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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2570話 様々な強さ ――経験の差――

 皇国主導で行われる合同軍事演習に参加するため、最終調整として小規模な模擬戦や演習を繰り広げていたカイト率いる冒険部。そんな中でカイトはソラ、瞬とともに最後の一回に放り込まれると、そこでカナン、カルサイト、ソーラの外から来た面々との雪原を模した空間での演習を繰り広げる事になっていた。

 というわけで、カイトと瞬がそれぞれソーラ、カナンと戦っていた一方。一人かまくらのあった場所に残ってカルサイトを受け止めたソラはというと、高速移動しながら戦う瞬・カナンとは異なりそのままかまくらのあった場所に残って戦いを続けていた。


「おぉおらぁ!」


 巌を思わせるほどに巨大で強固な拳がソラを打つ。これにソラは盾で受け止めるも、その勢い全てを殺す事は出来ず地面を大きく抉る事になる。が、これは抉らせて勢いを殺したというよりも、カルサイトの手腕により敢えてそうなる様に受け流されたと言えた。


「っ、はぁ!」


 地面を大きくえぐった事で相対的に自らの身体が固定され、ソラは力を込めて剣戟を放つ。が、そんな<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の腹をカルサイトが裏拳で弾き飛ばす。


「ふんっ!」

「ぐっ!」


 がんっ。金属をハンマーで叩いたかの様な音が鳴り響いて、ソラがわずかに苦悶の声を漏らす。


『距離を取らねばやられるだけだぞ』

「わーってるよ!」


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の指摘にソラは苛立たしげに声を大にする。その様は正しくできるならやっている、と言いたげだった。


「ソラ、覚えとけ! 敵はいかに自分に優位な状況で戦える様にすっか、ってやってくる! さぁ、お前ならどうする!」


 言うまでもない事だろうが、片手剣と素手であれば素手の方が間合いは短い。(スキル)や魔術によるブーストがあろうと、それは変わらない。故に素手の最適な間合いにまで潜り込まれた瞬間、片手剣は不利になる。なら仕切り直しと距離を取るしかないのだが、その度にカルサイトは距離を詰めてきたのだ。


「<<風よ>>!」


 ほぼゼロ距離の状態ではカルサイトには太刀打ちできない。それを身に沁みて理解させられたソラは風の加護を利用して加速し、距離を取ろうとする。が、その彼の速度に、カルサイトは追従する必要がなかった。


「ふんっ!」


 加護を起動して距離を取るつもりだ。ソラの目論見を一瞬で理解していたカルサイトは彼を追うではなく、そのまま地面を殴り付ける。すると、ソラが動こうとしたその前方に巨大な岩石の拳が現れてソラを殴り飛ばす。


「おぉ!」


 まただ。ソラは自らの顔に苦いものが浮かぶのを自覚しながらも、直撃を受けるわけにはいかないのでお得意の魔力による杭打ちで打ち砕く。が、そうなると否が応でも速度は落ちてしまい、カルサイトが悠々と追いつける様になった。


「おらよ!」

「っ」


 距離を詰められた。背後に迫るカルサイトの巨腕を気配だけで察知し、ソラは屈んでそれを回避する。そうしてそのまま彼は地面に手を付けると、足払いの様にしてカルサイトの足を狙う。ミニエーラの強制収容所で教わった体術だった。これにカルサイトは一切反応しなかった。


「ぐっ!?」

「甘い!」

「っぅ!」


 まるで巨岩でも蹴ったかの様な痛みを感じ顔を顰めるソラであるが、彼は自らの攻撃を防がれたのを理解するとそのままカルサイトの足を軸にして後ろへ回り込む。そうして先程まで自身の身体があった所をカルサイトの拳が打ち砕くのを見ながら、彼は全身をバネにして袈裟懸けに切り上げる様にカルサイトへと斬りかかる。


「っと! まぁ、やるっちゃやるか!」


 自らの背を狙う剣戟に対して、カルサイトは地面に突き立てた拳を起点として右手一つで宙返り。そのまま空中で反転して着地と同時に再びソラを正面に捉える。そうして着地と同時に再度地面を蹴って、ソラへと距離を詰めた。


「はっ!」

「っとぉ! おらよ!」


 距離を詰めるカルサイトに向けて、ソラは自らの間合いに入ると同時に<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を振る。が、その振り抜きよりも前にカルサイトが右手を突き出してソラの腕を掴んで剣戟を未然に防ぐと、そのまま空いた左手でソラの胴体を目掛けて左手でボディブローを仕掛けた。


「とっ! 流石にそう何発も食らうかっての!」


 迫るカルサイトの拳に対して、ソラはこの流れを読んでいた。故に彼は自身の前に置く様な形で盾を構えカルサイトの左拳を防御する。が、その次の瞬間だ。そこまで読んでいたカルサイトが、更に一歩前へと踏み出した。


