の中でも一握り。それこそ変態に等しい領域の才能を有する化け物だけ。それをカルサイトは三百年前の戦争時代に目撃していた。それを知っている彼が警戒するのも無理はなかった。
「ちっ……まぁ、良い。幸いあいつはマジじゃやらねぇだろうからな。お前さんらがソラと瞬の小僧を倒せば終わりっちゃ終わりだ。ま、頑張ってくれや」
「おう」
「はいっ」
カルサイトのため息まじりの激励にソーラとカナンが一つ応ずる。そうして、両陣営共に再戦に向けて仕切り直しを終えた所で、改めて両陣営の戦いがスタートする事になるのだった。
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