「!?」

「うぉら!」

「ぐっ! んにゃろ!」

「お!?」


 ゼロ距離から繰り出された頭突きで一瞬意識を失いそうになるソラだが、これは実は彼にしてみれば昔とった杵柄と言う所だったらしい。かつて不良だった頃に路地裏での喧嘩で何度も何度も受けた事があったし、彼自身も何十回としていた。故に咄嗟に理解した彼の盾が輝いて、カルサイトを弾き飛ばした。


「ぐぅ! やるじゃねぇか。何だぁ、今のは……」


 何が起きたかはカルサイトには定かではなかったが、衝撃はかなりのものだったらしい。カルサイトは今回の演習で初めてに近いマトモなダメージに一瞬首を振ってダメージを振り払う。

 その一方、流石にソラもカルサイトほどの猛者の頭突きを受けて即座に追撃できるほど耐久力があるわけではない。彼も首を振って立ち直っていた。


「っぅ……いってぇ」

『ま、痛み分けという所か』

「うっせぇ。肉を切らせて骨を断つだ」


 ズキズキと痛む頭の痛みに顔を顰めながら、ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の言葉に応ずる。そうこうしている間に両者共に復帰できる程度には回復したらしい。再度両者地面を踏みしめ、間合いと攻め込むタイミングを測る。


(わかっちゃいたけど……わかっちゃいたけど! むちゃくちゃ強い!)


 何を今更。カイトが聞けば笑っただろうことをソラは内心に思う。確かに、カルサイトはランクS冒険者ではない。彼自身の様々な限界からランクA冒険者に留まっている。それが彼の到達できる限界という所でもあるが、同時にそれは彼の実力を正確に表しているわけではなかった。


『ソラ。覚えておけ。所詮、冒険者としてのランクなぞある種の指標に過ぎぬ。尺度が変わればランクS冒険者が一番下になってしまうという事は往々にして、どこの世界でも起こる事じゃ』

『そんなのあるんですか?』

『当たり前じゃ……ほれ、例えば学力だけで見ても、お主なら大半のランクS冒険者を上回っておろう。それこそ、バーンタインも超えておろうて』

『あ……』


 ソラの脳裏に響くのは、かつて強制収容所で聞いたブロンザイトの言葉だ。そうして、そんな彼へとブロンザイトが続ける。


『所詮、冒険者のランクなぞどれだけ強い魔物を一人で討伐できるかという一点しか見ておらぬ。ランクSの魔物から安全に、確実に逃げ延びられる実力を持っていたとしても、自分一人で倒せぬが故にランクSの壁を越えられぬ冒険者なぞこの世にごまんとおる。そこを、しっかりと頭に叩き込む様にな』

『はい』


 あの時、お師匠さんの頭にはカルサイトさんの事があったんだろう。ソラはランクに不釣り合いな実力を有しているカルサイトと交戦しながら、そう思う。


(対人戦の実戦経験値がむちゃくちゃたけぇ……自分が何をしてくるか、ってほぼほぼ読まれてる)


 もしかしたらこれが大戦を生き延びた冒険者と今の冒険者の差なのかもしれない。ソラはカイトにも共通する対人戦に関するスキルの高さを見て、そう思う。無論、かといって大戦を生き延びた冒険者が魔物相手に苦戦するかというと大間違い。大戦時代の方が魔物も強かった。どちらにも強いのだ。


(どうする……多分、加護は使った所で勝てない。てか、使っても先を読まれる)


 おそらく自分がする程度の事の大半はカルサイトの数百年の歴史の中で誰かが一度はやっている事なんだろう。更に続けてソラはそう思う。そうして刹那にも満たない時間で自分の手がおおよそ読まれる事になるだろう、と考えたソラは敢えてこちらから攻め込む事にした。


「はぁ!」

「っと! 来るか!」


 やっぱそうか。カルサイトを攻略するのであれば意外性を、それこそカルサイトの知る自分からは外れた行動をしなければならないだろう。ソラは自分から攻め込むという行動に僅かな驚きを見せたカルサイトからそう判断する。

 そうして彼は実は習得していた思考回路の分割を利用してメインの思考回路で攻め込みながら、サブの思考回路で次の一手を探る事にする。


(やっぱ攻め込み続ければ、なんとか互角には持ち込める)


 今までは攻められ続けていたから、経験の差で押し負けていた。ソラはただひたすらに攻撃を続けカルサイトを防御一辺倒に押し込みながら、サブの思考回路でそう判断する。とはいえ、防御戦が主体であるソラだ。このまま決めきるには手が足りない。


(<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は使え……るわけねぇよな)


 近くではカイトと瞬が戦っている。カイトはまだ一切の問題はないだろうが、瞬はおそらく酒呑童子の力を借りなければ<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の全力の一撃なぞかすっただけでも致命傷だろう。では逃げる様に言おうにも、今度はカナンがそれを許すとは思えない。


(どうすっかな……いっそ俺も先輩みたく第一解放やっちまって、ってのもありかもだけど……)


 あれは中々にやりたくない。ソラは自身も手加減が出来ない切り札だからこそ、切るかどうか逡巡していた。あれも<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の一撃と同じく、下手を打つと瞬にも被害が及びかねないのだ。しかも決めきれないと今度は自身が疲弊し、敗北は必須となる。そしてソラには一つ懸念があった。


(絶対何か隠してる……多分、切るタイミングを見誤ったら俺が先にバテる)


 おそらくここまで対人戦に長けているのだ。自分以上に手札の重要性を理解している。ソラはカルサイトと戦いながら、彼が切っている手札がまだ全てではないと心のどこかで勘付いていた。だからこそ、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の解放による速攻の誘惑を彼は振り払った。


「ちっ」


 わずかに楽しげで、それでいてどこか悔しげな舌打ちをソラは耳にする。それは当然、彼の物ではない。そして舌打ちという小さな音であった以上、相手は必然一人だった。


「<<土よ>>! 大地の精霊よ! 我に力を!」

「!? ぐぅ!?」


 先程までの一撃を優に上回る一撃が放たれ、ソラが大きく吹き飛ばされる。そうして吹き飛ばされたソラであるが、サブの思考回路がカルサイトの切り札を警戒していたおかげで即座に受け身を取れたらしい。降り積もった雪を吹き飛ばしながら減速し、着地する。


「はぁ……まぁ、合格点ってとこか」

「加護……使えたんっすか」

「おうよ……トリンの小僧から聞いてないか?」

「あ、はい……多分」


 ソラはカルサイトの問いかけに一つうなずいた。そんな彼に、カルサイトが告げる。


「ま、冒険者やるからにゃ何かしらのブーストは持っとかにゃ死ぬだけだ……お前さんが風の加護を持つ様にな」

「なぁる……」


 やらなくてよかった。ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の解放を押し留めた自身の判断を英断と考える事にする。土の加護は特に防御に長けており、カルサイトほどの猛者が使えばそれこそソラの持久力が尽きるまで耐えきる事も不可能ではなかった。


(動かないのはそういう事だったのか)


 ソラはカルサイトが決して自分を地面の露出した部分から出さない様にしていた事に違和感を感じていたらしい。基本土の加護が最も効力を発揮するのは大地に接している間だ。

 その間は常時魔力を急速回復してくれたり、各種のバフを盛ってくれたりするという地上戦に特化した加護だ。特に回復力の増加は戦闘していなければ加護を使っていても回復力が上回るという高効率らしく、時々訓練で疲れた由利が大の字で寝そべり加護を使って回復している姿をソラは見た事があった。と、そんな事を思い出して、ソラははっとなった。


(……ってか、それならどうすりゃ良いんだよ! 動かさなきゃ回復! 攻め込みゃ不利! 最悪過ぎんじゃん!)


 このまま攻め込まなければカルサイトは遠からず全回復し、攻め込めば攻め込んだで加護を使ったカルサイトとの戦いだ。歴戦の戦士との戦いがここまで厄介だとは、ソラも思いも寄らない事だった。が、そこですぐに彼は自身の考え違いを理解する。


「っ! 先輩!」

「っ、なんだ!?」

「合流頼んます!」

「どういう事だ?」

「っと……」

「よぅ、ラカムのとこの嬢ちゃん」


 ソラの要請に応じて彼の真横に降り立った瞬がソラに問いかけると共に、カルサイトの真横にカナンが舞い降りる。今更だがカナンの父ラカムとも伯父であるレイナードともカルサイトは知り合いだった。と、こちらが揃った事を受けたのか、少し離れた所で戦っていたカイトもまたソラと瞬の横に降り立つ。


「ふぅ……仕切り直しか?」

「んなとこ……カイト。お前カルサイトさんが加護持ちって知ってた?」

「三百年前に聞いた」

「言ってくれよ……」


 それを最初から聞いてたらあれやこれやと悩まないですんだのに。ソラはそう思いながら肩を落とす。とはいえ、実際にはそれを教えている暇はほとんどなかったのだから仕方がないだろう。というわけで、ソラの要請をきっかけとして両陣営共に仕切り直しを図る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 暫く目を離してた内に20話も進んでもう2,600話! うん、完結するのは3,000話頃だわ(笑)。
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